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第四十二話 不機嫌と模擬戦

「今日やけにみんな沈んでるね」

「なにが?」

「顔」


 ストレッチをしながらフランが感じた違和感の原因を探るために、今自分がいる実技場を見渡した。

 ……うん、確かに暗い顔してるのが多いな。


「ほら、今日は合同の日だから」

「あ~……」


 ハワードの台詞に、いつも元気なフランからちょっと嫌そうな気配がにじみ出ていた。

 この合同ってのはクラス合同実技のことで、月に何回か行われる授業だ。

 基本的に普通クラスと貴族棟のクラスとで一緒に行うのが通例なのだが、平民出の通常クラスの連中からしたらげんなりするような日だった。

 周りにいる同じクラスの奴らは、みんな気が重そうな顔をしてやがる。


「はぁ……」

「そう言えば今日はこの日だったな……」


 溜息を吐くやつがマシマシになっている。

 そりゃそうだろう、なんせ一緒にする相手が貴族だからヘタをすると、目をつけられてめんどくさい事になることは分かりきってる。

 実際、それで貴族に絡まれている奴を何回か見た。

 勿論、貴族全員がそうじゃないってのは十分理解している。 クラリスがいい例だ。

 でもなぁ、授業中こっちをみて嫌味ったらしくクスクスしてたり、影口が飛んできたり、フランじゃなくても嫌にもならーな。


「今日はどことだ?」

「たしか、第一クラスだったはずだよ」

「第一ってぇと……」

「クラリスちゃんのいるクラスだよ!」


 フランがハワードから相手のクラスのことを聞いて、ぱあっとその顔を明るくした。

 それと同時に俺たちの会話が聞こえていたクラスメイトたちも、その顔色が一気によくなりやる気が満ち溢れてきていた。


「クラリス様と!? 一緒!?」

「やった!! やる気が溢れるってもんだ!!」


 現金な奴らめ。

 まあ、俺も気が楽になるってもんだ。 しかしほんと人気だなクラリスは。


「ところで龍真」

「ん?」


 周りのハイテンションに苦笑いしていると、ハワードが俺の腕を気にしながら聞いてきた。


「腕はもう大丈夫なの?」

「腕? ああもう大丈夫だ。 ほれ、この通り」


 腕を曲げたり伸ばしたり、手を握ったり開いたりを繰り返してハワードにアピールしてみる。

 あれから一週間、すでに腕の痣は薄くなり、痛みも完全に引いて以前と変わりない動きができるようになった。

 腕を強くつかんだりするとまだ違和感が出たりするが、気にするほどじゃない。

 大体9割以上回復したとみていいだろう。 もちろんユーロンさんのお墨付きだ。


「さすがリューマ、丈夫さだけが取り柄」

「だけ言うなや、ほかにもあるだろう」

「よっ、不良騎士!」

「なんだとこのやろう」

「ああ龍真ストップストップ」


 誰ともなく断じて不良ではないという事だけは言っておく。 ないはず……。

 そして和気藹々とフランにヘッドロックをお見舞いしていると、第一クラスの連中が実技場に入ってきた。

 それによりこっちのクラスからの歓声が大きくなった。

 入ってきた第一クラスの先頭を歩くのがクラリスだからだ。


「お、来たか。 つってもまだ開始は先なんだけどな」


 確か、あと十分ちょっとあったはずだ。

 本当ならまだもうちょい後に入ればよかったんだが、何故こんなにも早く来ているかと言うと、ちょっとでも遅れると先方にねちねちと言われるからだ。

 だから、みんな飯を食ったらすぐに荷物を持って実技場の更衣室に向かうのだ。

 しかし今回はそれが功を奏した形になったらしく、クラリスと同じ場所に居られるとこっちのクラスの士気はうなぎ上りだ。


 そんな生徒たちの士気を高めてくれているクラリスが、キョロキョロと実技場内に視線を廻らす。

 何かを探しているのだろうか? と思った矢先、こっちを見たクラリスがその探し物を見つけたようにぱあっと表情が明るくなる。

 そしてそのままこっちに近づいてきた。


「今日はリューマさんのクラスとの合同なのですね、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 俺たちはクラリスと、いつもの二人のリゼットとサラと、軽くあいさつを交わす、が……。


