第五十一話 進まぬ話、進む展開
「ちょっと待ってくださいよ! どういうことですか!?」
「むぅ……」
何とか言ってくださいよガラハッドさん!?
リノハウル城の騎士団長室を訪れた俺とハワード、フランは、城に入る時にたまたま居合わせたガウェインさんのお陰で、難なくガラハッドさんとの面会を取り付けることに成功した。
そして、俺たちが魔物化の本について考えていたことと、そのためにバルドアを尋問してほしいということを頼みに来たのだが……。
「さっきも言ったように……」
ガラハッドさんから告げられたのは最悪の事実だった。
「バルドアは脱走した」
「脱走って!? あんなに厳重だったじゃないですか!! 護衛だって!!」
「龍真君、落ち着いて」
「う……すみません」
落ち着くようにと諭され、ガウェインさんからコーヒーを受け取って一口頂いた。 温かいコーヒーが喉元を過ぎるのを感じると少しほっとする。
「ガラハッドさん、どうしてそうなったのか教えてくれますか?」
「ああ……」
ガラハッドさんはコーヒーを飲み干すと、決意したように口を開いた。
「脱走したのは数日前のことだ。 正確には奪取されたというべきか。 護送中の部隊が夜襲をうけた。 たった一人で仕掛けてきたようだが、相当腕の立つ魔導士らしくてな。 気づいたときにはバルドアを奪われていたらしい」
「その部隊の人たちは無事だったんですか?」
「ああ、魔導士としての腕は立つようだが、戦闘力に関しては大したことはなかったそうだ。 常に距離を取って撹乱系の魔法を多用してきたらしい。 まんまと惑わされ、その隙に奪われたと報告が来た」
「奪われた……」
脱走、奪取された……。
え? まってよ、じゃあどうすんの? バルドアいなかったら依頼主のこと聞けないじゃん……。
「リュ、リューマ……どうしよう?」
「ど、どうしようったって……」
「まさかいきなり振り出しに戻されるなんて……」
ガラハッドさんたちから伝えられた驚愕の情報は、俺たちの道をあっけなくぶっ壊していった。
詰んだよ、いきなり。
「今騎士団はバルドアの行方について全力で捜査している所だ。 ようやく捕まえて皆が安心しているというのに、いきなり逃げられましたじゃ話にならない。 だから、このことについては絶対に、他言してはならない。 それに加え、魔物のこと、本のこと、それらに関することもだ。 今知れ渡れば、余計な混乱を作り出すことは想像に難くない。 それは魔物を呼び出した奴にとってどう働くかわからないからだ」
「はい」
「騎士団の方でも、なんとか手を回してバルドアの依頼主のことを探ってみる」
「お願いします」
ここまで話して、ガラハッドさんは一息つきながら椅子の背もたれに体を預ける。
緊張した雰囲気が霧散したように感じた。 隣でフランがほっと息をこぼしていた。
「龍真君、このことを話したのは、君たちが知らぬうちに事件の中にいて、その中心に向かって突っ込もうとしているからだ」
心当たりに胸が痛むような、ないような……。
「いつの間にか事件のど真ん中で立ちまわっているもんだから、どうしようかと考えたが、止めても無駄だろうということはさておき、無茶はしてくれるな? 見張りを付けておくわけにもいかんのだから」
「善処します!」
「それはしないやつのセリフだ」
いやいやいや、そんなことないですって。 ……多分。
「…………むぅ」
「そ、そんな睨まなくても」
「まだ何か隠してそうな顔だ」
え? 見える?
