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第五十六話 盗賊討伐の報酬……!?

 一度ザントライユ山の麓で休憩を取り、その後は一気にファイエット領まで飛ぶという事で、さっそく飛竜にまたがり空をかける俺たちだったが……。


「流石にあれを見過ごすわけにはいかないだろう……」


 真下を走る街道の先、そこをこっちに向かって走ってくるのは一台の馬車。

 それだけなら急ぎかな? なんて思うだけだったかもしれないが、その後ろからついてくる物騒な一団がいなけりゃあなあ……。


「騎士として見過ごすわけにはいかないのもそうですが……」


 クラリスが逃げる馬車を見て身構えた。

 あの馬車の車の横についている紋章、さすがに俺も見たことある。

 学校の歴史の授業で見た。 テストにも出た。


「嘘でしょ!? なんでザントライユの馬車がこんなところ走ってのよ!?」


 あれはザントライユ王家の紋章だった。


「とにかく空から魔法を撃って、追っ手の足止めを!」

「足を止めるだけならまた追われるわ、つぶさないと!」


 クラリスの指示にメリッサが反対し、飛竜を加速させる。

 後ろに乗っていたロイクが慌ててメリッサにしがみついた。


「ちょっとメリッサ様!? 流石にあの数を俺らでどうしようっての無理あるんじゃないんですか!?」

「うだうだ言わずに撃てばいい!!」

「はいいっ!?」


 メリッサに気おされてロイクが杖を構えた。

 それに並んでハヌーとリゼットの飛竜も魔法の準備を始める。


「それを後ろから見る俺たち……、っておいサラ、なんで俺の前に出るんだ」

「どうせ飛び降りるんだろう」

「バカなこと言うな、1パーセントありえない」

「残りの9分9厘あり得るではないか!! クラリス様が無茶をするなと言ったのを忘れたか!!」

「そうじゃないけどさ!」


 クラリスたちが馬車を追う盗賊たち目がけ、魔法を発射する。

 しかし、盗賊たちは慌てもせずに馬を巧みに走らせ躱していく。 さらに一部が杖を構え魔法陣を展開させた。


「各騎散開!!」


 クラリスが指示を飛ばし、すぐに回避行動に移った。

 飛竜たちの間を火球が通り過ぎていく。


「盗賊ごときが魔法だと!?」

「スラムのバッカスだってやったんだ。 バカだけじゃないんだろう!! クラリス!!」


 俺は地面を指して降りることを伝える。


「いけません!! リューマさんは……!?」

「分かってる!! でも誰か降りねえと振り切れねえ!!」

「ならリューマさんでなくても!?」

「頼む、援護してくれ」


 どの道、空からだけならあいつらは走り続けられる。 それだと馬車との間は開かないままだ。

 相手の前に立って壁にならない限りにはな。


 クラリスが迷った顔をしたが、いまだ距離が開かぬ馬車を見て決断する。


「時間がありません、サラ、メリッサ、ロイクさん、リューマさんは地上へ! 残りで上を取ります!! ハワードさんは魔導士に集中、絶対に撃たせてはなりません!!」

「了解です!! フランさん、あの馬の近くへ!!」

「任せてハワード!!」


 フランがハヌーを操り、盗賊の魔導士へと接近する。


「俺らをつぶす気か! 撃て撃て撃てっ!!」

「たった一騎だ、金の足しにしてやる!! フレアショット!!」


 盗賊どもの放つ魔法がハヌーへと襲い掛かる……が。


「ハワード、しっかりつかまってて。 ハヌー任せたよ」

「キュルルラアアアッ!!」


 フランの言葉にハヌーが子供のような元気な声で鳴くと、翼をはためかせて次々と炎の弾を避けていく。 そして、ハヌーが盗賊の魔導士の上を取ると、ハワードが魔方陣を多数展開する。

 第一環位の低威力だが、人相手なら十分。


「なんじゃありゃあ!?」

「盾っ!! 傘あっ!!」


 それを見た魔導士が慌てて防御魔法を発動させる。

 そして、防御魔法が発動したのを確認してから、ハワードが魔法を発動させる。


「万万千千の繋ぎし精霊に乞う。 只一つでいい、その一欠片を私に」

「え、なにその詠唱!?」

「近代魔術じゃないだけだよ。 エレメンタル・レイン!!」


 ハワードの周りを光が瞬きながら集まりだすと、その一つ一つが炎や水、電気などを纏いだし、手を振りかざす方へと向かって飛んでいく。

 その数がまたおびただしいもんだから、まさに魔法弾の雨だ。

 盗賊の魔導士は防御魔法を解除できず足止めを食らう形となった。


「さあっすが!! よっしゃ行くぞ!!」

「ええいままよ! リゼット、クラリス様! 援護をお願いいたします!!」

「まかせて~」


 リゼットの声ってなんか緊張感がわかない。 いや俺は好きよ?


