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第五話 入学式

「あの~……」


 アルセムでのことを思い出していると不意に誰かから声を掛けられる。

 顔を上げるとメイド服を着た女の子がこちらを覗き込んでいた。


「のわああ!?」


 てか近い近い!

 拳二つ分あるかどうかの距離に女の子の顔があり、驚いて身体を捻った瞬間、尻がずれてベンチから落ちてしまう。


「痛ってぇぇ……」

「すっ、すみません! 大丈夫ですか!?」

「大丈っ夫、うん大丈夫、ははは」


 その子が駆け寄って手を伸ばしてくれたが、恥ずかしいところを見られたことを誤魔化そうと気にせず立ち上がる。

 しかしやっと人が来た。

 まさか今日じゃないんじゃないかって思ってたから少し安心した。

 いやー良かった。


「そう、ですか? それであのー……ここは関係者以外の立ち入りはご遠慮しているのですが」

「ああごめん! 俺ここの騎士学校に今年入学する赤穂龍真って言うんだけど、何時まで経っても人っ子一人来ないし、中はやけに静かすぎるしでどうしたもんかと……」


 控えめな感じのメイドさんがそう言ってきて、怪しいものじゃないと証明するために、自分ここに来た経緯を話す。

 ……話したのだが、何でポカンとしてるんだ?


「あの……すみません」

「はい?」

「ここ、ですね?」

「はい」

「今年をもって廃校になったのですが……」


 ……え?


「え?」

「はい」


 え? え……え? 廃校!?


「廃校に……なった?」

「はい、今までは中央と第二で別れていたのですが、前々から二つを統合して騎士の育成方針を統一とか何とかの話が合って、それで今年から、第二学校の生徒は全員中央の方へ通うように……」

「なんとおぉぉ……?」


 学校の統合? 何それ聞いてないって。

 普通そう言う重大な事は前もって連絡とか入れるはずだ。

 手持ちの荷物からもらった書類などを漁るがそれらしいものはない。

 まさか忘れてる? 

 今日は王都に向かうために日が昇る前に町を出た、半分寝ぼけ状態だったからもしかしたら忘れてる可能性は……ってそういうのを貰った記憶さえないわ!

 てかあの商人のおっさん絶対知ってたろうに!! 何がお前はあっちだ!!


「嘘だろぅ……」


 頭を抱えて座り込む。

 うかっりとか偶然とかが積み重なったってのかよ、ありえねぇ……。

 ふと左手の時計が目に入った。時刻は12時50分。


「あ、あの……」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!!」


 彼女が何か言おうとしたがそんなことは気にしていられない。

 あと十分!!

 城門の騎士も言った、無理でも足掻けと!

 ここから王都中央の騎士学校まで大分距離があるが走るしかない。

 種類をぐちゃぐちゃにバッグの中に詰め込みながら第二騎士学校を走り去っていった。


「良ければ馬車をお出ししようかと思ったんですけど……あぅぅ」


 その女神のお言葉はもう俺には聞こえなかった。



 ~~~



 王立中央騎士学校。

 数百年という歴史を持つ学校で、同盟成立以前、この王都がまだ王国と呼ばれていた時代からある騎士学校だ。

 同盟成立以前は、騎士候補生は貴族平民関係なく平等に通っていたのだが、同盟成立から百年ほどたったころから各国の騎士候補生を受け入れ始め、その数を受け入れるのが難しくなったために急遽、当時開いていた土地に第二騎士学校が作られ、そこに各国から来た生徒たちを受け入れさせ始めたのだが、急場凌ぎで造られた建物のため木造建築で見た目が地味、それに貴族達が抗議した。

 結果、見た目美しく歴史ある中央騎士学校は貴族達が通い、出来たばかりで地味な第二騎士学校には平民たちが通う事になった。

 だが、数年前に学校を統合させるという話が通り、今年を持って全騎士候補生をこの中央に集めることになったのだ。

 その中央と第二合わせ五千人近くの生徒が一堂にするのは、中央騎士学校本校舎の隣にある大講堂。

 これだけの人数を収容できるのはここだけだろう。

 そんな講堂の隅に、整然と並ぶ新入生たちをキョロキョロと見回す男が一人。


「どうしたガラハッド、何か気になるのか?」

「ああガウェイン、んん……来ていないなと思ってな」


 見回す男ガラハッドに、隣にいるガウェインが聞いた。

 その姿はまるで親を探す迷子の子供の様で、近くの新入生からの視線もあってかこのまま情けなさそうな姿をさらすのは気が引ける。


「あの少年の事か? これだけいるんだ、探して見つかるもんでもあるまい」

「道に迷ってるとかかな?」

「式はここでするんだ、こんな目立つ場所に向かうのに迷うも何も…………なあ」


 ふとガウェインが何かに思いつく。ガラハッドを見上げるその表情はいかにもお前まさか……と言うような顔だ。


「なんだ?」

「おまえ、学校の統合についての手紙、あの子に出したか?」

「…………」


 ガウェインと反対の方向を見るガラハッド。

 その顔には少しずつ冷や汗がにじみ出ているようだった。

 ガラハッドが右手で自分の左頬を摘まんでいるのを見てガウェインは確信した。

 こいつ、忘れやがった。

 微かにやべぇ……という声が聞こえたのは間違いではなかった。



