第五十五話 ちょっと休憩
「ふひい~~……、やっと一息付けるなあ」
ザントライユ国領側、ザントライユ山脈の麓にある森の開けたところで俺たちは休息をとっていた。
本当ならこのままもう少し飛んで、ファイエット家と仲のいいニコラース伯爵の領地内で休息をとるつもりだったが、マウリ峡谷での想定以上の戦闘を行ったことと、うまく撃退することができたことを考え、すぐには追ってくることはないだろうという事でここで休憩することになったのだ。
「つーかお前、なんだってそんなん連れてきちゃったんだよ」
ロイクが魔法で作り出した水を飲みながら言っているのは、俺が乗ってきた……っていうか、俺が強奪した飛竜のことだ。
まさかこんなことになるとは俺も思わなかった。
「いいだろう別に? ちゃんと自分で面倒見るからさ」
「子犬を拾ってきた子供か!?」
でもでも、ほら、この目見てよ? クリクリしててさ、子犬みたいじゃん。
顎の下撫でるとグルグルいって嬉しそうにしてるところとかさ?
強奪してすぐだけど、ここまで乗って来て相手している間に愛着がわいてしまったんだよ。
「確かに小型の飛竜は、犬や家猫と似たような性格が多いですけど……きゃあ!?」
クラリスが話していると、突然俺の飛竜がクラリスのお腹に頭を突っ込んでいった。
どうやらクラリスが休憩中に食べていた保存食の干し肉が欲しいらしい。
「あ、ああ! ちょ、ちょっとまって? ね!?」
「おおい!? こら! ちょっと待てえ!? なにを羨ましいことを!?」
「うらやまっ!?」
いかん、突然の行動についびっくりして本音が……。
「おいこらリューマああ!? クラリス様に何してんだテメエ!?」
「俺じゃねえよ!? 飛竜の方だ!」
「アカホ! 貴様が面倒を見るといったところだろう!? 早くどかせ!」
ちょっと待てサラ! 手綱どこ!?
どうどう! どーどー!!
ほら! 食いたいならこっちのやるから!?
…………ひい~、食いしん坊なのかな?。
飛竜を何とかクラリスからどかすと、隣でむしゃむしゃと干し肉を食べ始めた。
でもまあ、人間用なんて飛竜からしたら小っちゃすぎるし、すぐになくなっちゃうんだろうけどね。
「わりいクラリス」
「いえ、ふふふ、お腹がすいていたんですね」
「これで足りるとは思わないけどな。 ゴホン、まあとりあえず、俺一人が乗るなら、荷物もこいつに多めにして乗せてもいいしさ」
ひと段落したところで話を続ける。
この飛竜には標準装備の飛竜用収納バッグがついていた。
学校の飛竜とおんなじ奴だ。 大きさも申し分ない。
「それはありがたいけどな」
「ファイエット領までは、飛竜でならそう長い距離ではないですし……分かりました。 この子のついてはリューマさんにお任せいたします」
「よし!」
テーレーレー、テレレレッテレー! 新しい飛竜が仲間になった!
