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第五十七話 ベイエルの夜

 ザントライユ国領、領都ベイエル。

 ザントライユ国領の中央に位置し、同盟でも屈指の大都市である。

 南のザントライユ山から流れるアルットゥ川に沿うように作られていて、円形が多い同盟の各都市と違い川を挟むような楕円形のような形をしている。

 例えはあれだがソーセージを挟むコッペパンだ。

 そして町の中央にはザントライユ城がそびえ、その周りを川が流れて天然の水堀を形成している。

 川のど真ん中を埋め立てて、川の流れを城を囲むように変えて作ったのだとか。


 と、このパンフレットにはそんなことが書かれている……はず。

 合ってる?


「よくできました~」

「わーい……って子供か俺は!?」

「大人からみりゃそうだろうよ」

「僕は、以前に比べて読めるようになってきたからすごいと思うよ」


 そして今俺たちは、そのベイエル北部にある宿屋に来ていた。

 というのも、すぐにでも落ち着いて休める場所が欲しかったからだ。

 理由は、俺がもらってしまったとあるお守りの中身が原因だ。


 ちなみに乗ってきた飛竜たちは北側にある停泊所に泊めた。

 一泊5頭で10000リオラ、一頭あたり2000リオラだ。

 たけえ……、でも背に腹は代えられない。 すぐにでも落ち着いて話ができる場所が欲しかったからだ。 


「皆さん、何とか部屋は取れました。 二つだけでしたけど……」


 受付から戻ってきたクラリスが安堵の表情で教えてくれた。

 実はこの宿屋で三件目だったりする。 他は全部満室だったからだ。


「この辺りは冒険者の出入りも多いから、国領のど真ん中だし」

「まあしゃーないって、男女で別れよう」


 ハワードの補足に仕方なしと頷いて部屋に向かう。

 そして日が沈んだ頃に、女子たちの部屋へ集まった。


 今後の話と、このお守りについてだ。


「さて、アカホ。 どーしてアンタがそれを持ってるの?」


 全員が座ってさっそくメリッサが切り出した。


「よし、もう一度言うぞ? アニエス陛下からお守りをもらった。 多分、盗賊を倒したご褒美だ。 それはいいよな?」

「ええ」

「開けたらそれは国宝だった」

「もう意味わかんない」

「だよな? 俺だってそうだもん」


 入ってるのが魔方陣の書かれた紙とか、パワーストーン的な宝石が入ってるならまだわからんでもない。

 俺も最初は後者だと思ってた。

 でもクラリスたちが真っ向からそれを否定した。


 このお守りの中に入っていた国宝とやらについて、クラリスが教えてくれる。


「その宝石は代々ザントライユ王国の歴代の王が受け継いできた国宝です。 古くは建国神話にまでさかのぼりますが、リューマさん。 ロイクさんがお話しした建国神話について覚えていますか?」

「山の麓で休憩した時だろ? 何となく。 女神とその仲間が協力して敵の大将をやっつけた。 で、女神が帰った後、その仲間たちが国を作った、それが今の国の始まりだっけ?」