 ~~~



 腕時計を見るとあと一分くらいで入学式が始まる。

 ようやく校門らしきものが見えたころには、もう息も絶え絶えで正直死にそうだ。

 何時転んでもおかしくない足取りで、かろうじて走っていると見えなくもない。


「ん? おい君どうした?」


 校門の近くにいた騎士が声を掛けてくる。

 正直声を出すのしんどいがなんとか声を絞り出す。


「はぁ、はぁ、お゛、おれ、この、はあ、騎士学校、はぁはぁ、入が、く……」


 口の中が乾く。上手くしゃべれない。

 バッグから少し皺の入った入学許可書を見せる。


「え? 新入生!? おいおいもう始まるぞ!」

「はあ、はあ、し、式は何処で……」

「あっちだあっち! 校舎の右っかわにでっかいのがあるだろ? あそこだ!」


 騎士が指差す先には王都の外からも見えた、城の隣にあったあのデカい建物があった。

 あそこで入学式が執り行われるらしい。


「後もう少しだ急げ急げ! 間に合わんぞ!」

「はっ、はい!」


 親切な人で良かった。

 そしてようやく入口らしき扉のところにまでたどり着く。

 その建物まで近づくとその大きさはすさまじいというくらいデカい。

 こんなもん何に使うんだ。

 しかし後もう少しと言う割には長かった。校舎もこのでっかい建物も無駄にデカいから、思ったよりも時間を食ってしまった。

 もう正直無理だろ。無理。間に合わん。

 扉に手をついて何とか息を整える。

 間に合わないのなら正直に遅刻したと言おう、人間正直の方が良い。

 嘘をつくより大目に見てもらえそうだし。


「はぁぁぁ……ふぅぅぅ……よし」


 行くか。

 俺はゆっくりと扉を押して中に入ろうとしたのだが。


 ギギギイイイイィィィィ……


 中はすでに式が始まっていたのか、静まり返っていた。

 だから扉を開ける時になった軋むような音が余計に大きく響いてしまう。

 当然近くにいる人たちだけでなく、建物内のほとんどの人たちがこっちを見ていた。

 死にたい。


「君は?」


 中の構造からして講堂だろうか、その一番奥、壇上に上がろうとしていた老人が聞いてくる。


「す、すみません、赤穂龍真です、遅刻しました」


 聞こえるようにあえて大きな声で言ったからか、そこかしこからクスクスと笑う声が聞こえてくる。

 もうやだ、穴があったら今すぐ穴に入りたい、無いなら掘ってもいい。


「ふぅ……今から式を開始するところだ。余計な事で止めるのも忍びない」


 淡々と話す老人の声は、講堂という場所で静かだからと言う事を除いても、妙にはっきりと聞こえてくる。


「どこか空いている席はあるかな?」


 そう生徒たちを見回しながら言うと、整列して座る生徒たちの、壇上に向かって右端近く、列の真ん中辺りにいた一人の男子生徒が立ち上がり、はきはきと答える。


「はい、自分の隣の席が空いています!」

「よろしい、赤穂と言ったな、遅刻については後で聞く、今は席に着きたまえ」

「は、はい!」


 よかった、よくないけどよかった。

 今は穏便済みそうだ。後で怒られるのは仕方ない、原因はどうあれ遅刻は遅刻だ。

 頭を下げてあの生徒が立っている場所まで行こうとしたその時、講堂の外、俺の左側からものすごい勢いで走ってくるのが一人。


「す、すみせえええええええん!! 入学式ってここでいいんですよね!?」


 ずざざっと滑り込みながら俺の腕をつかんで叫びやがったのは一体誰だ!

 女の子だ。

 膝丈のスカートを翻し、学校指定の制服に身を包むその子は小柄な肩で息をしながら見上げてくる。

 栗色の髪をショートカットにし、黒い瞳に焦りを滲ませるその目はクリクリとしていて大きい。

 背は俺よりも頭一つ分小さいくらい。

 うん、かわいい。

 でも最悪だ、せっかく穏便に済みそうなところで新たな遅刻者の出現だよ。


「はぁぁ……」


 奥の老人からはっきりとため息が聞こえてくる。

 まるでイヤホンをしてるみたいだ。なんでこの距離でため息がきこえてくるだよ。


「まだ遅刻したのがいるのか、君は?」

「はい! フランシスカ・マートニーです! 乗ってきた龍がなかなか落ち着いてくれなくて遅刻しました!」


 2人目の遅刻に直も淡々として問う老人に、その女の子は元気すぎる声で答える。

 声がでかくて耳がキーンとする。

 元気っ子にしちゃ有り余りすぎだろ。

 てか今コイツなんて言った? 龍? 乗ってきただと?


「先も言ったが遅刻については後で詳しく聞かせてもらう。誰か、そことは別に空いている席はあるかね?」


 同じような淡々とした声なのに、さっきと比べて少しだけ呆れとか怒ってる感じとかが混じってるように聞こえるのは多分気のせいだと思いたい。


「あ、あの……すいません」


 すると俺が座る予定の席の隣に立っていたあの生徒が手を上げる。

 さっきのはきはきとした声とは違い、もう少しで聞こえなくなりそうなほど弱弱しい。


「じ、自分の両隣が、空いてます……」


 再び聞こえてくるクスクスと笑う声。

 謝ろう、後でちゃんと謝ろう。


「はぁぁ……」


 何度目のため息だろう、聞くたびに頭が重くなる。


「2人とも早く席に着きたまえ」

「はい!」

「はい……」


 さっさと移動するあの子を追いかけながら、足取り重く立っている生徒の下に向かう。

 席までたどり着くと、すでに二人目の遅刻者は既に席についている。

 このやろう、俺と同じく遅刻したくせにニコニコしやがって。

 立っている生徒の左隣の席が空いているのでそこに座る。

 そしてその生徒も俺が座るのと同時に座る。その顔は少し赤かった。


「あの、ごめんなさい」

「い、いや、気にしないで」


 そういう彼だったが、その顔は式の間ずっと下向きだった。

 本当にごめんなさい。



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