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第三十三話 追跡の終わり

 潤いの館で襲撃してきた盗賊どもを退け、裏切った私兵たちの凶行を食い止めた俺たちは、その私兵たちが乗ってきた馬を集めていた。

 よく調教されているせいか、知らない顔の俺たちの言う事を聞いてくれない。

 馬ってこんなに賢いの?


「とりあえず、こいつら使って追いかけよう。 走るよりは早いだろ」

「でも、リューマって馬乗れるの?」

「…………で、できらぁな」

「できないんだね」


 一応、一応授業でも乗馬というものがある。

 魔導士や騎士は馬を使って移動することが多い。

 なにせ全騎士団員分の竜なんて用意できないからな。

 しかし、馬は竜よりも繊細なためいまだ座学が中心で、やることと言えば乗って歩くか、馬の手入れだけだ。

 まだ本気で走った事などない。

 早歩きの時点でも難しいのに。


「そう言うお前はどうなんだよ」

「ふふん大丈夫、竜には乗り慣れてるから何とかなるよ!」

「それじゃあ多分無理なんじゃないかな?」


 ハワードの言うとおりだ。

 竜に乗れるから馬にも乗れるってのは大間違いだ。

 操龍の授業ではすでに、2、3mまでの高さだが飛行訓練に入っているけど、乗った感覚は全然違う。

 だって歩行中ならばともかく、竜の方は縦になんか揺れないし。

 そして竜で走る事なんか飛行前の助走しかない。


「それなら、私たちが手綱を握ります。 皆さんは私たちの後ろに乗ってください」

「おお、ありがとうクラリスちゃん!」


 まあそこはクラリスの提案で何とかなりそうだが。


「リューマさん? どうかしましたか?」

「ん、ああ、それはぁ……」


 まいった、クラリスをじっと見ていてしまった。

 あの時の激しい感情を表していたとは思えなかったからつい。

 どうやらメンタルを切り替える強さは、思ってた以上にあるらしい。


「私はもう大丈夫ですから、急ぎましょう」

「おう」


 クラリスの事に安心しつつ、少し前に捕まえた賊どもはどうしようと目を向けると、アイツらはぶつぶつと何か不満そうに愚痴っていた。


「くそう、最悪だ、こんなことになるなんてよう」

「やっぱり世の中、うまい話なんてあるもんじゃないっスね」

「はらへったなあ~……」


 こいつら……。

 この阿呆共をどうするか、見張っていたサラたちに聞いてみる。

 連れて行くなんて論外だしな。


「なあ、あいつらどうすんだ?」

「先ほど小霊を飛ばした。 少しすれば、……信頼、のおける私兵たちが、来てくれるはずだ」


 サラの顔は苦虫を噛み潰したようだった。


「そうか……」

「クソ……まさか、身内から共犯者が出るなど……」


 拳を握り、悔しさを滲ませるが、今は起きてしまったことをどうこう言ってる場合じゃない。

 まだやらなければならない問題は残っているんだ。

 心を切り替えさせるためにも、サラを馬の用意の手伝いに向かわせる。


「分かってるさ、問題ない!」


 サラは自身を奮い立たせるように、声を上げて馬の方へと歩いて行った。


「な、なあよう……」

「あ?」


 賊の一人、名前はバッカスだったか。

 そいつがデカい図体のくせに小さい声で聞いてきた。


「お、俺らどうなるんだ?」

「そりゃあ騎士団に渡して豚箱行きだろうよ」

「み、見逃すってのはどうだ?」

「馬鹿言え、できるかアホ」


 がっくりと肩を落とす大男。

 そろそろ馬の方も準備が終わりそうだ。

 ここに来るってんなら、こいつらはここに置いといていいだろう。

 今アイツらを追わないと。


「そうっスよねー、はぁ……最近貧乏だからってうまいって言葉に釣られるんじゃなかったっスよ……」

「くそう、バルドアの話なんて聞かなきゃよかったぜ……」


 皆が馬に乗り始めたのを見てそっちへ行こうとした時、その愚痴を聞いて振り返る。

 何だと?


