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第三十一話 裏切り

 戦闘を終えて深呼吸をする。

 何度かして落ち着いてきた。

 今更になって動悸が激しくなってくる。

 だがゆっくりもしていられない。


「リューマさん、念のため彼らを拘束したあと情報を聞き出しましょう。 もしかしたら何か知っているかもしれません」

「ああ」


 クラリスの提案で、こいつらを縛ろうとした時、奥から何人かの足音が聞こえてくる。

 まさか、こいつらの仲間が戻ってきた!?


「クラリス! ハワード!」

「はい!」

「あ、待って」


 俺とクラリスが剣を抜こうとするのをハワードが止める。

 そして奥からその足音の主が現われた。


「クラリス様!」


 先頭を切って飛び出してきたのは、外を見果ているはずのセラだった。

 その後ろからフランとリゼットも続いて出てくる。

 目立った外傷はないため、本当に外に敵はいなかったようだ。


「セラ! リゼットにフランさんも、ご無事でよかった」

「そちらもご無事で、……申し訳ありません、お守りするべき私たちが……」

「いえ、大丈夫ですよ、リューマさん達が共にいてくれましたから」

「む……そ、そうですか」


 おう、何で不満そうなんや?


「リューマ、ハワード、大丈夫だった?」

「おう、何とかな」

「フランさんも、外は大丈夫だったんだね」

「うん、でっかい岩が入り口をふさいだ後、皆で敵が来るかもって思ってたんだけど……何もなかった」


 敵ながらこういう時は別働隊を残しとけよと思うったけど、まあそのおかげでみんな無事だったんだし良しとしよう。


「クラリス様、この人たちはどうしましょう」


 リゼットが横で伸びているバッカスをつついて言った。

 やめろよ起きたらどうすんだ。


「拘束してください。 後で知っていることを話してもらいますので」

「りょーかいです」

「僕も手伝うよ」


 ハワードも加わり、魔法で盗賊どもを拘束する。

 ところでフランたちは裏手から入ってきたんだよな?


「アカホ・リューマ」

「おう?」


 クラリスに傷が無いかくまなく調べていたセラがこっちを睨む。


「一応礼は言っておこう」

「お、おう」


 じゃあ睨むことないじゃん?


「それより、何で裏から?」

「ああ、お前たちが突入してしばらくした後に爆音が聞こえて、表に戻って来てみたら入口を巨大な岩が塞いでいたのだ。 フランと警戒を強めていたのだが、敵は現れないし、中で激しい物音が聞こえるし」


 そのあたりで俺達とアイツらの戦闘が始まったんだな。


「そしたら中の様子を見ていたリゼットが、他に敵はいないという事を聞いていたらしくてな。 私たちで挟撃するべく回り込んできたのだ」


 でもまあ、挟み込む前に終わっちまったわけだ。

 サラがここに来るまでのあらましを話しおえた後、フランが申し訳なさそうに切り出した。


「それでねクラリスちゃん、ここに来るまでに手分けして全部の部屋を調べながら来たんだけどね……」

「申し訳ありませんクラリス様、メリッサ様を見つける事が出来ませんでした」


 フランの表情を見て察していたんだろう、クラリスはそうですかと短く呟いた。

 服の裾を掴む手が強く握りしめられる。


「あと、これ……、多分メリッサちゃんのじゃないかなって」


 フランが見せたのは髪留めだった。

 クラリスが大事なもののようにそれを受け取る。


「間違いありません、メリッサが付けていたものです」

「それがここに落ちてたって事は、ここにいたって事か」

「ああ、それもついさっきまでな。 クラリス様、金色の髪の毛が付いていました、まだ新しく抜け落ちたものですので、そう考えて間違いないかと」

「入れ替わりとなってしまった、という事ですね……」


 ひと足遅かったか。


「あら?」

「あ、みんな!」


 ハワードとリゼットが何かに気付く。

 どうやら連中が目を覚ましたようだ。


「んぐぅ……ぐがっ、あっ!? ……あ?」


 跳ね起きたと思ったらうまく起き上がれず顔を打つバッカス。


「な、なんだ!? おい! なんだこれはっ!?」

「よーし目ぇ覚めたな?」

「あ! てめぇ、鉄球のクソガキか」

「は?」


 クソガキは分かるが何だって?