「…………」

「うふふふ……、よろしくねーわんちゃーん」


 リゼットが何やら口元を隠しながらへんな笑い声をこぼしている。 その目から察するにその口元はニヤけてるんだろうな。 何かいい事でもあったんだろうか。

 まあ、こっちはいい、いいとしてサラの方だ。

 こっちを睨んだまま無言を貫いていた。

 なんかこう……敵意と言うか、殺気みたいなものを感じずにはいられない視線だ。


「さ、サラ? どうした?」

「…………何でもない」


 絶対嘘だ!? 何でもないでそんな殺気を飛ばすなよ!?

 俺がサラにどうしたのか聞いていると、リゼットがうふうふ言いながら間に入ってきた。


「うふふ、サラちゃんの事はー、きにしなくていいのよー。 大丈夫だからー、うふふふ」


 正直何が大丈夫かさっぱりわからんし、リゼットもうふうふいってるしで、こいつも大丈夫なのかいささか心配なんだが……。


「お気になさらないでくださいなー、うふ」

「お、おう」


 そんな不思議なやり取りの横をフランが通ってクラリスに飛びついた。

 あの事件以来、フランとクラリスの仲はさらによくなったらしく。


「クラリスちゃん、今日はよろしくね! 一緒の合同でよかったよー!」

「はい、私もですフランさん」


 フランがご機嫌にクラリスの胸元に頬ずりする。 クラリスも妹のようにフランの頭を撫でて、にこやかな雰囲気だ。

 ふむ、眼福。


「他と合同の時は、いつもより周りの空気が……その、悪くなってしまって」

「そうですね、ちょっとピリピリしますよね」


 ハワードは頷いて周りを見た。

 どうやらクラリスの所も例外ではないらしい。 でも他の所に比べればいい方だろうけど。


「今日は、言葉は悪いですが、皆さんとご一緒で来てよかったです」

「ああ、俺もクラリスと一緒でよかったよ」


 このクラスの連中はさっきからちらちらとクラリスの事を気にしている。

 多分このクラスもクラリスのファンクラブ(仮)と見て間違いないだろう。 なら、少なくともクラリスがいるこの場で下手な事はしてこないはずだ。


 見てないところは……もう好きにしてくれ。


「…………えへ」

「ん?」


 なんか一瞬だらしない声が聞こえたような気が……?

 実技上に散っている生徒たちを見渡していると、そんな小さな声が聞こえた。


「ん?」


 振り返ると、クラリスが目にも止まらぬ速さであさっての方向へと振り向いた。

 首が心配になる速さだ。 大丈夫か? てかどうした?