「アカホ、サラ! 馬車との間に降りるわよ! ロイクいいわね!」

「了解です!!」


 飛竜をUターンさせ、馬車の前に回りこみ高度を下げていく。


「サラ、俺は敵の真ん前に降りる」

「ぶつかる気か!?」

「魔法が使えても味方は素手だぜ? 武器はいるだろ?」

「…………お前の行動力には呆れてものも言えんな」


 誉め言葉、誉め言葉。

 ハワードの攻撃によって敵の部隊が二つに分断されたところで、真下を馬車が通り過ぎ、目の前に盗賊の先頭の馬が迫る。


「ロイク! 先に降りて仕掛けてくれ! 学校でやったやつだ!」

「あ? ああ、あれか! よしきた!!」


 メリッサが速度を落としてロイクを降ろすのを後ろに、俺たちは盗賊に突っ込む。


「行くぞ!」

「どんとこいやあああああ!!」


 飛竜を蹴って空中に身を投げ出す。

 地面に落ちていくところへ、グッドタイミングで盗賊の馬が目の前に。


「なにいいいいいいい!?」

「出迎えご苦労っ!!」


 馬から盗賊を蹴り落とし、すかさず剣を奪い取る。

 スケボーのように盗賊をクッションにして着地すると、敵の後続が突っ込んで来た。


「このガキ!!」

「やかましい!!」


 最初の突進は回避して、その次は馬の脚を切りつけて転倒させ、三人目は服をひっつかんで引きずりおろし、顔面に一発入れて黙らせる。

 一つ抜けたが後ろは問題ないだろう。


「どけえええ! じゃまだああああ!!」

「いらっしゃああい……!」


 ロイクが地面に手をつくと、迫る馬の足元が崩れて地面に大穴が開く。

 盗賊が投げ出されてロイクの足元まで転がっていった。


「ぐ、うぐ、な!? おい、ちょ……!?」

「盗賊になったお前が悪い!!」


 顔面にフレアショット。

 うぅわ、あれは食らいたくねえな。


「メリッサ! これ使え!!」

「あら、気前いいじゃない」


 俺は奪った剣をメリッサに投げ渡して、倒れている盗賊から手甲を奪い取る。


「はは、どっちが盗賊か分かんねえな」


 革製の手甲か、防ぐには心もとないが……。

 ううん、大人用だからかサイズがちょっと大きいな。


「このガキども、騎士学生か……」

「そういう事、王族をはいどうぞなんてできないから、覚悟しろよ」

「こいつら……」


 盗賊の頭だと思われる人物が残った仲間を集めて、魔導士を中心に密集陣形を組む。

 魔導士は上に防御魔法を展開してハワードの攻撃を警戒していた。


「上等な獲物だったんだぞ。 俺らの邪魔しやがって、覚悟できてんだろうな!?」


 盗賊の頭が怒鳴り散らして剣を構えた。

 まああいつがトップだとしたら、一番強い奴だよな。

 とっさに陣形も組みなおせるんなら手練れってこと? 二人以上で来られたらさすがにまずいな。


 さて、どうやってサシに持ち込もうか。


「男はバラバラにして町にばらまいてやる。 女は楽しんだ後で裸で街に吊り下げてやるからよ!! 俺らにたてついたこと後悔させてやるぜ!!」

「やることが下品なんだよ。 汚ねえ品性で汚物が走り回ってんじゃねえ、畑にばらまくぞクソ野郎」


 おっとぉ、挑発したら全員乗った。

 ピリピリとしていた殺気がガンガンと向けられてきやがる。


 まずはテメエからぶっ殺すって目が言ってる。


「まずはテメエからぶっ殺す」

「ほらあ……」


 でもまあ、そのお頭さんが直々に手を下されるようだ。

 一人ゆっくりと俺に近づいてくる。

 部下の皆さんもこういうのは頭に譲るみたいだ。 いい部下を持ったねえ。


 サラとメリッサが剣を構え、ロイクが杖を構えた。

 小さく合図して、部下たちを任せることにする。


 『なんとかサシに持ち込まして』

 『お前は本当に~~だな』


 ちょっとまてその手振り絶対俺のことバカって言ってるだろう!?