「この野郎ダニーとモッズはどうしやがった!?」

「まだそこで伸びてるよ」


 まず部下の心配をするあたり、見かけの割に部下思いのようだ。

 あとフランむこう向いてどうした。


「て、鉄球のって、ブフッ」

「リューマさん、そのような異名があったのですか?」

「ちげえよ知らねえよ聞いたこともねぇわ、んなもん。 てかてめえも俺を変な名前で呼ぶな!」


 何処でどんなふうに噂が広がるかわかったもんじゃないんだから!

 あとフランてめえ後で覚えてろ?


「だってお前の名前知らねえしよ」


 そりゃそうだ。


「だったらおまえとか、ただクソガキだけとかでもいいだろうに……、ってそうじゃなくて!」

「おい貴様ら、私たちの質問に正直に答えろ」

「ひいっ!?」


 サラが剣を抜き、バッカスの首筋に突きつける。


「うわああ!? 待った! 待ってくれ! い、命だけはー!」

「正直に答えれば保証すると言っている」

「言う、言うからー!!」


 バッカスが涙目になりながら正直に言うことを誓う。

 その声に気付いたのか他の2人も目を覚ましたようだ。


「ぬぐぅ、かしらぁうるさいっスよ……お゛お!? な、何スかこれ!? か、頭あ!?」

「ああ~、動けねえよ~」

「はーい、静かにお願いね?」


 騒ぐ二人にリゼットが手のひらを見せる。

 そこには手のひらに収まる程度の魔法陣かあり、バチバチと電気を放っていた。


「ひうぃ!? りょ、りょうかいッス」

「……!、!? 、!?」


 ダニーが縮こまり、モッズも全力で首を縦に振る。

 ははは、どっちが悪役か分からなくなってきた。


「では単刀直入に聞こう、メリッサ様は何処だ?」

「ああ? メリッサぁ? ってちょーー!? 待て待て待て待て!?」


 サラの剣が僅かに動き、バッカスの首筋をかすめ、小さな血豆を作る。


「待て!? ほんと待って!? 名前だけ言われても誰が誰だか知らねえんだってええ!!」

「ああっ!! か、頭あ!! あれ! あの女っスよ! 丸っこい方の貴族のぼっちゃんが連れてきた!」

「はあ!? あ? ああっ! あの女か!」


 ダニーに言われてようやく思い出したらしい。


「知ってんじゃねえかよ、あと丸っこい方ってのはなんだ?」

「いや、名前を知らなかったのは本当なんだ。 攫いに行くときだっておれぁ家ん中で待ってたし」

「そりゃーバッカスの大きさじゃー見つかっちゃうよー」

「それはモッズもだろうが!」

「うっさい! で、丸っこいのは?」


 しょうもない口げんかを始めようとするのを一喝して黙らせる。

 こいつら子供か!?


「ああ、ま、丸っこいってのは、確か……セザールって名前だったはずだ、俺たちゃそいつに集められたんだ」


 セザール、可能性は高いとは思ったが当たりだったとは。 


「で、肝心のメリッサは何処だって聞いてるんだ。 ここにいたことは分かってんだ、正直に言わねえとこの姉ちゃんキレると何すっか分かんねえぞ?」


 親指で指されるサラを見てバッカスの顔から血の気が引く。

 ゴミを見るような目で見てるからやりかねないと思う。


「おい、私を狂人か何かと勘違いしてないか狂犬」


 その視線が俺に向けられているとは思わなかったな。

 冗談だよ、だからそれはやめろ。


「で、どうなんだ?」

「あ、あの女なら、お前らが来る少し前に裏口から……マティアスってやつの指示で連れて行かれた。 どこに行ったかは知らねえ! 教えてもらえなかった」


 裏口か。

 少しがどれ位かは分からんが、スラムに入ってからの対応の速さを見て、突入後すぐってところか。

 くそ、追いかける側なぶん後手に回りすぎてる。

 …………マティアス!?