「おい、今なんて言った?」

「は? えーと、釣られるんじゃなかったって言ったんスよ」

「そっちじゃねえ、デカい方だ、バルドアって言ったか?」

「あ、ああ、それが何だよ?」

「バルドアもいるのか?」

「む、むぅぅ……」


 今更になって言い渋る様子のバッカス。

 捕まえれば全員仲良く牢屋行きなんだ、どうせアイツらだってしくじったやつは切り捨てる腹積もりだろうよ。

 悪い奴らのお約束よな。

 だから言っちまえって、楽になろうぜ?

 軽く説得じみたことをすると、バッカスは観念したのか大きくため息をつき顔を上げた。


「今回のはバルドアとセザールってやつが仕組んだ事だ、俺たちはバルドアから稼げる仕事があるから手を貸せって誘われただけだ。 貴族がいたからつい乗っちまったんだ」

「目的は?」

「それは本当に知らねえ、金が貰えりゃあどうでもよかったからな。 丸い方の貴族はメリッサってガキにご執心だったが、好かねえ目つきの方もバルドアといっしょで何考えてるかわからん」


 好かねえ目つき……マティアスか。


「バルドアの居場所は?」

「知らねえ、今日はまだ見てねえからな、貴族の方はさっき言った通り、これで全部だ!」

「いいんスかねえべらべらと喋っちゃって、後が怖いっスよ……」

「もう知るか、ちくしょう! 好きにしやがれってんだバカヤロウ!」


 嘆くダニーに、バッカスがやけくそに足を投げ出して地面に寝転がった。


「大丈夫だろ、まとめて全員豚箱にぶち込んでやる、そうなりゃ報復する奴なんていないさ」


 自分から首突っ込んであれだが、ここまでやってくれたことに対してしっかりお礼申しあげないとな。


「龍真、いいよ! 急ごう! そろそろ日が暮れそうだよ!」

「わかった!」


 準備ができたようだ。

 ハワードへと返事しつつ馬へと向かう。


「お、おい! 俺たちはこのまんまかよ!」

「後でお迎えが来るってよ、じゃあな」


 こいつらを置いていくにはまだ不安はあるが、こちらも悠長にはできない。

 干からびた潤いの館の真ん前にアイツらを放置して馬に駆け寄る。

 ちょうど三頭いるから二人づつのればなんとかなるな。

 俺、ハワード、フランは乗馬経験がないので、クラリス達がそれぞれ手綱を取り、その後ろに俺たちが乗る形になる。

 既にクラリスの後ろにフランが乗り、ハワードの後ろにリゼットが乗っている……ってあれ?


「ハワードは馬に乗れるんだな」

「一応ね」

「私は苦手だからお任せするわ~」


 リゼットがハワードの腰に手をまわして、落ちないようしっかりとホールドしている。

 むぅ、羨ましい限りだ。

 となれば俺が乗るのは……。


「何をしているさっさと乗れ」


 サラが馬の上から指図してきた。

 おう知ってたさ。


「わーってるよ、手え貸せ」

「ええい、世話の焼ける……ふんっ」

「よ……っと、わりい待たせた、急ごう」


 サラの腹の前に手をまわしてホールドする。


「変なところを触るなよ! はあっ!!」

「んなことするかあああっ!?」


 サラが手綱を振るうと馬が駆け出し、徐々に加速していく。

 や、ヤバい、思ったより速い!?

 三頭の馬が人も障害物もないスラム街を駆け抜けていく。


「このままなら! 日の入りまでには、向こうに付きそうですが!」


 静かなスラム街に三頭の馬が走る轟音が鳴り響く中、クラリスが叫ぶ。

 そうしなければ何言ってるか聞こえない。


「おそらく別働隊がいます! もう一戦交えることになるでしょう! 気をつけておいてください!」


 俺たちが来る前に、既にメリッサはセザールらに連れて行かれていた。

 セザールがどれだけの賊どもを集めたかは知らないが、もしここに来るときに戦った数を超えるとなると……。

 あ、しまった! バッカスにあとどれくらい敵がいるか聞いときゃよかった!