ニックネーム考えとかなきゃな。
「どうするか決まったー?」
フランが草葉の陰からひょっこりと顔を出してきた。
休憩をとったら、また飛竜にのって飛ぶことになるから、フランにはもう飛竜の準備をしてもらっている。
「おうフラン! 一緒に行くことになったぞ!」
「おー! よかったじゃーん! それじゃあこの子も一緒に準備するね」
「おう、頼むわ」
フランが慣れた手つきで俺の飛竜を連れていく。
小さい頃から一緒ってなだけあって、結構様になってるな。
そうだ、後でフランに飛竜の飼育方法を教えてもらおう。
面倒を見るって言ったんだから、ちゃんとそういうのも知っとかないとな。
「そういやリューマ、ダミアン先生の最初の授業でスライムもらってたよな? あれまだ生きてんの?」
「ああ生きてるぞ、今は水を張ったタライの中で元気に生活してる」
あのスライム、ずっと瓶の中じゃかわいそうだからと寮に何かないかなあと探してたら、メイドさんにいらないタライをもらったんだよ。
その中に水を入れて放し飼い状態にしてる。 でもその中から出ることはほとんどないらしい。
部屋を掃除してくれているメイドさんが言ってた。
「アカホ、ロイク、ペット談義はそこまでにしろ! クラリス様、この後もやつら来ないとは限りません。 この後は予定通り、ニコラース伯爵の領地まで向かいますか?」
サラが話の方向を本来俺たちが話そうとしていたことへと戻していく。
飛竜の話になったことですっかり忘れてた。
ちなみに今ここにいる俺とロイク、サラ、クラリス、そして飛竜の準備をしているフラン以外の3人は、周囲の探索に向かっている。
盗賊とか魔物とかいたら厄介だしな。
「いえ、ここで休息が取れたので、ファイエット領へ直接向かいます」
「飛竜で行くならそう長くないって言ってたよな、大体どれくらいなんだ?」
「そうですね、ここからなら夜には着くと思います」
それでも結構飛ぶな。 クラリス曰く、馬車なら2、3日かかるらしいから、相当早い方らしい。
遅れて夜遅くになっても危険だし、準備ができ次第行くとするか。
「その前に、アカホ」
「ん? ……なんだよ?」
サラが真面目な顔つきで聞いてくるもんだからつい姿勢を正しそうになった。
「マウリ峡谷で会ったあの男、貴様は知り合いなのか?」
「あの人か……」
坂越藤次郎、俺と同じ日本人。
そして、異世界人だ。
「ひょっとしてリューマさんのご家族ですか?」
「いや、残念ながら違うよ。 赤の他人、でも俺がこの世界で出会った初めての同じ世界の人だった。 ちゃんと国も日本だったし。」
事故に遭ってこの世界に来た。
境遇は同じだが、立場は違う。
あの人はカムイの槍に付いた。 敵……、くそ、言いたかないけど、敵になってしまったんだ。
「いきなり出会ったもんだからちょっとパニックみたいになったけど、聞きたいことは聞けたよ。 俺の家族は知らないってさ」
「そう……ですか……、残念でしたね……」
まるで自分のことみたいにクラリスが落ち込んだ。
心配してくれていたとは……。
「ありがとな。 でもそんなに心配しないでくれ、同郷に出会えたんだ、確率だって跳ね上がったってもんだ」
「リューマさん……、本当に、前向きですね」
「人、それを楽観的ともいう」
「分かっているではないか」
サラ、そこ、うっさい。
水差すんじゃないの。
「あ~……ちょっといいか?」
ロイクが気まずそうに手を上げた。
どしたん?
「同じ世界だとか、ニホンとか、いったい何の話だ?」
あ~……、そういうやロイクには言ってないな。 俺のこと。
どうしよう?
……作戦ターイム!
クラリス、サラ、こっちこっち。
「どうする?」
「別にいいだろう、教えて面倒なことになるものでもあるまい」
「サラ! こほん、言い方はともかく、私も知ってもらっていた方がいいと思います。 リューマさんの体のこともありますし」
そう、回復魔法が効かないというはかなりのデメリットだ。
いざという時に対処を間違えれば、またどっかに転生するなんてアホなことになりかねない。
死ぬなんて一回で十分だ。 いや、普通は死にたかないけど。
「おいおいおい、なんだよ俺だけ仲間外れかよ?」
「そうじゃねえよ。 よし分かった、お前には知っていてもらおう」
「なにを?」
「俺のことをだよ」
「ああ?」
というわけで、いろいろ端折って俺のことを話しておいた。
異世界とか加護のこととか、ただし回復魔法が効かないという事だけはしっかり話しておいた。
命に係わる。
「いろいろざっくりしすぎだろう」