「それで合っています。 そして、その時の神子たちが女神さまから受け取ったものがあるのです」

「ああ……なんかあったな」

「力の象徴だよ。 冠にくっ付いてるんだ」

「それだ」


 ロイクが助け舟を出してくれた。

 そう言えばそう言ってたな。


「この国宝こそ、かつて神子が魔を打ち払うために授けられ、建国後もその象徴として受け継がれてきた神話の宝玉の一つ、青の涙です」

「神話の時代に神様が作ったもの……か」

「それは歴代の王が次代に受け継がせてきた宝であり、本来は玉座と共に継承される冠にはめられているはずのものなのです」

「つまりその宝玉は、王位の証でもあるのよ」


 本来なら、現ザントライユ王国の国王、シメオン陛下が持っていなければならないはず。

 しかし、それが今ここに。


「ええ!? それってつまりリューマが王様!?」

「あら~、ワンちゃん大出世~」

「素直に喜べねえよ。 そもそもなんでそんな大事なものをあの人が一人で持っていたんだ? しかも俺に渡したんだぞ?」

「そこなのです。 本来ならばシメオン陛下のもとにあるべきはずなのに、それをアニエス陛下が……。 陛下が持ち出されたのならば、その中身はご存じのはず……」

「間違って渡したって線は、さすがに難しいね」


 ハワードの言葉にう~んと頭を抱える。

 王位継承にも関わるような代物を、うっかりが起こりえるような管理をするはずがない。

 それにはクラリスも頷いていた。 

 結局あーだこーだと考えが出るも、的を得ないというか、ふわふわな憶測しか出てこない。 所詮俺たちはその思惑の外っ側でしかないのだ。

 業を煮やしたメリッサが立ち上がった。


「これ以上は埒が明かないわ、やったのがあの人ですもの。 先代の崩御からシメオン陛下の戴冠まで、権謀術数の渦巻く政界でザントライユの利権を守り続けた人よ? 年を取ってボケるなんてありえない。 外野がいくら詮索したところでわかるわけないわ」

「だな。 あの人をさして豪傑と呼んだくらいだ、裏があったっておかしくない。 とりあえずこいつはもらった俺が持っとくよ」

「ちょっと待てアカホ! 聞いていたのか!? それは貴様が持っていていいものではないんだぞ!?」


 サラはそう言うが、俺だって本当は持っていたくない。

 だって国宝だよ? 王様の冠にはまってるやつだぜ? 持ってるのバレたら間違いなく俺の首がさようならするぞ。


「そういえば、陛下が龍真に耳打ちしてたよね?」

「ああ、肌身離さず持ってろってさ」

「陛下が……そう言われたのですか?」

「耳打ちされたんだ、聞き間違える距離じゃないよ」

「し、しかしだな……」


 アニエス陛下は確かにそう言った。

 そのことにサラも食い下がるようなことはしなかったが、さすがに不満そうだ。

 気持ちは分からんでもないがな。


「分かりました。 そう言う事ならば、青の涙についてはリューマさんにお任せします。 アニエス陛下がそうおっしゃられたのなら、何か意味があるはずです」

「わかり……ました」


 サラが渋々座りなおした。

 意味か……、これに? 俺が持つことが? なんだろうな。

 とりあえず、なくさないようにしとこう。


「では、次に明日からの事ですが、早朝、店が開いたら順次必要なものを買いそろえます。 特に、装備面での充実は必須かと思います」

「装備……」


 宝石云々の話から一転、今度は俺たちが直面する事態の話だ。

 装備を整えるという事がどういうことか、それを考えたのかフランがごくりと喉を鳴らした。


 ベイエルを出た後は、北上して爪痕の谷と呼ばれる場所を抜ける。

 そこは今、魔物の住みかになっているそうだ。

 おそらく、戦闘は避けられないだろう。

 それが地理に詳しいクラリスとハワードの見解だ。


「谷については底を歩いていくから、戦うことなく抜けられると思うけど……」

「問題はその手前にある森です」


 ハワードの言葉を継いでそう言うクラリスが地図を広げる。

 皆でのぞき込むから狭いんだこれが。


「リューマ、もうちょっとそっち」

「おいフラン、狭いんだ我慢しろよ」

「見えないの」

「りゅ、リューマさん!? そんなによられると……!」

「おいアカホ! くっ付きすぎだバカモノ!」

「ほらクラリスの邪魔になってるから」

「じゃあここでいい」

「ぐえっ、上に乗るんかい……」


「俺、何見せられてんの?」

「あぁ……いい……」

「ロイク君、これリゼットさんに渡してあげて」

「え? どわ!? ちょっ、鼻!?」


「静かにしろバカあっ!!」


 メリッサが怒ったので本題に戻る。


「コホン、まず領都から出て北西に上がりますが、谷との間に森があります。 ここは広大な常緑樹が広がる森ですが、ここにも魔物が生息します」

「クラリス様、この森には何がいるんですか?」


 ロイクの問いかけにクラリスは三つの指を立てた。


「まずは通常動物である小動物が数種類、それを捕食するオオカミ型の魔物」

「オオカミ型か……」


 オオカミ型にはいやな思い出がある。

 お腹の横がむず痒い……、あれ? 矢の時と言い俺の脇腹、重傷負いすぎじゃね?