「マティアスだと?」

「セ、セザールの協力者だよ、言っとくが嘘じゃねえぞ!?」

「分かってるよ、……マティアスとセザールはやっぱグルだったってことか」


 変なタイミングでここに向かったマティアスに、こいつらを雇ったセザール。

 ダチ同士らしいし不思議じゃないが、予想してた連中がこうも繋がってるとなると……アイツもか?って怪しくなってくる。


「グルだろうとなんだろうとかまいはしない、メリッサ様はご無事なのだろうな?」

「無事? あ、ああ、だと思うぜ。 マティアスがここにいる時は手を出すなって言われてたからな」

「それは本当だな?」

「本当だ! それにああいう気の強い女は苦手なんだ。 やっぱこう優しげな雰囲気って言うか、可愛げのある子じゃないいとなあ」


 バッカスがしみじみと頭に浮かんでいるだろう理想をの女性像を浮かべながらうんうんと言っている。

 それはつまりメリッサは可愛くないと?

 まあ、双子なだけに美人ではあるがなぁ……可愛げがあるかどうかと言われれば。


「ええ……頭、趣味悪いっスよ」

「なんだとう!?」

「 貴 様 の 趣味なんぞどうでもいい!!」


 サラの一喝に押し黙る二人。

 まあごもっとも。


「さて、こいつらも知らねえとなると……ん? クラリス?」

「…………」


 クラリスが俯いたまま動かない。

 何度か呼びかけてようやく顔を上げる。


「クラリス?」

「あ……あ、はい」

「大丈夫か?」

「え、ああ、えと……大丈夫、ですよ」


 大丈夫と言うその目は、目尻に僅かな涙を溜めていた。

 それがばれない様クラリスは目を拭いながら向き直る。


「何も得られなかったのなら、仕方ありません。 すぐに他の場所を探し――――」


 その時、外から連続で何かを打ち鳴らす音が聞こえてくる。


「何だ?」

「馬だね。 馬の足音」


 ハワードの言うとおり、それは馬の足音だった。

 一頭じゃないな。

 どうやらこっちに近づいてきているようだ。

 ひょっとして入り口でのモーリスさんみたいなファイエット家の私兵か?

 だったら何か聞けたらいいんだけどな。


「クラリスちゃん! 馬が来るよ、三頭。 騎士が乗ってる……けど、さっきの人とは違うっぽい?」


 足音に外を見たフランが近づいてくる馬の詳細を教えてくれる……が。


「さっきの人ってのは?」

「入り口でクラリスさまーって言ってた人」


 やっぱりあの人か。


「と言うことは、ケヴィン様の使い?」


 リゼットのセリフに、とりあえず敵でないことを安心して迎えるために外に出た。

 向こうから馬に乗って来るのは、モーリスと同じような装備をしたファイエット家の私兵が三人。


「何か分かったのでしょうか」

「それは聞いてみないと、わからないわねぇ」


 サラとリゼットも盗賊三人組を連れて出てくる。

 どうやらついでに行き渡すようだ。

 近くまで来た三人が馬を下りる。


「クラリス様」

「何か分かったのですか?」


 相手の言葉尻に被せるかのように食いつくクラリス。

 藁にも縋りたいという思いだろうか。

 とても妹思いなお姉ちゃんだ、羨ましい限りだよメリッサ。


「少々お耳を」

「はい……」


 他に聞かれたくないのか、クラリスに近づき耳元に顔を寄せる。

 ここまでなら、特に、何もおかしいところはなかったはずなのに。

 だけど、顔を近づけるそいつの手が後ろに回り、何かを握る。

 誰かが咳払いをして、後ろのサラたちに何かを話しだす。

 それと同時に引き抜かれたそれは……。


「実は……」


 短刀……!?