「覚悟しろこのガキいいいいっ!!!!」


 盗賊の頭が剣を振り上げる。

 それを皮切りに、メリッサたちと盗賊たちが交戦した。


 剣を交える数はメリッサたちの方が少ないが、上からの援護射撃が部下たちの動きを鈍らせている。

 肝心の盗賊側の魔導士もハワードの飽和攻撃に押さえつけられ、防御するのに手いっぱいだ。

 やっぱり遠距離持ちは撃たせないに限る。


「死ねええ!!」


 振り下ろされる剣をかわして距離を詰める。 突きを繰り出したところで、すかさず左フック。


「ぐおっ!?」

「っしゃああっ!!」


 簡単に動きが止まりやがった。

 顎を押さえている隙をついて、剣を持っている手を蹴りあげ、武器を弾き飛ばす。


「くそっ! この!」


 右、左と繰り出されるパンチを体を振って避け、お返しにアッパーを入れる。


「ごっ……!?」

「賊相手に、容赦なんてしないから……なっ!!」


 加速をつけて飛び上がり、両足で相手の首を挟み、体を捻って投げ飛ばす。

 相手はその場で一回転して背中から地面に叩きつけられた。


「おおう、うまくいった」


 盗賊の頭は泡を吹いていた。 死んではなさそうだ。


「こっちはOK、そっちは?」

「終わったのならさっさと来いバカ者!」


 サラが悪態をつきながら攻撃をかわして賊の手首に一突き、反撃もかわして反対の腕の肘を一突き。

 サラは賊の振り回す剣の間合いを完璧に測り、最小限の動きと攻撃で敵の動きを封じていった。


 振り下ろされた剣を体を少し後ろに下げるだけでかわすんだ。

 剣先が鼻先ギリギリを通っていくの見てるとこっちがハラハラする。


「私は短剣しかもっていないんだ、長物が来たら困る、さっさと他を片づけろ」

「あいあい、うおっ!?」


 後ろから背中が押されるほどの爆発が起こる。


「リューマさん!」

「ワンちゃん気を付けて!」


 頭の上を通過する飛竜からクラリスとリゼットがそう言ってきた。 流石にこういう時ははきはきとしているな。

 どうやらサラに気を取られて背後がおろそかになっていたらしい。

 前にもあったなこういうの、どうも前ばかり見てしまう。


「直さないと……な!」

「ぐえ!?」


 吹っ飛ばされた敵が立ち上がろうとしたから、後頭部に踵を落としておく。

 そしてサラを挟み込もうとする敵がいるので、その前に立ちふさがることにする。


「こいつ! よくも頭をやったなてめえ!!」

「知るかそんなもん!!」


 剣を振り上げたタイミングで懐まで飛び込んで膝蹴り、おまけに顔面にも入れておいて、相手の後ろへ飛び越えたらそいつの腰に手を回してしっかりロックする。

 体があったまってきたから今ならいけそう。


「うおおりゃああああっ!!!!」

「ぐおっ……ぶぺえっ!?」


 もちろんジャーマン・スープレックスだ。

 良い子も悪い子もマネしないように。


「よぉし……」

「無駄に大技をするな、隙をさらすぞ」

「よくやったの一言くらいいいんじゃない?」

「あれくらいやれば言ってやる」


 サラが指す方を見ると、メリッサが賊を三人相手に凄まじい速さで攻撃して圧倒している。


「あははははっ! ほらほらほらほらほらほらほらほらほらっ!!!」


 メリッサの猛攻を必死になって捌こうとする賊たちが逆に哀れに思えてくるほどだ。

 ほんと、もうどっちが悪役だろうか。

 今までの鬱憤を晴らすかのようだ。


「俺あれとやりあってたの?」

「学校の決闘でよかったと思え」


 賊の首に短剣を突き立てたサラが相手を蹴り倒しながら短剣を引き抜いた。


「ぐああああっ!?」

「ふう……話にならないわね」

「つ、つええ……」


 三人ともねじ伏せやがった。

 その結果、敵の前衛が崩れたんで、あとはもうサクサクと事が進んだ。

 ハワードの圧倒的手数に防御魔法を展開するしかできなかった魔術師を横からロイクが狙い撃ち、防御役がいなくなったところをクラリスとリゼット、ハワード、フランの四人がかりで空襲攻撃。


