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第二十九話 スラムの盗賊

 どたばたとした仕事がひと段落する。

 上がってきた書類の確認に今後の方針を決める会議、王都の外から帰ってきた部隊からの報告、要観察対象者の動向の確認、王都内の警備状況など、一通りのことを済ませようやく一息つけるようになった。


「さてと、俺も昼食を、取るとしようかな……っと」


 座りっぱなしで尻が痛いし、背伸びをするといい感じにバキバキと音が鳴る。

 息を吐きつつ昼食の入った袋を取り出す。


「ふぅ、コイツを食うのも久しぶりだな」


 取り出したのはサンドウィッチの入った袋だ。

 南の商業区の端に昔からある小さなパン屋で、俺がまだ騎士学生だった頃は日もまだ昇らないくらいの早朝から友人たちと抜け出して買いに行ったものだ。

 放課後になると必ず売り切れていたし、昼休みに行ってもない、開店する時間を狙わないとめったにありつけない。

 そうしてまでも食べたい美味しさなのだ。


「最近は団長としての仕事も忙しくなってきたから、なかなか買いに行けなかったが……ふむ」


 さてと、それじゃあ遅めの昼食を……と言うところで、ドアの向こうからドタバタと近づいてくる足音が。

 ん? なんか近づいて来てないか? 

 おいおい、今から飯だぞ。 勘弁してくれ。


「ガラハッド騎士団長!! 失礼致します!!」


 まあやはり予想した通り、足音の主は俺のいる部屋の扉を開け放った。

 っといかん。


「お、おう、どうしたそんなに慌てて」


 とっさに持っていたサンドウィッチを後ろに隠す。

 時間がなかなか取れないから抜け出ゲフンゲフン、少ない時間を見つけて買いに行ったのがバレるのはちょいと恥ずかしい。


「お食事中申し訳ありません! すぐにお聞きしたいことがあり参りました!」


 おっとバレてる。 あ、袋を隠すのを忘れてた。


「ん? 聞きたいこと? 何だ?」




 そして俺は今現在。




「それは確かなんだな!」

「はい、間違いありません!」


 せっかくのサンドウィッチも飲み物と一緒くたに呑みこみ、味わう暇もなく城の廊下を早足で進んでいた。

 嫌な知らせが届いたからだ。


「先ほど騎士学校の警備隊に、ブロンデル伯爵の使いを名乗るものから新たな任務を伝えると。 内容は騎士学校の生徒、メリッサ・ファイエットの捜索。 数日前から行方が分からないと、何者かからそう通報があったそうで、すぐに捜索に当たるようにと」


 部下が事のあらましを簡潔に答える。

 真偽はともかく、事の重大さがわかっているようで言葉は少々早口気味だった。


「ブロンデル伯爵からの命令でしたが、現行任務を放棄するわけにはいかないので、六部隊の内二つを下ろしました」


 その後すぐにこちらへと判断を仰ぐべく来たと。

 現行任務を放棄せず、現状の戦力を鑑みて新たな命令にも対応し、報告に来る。 優秀な部下を持ったものだ。


「よし、その命令を出したのは伯爵で間違いないな?」

「はい」


 そして確認を取りながら着いた先は、そのブロンデル伯爵がいる部屋。

 少し乱暴にドアをノックして、失礼を承知で応答を待たずその扉を開ける。


「失礼します! ブロンデル伯爵!」

「んん!? お、おお君か、ガラハッド騎士団長」


 急に扉を開けたことに驚きつつも、それでも落ち着いた雰囲気を全身に纏う中年の男。

 この男がブロンデル伯爵だ。


 ベルナール・ブロンデル伯爵。

 騎士団は国が保有する軍隊組織だが、その全体的な運営を行っているのは騎士団に多額の資金提供を行っている複数の高位貴族たちからなる上位組織だ。

 このブロンデル伯爵も、その運営組織の一員である。

 騎士団、または現場で行動する騎士隊への直接的な命令権は、十家と呼ばれる十の王家以外は騎士団長、もしくは現場指揮官以外には原則(・・)禁止されている。

 命令系統の混乱を防ぐためにだ。

 しかし、その例外があるとすればこの組織に所属する貴族だろう。


 ブロンデル伯爵の名前が出た時、すぐにピンときた。


「ブロンデル伯爵、あなたが騎士学校の警備隊に出した命令について伺いたいことがあります」

「そのことで君の下に向かおうとしていたところだ。 足労をかけてしまったな」


 ブロンデル伯爵は、羽織る途中だったのか手に持ったままのローブをハンガーにかけて戻し向き直る。


「危急の事態だったので事後承諾となることについては謝罪する。 すまなかった」


 目を伏せ、ゆっくりと頭を下げ謝罪する伯爵。

 上位の貴族とは思えないほど礼儀正しい人だ。 財力や権力を多く付ければ態度が過剰に尊大になる者がほとんどだが、この人は声色や態度からも本気でそう謝罪していると感じ取れる。