「クラリス? どうしたんだ?」

「いえ、何でもありません」

「でも、さっき変な声が……」

「気のせいです」

「でも」

「気のせいです」


 以降まったく同じ禅問答が繰り返されたので聞くのはやめることにした。

 気のせいだしな。 そうしとこう。


 そんな感じの俺たちの隣でさっきからうふうふしているリゼットにハワードが話しかけた。


「リゼットさん、何だか笑いそうなのを堪えているように見えるけど、何かあったの?」


 それについては俺も気になっていたが、なんか危ない人に見えなくもないから、聞くのはやめておいたのだ。


「いえ、たいしたことではないのですが……その、こういうのは大好きでして」

「こういうの?」


 ハワードが何が好きなのか尋ねると、リゼットはニヤニヤした目で俺たちを見た。

 するとハワードは何か察しがついたのか、そういう事かと頷いていた。


「あー……そういうことか、え、でも、ほんとに?」

「間違いありません、だってご本人がいってたんですものー、うふ」


 にやにや。

 俺、何か言った? いや、余計な事言ってそうな気はたくさんするけど、どれが本命か分からない。

 それ以前にリゼットが何のことを言っているのか分からねえ。


「言わないほうがよさそうだね」

「ええ、将来の為にご協力くださいなー」


 おい何だよ二人して内緒話かよ、教えてくれたっていいじゃないか。 そこまでうふうふされるとかえって気になるってもんだ。


「いえいえ、そこは……ちゃんとご本人が言うべきだと思うのでー」


 リゼットの視線が露骨にクラリスに向かう。 クラリスの方を見ると視線が合った。


「え、えーっと……」

「なあリゼットは何の事言ってんだ?」


 クラリスは暫くアタフタとしていたが、次の瞬間 ボッ! と火がついたかのように赤くなった。

 白くきめ細かな肌が耳まで真っ赤だ。 


「を!? お、おいクラリス!? 大丈夫か!?」

「だ、だい、大丈夫でひゅ!」


 ひゅ!?

 ろれつ回ってねえじゃん!?

 おいコラリゼット!? 腹抑えて爆笑してないで何とかしろ!?


「いえ、本当に、大丈夫ですから!」

「いやでもお前、顔がボンッと真っ赤になったぞ」

「ひゃっ!?」


 まさか熱でも出たのかと、赤い顔をするクラリスの額に手を伸ばして触れてみる。

 自分の額と温度を比べても……う~ん、やっぱよくわかんね。 高いと言う訳ではなさそうだ。 ここに来てからまだウォーミングアップだってしてないし。


「あら、あらあら……」

「リゼットさん?」

「失礼しますね、ちょっと、鼻血が……」

「え゛!?」


 なあ、やっぱりユーロンさん呼んだ方が良いんじゃないかな? こっちもそうだがあっちのほうも心配なんだよ……。


「うおっほん!」

「うおっ!?」


 鼻を押さえるリゼットの方を気にしていると、後ろからわざとらしい咳ばらいが聞こえてきた。

 そして俺はまだクラリスの額に手をやっていたことに気付き、すぐに引っ込めた。

 熱を測るだけなのにここまでべったりする必要は無いんだ、これではただの変態と違わないのでは!?


「わ、わりいクラリス! 気付かなくって」

「い、いえ……」


 クラリスはそれだけ言うと俯いてしまった……。

 ああ、やばい、不快にさせたか? いきなりベタッと行っちまったらそりゃあこうなるだろうに!


「ほ、ほんとにすまん」

「大丈夫ですから、その……ちょっと、ぅ…………うれ」

「うおっほん!!」


 何かを言いよどんでいたクラリスがその何かを言おうとしたとき、またわざとらしい咳ばらいが聞こえた。 おいなんだよさっきからこれは!?

 そんな俺にフランが見かねたように言ってきた。


「ねえリューマ」

「なんだよ」

「そろそろ後ろ」

「後ろ?」


 そろそろって?

 フランが指をさす方向を振り返ると、ジャージ姿のくせに妙に佇まいのいい青年が、多分取り巻きだろうな、そんなのを一人連れて立っていた。 なに? 貴族ってお仲間連れてるのがデフォ? 

 この顔は俺らのクラスで見たことが無いから、多分クラリスのクラスの生徒だな。


「え? ああ、さっきのはアンタらか、すまんいろいろあってすっぽ抜けてた。 なんか用か?」


 ていうか誰だ?