 先に降りた俺たちは見てるだけとなった。

 で、雨あられと魔法が降るのを10秒ほど眺めて戦闘は終わった。

 魔導士の数が戦闘を有利にすると授業で聞いたことあるけど、これはひでえや。


 その後、討伐した盗賊どものうち、生きている奴を集めて縛り上げていくことに。

 後で騎士団に引き取らせるんだと。


「お、こいつら金持ってるぞ」

「いくら?」

「500リオラもいかねえかな」

「やっす」


 そんななか俺とロイクは盗賊の所持品をあさっていた。

 いや、俺は使える武器がないかだよ?


「何聖人ぶってんだよ。 今の状況使えるもんはとっとかねえと、後で持ってこりゃあよかったなんて結構きついぜ?」

「ほら、建前としてはそういう事にしとかないとな」

「こぉらそこっ!! 物色してないでこっち手伝いなさい!!」


 メリッサに叱られた。




「求むるは土、変わるは泥、クレイム」


 ハワードが呪文を唱えると盗賊たちの手に泥が絡みつき、手錠となって拘束する。

 その盗賊たちを近くの木にまとめて縛り上げた。

 意外と運ぶのしんどい。


「ふふふん、力がないなあリューマは~」

「強化魔法はずるいとおもいまーす」

「使えたものが正義!」

「ひでえ」


 オレンジの光をまとったフランが大の大人二人を抱えて運んでいく。

 その横を俺はえんやこらと引きずっていったのだった。


「ふう……これで良しかな」

「何で縛る?」

「ハワード君の泥でいいんじゃな~い~?」


 リゼットに呼ばれてハワードが盗賊たちを木に泥で縛りつけたところで、馬車が一台近づいてきた。

 さっき俺たちが逃がした馬車だ。

 とどのつまり王族だ。


 その馬車を見た瞬間、クラリスら貴族組がすぐにその馬車に対して膝をついて頭を下げる。

 お城でモードレッドさんと一緒にやったやつだ。 俺も倣っておこう。


 全員が頭を下げたところで馬車が目の前に止まり、中から誰かが下りて来た。


「皆、お立ちなさい」


 落ち着いた女性の声だ。 声色から老人の年齢だろう。

 誰だろう? 王族の名前なんて知らないぞ。


「綺麗な人だね」

「どなた?」

「シメオン陛下の母君で、王太后のアニエス・ド・ザントライユ陛下だよ」

「おい、静かにしろ」


 降りて来たのは銀の髪をしたおばあちゃん。

 顔にしわがあるものの老けているなんて言えそうもない、若々しさというか力強さのようなものを感じる。

 老いてますますというやつだろうか。


 ハワードが言うには、シメオン陛下の父フェリクスが体が弱く病気がちだったために、彼に代わり為政を行っていた言う。

 実は元冒険者だとか、ドラゴンですら縊り殺せるだとかの噂があったらしく、王妃を指して豪傑と言われてたそうな。

 やべえとしか言えねえよ。 感じる力強さはそこからくるのか。


「クラリス、メリッサ、久しぶりね。 まさかこのようなところであなた達に助けられるとは」

「お久しぶりにございます、アニエス王太后陛下」

「助かりましたよ、なにせお忍びでの移動でしたから、護衛も一人しか連れていなかったの」


 追われていたというのにこの人はまるで、電気つけっぱであらやっちゃった、みたいな軽さで笑った。


「おばあ様、お忍びとはいえ不用心です!」

「メリッサ、大きくなたわね。 あなたはちっとも顔を見せに来ないから」

「え、あ、ちょ、おばあさ……お……おばあちゃん!!」


 頭を撫でられるのを我慢していたメリッサがその手を払いのけた。

 恥ずかしかったのか顔が真っ赤になっている。


「おばあちゃん……」

「……っ!!」


 メリッサが凶悪な目で睨んできた。

 それ以上言ったらぶっ殺すですね? 分かります。


「それよりも、二人ともどうしたのこんなところで。 しかも後ろの方たちは騎士学校の制服じゃない、学校はどうしたの?」

「その事なのですが、今私たちは追われている立場にあります」

「追われている?」

「はい、カムイの槍と自称する集団です。 その背後には上貴会のベルナールがついています」