「もうかまいません、部下の方が適切な対応を取ってくれました。 そしてその危急の事態とはメリッサ・ファイエットの行方が分からないという事も聞きました」

「そうなのだ、私もその知らせを聞いたのはさっきの事でな。 最近になって教会に姿を見せないから心配になっていたのだ」


 確か、ブロンデル伯爵はメリッサを同じくイシュベル教徒だと聞いている。

 教会では一緒に祈りをささげ、よく話をしたとメリッサから聞いている。


「バルドアが王都内に現れ、騎士学生を狙っているという事もある。 まさかと言う事態もないと言い切れない現状、あの子の事を知っているからこそ心配でならないのだよ。 すぐに動かせる騎士隊に命を出そうにも警戒網を薄くするわけにはいかんから数にも頼めん。 学校の騎士隊ならばすぐに動けるとおもって命令を下してしまった。 すまない、どうか捜索を続行してほしい」


 そう言ってもう一度深く頭を下げる伯爵に、そこまで言うのであればと思ってしまうあたり、私も甘い。


「……分かりました、そういう事情であれば止める理由はありません」

「そうか、感謝する」

「それでは、失礼します」

「よろしく頼む」


 お互いに礼をして退室した俺は、すぐに部下を連れて外に向かう。


「メリッサの行方不明について私の所に報告が無かったのはなぜだ?」

「おそらくですが、ファイエット家は30年前にザントライユ国領で発生したダンジョンによる被害からの復興を目的とした経済支援政策を取り仕切っています。 最初は支援者が乏しく上手く回らなかったようですが、公爵号になってからはそれに参入するものが増えようやく手が付き始めたということです。 メリッサ嬢が誘拐にしろ迷子にしろ、現在の自粛令が出ている時の事件。 ほんの些細な事で信用が揺らぐというのは貴族の間ではよくあることですので」

「そのせいで支援政策が滞るのを恐れた結果か」

「十分考えられます」


 ぬう……どちらにしろ、バルドアがうろついている時にこの事態は見過ごせん。


「それと先ほど、学校の警備隊から小霊で報告が。 クラリス・ファイエット以下六名が昼辺りから学校にいないという事です。 仲間を連れて捜索に向かったのではないかと思われます」

