第四十七.5話 奇妙なすれ違い
店の中を見渡し、不審な人はいないか、崩れている棚はないか。
見栄えを気にしつつ店内の様子をうかがう。
アスリオンで服飾関係を中心に商いを行うアンヘリカ商会に就職し、それから十年。 ついこの間新しい技術が生み出され、それを基礎に新しい服が作られていく様は、私にとって大きな衝撃を与えた。
商会に入ってからようやく私の努力は実り、その新しい服を専門に扱う店の店員に選ばれ、そしてつい二ヶ月ほど前から、この王都での第二号店の店長を任されることとなった。
私の店を持つ、形は違えどそのことに違いはない。 私は夢をかなえたのだ。 オーナーには感謝してもしきれない。
「初々しいわねえ」
が、ついぞこの私も、叶えることができなかったことがある。
それは……。
「うわぁ、見てくださいよ店長、あの子あんなに慌てちゃって」
「付き合って間もない感じですよね」
今お店には一組のカップルが来ていた。 清楚な雰囲気を持つお嬢様に、騎士学校に通ってそうな体つきの少年、まさに騎士とお姫様……はぁ、羨ましい。
男の子にどちらが似合うか選んでもらった後、女の子が嬉しそうな顔でちょっと離れると、その女の子のそばに別の女の子が近づいてくる。 何やら耳打ちすると、お嬢様な方が真剣に頷いたり、顔を赤くして驚いたり、ころころと表情を変えていく。 そして意を決したように男の子の方へと向かっていった。
恋の手ほどきでも受けてたのかな?
「いいなあ……」
「店長また言ってるよ」
「そろそろ諦めなよ、その年じゃもう行きおくぃぃいいぃぃっ!?」
「なんですって?」
「なんでもないですぅぅぅぅ!!」
余計なことを口走る子にお仕置きしつつ私はカップルを眺め続けた。 別に羨ましいとかではなく、いざというときは何かアドバイスしてあげようとか、そういう親切心で見ているだけですから。
そんな邪念の一切ない純粋な気持ちで眺めていると、男の子の方が顔を真っ赤にして外に飛び出していった。 女の子の下着を選ぶのはまだ早かったかな?
いつの間にか耳打ちしていた方の女の子もいなくなり、お嬢様な方の女の子もお会計を終わらせると急いで外に出ていった。
さて、今のうちに片づけられるものを片づけますか。
「て~んちょ~」
「な~に~」
意気込んだところで疲れたような間延びした声が私を呼んできた。 振り返ると、その子は小柄な身長とは言え、自分の背丈より大きい看板を抱えて奥から歩いてきた。
「前言われてた看板の作り直し、終わりましたよー」
「あら、ありがとう。 それじゃあさっそく取り付けましょうか」
その看板は、もともと服と下着売り場の境目に置かれていたものだけど、急遽オーナーから作り直すよう指示されたのでお店の裏に移動させていたものだ。
実はこの看板だけではなく、様々な案内表記を作り替えるよう指示されている。 文字の下に変な記号を付け加えるよう、事細かな指示書まであった。
「ふへ~、つかれた~」
「ほらあともう少しよ、がんばって」
「店長も運んで~」
私とその子の二人でもともと置いてあった場所まで移動させて一息つく。 意外と重いのよねこれ……。
「店長、これなんて書いてあるんですか? しゅっとなってたり、ぐにって曲がってたり、へんな形してますけど」
私もこれを見たときはなにこれって思ってたけど、オーナーが必ずやるようにと直接言いに来るほど気にしていたので、私はこれが何か聞いてみたのだ。
曰く、なにかの言葉を表しているらしい。
確か……。
「確か、……『Lingerie』 だったかしら?」