 その名前を聞いてはっとしたアニエス陛下はすぐに何かを察したようだった。


「ベルナール、存じていますよ。 あのブノワの息子ですね。 上貴会の一人で、イシュベルの信徒、上にも顔が通る立場だったと記憶しています」

「こちらの、ハワードさんが持つ魔導書を狙っているのです」

「王都の事件は連絡を受けています。 ある程度の事情も」


 そう言ってハワードを見るその目はやさしさを帯びていた。

 事情を知っているというのなら、アンリの息子のってことも?


「そう……それで……、あいつが呼んだのね……」

「おばあ様?」

「とりあえず、この盗賊についてはこちらから小霊を飛ばします。 あなたたちはこれからどちらへ?」

「はい、ファイエット領へ向かうつもりです」

「そうですか……。 今、あちらの天気は崩れそうです。 雨風が吹けば、飛竜の飛行は危険ですよ」

「そ、そんな!?」


 陛下からもたらされたお天気情報にフランが動揺する。

 あっちの天気が雨になるって……。

 弱い雨ならまだしも強くなるってんなら確かに危険だよな。


「フラン、強行突破って」

「何言ってんのリューマ!? ダメに決まってるじゃん! 視界が悪くなるし、風でバランスが崩れやすくなるし、雨で重くなるし、何より飛竜の体力が消耗しやくすなるんだよ。 雨の中の飛行が一番事故率が高いから、ベテランでも絶対避けるんだよ!?」

「だよな、わりい」


 やはりフランから猛反対が入った。

 じゃあどうしようか……。


「クラリス、最初の予定だと何とか伯爵ってとこ向かうんだったよな?」

「ニコラース伯爵ですね。 はい、ですがザントライユ山の麓で休憩が取れたので、そのまま……あ、いえ、それでは」

「そのニコラースってとこに行って雨が止むのを待とう。 近いのか?」

「ここから真っすぐファイエットに向かう途中にあります、なので……」

「ああそうか、雨か……」


 なんてタイミングの悪い! こういう時ぐらいご都合的に晴れとけよ!

 なんて言っても仕方ない、無理なのはしゃーない。


「どうする?」

「ならば、領都ベイエルへ向かいなさい」

「ベイエルへ、ですか?」


 困った俺たちに代案を出してくれたのは陛下だった。

 が、しかしだ。 


「ベイエルってどこ?」

「貴様……!? アカホ! それくらい覚えておけ! 陛下の御前だぞ!?」

「バカ言うな! 俺の地理の点数知らねえだろう!?」

「赤点ではないだろう!?」

「一夜漬けをなめるな!」

「威張るな!」

「リューマリューマっ! 地図あったー!!」


 ちょうどフランが地図を出してくれたので確認する。

 クラリスが詳しい位置を教えてくれた。


「今私たちがいるのは、ザントライユ山のマウリ峡谷から出た麓、ここからさらに北に上がり、街道のあるこのあたりです。 ベイエルはザントライユ国領の首都でザントライユ国領の中心、ここにあります。 ファイエット領はベイエルから北西にあり、ニコラース伯爵寮はその下に位置します。 雨が降るというので、この時期だとファイエットからニコラースにかけては強く降る場合があります」


 梅雨みたいなもんか?

 時期が悪かったか。


 皆で見ている所へ陛下が地図を指さした。


「ベイエルからファイエットへ向かうなら、少々北回りとなるけれど、爪痕の谷を渡ってファイエットの北東に入りなさい。 魔物は出ますがそう数は多くありません。 あなた達なら切り抜けられるでしょう」


 いろんな地名がごーろごろ。

 まあだいたいわかった。 多分。


「つまり、ベイエルで晴れるの待ってから、谷を渡ってクラリスちゃんのお家に行こうってことだね」

「そういう事だな」


 じゃあ次はその谷について聞きたいけど……。

 そんなことも知らないのかって言われるかな? 言われるだろうなあ。

 だって授業に出てた気がするもんその名前。 でも忘れた。


 そんな俺の隣でハワードがううんと唸っていた。

 どうした?