「なに!?」


 おいおいおい、勘弁してくれ。

 今年の一年は血気盛んな奴が多い気がするぞ。


「あーもう! すぐ学校に向かう!」

「馬はもう用意してあります」


 ……優秀だなぁ。

 何故か行動が読まれていたことに内心苦笑した。


 すまないがクラリス、私も騎士団と言う立場がある。 

 貴族の矜持までは守りきれんぞ。






 ~~~~~~






「うおらああああっっ!!!!」


 いかつい風体の男の顎を思い切り殴りぬける。

 ガクンと頭が90度曲がり、力が抜けたようにばたりと倒れた。


「このクソガキィ!!」

「のわっ!?」


 倒れた男の後ろから新手が迫り両腕を振り上げる。

 俺の頭をかち割らんと振り下ろされる斧をかわし飛び退く。


「クソが! まだいんのかよ!」


 スラムへと突入し、目的の場所へと走っていた俺たちは……。


「無駄口を叩くなリューマ! 気が散る!」

「それはフランに言え!」

「うわーん! 囲まれたー!!」


 絶賛包囲されていた。

 騎士団が動いていると聞いた俺たちは、騎士団よりも早くメリッサを見つけるためスラムへと突入したのだが、ものの数分でワラワラと見た目で山賊ですよと言っているヒャッハーな連中が群がりはじめた。

 最初は前方にいるやつらだけ蹴散らし、駆け抜けていたのだが続々と増援が現われ……。


「皆さん! 離れすぎないよう注意してください!」

「分かってる!!」


 この有様である。


「離れないから早く何とかー!!」


 フランが半ば逃げ腰になりながら、でたらめに魔法をぶっ放している。

 それが盾すら凹ませるほどの鉄塊を飛ばす魔法だから、体に当たろうものなら打撲では済まないだろう。

 何気に今フランの戦果が一番高いかもしれない。


「うわーん! くるなくるなー!! マスバレットマスバレットマスバレットマスバ(以下略……」

「いでえええ!! う、腕があ!?」

「ぶべらっ!?」

「お、おいどけ!? 避けらんねえだろうが ぐはあっ!?」

「こっちの援護は……いらないかな?」


 まさに阿鼻叫喚。

 盾が砕かれ腕がへし折れ、顔面に直撃すれば血をまき散らしながら吹っ飛んで行く。

 これはひどい。

 若干ハワードが引いた。


「あっちはフランに任せとけばいい……なっ!」


 剣で相手の攻撃を払いのけ、空いた顔に柄を叩きつけ仰け反ったところにもう一度叩き込む。

 鼻を押さえて動きを止めたところをすかさずサラが首を切りつけ止めを刺す。


「くっ、この無法者どもめ、一体どこから……」


 体格差で圧倒的に勝る相手に、攻撃をいなしながらステップを交えつつ華麗に回避するサラ。

 敵の攻撃の前後にできる隙を突きながら、最小限の動きで斬り伏せる。


「無法地帯なんだろう!? こんだけ住んでたって事か!?」

「いえ、見た目はバラバラですが武器に統一性があります! おそらく何者かが出引きしたのではないかと!」


 剣を構えつつ魔法を撃ち相手を退けるクラリスの言葉に、連中の武器を注意深く見てみる。

 武器の形は様々だが似通った意匠が多くある。

 正直俺からはそこまでの違いなんざ見切れない。

 ここはクラリスの言葉を信じるとして……。


「とりあえず現状の打開策は!?」


 右から左からと遅い来る剣戟をなんとか防いでいくが、圧倒的数で徐々に押されている。

 このままじゃ圧殺される! 男相手にそれは勘弁!!


「それは講じておりますが……皆の位置が!」


 クラリスの言葉に一度大きく下がって周囲に素早く視線を巡らせる。

 道沿いにある建物を背に進行方向側にクラリス、その反対にフラン、二人の間にハワードとリゼット、そしてその列の横っ腹を守るために前に出る俺とサラ。

 正直人手不足だ。

 数を相手にするには壁が薄すぎる。

 しかも最初の奇襲で最後尾にいたフランが足止めを食らい、フランの位置が俺たちより離れすぎている。

 ハワードがフォローに入るが正直心もとない…………と思っていたがなんとかなりそうだ。


「こっちは大丈夫! リゼットさん! 今のうちに!」


 ハワードがリゼットに合図をする。


「りょーかい! じゃあみなさん、こっちにあつまって!」

「何だ?」

「いいから来い!!」


 リゼットの合図にサラが俺を引っ張り、クラリスも敵を魔法で押し返しリゼットの近くへと寄る。


「フランさん伏せて!」

「へ? うわあっ!?」


 ハワードがフランを押し倒すように地面に伏せると、それと同じくしてリゼットが掲げる杖の先に黄色の魔法陣が浮かび上がり強く輝きだす。

 そしてリゼットが詠唱する。