「しかし、それともう一種、この森の生態系のツートップに立つ魔物がいます。 それがローパー種です」

「ローパー?」


 俺はまだ聞いたことないな。

 でもロイクには心当たりはあったようだ。


「教科書の目次にはいたな、そんなの」

「習った?」

「今の授業のペースだと来月辺りじゃね?」


「ローパーは円筒形の体と、複数の太い触手を持ちます。 この森に生息するのはエーべローパーと呼ばれるザントライユの固有種で、特徴はその捕食方法です。 このローパーは罠を張ります」

「罠?」

「まず、体を地面の中に埋め、触手を四方に伸ばします」

「分かった、踏んだらグイッと引っ張られるのか」

「その通りです。 個体差にもよりますが、その触手一本で大人の牛すらも引きずることができるほどの力があります」


 大人の牛の体重が大体700kg前後だとしても相当なパワーだ。 それもたった一本でだ。

 人間の体重じゃあ捕まったらまず逃げられない。


「つ、捕まっちゃったらどうするの?」


 俺にのしかかるフランが恐る恐る聞いてきた。


「ローパー種の体に骨はありません。 その代わり、全身が強靭な筋肉でできています。 その肉質は非常に弾力があり、ゴムのように伸びるのです。 一部では、その皮をなめして革製の防具にするほどですから……」

「剣じゃ無理ってことっすか?」

「切れないことはありません。 触手は餌にありつく唯一の手段でもあるので、ローパーは触手にダメージを受けることを嫌いますし、触手が伸び切った緊張状態ならば切りやすいでしょう。 しかし、強い力で引きずられているその状況で、その判断を下せるかがポイントだと思います。 訳も分からずパニックになることがほとんどですから」


 ロイクの言葉にクラリスが難しそうにそう言った。

 だろうな、と思うよ。

 まさかいるとは思わなかったってのが一番きついところだろう。


「そいつにやられた奴ってけっこういるのか?」

「多くの場合は経験の浅い冒険者、次いで敗走した盗賊など、崩壊した組織、部隊の兵士です。 追撃の目を欺くために森へ入り、触手を踏むパターンですね」


 敗走しているわけではないけど、逃げているという立場からは無視できないな。

 っと、そうだ。

 装備を準備するけど、結局俺たちはこの森に入るのか?


「やはり場合によりますね。 追撃が激しい場合を想定しますが、飛竜での逃走が困難な場合は、一度森に降りて敵を撒きます。 ローパーに敵を襲わせるんです」

「逆に利用するってことか」

「はい」


 それで敵がローパーに引っかかってくれれば儲けもの。

 知ってて来ないとなれば、敵が引くまで身を潜めればいい。 それか、こそこそ移動して谷に向かうか。

 後は谷の底を渡ってファイエット領へ行くだけ、と。


「極力、戦闘は避けたいですが、装備はあるに越したことはありません」

「だよな。 よし、じゃああとは入り用の調達だな」

「はい! ご飯が食べたいです!!」


 調達という言葉を聞いて前のめりに飛び出すフラン。

 おいこら動くな、後頭部が幸せ感じちゃうだろうが。


「確かに、休憩に軽食を取っ手から、まともに食事をしていませんものね~」

「昼抜きで、日暮れまでぶっ続けだたからな、フランのいう事も最もだぜ。 なあリューマ、買い出しは明日にして飯にしねえか? どうせ日が落ちたらまともな店なんて残ってねえよ」