 しまったあ……。


「とりあえずハワードは! 俺たちの後ろに回れ! 俺とクラリスで前に出る!」


 ハワードとリゼットはどちらも魔法を主体とした後衛型だ。

 敵が出てきても、俺とクラリスで突撃して、後ろから援護してもらえればいい。

 ハワードは馬を操るの集中しているが、返事の代わりに少しだけスピードを落とし、クラリスの後ろ側に着く。

 それを見届けた後、周りに目をやり、場所を確認する。

 まあ周りを見てもどれくらい走ったのかよく分からんのだが。

 すでに俺たちが入ってきたスラムの入り口、北門前は通り過ぎていた。

 ここは俗に言う東スラムと呼ばれる場所だ。

 このまま道沿いに進めば、王都をぐるっと回るように移動して東門付近に出るはずらしいが……。


「何だあれは?」


 サラが道の先を見てそうぼやく。

 目線の先は、徐々に暗くなりつつある中、城壁に沿うように弧を描くスラム街に建てられた古い建物の屋根。

 そこに何かがいた。


「なっ!? クラリス様! 屋根の上です!」

「何!?」


 クラリスが目を凝らすがそれをうまく捉えることができない。

 俺も屋根に何かいるのは分かるがさすがに遠い。


「すみませんハワードさん」


 すると後ろのリゼットがハワードの肩越しに杖を取出し、魔法を発動する。


「照らすは光、浮かぶは陽光、ライトボール」


 魔法陣が杖の先に浮かび、光の球となって発射される。

 その球はその屋根の上まで高く飛び、まぶしい光を放った。


「照明弾か!?」

「クラリスちゃん! あそこ! 敵だよ!」


 フランが指をさす先、まぶしい光に照らされた場所には数人の盗賊達が弓をつがえて待ち伏せていた。

 ってマジかよ!?


「おい撃たれるぞ!?」

「しかし弓が相手では!?」

「リゼットさん! 手綱を!」

「はい!」


 スラム街を照らし出した大きな照明は、敵どころか俺たちの姿さえも晒しだしていた。

 好機と見た盗賊たちが次々に矢を撃ち出す。


「撃てええ!!」


 叫ぶ盗賊の声に、ヒュンヒュン、と矢が風を切る音がかすかに聞こえる。


「サラ! 回避だ!」

「分かっている! 叫ぶな……なんだ!?」


 すぐに回避行動をとるようサラに言うが、後ろから光が発し、そっちを見ると今度はハワードが魔法陣を形成していた。


「来たるは暴徒、渦巻くは豪風、スワルストーム!」


 詠唱を叫び、杖をかざすと、直径一m程の魔法陣が高く浮かび、そこから凄まじい轟音と微かな光の粒を纏いながら風が渦を巻き、作り出された竜巻が一直線に敵がいる屋根へと向かっていく。

 さらに今にも俺たちに振りかかろうとしていた矢の群れは、無造作に吹き飛ばされていった。

 そして竜巻が屋根に直撃する。


「ぐわああああっ!?」


 竜巻が屋根を突き破り、そこにいた盗賊たちを紙を散らすかのように吹き飛ばしていく。

 ある者は建物の壁を突き破り、ある者は数十メートルの高さから地面にたたきつけられる。

 照明弾の光さえも巻き込み全てを吹き飛ばした竜巻が消えた後は、敵どころか屋根さえ残さず粉砕していた。


「す、すごい……」

「とんでもねえなおい」

「このまま行きましょう!」


 唖然とする俺とサラを横目にクラリスが叫び、それにしたがって半壊した建物を通り過ぎていく。


「あれっ! まだ出てくるっ!」


 フランが前を指さして叫ぶ。

 建物の中から盗賊たちが一斉に飛び出してきたのだ。

 少なくとも20~30はいる。


「こんだけの数、一体どれだけ入れたんだ!?」

「かまうものか! どのみち全員倒すんだ!」


 セラがかまわず手綱を振り馬を突撃させる。

 この数をか!? 無茶だろ!?