「求るは雷閃、撃ち払うは光鎚、ボルトブレイク!!」


 一瞬の閃光と同時に耳がいかれそうなほどの轟音を響かせながら、一筋の雷光が群がる賊に向かって駆け抜けた。

 その一瞬の一撃は、一人の賊の真横に着弾し、地面を焦して抉る様に砕けた。


 そして、リゼットとその敵との間に残っている稲妻の軌跡と抉られた足元の地面を見て敵に動揺が走る。

 あれを喰らえばただじゃすまないと。

 そして俺は耳が痛い。


「んなあ!? な、なにが、何が起きた!?」

「魔法だ! や、やべえぞ、まだ魔導士がいやがった! こっちには魔導士がいねえぞ!!」


 賊どもがさっきの魔法の威力を見て、俺たちから距離を取り始める。

 それを見て次はクラリスが動いた。


「ハワードさん! フランと共にこちらへ!!」


 クラリスが体を起こしていたハワードたちに呼びかけこっちに来るよう促し、ハワードがすぐに応えてフランと共に駆け寄ってくる。


「クラリスさん!?」

「皆さんそこから動かないように! 薙ぎ払います!!」


 ナイトソードを地に突き刺し、手にかけたのはナイトソードとは別に携えたもう一本の剣。

 金色の天使の羽を模した装飾がされた細身の剣を抜き、横に薙ぎ払うための構えを取る。

 その刀身は薄く光を纏っている。


「ふっ……せいっ!!」


 クラリスが大きく呼吸しながら剣を回すように大きく振る。

 するとクラリスの剣がバラバラになり鞭のように、いや新体操のリボンのように大きく円を描いていく。


「うわっ!? 何これ!?」

「蛇腹剣か!」


 フランが目の前の光景に驚く。

 バラバラになった剣のパーツ一つ一つが光の筋を通して繋がり、新体操のリボンのような一体感のある動きを見せる。

 クラリスが抜いたもう一つの剣は、蛇腹剣とも呼ばれる剣と鞭の二つの特性を持った武器だ。

 かっこいい。


「はっ!!」


 そしてもう一度薙ぎ払うように振りかぶると、俺たちを囲む程長大な円が敵に向かって素早く広がっていく。


「なに!? ぐあああっ!?!?」


 敵の数人がその円にふれた瞬間に切り裂かれる。

 刃のついた一つ一つのパーツが高速回転しながら当たった複数の敵を抉りとるように、まるでチェーンソーのように切断するのだ。 

 クラリスが2、3回剣を振るだけで、さっきまでの何十人といた賊どもが僅か4人にまで激減していた。

 マジかよ……。


「ふぅ……っと、もう大丈夫です」


 クラリスが巧みに剣を操作し、広がっていた刀身を元に戻す。

 それを見た瞬間、生き残っていたやつらが蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「おい、アイツらは!?」

「かまいません、今スラムの外は騎士隊が警備に当たっています。 そのうち捕まるでしょう」


 そう言って剣を鞘に戻し、ハワードとリゼットに何か指示を出している。

 その凛々しい姿は中々様になっていた。


「そんなもん扱えるのか」

「まだこれ位の事しか出来ないですけどね」

「これ位って、まだ上があるのか。 すごいな」

「そうだろう、すごいだろう。 これがクラリスさまの実力だ」


 何でお前が誇らしげなんだ。

 言っとくがお前の方が活躍は地味だったんだからな?


「それは貴様もだろうが!」


 ぐ、痛いとこ突きやがる。


「クラリスちゃん? どうしたの?」


 フランが問う先に視線をやると、クラリスが倒した敵のそばでしゃがんで何かしようとしていた。


「何してんだクラリス? 剥ぎ取りか?」

「し、してませんよ!?」


 クラリスが珍しく慌てた。 

 ほほう怪しいな。


「クラリス様がそんな事するわけないだろう!!」

「わ、分かった、悪かったから!!」


 耳元で叫ぶな、唾が飛ぶだろばっちい。


「リューマさん、これを見てください」


 そう言ってクラリスが見せてきたのは、賊が使っていた剣だ。

 受け取ったそれをよく見てみるが、俺には何の変哲もないただの剣にしか見えない。


「ここを見てください」


 どうやら見当違いの場所を見ていたようで、クラリスが刀身の付け根を指さす。

 指し示す先には紋章のようなものがついていた。


「紋章……か?」

「はい、これはとある武器の作成と売買を行う商会が使っている紋章です。 そして、この商会はセドラン領を本拠地としています」


 ん、セドラン領? どっかで聞いたような……?


「セドラン……セドラン……あ、セザールの」

「はい、セザールの父、サロモン卿が預る領地です」


 そっから流れてきた武器を使っているてことは……。