 リゼットとロイクもフランの要求には賛成している。

 まあ俺もそうだよ。 腹減った、飯食いたい。


 それはみんなも同じだったのか、取り合えす皆でこの宿の一階にある食堂で遅い昼食兼夕食を食べることにする。

 あ、このメニュー、学校の食堂でも食ったことあるやつだ。

 そんなに高級志向のやつじゃあなかったのか。 

 でも美味い、空腹に染み渡る。


 明日のこまごまとしたことを取り決めながら食事を済ませ、皆それぞれ部屋へと戻っていく。

 俺は椅子に座ってしばらくぼーっとしていた。 今日は濃い一日だったと思い返しながら。

 そんなことを頭の中に思い浮かべていたら、二階からフランが降りて来た。


「リューマ、もう部屋にもどるの?」

「いや、寝るにはまだちょっとな。 どうした?」

「いっしょにハヌーのところに行こ? リューマも飛竜のお世話の仕方覚えなきゃ」

「ああ、そうだな。 確かにそうだ。 ん~……日も沈んだし、この暗さなら見つからないか?」


 入り口近くの窓から外を覗く。

 見える明かりは月明かりと窓から見える生活の明かりだけだ。

 その間をそそくさと帰宅途中の人たちが歩いていく。

 あの白いローブ姿は見えない。


「あの人たちのこと?」

「追って来てたろ? こっちに来てるかもってな」

「引き返したのに? 考えすぎだよ」

「お前は考えなさすぎだよ」

「う″~~っ!!」


 ほっぺたを挟んでグネグネした後、宿を出て飛竜たちを止めてある停泊所に向かう。

 仮にここまで追って来ていたとしても、世話をしないというわけにはいかないのだ。

 明日のために餌をたらふく食わしとかないといけないし。


 夜の街をこそこそと移動し、停泊所へ着いた。

 中に人はいるが、基本的に見ているだけだ。 世話をするのは当然飛竜の持ち主の役目。

 言ってしまえば駐輪所と同じ。


「飛竜の餌ってこれ?」

「そうだよ。 小さいけど栄養たっぷりの特別製」


 中に入ってフランが取り出したのは、四角いキューブ型の塊。 大きさは俺の拳よりは小さい。

 ああ、ペットフードみたいなにおいがする。


「これって人も食えんの?」

「…………私食べたことある」

「まじで?」

「二日寝込んだ」

「あっぶねえ、齧るとこだったあ……」


 飛竜たちに餌をあげた後は体のブラシ掛け。

 これがしんどい。

 体がでっかいから時間がかかる。


「しっかりかけとかないと、鱗の間に汚れが入って病気になったりするんだよ。 飛竜にとってはお風呂みたいなものだよ」

「そうか、そりゃあ大切だわ」


 フランと二人がかりで何とか五頭分のブラシ掛けを終わらせる。

 フランは毎日これやってんのか。


「家にいた時は、一番多くて一日に100頭くらいやってたかな」

「…………100頭?」


 え? 100? そんなにいるの? フランの実家は。


「あれ? 言ってなかったっけ? 私んち飛竜の飼育をやってるの」

「飼育? 牧場やってんのか?」

「うん、飛竜の牧場。 飛竜を育てて騎士団とか商人とかに売るの。 うちで飼育してるのは騎士団でも使ってるタッファーに、トービンハイト、エアンス、あと地竜種のルーワー。 この子は商人さんが買っていくことが多いよ」


 フランが自慢げに竜種を教えてくる。 

 多くて100頭か。 だとするとフランの実家ってかなりデカいよな。


「そういやハヌーはいないのか? ラシーティだっけ?」

「いたんだけど、ラシーティは飼育が難しくて4年くらいで取り扱いをやめたんだって。 そんなに売れなかったみたいだし。 ハヌーは私に一番なついてくれたから売りに出さなかったの」

「飛竜牧場の経営って大変そうだ」

「ほんとだよ、お父さんってば種類を増やしたいっていろんな飛竜を育てるもんだから、たまに赤字になりかけることもあるんだよ」


 フランが溜息を吐きながら翼を広げさせて付け根からブラシ掛けしていく。

 年季の差か、こっちはうまくいかない。 頼むから、広げて、羽を広げ 痛ったああ!? 


「大丈夫リューマ!?」

「いってええ……、顎打った……」


 羽が……広げた瞬間、顎を打ち抜きやがった……。


 トラブルはあったものの、何とか全部のブラシ掛けを終わらせた。

 俺が1頭やってる間にフランは2頭も終わらせてたけど。

 まあ覚悟してたことだ、やっていくしかない。 慣れりゃあフランのようにできるさ。


 ひと汗もふた汗かいて、停泊所から寮へと戻ることにする。

 明日は武器の調達後、なるべく早く飛び立つために、人前準備を行うためフランとリゼット、ハワードは停泊所へ向かうことになっている。

 また出立前に襲われて飛び立てずに足止めを食らうのはごめんこうむりたい。


「なんか大変な一日だったね」

「ん? ああそうだな。 まだまだ明日からもだけどな」


 宿に向かって歩きながら空を見上げた。

 メッチャ綺麗。

 天体観測で山奥に行ったときみたいな夜空だ。


「ほんと、大変だ。 ハワードの魔物化の本が狙われている。 一つはカムイの槍、もう一つは誰かもわからない」

「あの人たちと、街で現れた魔物を呼び出した人は別の人?」

「人っていうかグループだな。 ベルナールさんは絶対に本を燃やすってそう決めているはずだ……」


 じゃあ、手に入れようとしている側は、いや、すでにもう一冊を持っている側は誰だ?