「あとこれだけなら……、ハワードさん! 前に!」

「分かりました!」


 後ろにいたハワードが速度を上げて俺たちの横に出る。

 そのハワードの後ろでは再びリゼットが杖を構えていた。

 その杖先にはすでに魔法陣が形成され雷光を放っている。


「何をする気だ!?」

「まとめて痺れさせます! 求るは瞬雷、這うは百雷、ボルトセンチピード!」


 リゼットが詠唱を終え杖を地面へと振り下ろす。

 輝く魔法陣からはいくつもの雷が地面へと落ち、地を穿つことなく曲がり、前方の敵へと地を這うように走っていく。

 雷鳴が耳をつんざき、はるか遠くへと離れていくの感じると、敵の群れはその場で硬直していた。

 足元を這うように流れた雷に打たれ感電したのだ。

 顔の表情が分かるほど近ずくと、盗賊たちが次々に倒れていく。


「流石ですリゼット! 助かりました!」

「いえ! これでもう邪魔者はいないですよね!」

「だといいんだけどな!」

「アレは? なんだ?」


 リゼット活躍に沸く中、サラが前方にまた何かを見つける。

 まさかまだいるのか!?


「いや違う、アレは……馬車だ! クラリス様! 馬車です!」

「馬車?」


 サラとクラリスが同じタイミングでスピードを落とし、ハワードもそれに合わせて足を遅め、前方を確認する。

 道の真ん中より右寄りに馬車が止まっていた。

 装飾などは施されてはいない、普通の馬車だ。


「怪しい……よね?」


 フランの言葉に頷くしかなかった。

 クラリスが馬車から少し離れた位置にまで馬を進ませ、馬から下りて馬車に近づく。

 馬車の方に動きはない、馬が近づけば分かるはずだが……。

 左手に杖を持ち、素早くを魔法陣を形成するクラリスが、馬車のドアに手を掛ける。

 そして一呼吸置いてドアを開ける。


「ふっ……! …………はぁ……」


 ドアを開け放つと同時に中へと杖を向け、馬車の中を確認するクラリスだが、すぐに杖を持つ腕が下がった。

 誰もいなかったのだ。


「やはり中は……」

「ええ、そうだとは思っていましたが……」

「これがメリッサをさらってった連中が使ってたヤツなのか?」

「こんなところに止めてあるんだ、そうとしか思えん。 だがなぜここに?」


 サラが訝しげに周りを見渡す。

 もう盗賊の数だって少ないはずだ、……と思う、思いたい。

 奇襲ならうってつけの状況だが来ないんだ、そう思っても……なあ?


「とにかく周りの建物を探してみましょう、中に隠れているかもしれません」

「単独行動はなしだ、二人以上で動けよ」

「分かりました、リゼット」

「はい」


 クラリスが頷き、リゼットを伴って馬車がに一番近い場所にある建物へと向かう。


「フラン、一緒来てもらうぞ、こっちだ」

「分かったよ、任せて!」


 サラもフランを伴い反対側の建物へと向かう。


「おし、じゃあ俺らも手近な所から……」


 そう言って動き出そうとした瞬間、目の端に僅かに何かが動くも捉えた。

 何だ? 虫か?

 いや違う……。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや……何か……人?」


 目に入ったのは馬車よりもさらに先にある、一際大きい建物だ。

 なんだあれ?