 貴族の青年は金髪で爽やかそうな顔をしている。 スーツでも着せて夜の街に立たせてみたらホストと間違われるかもしれない。 そんな印象だ。


「談笑中に失礼するよ。 私はオディロン・ランドロー子爵の長子、レジス・オレリー・ランドローだ。 君がアカホ・リューマ君だね?」

「そう……ですけど」


 チャラそうな顔してその実、落ち着いた喋りでお辞儀も欠かさぬ礼儀正しさ。 連れて頭を下げてしまった。 

 しかし、俺を頭の先から爪先までじっくり見てくるのは何なんだよ。


「ふむ……」

「何?」

「失礼、狂犬と呼ばれているからどんな人物かと思ったが、至って普通でよかった」

「そこは安心してほしいな、躾はしっかりするタイプだ」

「はは、どうやらそのようだ」


 苦笑しながら、未だに俺を品定めするように見るレジス。

 おい、今後ろで嘘だっていったやつ覚えてろ? な、フラン。 


「用の事なんだが……君は、メリッサ譲との決闘に勝ち、あのマティアス氏にも勝利したと噂に聞くが、本当かい?」

「あ、ああ……あんまりその話は好きじゃないんだ」

「そうか……しかし、嘘か真かだけでも、教えてほしいのだが……」

「う~ん……まあ、半分ホントだ」


 俺一人で勝った訳じゃない、それだけは忘れちゃだめだ。


「そうか、なら本題だが……リューマ君、私と手合せをしてほしい」

「はあ?」

「ファイエットやマンディアルグが一目置くその実力、私はぜひその相手を務めたい。 如何かな?」


 手合せって事は俺と一戦やれと?

 正直いやだよ。 これから授業だぜ?


「わりいが無理だ、これから授業だってある」

「先生が来られるまで時間はあるし、時間が押したとしても責任は私が取る。 頼んでいるのは私なのだから」

「でもな……」


 他人とやり合うなんざ、今は授業と実戦だけで十分だ。 ここは何としてもお引き取り願おう。

 と、何とか断る算段をつけていたところで、今まで黙りこくっていたヤツが口を開いた。


「アカホ」


 サラだ。

 殺気を飛ばして俺の背中をチクチクしていたサラが、真剣な顔で近づいてきた。


「アカホ、その申し出、受けろ」

「おい、お前まで何言ってんだよ?」

「いいから、受けろ」

「お、おい……」


 有無を言わさぬ受けろの一点張り。 何なんだよ口を開いたかと思えば急に……。

 様子のおかしいサラに、クラリスも心配そうにしている。


「サラ? どうしたのです?」

「申し訳ありませんクラリス様。 しかし、どうか今は……」

「サラ……?」

「ねえ、どうするのリューマ?」


 何やら物々しい雰囲気になってきたことに不安げにフランが袖をひっぱてくる。

 迷子の子供みたいな顔するなよお前。

 しゃーない、これはなんか断りづらそうだ。

 俺はフランの頭をワシャワシャと撫でて、レジスに向き直った。


「分かったよ、受けるよ」

「ありがとう、リューマ君」

「ただし一回だけ、先生が来たらそこで終わり、それが条件だ」

「分かった」


 勝負の取り決めをして、レジスはすぐに実技上の真ん中へと歩いていく。

 ああ……どうしよう。


「龍真、よかったの受けて?」


 隣に来たハワードが心配して覗き込んでくる。 

 こっちよりあっちは良いのかよ。


「リゼットさんの方は……何とか止まった」

「そりゃよかった、こっちは……なんか断れる雰囲気じゃなかったんだよ」

「サラさん、どうしたんだろう?」

「知らんよ、でも受けるって言ったからにはもうやるしかねえんだ。 サラの事は後でいい」

「うん……気を付けて」

「おう、どうせ練習試合だ、気楽にやるさ」


 ハワードに手を振ったあと、レジスのいる位置の反対側の線へと歩いていくと、話を聞いていた他のクラスの連中が俺たちを取り囲むように広がっていく。


「なんだなんだ、狂犬の奴、今度は他の貴族にまで手を出すつもりか?」

「あいつクラリス様とイチャイチャしてやがったんだぜ!? いっぺん締められればいいだ」


 くそう、また好き放題に……、今回は俺からじゃないからな!? あっちから来たんだからな!?