 魔物化の本の基礎編と応用編、俺は便宜上そう呼ぶけど、基礎の方を誰かが持っているとハワードは言っていた。 ハワードが持っているのは応用の方だ。


 目星は当然ない。

 ただ、一つ気になるのは、マウリ峡谷の入り口にいた謎の魔導士。

 こっちに撃ってきたってことは敵だ。 だが、雰囲気が違う。 カムイの槍と違うんだ。

 そいつのことも気になる。


 さらに峡谷で俺以外の日本人、異世界人と出会った。

 坂越藤次郎。 カムイの槍に付いた人だ。

 ベルナールに助けられたから、ベルナールの手伝いをするという。

 正直戦いたくはない。 でもそうも言ってられない。 これについてはもうねじ伏せると決めた。

 目的があるのは相手だけじゃないんだから。 もちろん俺にだってある。


「そんで……宝玉か……」

「びっくりだよね」

「王様になれたら人探しも楽になるんだろうけどなあ」

「人を使ってじんかいせんじゅつだね」

「フランが、難しい言葉を知っている!?」

「りゅ~ま~?」

「待て、コラ、しっしっ、脇腹を狙うな!」


 蛇のように狙いを定めるフランの手をぺしぺしと叩いていると、頭の上に影が差した。

 あれ? 満点の星空だったよな?


 気になって上を見上げる。

 しかし、影を落としていたものはすでになく、星空が広がっている。


「ねえリューマ、なにあれ……」


 だが、その中に一つだけ違うものがあった。

 立ち並ぶ家々の屋根に一つだけ立っているものがある。

 煙突じゃあない。


「あいつは……っ!!」


 人だ。 黒いローブを着て夜空に溶け込むように立っている謎の人物。

 あの口元に浮かぶ笑みには見覚えがある。

 マウリ峡谷の入り口で魔法弾を撃ってきやがったやつだ。 間違いない!!


「フ……」


 そいつはこっちを見て手を振った。 ごきげんようとでも言うようにだ。

 しかし、降りてくるという事はなく、踵を返して消えていく。


 その代わり、落ちて来たのは……。


「なに?」

「攻撃……いやフラン!!」


 フランを突き飛ばして地面を蹴った。

 俺をフランの間に人が落ちてくる。

 そいつの手にはナイフが握られていた。


「こいつ!?」

「リューマ!?」

「フランは来るな!!」

「しっ!!」


 そいつは俺を確実に殺すために心臓へナイフを突き出してくる。

 その手に掌底を撃ち、攻撃を避ける。


「このっ!」

「殺さないと」

「この声……!?」


 背は小さい、フランよりもだ。

 ぼろきれを何枚も纏ったような服から伸びる腕は細い。

 それに声が幼いって……。


「子供か!?」

「くっ!?」


 再び突き出された腕をつかみ、捻りあげて背中から押さえつける。

 落ちたナイフを蹴り飛ばすと、こっちを睨む目と合った。

 やっぱりだ。


「女の子!?」

「リューマ!! 離れて!!」


 フランが叫ぶや否や、この女の子は捻られた腕を異常な力で振りほどいた。

 いや、この体の発光は!?


「まずい!!」

「殺さないと!!」


 異常な力の原因に気づいた瞬間、俺はすぐに離れた。

 だが、この女の子は獣のような反応速度で俺の鼻先まで飛んでくる。


「死ねえ!!」

「のわあっ!?」


 女の子が俺の胸ぐらをつかみ家の壁に向かって投げ飛ばした。

 このザントライユの家々は石造りだ。 ぶつかればただでは済まない。

 おまけに、この対格差を無視したパワーで俺は投げられた。

 この投げられ方、覚えがある。 学校の、図書館だ……!


「リューマ!!」

「ぐうっ!? た、助かったフラン!」


 激突する直前でフランが俺を受け止めた。

 その体はオレンジの光を纏っている。

 あの女の子と同じ光だ。


「下がってて」

「ああ、おれじゃあ無理そうだ」


 強化魔法。

 あの女の子はフランと同じ、強化魔法が使える。

 強化持ちとの戦いは無謀、それはもう思い知っている。


 獣のように素早い動きでナイフを拾った女の子は、ぼろ布をはためかせながら俺たちを睨む。



「先生の敵、許さない。 殺さなきゃ……!!」



良いお年を

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