「ハワード、あれは?」

「あれ? あの建物? 作りからからして普通の住居用じゃないね……何かの施設だったのかな」

「目が慣れてきたからか、なんか動くのが見えた。 行ってみよう」

「うん、杞憂だったならそれでいいしね」

「ああ、どうせ虱潰しにゃあ変わんねえんだ」


 俺とハワードは音をなるべく出さない様、小走りでその建物に近づく。

 他よりデカい、さっきの潤いの館よりかは少しデカいか?


「んー……中は、見た感じ……誰もいないな」


 窓から顔を覗かせ中の様子を窺ってみる。

 が、乱雑に隅っこへ寄せられた椅子とかそういうの以外は何も見えない。


「じゃあ入るぞ、ハワードはそこで待っててくれ」

「大丈夫?」

「ああ、今度はこっそり侵入だ」


 ドアに手をかけ、ゆっくりと押す。

 開いた。

 中は薄暗い。

 中から見えない位置でハワードが杖を構え、すぐに魔法を撃てる準備をしていた。

 後ろ手にハワードへ待ての合図をする。

 奇襲があるかもしれない、こっちも気を付けるが、何とか凌げば奇襲に奇襲で返せるかもしれない。

 これは結構効果的だと思う。

 剣に手を添え、いつでも抜ける様にはしておく。

 足元を見るが、僅かに足跡がある。


「ここか?」


 どんどん後手に回る前に追いつきたんだが……。

 ゆっくり歩を進めていた時、頭上で何かぼそりと呟くような声が聞こえる。


「……!」


 顔を上げた先、階段が左右から中央につながる二階の廊下。

 そこに人がいた。

 そして、そのいけ好かない顔には見覚えがある。


「ん?」


 マティアスだ。

 追いかけていたヤツをとうとう見つけた。


「……よう、今朝方ぶりだな、マティアス」

「アカホ……」


 マティアスがこっちをしっかりと認識すると、階段を一つ一つ踏みしめるように下りてくる。


「首を突っ込み過ぎたな」

「まったくだ」


 まあ、俺は過ぎた、なんて思わないけどな。


「ついほっとけなくてな」


 本心だ。

 いなくなって初めて大切さが分かる。

 それを痛感しているからこそ、何とかしてやりたいと思ったんだ。

 まあ+α、いろいろあるけど。


 まあそこは恥ずかしいから言えないけど。

 そんな微妙な感情を隠すようについ大げさなリアクションを取る。


 そして、正直聞きたくなかった音が聞こえてきた。

 金属を微かに擦り合わせるような音だ。


「…………」

「マジか……」


 マティアスが剣を抜いていた。

 鏡のように磨かれた刀身が、僅かに入る光を反射しその存在を知らしめる。

 相手はやる気だ、目がそう言ってる。

 俺も剣を抜き、構える。


 そしてマティアスは躊躇なく斬りかかってきた!


「なにぃ!?」


 マティアスの振り下ろしをしっかりと受け止める。

 だが、重い!

 一撃の威力が他の連中とは格段に違う。


「ぐっ……!」


 下がって逃げようとするが、マティアスの剣の切っ先から離れた瞬間、下がったマティアスの剣が突きを繰り出してくる。

 とっさに剣を振って突きを払うが、後れを取ったのか切っ先が首元をかすめる。

 危なっ!?


「くそっ!」

「安心しろ……殺す気はない」

「どの口が!」

「龍真!」


 マティアスが離れた瞬間、ハワードが飛び出す。

 即座に放たれた魔法はマティアスへと向かうが、それを難なくステップで躱した。


「やはり味方がいたか」

「ハワード、ビンゴだ! 多分他もここだ!」

「分かった!」


 ハワードが外へと光の球を打つ。

 リゼットが使ったライトボールの小さめの奴だ。

 あの時よりも控えめだが強い光が外を照らす。

 クラリス達へ合図を出したのだ。


「さあ令状はねえが家宅捜索だ。 通してもらうぜ」

「好きにするといい」


 なに?

 通そうってのか?