 俺はそれに気付くと同時に、反射的にクラリスの首根っこを掴み引き寄せる。

 とっさの事だったから加減せずに引っ張ったので、クラリスが野太い呻きを漏らす。

 そして突きだされた獲物を握るその手首を捉えた。


「おい……」

「チッ」

「てめえなにし……てえ!?」


 引っ張ったせいで倒れかけたクラリスは、俺の腕の中で訳も分からず呆然としたままだが、それには気にも留めない私兵は掴む腕を振り払い、剣を抜いて迷いなく振り下ろす。

 対応が早い……本気で殺す気だ。


「クソッ……!」


 とっさに左腕を振る。

 手甲が剣とぶつかり金属音を打ち鳴らす。

 あと少し行動が遅かったら間に合わなかった。

 目の前で逸らされた切っ先は、クラリスの足の真横に突き刺さる。


 二回目も外したと見るや私兵は剣を捨て、少し下がり腕を後ろに回す。

 また何か出す気か!?

 させるかっ!


「どぅぅっラアアッッ!!」


 低い体勢から飛び出し、身体を捻る。

 私兵は次の武器を取り出そうと腕を後ろに回したために反応が遅れる。

 その顔面に俺の回し蹴りが炸裂した。


「がはっ!?」

「コイツっ…… 一体何のつもりで!?」

「ちょおおお!? まえまえ!」


 倒れる私兵に疑惑を持つ暇もなく次は盗賊団のダニーが叫ぶ。

 すぐに振り向くと剣がぶつかる音が聞こえ、目の前でサラと2人目の私兵が鍔迫り合っていた。


「お、おい、待て!? これは一体どういう事だ!?」

「こ、こいつらひょっとしてあれっ、あれっスよお! 用済みになったあーしらを始末する的な感じのお!?」

「なにぃ!? アイツら俺らを裏切るってか!?」

「ば、バッカスー、オイラ死にたくないぞー」

「うるさいぞ! 喚くな!!」


 文句を言いながらサラが押し返し、二、三度切り結ぶ。

 だが僅かにサラが押されていた。


「くぅ……」

「サラちゃん! マスバレット!」


 援護するために鉄球を投げようと構えた時、先にフランが魔法を繰り出す。

 だがそいつはサラが下がると同時に体を逸らし、放たれた鉄塊を回避する……が。


「ハンマーガスト!」


 それを読んでいたかのように避けた先に風の塊が飛来して側頭部に直撃、そいつも地面に倒れ伏した。

 ハワードの魔法だ。


「ふぅ、大丈夫?」

「あ、ああ、助かった」


 どうやら何とかなった様だ。

 となると、三人いたから最後の一人は……。

 そいつは俺たちから距離を取り、こちらの様子をうかがっていた。


「あ、逃げた!」

「なに!?」


 だが状況は不利と判断し、すぐに踵を返して逃げ出した。

 まあそうするわな。

 でも逃がすわけないだろう!!


「待ちなさい!!」


 あの距離は遠投じゃ当たらないから、ハワードとフランに魔法をぶっ放すよう言おうとしたが、正気に戻ったクラリスが立ち上がる。

 蛇腹剣を抜き、逃げる私兵へと振りかぶる。

 剣は緑色の光を纏って伸長し相手の足首へと巻き付き、私兵は足を取られて転倒した。


「ぐ、クソっ……」

「なぜ、こんなことに……」


 クラリスが悔しそうに言葉を吐く。

 家族が誘拐されてどうなっているのか分からないのに、さらに身内の裏切りだ。

 内心複雑なんてもんじゃないだろう。


 身内の……裏切り……?


「なあ、まさかこいつらか? メリッサかっさらう手引きをしたのは」

「おい貴様! それはどういう事だ!?」


 声を荒げるサラを抑え、推測を述べる。


「メリッサだって騎士の訓練はガキの頃からやってたんだろう? 実力はある、しかも護衛がいた。 買い物に出かけた時は」


 しかも、さっきの盗賊の連中がさらいに行ったとして、アイツらの体格を思い出す。

 ……どいつもこいつもがっちりしたデカい図体ばかりだ。

 あんな連中が人さらいをしようと動いたら目につくはず。

 なのに、その時のことを調べたクラリス曰く、何の情報も得られなかったらしい。


 なのにメリッサだけ帰ってこなかった。

 護衛と馬車は無事で。


 なあ、護衛は何してた?