「爪痕の谷か……」

「そこ、なんかあるのか?」

「谷を渡って通るとなると、空は飛べない。 30年前の攻略戦で、大型のドラゴンが放ったブレスが作ったものらしいけど、マウリみたいに狭い谷なんだ」

「ドラゴンのブレスは地形すら作り出すのか……」

「うん、そのせいで谷の大気中の魔力が他より濃いから魔物が多く集まる。 その中で危険なのがロックハーピィって言う魔物で、岩肌に擬態するんだ」

「擬態……、空を飛んでたら知らないところからガブリ?」

「うん。 ただ、ロックハーピィはその習性から近くを通る生物しか襲ってこない。 離れた位置、谷の底を歩けば何とかなるよ」

「じゃ、じゃあ大丈夫だな。 だよな?」

「こういう時はクラリス様だよりだ」

「くそう、ロイク、お前も俺側だったか」

「役に立たない組に分けるんじゃねえ」


 つい話が盛り上がりやいのやいの言いああっていると、それを見ていたアニエス陛下が笑った。

 ヤバイ、王族ほっぽり出してた。 ど、どうかここは穏便に……。


「ふふふ、今年の騎士学生は頼りになる子たちね。 でも皆、装備を持っていないのは危険よ」


 陛下が振り向くと、いつの間にかいた護衛の人が袋を取り出し、陛下が受け取った。

 それをクラリスに渡してくる。

 何が入っているの?


「少ないけれど、これで装備を整えなさい。 領都に行けば十分な装備を用意できるでしょう」


 クラリスが袋を開けると、中には金貨が入っていた。 それもたくさん。 たくさん!

 大事なことだから二回言った。

 いやおおごとでしょうよ!? こんなに!?


「お、おばあ様!? これは!?」

「助けていただいたのですから、これはそのお礼です。 それにたとえ魔法に長けようと、武器もなく旅をするなど、そんな危険なことをかわいい孫にさせられますか? いいえできません」


 そこまでか!?


「で、でもこんな大金を……」

「クラリス、私がお礼としてこの額がふさわしいと判断したのです。 いいから、受け取っておきなさい」

「……はい、ありがとうございます!」

「ふふ、お礼を言うの私の方なのにね。 さあ、私はそろそろ王都へ向かうとするわ。 お忍びで向かっているのですもの、盗賊を連行しに来た騎士たちに見つかったら意味がないわ」


 そう言って陛下が馬車に乗り込もうとしたところでふと動きが止まる。

 思い出したようにように振り返ると、なにか小さい袋を取り出した。


「そうだわ……たしか……」


 俺たちを見渡すと、ってちょっとなんで俺を見てるんですか!?


「あなたね? リューマ……」

「はい、リューマは自分ですけど、なに……い!?」


 あ、あの目は…・・!? 校長からも見られた変な気分になる目だ!!

 そ、その目はやめてくれええ!? いやな汗が出てくるんだってばああ!?


「そう、あなたが……」

「え、あの……何か……?」

「素手で殴りかかっていたのを見ました。 勇敢なのですね」

「そ、そうですか?」


 あれ? 褒められてる?


「陛下! アカホが調子に乗ります! どうかお止めくださいませ!」

「おいサラそんなことないだろう!」

「いやあリューマならあるだろう。 ですよねクラリス様」

「その……無茶は止めて欲しいと思うのですが……」


 味方がいないっ!

 まあ、自覚はあるけど。

 むぅ……弓とか使えるようになった方がいいかな? 