「正直説明すんのだるいと思って」
「おいこら大切なこったろう!?」
「回復魔法が効かないってことだけ知ってもらえたら十分じゃね?」
「まあ今ので重要なのはそこだと俺も思う。 その上で言うけど、それで峡谷であんなことしたの? バカじゃねーの!?」
くそう、どいつもこいつも人をバカバカと、しまいに泣くぞこの野郎。
「たとえ命綱があろうと、重傷を受ければ終わりだと分かっているくせに飛竜から飛び出すからだ、愚か者め」
「今回は私も苦言を呈さなければなりません。 敵を突破させてしまったことは申し訳ありません。 しかし、だからといってあのような戦い方……、私、サラからお話を聞いたとき心臓が止まるかと思いました……」
「うう……、ごめんなさい」
こんな戦い方がまずいのは理解している。
しかし、いや、しかしなんて言うのが駄目なんだけど、つい体が動くというか。
無謀なことでもできるって思っちゃうというか。
「しっかし異世界かあ、エイリスみたいだな」
俺の言ったことを反芻しているのか、異世界というのを信じたのかどうかわからん顔で、ロイクが聞きなれない言葉を言った。
誰? もしくは何? みたい、というのにも俺のセンサーが引っかかった。
「ん? エイリス?」
「ああ、この世界に来て聞いたことないのか? 建国時代の昔話に出てくる女神の名前だよ」
「建国神話ですね。 同盟前、十国同盟が成立する前の、さらにそれぞれの国が成り立つ前の話です」
クラリスは昔読んだという本を思い出しながら、俺の建国神話の内容を語ってくれた。
まだここにザントライユなどの国が存在しなかった遥か昔、この世界には大地を埋め尽くすほどの魔物が存在していたらしい。
そして、それらを率いて人間を襲っていた魔物の王が世界を滅ぼす前に、人類の現状を嘆いた女神エイリスが地に降り立ち、自らを信仰し、選ばれた人間に自らの力を分け与えた。
選ばれた人間、神子と呼ばれるようなった人たちは、エイリスと共に魔物の王に立ち向かい、勝利した。
女神エイリスは天に帰り、神子は与えられた力を国の象徴として冠に頂き、人々を束ね、王となった。
どうやらこれらの国々が後の、今あるそれぞれの国へと成長していったらしい。
つまり、今の国の王様たちは、その神話の神子たちの子孫だという事だ。
が、女神の方はというと、人間に肩入れしすぎたせいで神々のルールを破ってしまったので、この世界から追放処分を受けたそうだ。
以来、その女神は異神と呼ばれるようになったと。
「異世界に追放された女神様か……。 死んで放り込まれてない分俺より優しいだろう」
「神という立場と貴様を一緒にするな」
最近サラちゃんとげとげしいよ。
「ちゃん?」
「NO! 待ってその手は止めるんだ」
狙いが! 俺の! 左脇腹に! メーデー! メーデー!
「お~い、こっちはもういいよ! いつでも飛べるからねー」
「ありがとうございますフランさん、おひとりに任せてしまって」
「いいっていいって、私ハヌーと飛ぶしかしてなかったし」
そう言うと、呼ばれたと勘違いしたのかハヌーがひょっこりと顔を出してきた。
どうやらここにいる皆にはなれたようだ。 フランが仲良くしているところ見ていたおかげかもしれない。
「あらあら、なんだかワンちゃん元気そうね」
「それだけ元気なら一緒に見回りにでも来てもらえばよかったわ」
周囲の見回りに行っていたハワードたちも戻ってきたようだ。
「悪かったよ、どうだった?」
「この辺りには襲ってきそうな生き物の痕跡はなかったよ。 魔力波の検知範囲を広げてみたけど、盗賊とかもいなさそうだったし」
ハワードが水を受け取りながら報告を済ませる。
どうやら魔力を待つものが放つ魔力の波動というものを感知する魔法があるらしい。
後で見せてもらったが、それにはみんなの反応があるのに俺だけ映らず、まるで幽霊みたいだと言われた。
はっはっはっ、シャレにならん。
とりあえず見回り組の休憩もすませた後、俺たちはファイエット領まで一気に飛ぶことを話し、再び空へと駆け上がった。
休んだ分体が楽になった。 時間も日が沈みかかる辺りには到着できるだろう。
……と、思っていた矢先だった。
とある一本道を爆走する馬車。 それを追いかける馬に乗った盗賊ども。
しかも、その馬車にはザントライユ王家の家紋が彫られていたんだからさあ大変。
無茶するなとは言われてきたけど、この状況を無視できるほど非情にはなれないな。
さあ、無茶せず助けるにはどうしたらいい?
切りどころによって本文の長さが極端に変わるね。