「クラリス、メリッサに付いていた護衛は誰?」


 そう言って私兵の兜を外し、そいつの素顔を露わにする。


「……彼ですわ」


 クラリスが一瞬言いよどむが、彼がそうだと言う。

 そして私兵は苦虫をかみつぶしたような顔。

 予感が的中しそう、嫌な気分だ。


「てめえらだな?」

「……」


 顔をそむけたまま何も言わない。

 ただ、かすかに聞こえた舌打ち以外は。


「当たりか……」

「何と言う事だ……まさか、貴様ら! 主を裏切り! あまつさえ命まで狙うとは!!」

「こっちを切って相手に着いた、理由は知らん、聞く気もない、メリッサは何処だ?」


 それでもこいつは何も言わずだんまりを決め込む。

 空がオレンジに変わりつつある今、鬼ごっこはもう終わりにしたいんだがな。

 なんか遊ばれてる感じもして腹が立つ。

 仕方ない、今度こそ殴り飛ばしてでも口を割らしてやる。


 しかし、次はどうするか決めた時、クラリスが突然動いた。

 縛る足を解いて代わりに首へと巻き付かせ、力任せに引いたそれは、その私兵も引っ張られて壁に叩きつけられる。


「ぐうっ!」

「く、クラリス様!?」


 冷静な思考と落ち着いた態度で常にともにいたクラリスの突然の荒事にリゼットが戸惑う。


「おいクラリス」

「裏切りも、貴方たちの目的も、今は何も聞いません……。 ただ、メリッサは……メリッサは何処にいるのです!! 答えなさい!!」


 今までの物腰とは逆転して声を荒げ、問い詰めるクラリス。

 剣を引くその手に力が入る。


「ぐ、うぅ……」

「共に育ち、同じ背を追って、互いに研鑽してきました……とても、大切な妹です。 父がいなくなっても、母やサラたちが、メリッサがいてくれたから……」

「クラリス様……」

「もう誰も、いなくなってほしくない!! 答えなさい!! メリッサは何処にいるのです!! 今の私は冷静ではいられません!! 手元が狂いますよ!!」


 涙をこぼしながら剣を握る拳を上げる。

 私兵の首に巻き付く刃が食い込み、血があふれだす。

 それは極僅かに、だが確実に、その首の肉を切り裂いていく。


 私兵ががむしゃらに首の刃を掴み拒もうとするが、明らかに力不足だ。

 手までが血に滲むが刃の進行は止まらない。

 睨むクラリスの目は明らかな殺気がこもっていた。


「ひっ!? が、あ……ああっ! 待て、わ、わかった! ひ、東だ! 東スラムの……東城門近くにむかったって……や、やめてくれえ!!」


 知っていやがった……。

 てことはマティアスかセザールのどっちかに引っこ抜かれてたわけか。

 私兵の悲痛な告白を聞き巻き付く剣の力を抜くクラリス。

 しかし、八つ当たりのように剣を振り、投げ飛ばされる格好になった私兵は壁に叩きつけられ気絶する。


「はぁ……はぁ……」


 地面に座り込み、息を整えながら俯き涙をぬぐう。

 その後ろ姿はか弱い女の子そのものだ、持ってる剣が異質に思えてくる。


「クラリス……」

「っ……、すみません、野蛮な真似を……」

「かまやしない、お前がやらなきゃ俺がやるつもりだったんだ、気にすんな。 ほら、後ちょいだ」


 励ましながら手を差し出し、クラリスがその手を取る。


「……」

「どうした?」

「え、あ、いえ……」


 ゆっくりと立ち上がったクラリスは、じっと手を見つめたままだ。


「ありがとうございます」

「おう」


 あいつらが一体何をしたいのかは分からん。

 だがあいつらと行き違ったのがついさっきなら、急げばまだ間に合う。

 人さらいに盗賊ども、人の命まで奪おうとする、堪忍袋の緒はとっくに切れてんだ。

 次で最後だ、きっちり落し前つけてもらうぞ、マティアス! セザール!



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