 武具知識の実技でやったことあるけど、あれメッチャむずいんよ。 当てるの。


「その勇気は心強い味方となるでしょうが、時には味方の恐怖すら呼んでしまいます」

「それは……分かります」


 クラリスが心配していたし、サラの紙一重のよけ方、あれを見た俺もひやひやしていた。

 多分、そう言うものだ。

 でも、分かってても、何とかしたいと飛び出してしまう。


「これを持っておきなさい」


 小さな袋を俺に手渡してきた。

 中には、感触では丸い何かが入っている。


「お守りです。 必ず、あなたの力となるでしょう」

「あ、ありがとうございます……?」


 馬車へと戻ろうとする陛下が、俺へと耳打ちした。


「肌身離さず持っておきなさい」

「え……」

「それでは皆さん、ご武運を」


 そう言って馬車へ乗り込むと、すぐに走り去っていった。

 な、なんだったんだ? 今の……。


「すげえよ、俺陛下と会っちゃった。 帰ったら親父に自慢しよ」

「そんな芸能人にあったみたいな」


 いやどっちかってえと天皇様?

 ロイクがミーハーなこと言ってるとリゼットが俺の手元を見て来た。


「ところでワンちゃん、なにもらったの?」

「そうそう、お守りとか言ってたよね」

「さあ、なんだろう」


 とりあえず開けて開けてとみてくるので仕方なく袋を開けてみる。

 あれ? でもお守りとかって開けたらだめなんだっけ?


「まあ……いまさら気にすることでも……っほ! お? なんだこれ?」


 袋を開けて転がってきたのは綺麗な丸い物体だ。

 見た瞬間、宝石!? って驚きそうになって落っことしそうになってしまった。 危ない危ない。


「うわああ! きれい!!」

「青く輝いて見えますわ。 でも……これ、どこかで見たような~?」


 フランが目を宝石と同じように輝かせ、リゼットは首を傾げた。

 そこにロイクとハワードもよってくる。


 ちょ、おいこら、押すな! 落としたらどうする!


「おいおいおい、お前だけ特別ボーナスかよ」

「やかましい、王太后陛下が直々にくれたもんなんだよ!」

「あれ? でもこれどっかで見たような?」

「ハワードさんも~、そう思います~?」

「何か……」

「どこかで~……」


 リゼットと一緒にハワードまで首を傾げ始めた。

 なに? ひょっとして結構有名なものなの? これもらっちゃって大丈夫なん?

 戸惑っている所にサラが来た。 どうやら俺たちも移動するらしい。


「おい、何を集まっている。 騎士団が来るからさっさと離れ……は、は?」

「え、なに、サラ?」

「ク、クククク、クラ……」


 サラがこれを見た瞬間、壊れたようにククク……と言っている。

 その顔もどんどん青くなっていった。

 おいやめろよそういうの、俺が持っているのがヤバいものに見えてくるだろうが。


「クク……クラリスさまああ!?」

「さ、サラ!? どうしたの!?」

「どうしたのよ素っ頓狂な声出して」


 クラリスとメリッサも来てパーティメンバーそろい踏み。

 この宝石が時限爆弾に思えて来た。 手が震え……ない。

 んなことあってたまるか。


「さっきからなんなんだよ! これがなんなのか知ってんならさっさと言ってくれって!!」


 これを突き出そうとして宝石をつかんだら、ものすごい勢いで止められた。


「あほおおおおおおおおおおおおおっ!!?!??!?」

「あほ!?」

「きさっ……貴様!! これを何だと思っているんだ!?」

「だからそれを知らねえんだって言ってんだろうが!!」

「ちょっとサラ! 落ち着いて!」

「何やってるのよ! よしなさい!」


 ついには取っ組み合いになった俺とサラをクラリスとメリッサが制止する始末だ。

 ええい、もうもったいぶるのやめろって、嫌いなんだそういうの!


「クラリス! これってなんだ!」

「これ? それはたしか陛下がお守りにとリューマさんに……い?」

「ちょ、ちょっとそれ……まさか……」


 クラリスが固まり、メリッサも顔を青くし始めた。

 お前らもか。


「りゅ、リューマさん、それ……それは、王家の……」

「王家?」

「アカホ、それ、王家の家宝……」



 へ? かほう?



「それは、神の秘玉、青の涙……、ザントライユ王国の……国宝ですぅ……!!」


 とうとう涙目になったクラリスがそう言い放った。


 国宝。


 俺の手のひらに乗っている宝石の正体、それを聞いた俺の背中から滝のように冷や汗が流れているのを、じっとりと感じていた。


他いろいろ書いてました

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