 しかしイチャイチャか……そうだったらいいな。 でもそう考えると、ひょっとしてクラリスって照れてた? 

 いや、まさかな。


「準備はいいかい?」

「ああ、いいぞ」


 お互いに授業で使う予定だった、腰に下げていた模擬剣を鞘から引く抜く。

 刃はつぶされていて切れることはないが、それでも当たればかなり痛い。 いつだったか、前の授業で下手こいて脇腹にもらったことがあるんだが、正直涙が出た。


「感謝するよ」


 お互いに剣を構える中、レジスはいきなりそんなことを言った。


「私の申し出を受けてくれたこと。 双璧と謳われたカルロス公がファイエット家のみならず、護王剣たるマンディアルグにまで届いたその実力、私自身でぜひ手合せをしたくなった」


 お前は戦闘狂か何かか?

 そんなことで感謝されても困るっての。


「では……」


 レジスが腰を落として剣を握る手に力を込める。 臨戦態勢を取ったのだ。

 相手から来る空気に重みがかかってくる。

 マジになりやがって……。


「模擬戦、って事忘れんなよ」

「勿論」


 こっちも剣を握る手に力が入る。

 俺たちの真ん中に立ったサラが手を上げて開始の合図を取る。


「では……始め!!」


 サラの号令と共に手が振り下ろされると。


「参る!!」


 レジスは地を蹴って飛び込んできた。


「こい!!」

「はあっ!!」


 レジスが振り下ろす剣をまずはしっかりと受け止める。

 鈍い金属音を鳴り響き、剣を伝って腕にその衝撃が伝わってくる。

 腕は……よし、大丈夫だ。 


 剣先を下げて相手をいなし剣を振るうが、刀身は虚しく空を切る。

 こっちが引いた瞬間にレジスは下がり、直後の攻撃を読んで回避したのだ。


「危なかった……、さすがに冷やりとしたよ」


 汗を一筋垂らしながらもその顔は余裕の表情を崩さない。

 じゃあ今度はこっちの番だ。


「おおおっ!!」


 まずは軽いジャブ、素早く剣を振り牽制。

 次は強めに……!


「ふんっ!!」

「ぐっ!?」


 一気に踏み込み剣を打ち鳴らす。

 乗せた体重が相手を押し返し、刃が相手の首元まで迫る。


「ぐっ……う、や、やるじゃないか」

「そりゃどうも……」


 相手が押し返そうと力を入れてきたタイミングを見計らって、力を抜き体を引き離す。

 相手は不意を突かれて押し返す形になって前のめりになる。


「もらった!」

「ぐっ」


 レジスがつんのめってきたところにその脇腹へのブローを打ち込む。

 とっさに曲げられたレジスの腕がそれを防ぐが、衝撃を止めきることはできずに後退する。

 さらに左で剣を振り下ろすが、それは防がれてしまった。

 お互いの顔が近くになる程に組合い、呼吸を整えながら互いに攻撃のタイミングを計る。


「君は格闘ができるのか」

「殴る蹴るなんて誰でもだろ」

「騎士は剣の戦いに礼儀を重んじる、古い習わしさ、私は気にしない……!!」

「そりゃ助かる……!!」


 同時にお互いを押し合って距離を離し、すぐさま剣を振り抜く。

 しかし何度か打ち合ったのち、剣を下へと強く打ち下ろされて隙を作ってしまった。

 それを逃すまいと、レジスが俺の首元を狙って剣を振り払う。


「でやっ!!」

「ちっ!!」


 すんでのところで体を屈め、頭上を剣が通り過ぎる。 これ模擬戦だよな?

 だが、その攻撃を下に避けたのがミスだった。

 その先を読んだレジスが微妙に狙いを上にずらして剣を返してくる。 さらに下へと追い込むように……。 

 そしてまんまとそれに乗ってしまった俺は、さらに体を下げて剣を避ける。


「ぐぅ……」

「とった!」


 三回目の薙ぎ払い、今度は確実に胴体を狙ってきた。

 これ以上身体を屈めたら地面に膝がつく。 それこそ動きを鈍らせてしまって相手の思うつぼだ。

 ここで何とかするしかない!!