そんなバカな。
「何言ってんすかそんなわけないでしょう」
「まだ何かやるつもりでいるのか?」
その視線はハワードにもいく。
まだ言ってないことはある。 でも、このことは言うべきだろうか……。
「どうする?」
「う……ん……」
これはハワード自身のことでもあるから、まずはハワードに判断を仰いだ。 俺としてはガラハッドさんたちには絶大な信頼を置いているつもりだから、言っておいても損はないと思う。
立場というのもあるが、基本的に誠実な人だ。 ところどころ抜けてるのではと思うところもあるが、頼れる人であることは間違いない。
ハワードが決意して俺を見て頷く。
決めたようだ。
「ガラハッド団長、もう一つお話があります」
「聞こう」
「単刀直入に、僕は魔物化ができます」
「…………え?」
ガラハッドさんとガウェインさん、さらにフランの声がきれいに重なった。
そういえばフランには見せてなかったっけ。
「え? え!? どういうことハワード!?」
「ま、まてダリルソン君、それはいったいどういうことだ……いや分かる気もするが、いやいややっぱりわからん」
「落ち着けガラハッド、フラン君。 ハワード君、それは、そのままの意味で受け取ってもいいのかな?」
「はい。 ただし、瘴気によって変異するのではなく……」
「本の魔法かっ……!?」
頭の上に?を浮かびああらせていたガラハッドさんも、ハワードの言わんとしていることを察っしたようだ。
「父の本を学校で見つけた後、僕はその本を調べていました。 すると……この手紙が」
「これは……」
ハワードがあの手紙をガラハッドさんに渡し、ガウェインさんも一緒にその内容を確認する。
その手紙を読むうちに二人の表情が深刻なものへと変わっていく。
「11月……29……」
「日付はあの日か……。 しかし、ハワード君の体にその魔法を施したというのは……」
「これがその魔法です」
ハワードはそう言うと右の袖をまくり上げ、右腕を変異させた。
前に見たのと同じ、獣人のような腕だ。
「うわお……ハワードもっふもふ」
「銀の毛並み、五指に犬類の爪……ワーウルフか……」
「ワーウルフ?」
聞いたことのない名前だ。 確かハワードの魔物化は魔物の遺伝子を利用して変化できると書いてたから、この腕の持ち主……ての変か、元になった魔物だろうか。
「ザントライユよりさらに北の地域に生息する魔物だ。 毛深い銀の体毛と長い四足を持ち、二足歩行で活動するオオカミ型の魔物だ。 前足が太く、指も長くて五本あることから、別名人狼とも言われている。 この手紙の内容が正しければ、その腕は、ワーウルフから採取されたものが使用されているんだろう」
「ザントライユ……じゃあアンリがちょくちょく行ってたってのは……」
「ワーウルフの検体を用意するため?」
それにしては何か決定力が弱い気もする。 もしそうなら、たった1、2週間で戻ってくるのは不可能だとハワードはいう。
二人で思案する中、ガラハッドさんが口を開く。
「最後のザントライユというのも気になるな」
「父はよくザントライユへ出ていました。 おそらく検体の確保以外にも何かあるはずです。 なので、僕たちはこれを調べるためにザントライユへ行きたいのですが……」
「学校って長期休暇とかないんすか? 丸ひと月ぐらい、夏休み的なものとか」
行きだけでもかなりの日数がかかる。 なんせ王都とザントライユの間には巨大な山脈が横たわっているからだ。
これを抜けるにはまっすぐ直進ではなく、渓谷の隙間を縫うように右へ左へ曲がりくねった道を進むのだ。 往復と調査だけでも1週間程度では話にならない。
「あるにはあるが、まだ何ヶ月も先の話だ。 それに行けたとしても、こちらとしては容認できんぞ」
「そりゃあそうでしょうけど……」
「本を利用されて、実際に被害が出ているのだから焦る気持ちは分かる。 こちらも、今までの情報をもとにもう一度調査隊の再編を行い、調査するつもりでいる」
「我々としてもこの件、優先順位を跳ね上げて進めなければならない事態だと、重く受け止めている」
ガウェインさんの言葉に、ガラハッドさんも深く頷いた。
どうやら騎士団も、本の所有者についての調査に本腰を入れるつもりのようだ。 それならそれで別の安心感はある。
「本の1冊目から、今ハワードが持っている2冊目を手に入れるために、そいつはバルドアを使わせた。 しかも、失敗するや否や、今度は魔物を呼び出してきた。 王都の民を生贄にして……」
「何としても、私たちはそいつを捕らえなければならない。 しかし、今何の手掛かりもない以上はいかんともしがたい。 後手にいるのは確かだ。 とりあえず、君たちは今まで通りの生活を送ってほしい。 君たちが言う二冊目の所有者の目的が分からない以上、下手に動くわけにはいかない」
ガラハッドさんは窓から見える王都を見下ろした。 晴れているからか、オレンジの夕日に彩られたその町並みはどこか芸術的だった。
