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第三十四話 空家の攻防

 ドアを開け、杖を向ける。

 しかし、その先には誰もいない。

 入った部屋はもぬけの殻だった。


「ここも違う……!」


 ハワードはドアをそのままに隣のドアに移る。

 そしてまた同じ、動作でドアを開け杖を向ける。


「ここも……」


 龍真に促され、メリッサ捜索のためにこの建物の奥へと向かったハワード。

 既に一回の部屋は半分以上を探したが、未だ発見には至っていなかった。

 ハワードの表情に焦りがにじむ。


(早くメリッサさんを見つけて、龍真の所に戻らないと)


 自分の足音以外に、激しくぶつかり合う金属音が聞こえる。

 間違いなく龍真とマティアスが戦い、剣戟を交えている音だ。

 龍真が危ない。

 龍真の詳しい生い立ちまでは聞いていないが、剣は一度も握った事がないという。

 そしてこっち(・・・)に来てからは、ある程度練習をしていたと言っていたが……。


(それでも、あのマティアスはマンディアルグ家の人間だ。 だとしたら、幼少のころから訓練を受けているはず)


「急がないと……」


 ハワードは一階に見切りをつけ二階へと向かう。

 階段を駆け上がり、二階に足を踏み入れる。

 だが、その瞬間を狙われた。


「うっしゃあああっ!!」

「なっ!?」


 階段を上がってすぐ、左手側から敵が襲いかかる。

 待ち伏せだ。

 ハワードが一階を捜索していること知って張っていたのだ。


「くっ!」

「ネズミ一匹っ!」


 距離は数メートル。

 だが、まだ大丈夫。

 ハワードはすぐに杖を下に構え、詠唱と同時に振り上げる。


「そびえるは岩柱、ロックピラー!」


 接近する敵の目の前の床に魔法陣が展開し、六角形の岩の柱が生えてくる。

 その柱は天井を突き破り、ハワードへの接近を阻んだ。


「なに!?」


 敵は突如目の前に現れた柱に、止まる事が出来ずぶつかってしまう。

 敵が漏らした呻きを合図に、ハワードが次の魔法を唱える。


「求るは爆炎、フレイボム」


 杖の先へと炎が集まり、柱へと発射される。

 そして着弾を確信したハワードは、すぐに階段の下へと体を隠した。

 その直後、爆発が起きてハワードの身体をびりびりと震わせる。


「くぅっ……」


 ハワードが放った炎の球は岩の柱に命中し、そこにぶつかった敵もろとも吹っ飛ばしたのだった。

 顔をのぞかせたハワードは周りを確認する。


「いない、いや、いるんだ、ここに……」


 二階に来てから敵が来たという事は、ここでメリッサを守っているという事だ。

 階段から出て、敵が来た方へと向かう。

 ついでにさっき襲ってきた敵の様子を見る。


 …………死んではいないようだ。

 僅かに胸が上下しているのを確認すると、後ろ手にして魔法で縛っておく。

 これで挟撃はないはずだ。

 その敵を壁際に寄せたハワードは、慎重に前へと進む。

 そして、しばらく進んだところで、誰かの叫ぶ声がした。


「くそ!! なんなんだよ!!」

「っ!? これは……」


 ハワードはその声がしたドアの前まで忍び寄る。

 ドアに耳を充てると中からは数人の話し声が聞こえた。


「おいさっきの爆音は!?」

「どうせあいつがネズミでもやったんでしょ?」

「だろうぜ、どうせ来たのだってガキなんでしょ?」

「そうだけどさ……!!」

「じゃあいいじゃん、すぐ下の方も終わるだろ?」


 叫んでいる人物だけ声が若い、おそらくそいつセザールだ。

 あとは数人、おそらく3人だろう。

 のん気にしてはいるが、セザールの方が焦っている。

 そして、目的のメリッサもここに……。


(チャンスだ……)


 だがハワードは突入できずにいた。

 中の状況が分からない。

 多数の敵をまとめてなぎ倒すなら、下級魔法ではだめだ。

 少なくとも三環位以上の制圧力がいる。


(でも、それだとこの建物ごと吹き飛ばしてしまうかもしれない。 メリッサさんをも巻き込んでしまう。 下級を連唱して連続撃破? でも、メリッサさんが人質に取られたら……)


 最も良い方法を取ろうとハワードが僅かな時間に思考をめぐらせる。

 ハワードは善人だ。

 メリッサからあの仕打ちを受けてなお、彼女の姉からの頼みとは言え助けようとする。

 だが、それゆえに最善手を取ろうとする。

 人質に取られず、メリッサやこの建物に被害を出さず、そして、龍真の救援に間に合うように……。

 無理難題を何とかできないかと模索する間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。


(やるしかない……)


 自身の手を見つめるハワードは覚悟を決める。

 杖をしまい、手を握り合わせ、呼吸を整える。


「お父さん……」


 ハワードは祈る。

 そして、突入した。






 ~  ~  ~  ~  ~  ~






「うおおおおおっっ!!!!」


 俺は叫びながら、顎を打ち砕かんとばかりに、全力でアッパーを繰り出す。

 だがマティアスは、前進の体勢から強引に重心をずらしてその拳を回避した。


「ぬうっ!」


 顎を外した拳はマティアスの鼻先を掠めた。

 お返しとばかりにその体制のまま剣を振るが、体勢が悪いせいか振りが遅い。

 マティアスの反撃を回避してすぐに肉迫する。


「まだまだああっ!!」

「く、そっ……!」


 ガードの上からでも関係ない。

 とにかく持てる力を振り絞って、マティアスへと拳を叩き込む。

 だが、やっぱり効果はいまいちだった。

 この野郎、皮鎧着けてるから、地味に拳が通らねえんだ。


「はああっ!!」

「んの野郎!」


 薙ぎ払いがくる!