「なんのおおっ!!」


 低めを狙った薙ぎ払いに合わせて後ろ足に蹴り上げる。

 振り上げられた踵が、タイミングよくその剣を蹴り上げた。


「なに!?」

「おおおおっ!!」


 両腕を地面に付き、全体重をその腕のみで支えて体を持ち上げる。

 振り回す足の遠心力で体を安定させながら、回転蹴りを連続で叩き込む。


「な、うぐ、ぐあ!?」

「おおらあああっ!!」


 右足がレジスの剣をかち上げ、次は左の踵が剣を弾き飛ばし、一週回ってきた右足がまたレジスを捉えて叩き込まれる。

 二度までの直撃はレジスも耐えたが、三度目のヒットで遂に蹴り倒された。


「ぐああっ……!」


 腕をばねで身体を飛び起こして、持った剣を相手に突き付ける。

 こういう時の終わりの合図だ。


「はあ、はあ、どうよ……」

「ぐ……、ああ、まいったよ」


 地面に座り込むレジスは、負けを認めて両手を上げた。

 周りから歓声とどよめきが沸き起こる。 


「ウソだろ……」

「さすが狂犬、やることが滅茶苦茶だ」


 滅茶苦茶じゃない、頑張っただろうが。

 俺は剣を鞘に納めて、レジスに手を差し出した。


「大丈夫か?」

「ふぅ、さっきのは驚いた。 噂は本当だと確信できるよ」


 腕を取ったレジスを引き上げて、そのまま握手を交わした。


「変な噂までは信じなくていいからな」

「分かったよ、でも……」

「ん?」


 急にレジスが言いよどむことに、俺は首をかしげた。 どうした?


「君とクラリスがただならぬ関係にあると聞いたがそれは本当なのか?」

「絶対に嘘だ……!」


 強く言い聞かせておいた。 まさかそれが知りたくてって訳じゃないだろうな?


 その後、先生が来るまでの本当にわずかな時間だけでも休むために、俺はレジスと別れてそれぞれのクラスが集まる所に帰っていった。


「リューマリューマ! さっきの逆さまにぐるぐる回るヤツなに!?」

「逆さまにぐるぐる回る蹴りだよ……ずあっ! はぁ、疲れた……」


 模擬戦を見て興奮した様子のフランを適当になだめて、そのまま地面に座り込んだ。

 ちょっとの時間だけでもそうとうクルなこれ……。


「おつかれ、水飲む?」

「おう」


 ハワードが水筒を差し出してくれた事に感謝して、一気に喉に流し込む。

 は~~!! 生き返る!


「どうだいサラ! やるもんだろう!」


 何やら真剣な面持ちで俺に受けろと言ってきていたサラにガッツポーズを見せる。


「ふん、相手はあのレジスだ。 そこまで喜ぶことではない」


 堅苦しそうな顔は幾分和らいだが、まだまだ硬かったようだ。


「おいおい何だよ、サラは知ってんのかアイツの事」

「騎士の家であることは知っているが、そこまで有名ではない。 彼の実力も我々のクラスでは真ん中より上という程度だ」

「ああ、そう……」

「だが、まあいい」


 こいつ一人でなんか納得してるぞ、何だよさっきから。


 サラが変に不機嫌な理由、その答えは意外にも早く知ることとなった。

 ちょっと様子のおかしいクラリス達との合同授業の翌日、授業の合間の休み時間に俺たちのクラスに来たやつがいた。


「おい、アカホ・リューマ」

「なんだ?」

「クラリス様がお呼びだ、顔を出せ」


 カツアゲ? いや違ったんだけどさ。

 その答えはなんと、クラリスからのお出かけのお誘いだったのだ……!!






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