ガラハッドさんは王都の出身らしいし、この町で暴れられたことを怒っているのかもしれない。 その表情には、知れない敵に対する歯がゆさや、怒りも見て取れた。
「君たちが本を持っている以上、別の所有者の行動によっては、その矛先はいずれ君たちに向くはずだ。 魔物化を実際に使って暴れさせるような奴だ、強引な手段はとらないとは言い切れん」
「そうですよね……」
今俺たちが下手に動くのは危ない……。 分かってはいるのだが、こうもあの手この手がつぶされていくとどうもやりきれん。
「とにかく、いつも通りだ。 今王都内は、先の魔物出現に対して次があることに備え、厳戒態勢を敷いている。 君たちが下手に人目のないところへ行きさえしなければ、相手も手を出してくることはないだろうが……気を付けておいてくれよ」
「はい」
いつの間にかコーヒーを入れてくれていたガウェインさんが横から差し出してくれる。
取り合えず受け取って一口飲んだ。 おいしい。
「バルドアの件から、魔物の出現、いろいろ面倒なことが立て続けだが、君たちがすでに他人事ではなくなっているというのは理解しているはずだ。 本当ならその本も、こちらで預かっておきたいものだが……」
深刻な表情を浮かべながらハワードを見やるガウェインさんの言いたいことは分かる。 騎士団という鉄壁の金庫内なら、奪われることはないだろうが……。
「それは待ってくれませんか? 父がなぜこの本を残したのか、この本の魔法で何をしようとしていたのか、僕たちはそれを調べています。 確かに預けることができれば、奪われることはないでしょう。 でも、今この本を手放すわけにはいかないんです、お願いします」
「ふぅむ……」
頭を下げて頼み込むハワードに、顔を見合わせる大人二人は仕方ないというように頷いた。
「分かった。 本に関しては君たちに任せる。 正直こちらは魔物のことで手いっぱいだ。 今まで平和の象徴だった結界にほころびができたのではないかと、上貴会の連中は慌てふためいている。 バルドアよりもそっちのことに人を回されるだろうからな」
その言葉にほっと安堵する俺たちは、入れてもらったコーヒーをじっくりと味わった。 あ~落ち着く、なんでもアスリオン国領の名産品らしく……結構お高いらしい。
フランがどうしようとちょっと青ざめた感じで俺を見た。 もらった後グイッと気軽に飲んでたよな。 味の違いの分かる男になりたい。
そのあとは、日が沈む前には寮へ戻ることを約束し、その場を後にした。 ガラハッドさんら二人も、この後また別の会議があるらしく忙しいからだ。 合間を縫って話をしてくれたことに感謝だな。
さて、日が暮れるのが遅くなりつつあるこの時期、しかしもう空は綺麗な夕焼けだ。 もう帰ろう。
城から学校まで戻る道は建物と城の外壁で挟まれている。 どっちも背が高いから、日が沈み始めるとここら辺はすぐに暗くなる。
「なんか街に出て美味しいもの食べたい気分じゃなくなるよね、気分が沈むときはご飯なんだけどなぁ」
「気持ちはすっげぇ分かる。 うまいもん食うと上がるよな」
「でしょー」
だけど、今は街に降りる気がしない。 また現れるうんぬんより、これからどうするか、振出しに戻ってきた問題をどうするか考えなければならない。
バルドアは逃げ、ザントライユに行く余裕もなく、街には今もまだ魔物化の危険が残っている。
何も進まなかった。 ただデカい壁が通せんぼうしているその手前で右往左往しているだけだ。 むず痒い。
「ねえリューマ」
「ん?」
「あれなんだろう」
「なに?」
フランが目を抜ける先には、白い外套に白いフードを被った人がたくさん集まっていた。 なんだありゃ? コスプレじゃねえよな?
顔を寄せ合って何を話しているでもなし、その中心に何かあるでもなし、見るからに怪しい。
「何かの宗教?」
「イシュベルか?」
「いや、あんな格好は見たことないけど……」
ハワードも知らなかったらもうお手上げだ。
まああれが何であれ塞いでるんならしゃーない、触らぬ神に祟りなしだ。 ここは迂回しよう。
その連中が道を塞いでいるので、迂回しようと道を外れた時、男性の叫び声が聞こえた。
「ど、泥棒!!」
「ああっ!?」
それは曲がった道の先で聞こえてきた。
人が行きかうその通りからこっちの道に入ってきた男が逃げるように走ってくる。 その後ろからさらに別の男性が追いかけて来た。
「どけっ!!」
「のわっ!!」
あの野郎!! わざわざ俺らに突っ込むことないだろうが!!
「はあ、はあ、き、君たち!! あ、あいつを捕まえてくれ!! 泥棒なんだ!! も、もう走れない……」
「ええ!?」
「おいマジかよ!!」
そう言われた俺は一も二もなく走り出した。 世界が変わってもやらかす奴はやらかすのかよ。 それはもう今更か。
バルドアと比べりゃあかわいいもんだ。
「まてやてめえ!!」
「ええ!? リューマ!?