 今度はしっかりと腰を入れ、足の踏ん張りがきく状態で受け止める。

 身体に衝撃が叩きつけられる。

 だが、耐えた!


「何!?」


 剣が止まった隙に、即座に剣を持つ方の腕をつかむ。


「しまっ……!?」

「っらあああっ!!」


 そして空いた脇腹に蹴りを一発!!


「ぐうっ!!」


 剣の真下をくぐって放たれた一撃は、マティアスの右のわき腹に直撃し、そのダメージにひざを折りかける。

 効いている! もう一発行けるか!?


「おのれ……っ!!」


 マティアスが手のスナップだけで剣を投げて左手で受け取り、すぐさまモーションに入る。

 これはまずい!

 すぐに腕を話して後ろへ飛び退く。

 その直後には、俺がいた場所を剣が薙ぎ払って行った。


「あぶねえ……」

「ぐっ……」

「けど、まあ、まずは一発……!」


 マティスが蹴られた場所を押さえながら立ち上がる。


「き……さま……」

「ふぅ――どうしたよ、来いよ。 容赦しねえんだろ?」

「調子に……乗るな!」


 マティアスが駆けだすのと同時に俺もマティアスへと走る。

 横から、上から、斜めから、次々と襲いかからる剣閃を躱し、防ぎ、確実に打ち込めるチャンスを探る。

 だが、いかんせん技量が足りなかった。

 振り終わりにマティアスが動きを止める。

 隙を見つけたとすぐに左でストレートを撃つが、それを躱したマティアスが柄を俺の右腕に叩き込む。

 残念ながらこの軽装鎧に帷子などは用意されていない(そんなもんつける時間が無かった)。

 守られていない上腕部に鋭い痛みが襲う。


「ぐあっ!?」

「であああっっ!!」


 マティアスが叩きつけるように薙ぎ払う。

 辛うじてガードできたが、脚が浮いて壁際まで吹き飛ばされ、乱雑に置かれたイスやらテーブルやらに激突する。


「あ……が……く、っそ……!! やってくれんじゃねえか!」

「貴様が……俺に勝てる、道理があるとでも思ったか……」

「ああ?」

「俺と貴様では、これまでに積み上げてきたモノが違うんだ。 量も、質も……!」


 マティアスが静かに見下ろす。

 それが気に入らない俺はすぐに立ち上がる。


「そんだけ積み上げといて、その果てが人攫いかよ。 見上げた悪党だよ、ええ?」

「貴様にはわからんだろうがな、こういう事にも駆け引きがあるんだよ、貴族には」

「裏でこそこそちゃちなことやって、でけえ顔して言う事か」

「裏であれ、表であれ、常に綱渡りでこの世界を生きてきた。 この駆け引きにも、取引にも。 お前の様にクラリスに釣られた奴には……」

「何が駆け引きだ、笑わせんなよ。 しょせんただの犯罪者だろうが。 捻くれたガキがいっぱしな口叩いてんじゃねえ!!」


 逆さまに置かれたイスの足を掴んで力任せにぶん投げた。

 だがマティアスはそれを両断し、イスの破片が散らばる。


「俺でも貴族の中じゃもういっぱしの扱いなんだ……。 善悪ではない、家の為にできることをやるのが貴族の政治と言うやつなんだ!」

「いっちょ前に政治家気取って言う事かクソッタレええっ!!」


 手元にあるイスを片っ端から投げていく。

 そして最後の一つを掴み、それを武器にマティアスへ殴り掛かった。


「だああっ!!」

「小細工を!!」


 振り払われた剣が椅子をまたしても破壊する。

 だが破壊され、折れたイスの足を掴み顔目がけて振り払う。


「ぐっ……!?」


 折れて尖った先が頬を引っ掻く。

 マティアスの頬から一滴の血が流れた。


「この程度で……」

「だよな、傷の一本で終いなんて思うなよ……?」


 硬く拳を握り、再びファイティングポーズをとる。


「人様に迷惑かけたあげく、殺しまでやらかそうとしたんだ。 まだまだ足りなさすぎるんだよ」

「なんだと?」


 そして、マティアスへと駆けようとしたその時、二階から爆音が轟く。


「何だ!?」

「ハワード!?」


 多分ハワードだ。

 マティアス意外となると、恐らくセザール、そして残りの賊ども。


「ちっ……何をしている」

「余所見かよ!」

「貴様……!?」


 視線が上に向いた瞬間、それを見逃すわけないだろ!

 接近してアッパー、そしてすぐ二撃目の拳を構える。

 だが……。


「そこまでのようだな」

「なんだと?」


 アッパーはマティアスのガードに防がれた。

 そしてそれを予測しての二撃目を打とうとしたその時、今まで微かに光っていたミスリルが、最初に借りた時と同じ状態へと、魔力の光がなくなっていた。

 気付きはしたが今はどうでもいい、どうせちかちかして目立つんだ、こっちの方が好都合。

 かまわず殴り抜ける!


「おらああっ!!」

「何!?」


 何かに驚くマティアス、しかしそれでもヤツの反応速度は鈍ることなく、飛び退いて二度目の拳を叩き落とす。


 その攻撃が決定打だった。


 振り下ろされた剣が、ミスリルを打ち砕いたのだった。








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