 まさかもう?

 いや、さっき窓に見たのはこいつじゃなかった。

 まだいるはずだ。


「ハワード、行ってくれ」

「龍真は!?」

「大丈夫だ、何とかする」

「…………気を付けて」

「おう」


 ハワードが俺の後ろを通ってさらに中へと入っていった。

 奥への扉を開ける音が、やけに大きく聞こえた気がする。

 そしてマティアスはその間、ハワードには目もくれなかった。


「随分お優しいじゃないの」

「俺が、こんなところに一人でいるとでも思ったのか」

「いや」

「そういうことだ」


 奥にはまだいるって事か。

 マティアスが言い終えてすぐ、再び距離を詰めてくる。


「ふっ!」

「んのおっ!」


 薙ぎ払いに合わせて剣をぶつける。

 だが力は拮抗する事なく簡単に弾かれる。

 剣を持つ右手が痺れる。

 剣を手放さなかっただけマシだろう。

 その後も止まることなく何度も剣戟を受け止めるが、その度に剣ごと体を持っていかれ、体が大きく揺れる。

 ああ、ハワード、前言撤回かもしれん。


「はあっ!!」

「ぐっ!?」


 マティアスの一撃に大きな隙を開けてしまった。

 マティアスの目はそれを見逃しはしなかった。

 半歩下がって回転し、遠心力を載せて振り上げる。


「でやああっ!!」

「のああっ!?」


 何とか防ごうと剣を握るも、やはりその重い一撃は俺の剣ごと振り上げられる。

 そしてついに手が耐え切れず、剣を放してしまった。

 弾き飛ばされた剣が天井に突き刺さる。


「マジかっ!?」

「余所見か?」

「なに!?」


 左から来る!?

 マティアスが剣を振りぬく。

 とっさ手甲でガードするが、その一撃に押され大きく後退する。

 危ねえ……、ただの鉄板じゃあ破られてたかもしれない。


「その手甲、ミスリルか」

「痛っつ……、ああ、そうだよ」


 さっきの防御でこの手甲の材質を看破してきた。

 まあ、分かりやすいっちゃあ分かりやすいか。

 光ってるしな。


「ただの一都民に手に入れられる代物ではない、クラリスにでもねだったか?」

「人聞きの悪い事言うなよ、丈夫なのが良いって言ったら、これを貸してくれただけだ。 後で返すよ」


 マティアスは言いながらも俺から離れていき、後ろの方に置いてある飾られた鎧へと歩いていく。


「ふん、それの価値は知ってなさそうだな」

「まあね、お恥ずかしながら、そんなに高いの?」

「平凡な騎士には一生手に入れられないだろうな」


 そう言ってマティアスは鎧から剣を抜き取り、こちらへ放り投げてくる。


「おうっ!? 何だよ?」


 足元に転がってきたそれを、雑ではあるが踏んで止める。

 なんか拾う気になれなかった。


「使え」

「は?」

「素手の素人を相手に切りかかるほど、俺も鬼ではない」


 たいした余裕の表れだよ。


「ご配慮痛み入るね」


 そう言って俺は……。


「――っ!?」


 その剣をマティアスに思いっきり蹴とばした。

 マティアスは意表を突かれたのか、初めて表情を変えてそれを躱した。


「なっ……! どういうつもりだ」

「どうもこうも……、こういう事だよ」


 拳を握り、ファイティングポーズ。

 驚いてはいるが、マティアスにはしっかりとこちらの意図が伝わった。

 マティアスが構え直す。


「素手だからとて、容赦はしないぞ」

「上等だ」


 正直、不利なのはこちらであることに変わりはない。

 でもやってやる、ミスリルの防御力は実証済みだ。

 舐められたままで終われるかよ!


「アカホ……、行くぞ!」

「マティアス……、来やがれクソッタレえええっ!!」


 振り下ろされるマティアスの剣目がけ、思いっきり拳を殴りつけた。


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