「お前らはそのおっちゃんといろ!!」
泥棒なんてせこいまねしやがって!! 騎士学校で鍛えた脚力なめんなよ!! 毎日の実技は長距離ランニングから始まるんだバカ野郎!!
細い道を右へ左へ曲がりながら俺を撒こうとする泥棒を全力で追いかける。 泥棒との差は徐々に狭まっていった。
「観念しやがれ!!」
数メートル先を走る泥棒が左へ曲がった。 俺もすぐさまその角を曲がる。
「待てやてめえ……ええ……、あれ?」
いない。 ……泥棒が。
いやほんとにいない。 追いかけていたはずの泥棒がいない!!
んなバカな!? あの角を曲がってから二秒も三秒もかかってないはずだぞ!?
目の前の道をまっすぐ進むと開けた場所に出る。 見失ってからここまでに、ほかに曲がる道はなかった。 入り込めるような窓とかもなかった!?
「どうなってんだ……?」
角からここまで大体十メートルを超える程度。 まさか秒速十数メートルで走り出したとかそんなんじゃないよな?
周りを見渡しても人っ子一人いない。
くっそおお! 逃げられるなんて!! はぁ、あの人に謝んねえとな……。
そうして地団駄を踏んでいたらゾロゾロと足音が聞こえた。 周りを見ると、いつの間にか白い奴らに囲まれていた。
「え? え、なに?」
白い外套に白いフードを目深にかぶり、そんな数十人もの連中が俺を取り囲んでいた。
こいつら……泥棒を追いかける前に、道のど真ん中でたむろってたコスプレ集団じゃねえか。
そしてその怪しい集団中から一人が前に出てきた。
「アカホ・リューマですね」
「いや、違いますけど」
どう考えても見るからに怪しい奴らを相手に、はいそうですなんて言えるか馬鹿。
「あなたをお呼びしています。 ご同行を」
スルーですか。
「嫌に決まってるだろう。 誰だよあんたら」
「来ないと?」
「なんで俺の名前知ってんの?」
「そうであれば」
「呼んでるって誰が?」
「こちらは強硬な手を使わざるを得ません」
「聞けよ」
総スルーか!! 誰が呼んでるのかくらい答えろよ!?
なんか気分悪い連中だな。 まあそもそも知らん人についていくほど、お子ちゃまじゃあないっての。
こっちに行く意思はないってのが伝わったのか、前に出た人物、まあリーダー格だろうか、そいつが後ろの一人に合図を送った。
そして、その人が歩いてくると同時に背中に携えていた長い棒状のもを構える。
「おいおい、槍って……」
あいつら、背中になんか長いのくっ付けてるなと思ったら、二股に分かれた槍って。 なに、月に向かって投げんの?
体格からして男だな、その槍を持った男は投擲モーションをとるなんてことは一切なく振りかぶられる。 だよね。
「ふんっ!!」
「てめえっ!!」
あっぶねえ!? この野郎!! 容赦なく頭に振り下ろしてきやがった!!
すんでのところでかわした槍が風切り音をたてながら顔の近くを振りぬかれていく。 手加減とかある音じゃなかったぞ今のっ!?
「どういうつもりだよ!?」
「言ったはずです。 来ないのならば強硬な手段も辞さないと」
「だからぶちのめしてでも連れてこうって? 冗談じゃない」
今度は薙ぎ払ってくる攻撃を飛び越えるようにかわし、同時に相手の横っ面に踵をぶち込んだ。
図体は俺よりもでかいが、どうも素人っぽさを感じる。 学校で訓練している俺たちよりもだ。
戦い慣れはしていない?
その男は一撃でノックダウンしていた。
「こっちの質問には答えてくんないの?」
「あくまで抵抗するというのですね」
「名乗らねえは訳も言わねえは、挙句の果てには殴りかかるは……。 それで喜んでついてくるやつがいると思うか?」
今度はリーダーの男が槍を持って近づいてくる。 やるつもりかよ……。
ファイティングポーズをとった瞬間、そいつはすぐさま槍を突き出してきた。 連れていくつもりなんだよな? 殺意しか感じないんだけど!?
突き出されてきた穂先に掌底を打ってかわし、踏み込んでジャブとフックのコンビネーションを叩き込む。
素手で殴ったからすっげえ痛い。 でも、もろに入ったからか、そのリーダーも地面に倒れ伏した。
「ぐ……が……」
「痛ってぇ……なんなんだよお前ら」
正直早く立ち去るべきだ。 こいつらの方は、一応、交渉する気でいたみたいだから大人しいものの、この数で人海戦術されたら手も足も出ねえ。
振り返って元来た道を戻ろうとしたが、しかしすでにその道は別の人物に塞がれていた。
「それは私の方からお答えいたしましょう」
「また誰だよ……」
「どうも初めまして。 私はランヴァルド・マルムフォーシュと申します。 この度は我らが主のお招きに応じられます事を、どうか、お願い申し上げます」
問答無用で殴りかかってきたコスプレ集団とは違い、この男はしっかりと自己紹介を交えて丁寧な仕草で話していた。 しかし、きっちり90度に腰を曲げて深くお辞儀をするこの男、ランヴァルドの背中には、やはり二股の槍が携えられていた。
「行くかどうかは主の素性次第だな。 まずは質問に答えてくんない? あんたら誰?」
「神威の槍」
言い終わるのが速いかどうかってくらいに食い気味に来た。
カムイの槍?
「私たちはそう、命名しております」
「聞いたことないな」
「それは当然でございましょう。 なにぶん地下組織故、表に出ることはありません。 知られていてはむしろ、失態」
開いているのかどうかわからない目が、俺の顔を見つめているのが分かった。
何て言うか、第一印象で狐みたいな面だと思った。
「主ってことは、カムイの槍ってやつのリーダー?」
「はい」
「何もんだよそいつは」
「申し訳ございません、それにつきましてはなにとぞご容赦を……。 私たちを束ねておられることが公になれば事ですので」
つまりこいつらは、ばれたら事になるような連中というわけだ。
「はぁ、それで、主はいったい俺に一体何の用だよ」
「その事につきましても、この場で申し上げることは憚られます。 先ほども申し上げました通り、私たちは地下組織故、この場にて情報を出すような真似はとてもとても……」
「知りたきゃ来いと……」
「はい」
もう一度深くお辞儀をするランヴァルド。
どうする? こいつについていくのか? 正直、今危ない橋の上に立っている気分だ。
「私共を信じられないのも無理からぬこと、攻撃を受けたとあっては尚……。 しかし、こちらも手をこまねくことはできませんので……」
そういいながらランヴァルドが後ろ、俺が出てきた裏路地へと視線を向ける。
日が落ち始め、建物に挟まれたその狭い道はすでに暗みが覆っている。 その暗闇から出てきたのは……。
「ハワード、フラン……」
「どうか、切に、お願い申し上げます。 アカホ・リューマさん」
カムイの槍の手下どもに捕まったハワードとフランだった。
二人とも目立ったような傷はなかった。 ただ、ハワードだけはぐったりとしていて、手下に抱きかかえられていた。
それを見た瞬間、心の中に湧き上がる何かを感じる。 多分怒りだ。 けど俺は、爪が着こむほどこぶしを握り締めて耐えた。
落ち着けよ……フランもいるんだぞ、俺。
「リューマ……」
フランが涙目になって俺を呼んだ。
「ランヴァルド……」
「ご安心くださいませ。 ハワードさんには抵抗されましたので、少しばかりお眠りに……、命に別状はございません」
人質……。 是が非でも連れていく。 そう言ってるんだ。
くそ……俺のせいじゃねえか。 気を付けろって言われてこれとか……笑い話にもなんねえ。
「悪いフラン、俺のせいだ」
「……っ!!」
髪が乱れるほど目いっぱい頭を横に振るフランに、ごめんと謝った。
俺が目的だからあんなとこにいたのか。 じゃあ……。
「あの泥棒はあんたらの差し金か?」
「はい、リューマさんも騎士学校に通われているとか……。 正義感に訴えるやり方はいささか姑息かと思ったのですが、これ幸いに」
俺が間抜けだったばかりに、まんまと引っかかったわけだ。
OK、分かった。
「これ以上二人に手え出すなよ?」
「神の御意志と魔を穿つ槍に誓って」
「会ってやる、連れてけよ」
ありがとうございますと、また深くお辞儀をしたランヴァルドは静かに近づいてきた。
それをよそに俺はフランに視線を向ける。 心配すんなと言うように、俺はぎこちなく口角を上げた。
なるようになれだ。
「それでは、ご案内申し上げます……。 スタンショック」
次の瞬間、体中を電撃が走った。 全身が硬直し、視界がゆがむ。
「申し訳ありませんが、主の居場所については極秘ですので……」
「リューマむぐぅうう!!! むぅううううっ、んぐううううううううっ!?」
やろう……覚えてろよ……。
遠のいていく意識の中、フランが泣き叫ぶ声だけが聞こえていた……。
サブタイは自虐とかじゃあない