「クラリスさま~、他の武器も調べましたけど、同じ紋章が入った武器が多数ありましたよ~」

「それも、全部真新しいものばかりだ。 ついこの間新調したみたいに」

「やはり……リューマさん、その商会ですが、彼らの商業ルートはセドラン領を含むザントライユ国領の一部を中心としていますが、この王都まではその足は伸びていません。 この王都に出せるほど大きな組織ではないからです」


 それなのについさっき買ったばかりのようなピッカピカの武器を装備していた。

 しかもそれを装備した奴がたくさん。


「そこで買い付けたの持ち込んで、やつらに渡した?」

「おそらくは、一両日中に手配できるものではありませんので、以前から計画していたのでしょう。 よその領地でやれば足がつきますが、自分の領地なら多少の誤魔化しは利くと思いますので」


 計画的犯行か。

 いやでも、メリッサをさらうのにこんだけの武器が必要か?


 そもそもアイツら、セザールかマティアス、あの二人はメリッサをさらって何しようってんだ?


「行きましょう、もうすぐです」

「あ、ああ」


 浮かんだ疑問はクラリスの声に一旦胸の奥にしまわれたが、そのせいか妙なモヤモヤが残った。


 そしてそれ以降、敵の襲撃もなくあっさりと目的の場所に到着した。

 さっきのアレでほとんどやられたらしい。

 到着した俺たちは念のため周囲の索敵を行う、


「そっちはいたか?」

「ううん、いない」


 潤いの館の周りを調べたが、どうやら敵はいないようだ。

 無防備ってのが気になるな。


「罠か?」

「だとしても、調べない事には判断が付きません」

「だな」


 クラリスの判断に賛成する。

 中へ入るのは俺とクラリス、ハワード。

 残りが外の警戒のために残ると言う配置になった。


 サラが不満を漏らすがそこはクラリスの説得に渋々応じて事なきを得た。

 そんな事で時間を取ってるわけにもいかないしな。


「じゃあ外は頼むぞ」

「まっかせてよ! だから早く見つけてきてね!」

「おう」

「クラリス様とメリッサ様に何かあったらすぐにお前の所まで行ってたたっ斬るから覚悟しろ、それから」

「お、おう」

「は~い、サラちゃんはこっちね~」

「お前、てっこぉ~!? おい待てちょっと!? まだ言いたいことが!?」


 長くなりそうなのを察したリゼットがサラを引っ張っていく。


「コホン、サラがすみません」

「いやいいよ、んじゃ行くぞ」

「はい」

「うん」


 2人が頷いたのを確認して建物の入口へと静かに、素早く近づく。

 ドアに手を当てるのと同時にハワードが魔法の発射準備をする。

 既に握って居る杖の先には小さな魔方陣が展開していた。


「龍真君、開けて」

「おう……せい!」


 ハワードの合図に俺はドアの真ん中を思いっきり蹴り破り、勢いよくドアが開くと同時に俺は身を隠し、ハワードが素早く中に向かって、魔法陣が浮かぶ杖の先端を構える。


「ハンマー……ってあれ?」

「どうした?」

「ハワードさん?」


 杖を構えたハワードが困惑して詠唱を止める。

 どういう事だという目で俺を見た。


「誰も……いない」

「いない?」


 俺も顔を出して覗き込むが確かに誰もいなかった。

 入ってすぐの広い場所、おそらくエントランスには丸テーブルと椅子が散乱していて、チェックインする

 奥のカウンターには窓から光が差し込み、舞っている埃が光を反射してキラキラしていた。


「どうしたの?」


 扉を開けたものの一向に中へ入らない俺たちにフランが心配そうに聞いてくる。


「いや大丈夫だ、そのまま警戒頼む」

「うん、気を付けてね」

「ああ」


 そう返事して中に入った俺たちは、すぐに周りの捜索を始める。

 カウンター裏、にはいない。

 奥の通路や各部屋の扉を開けるなりして探してみるが、やはりもぬけの殻だ。


「罠?」

「……」


 俺の言葉に今度は沈黙で答えるクラリス。

 とりあえず次は2階を探してみるか。


「とにかく奥を探してみよう。 罠の可能性もあるから……龍真! 足元!!」

「は!?」


 こっちに振り向いたハワードが急に声を張り上げる。

 そのセリフ通りに足元を見ると、何もない所に光の筋が強く輝きだした。

 これは……魔法陣!?


「リューマさん!」

「っ! クソったれ!!」


 クラリスの言葉に我に返った瞬間、すぐに前へと飛び込んだ。

 次の瞬間、俺がいたところより少し後ろ、この建物の入り口を壁ごと塞ぐように岩が隆起して巨大な壁を作り出す。

 その岩塊は天井すらぶち抜いて木片を降り注がせる。


「なっ!? なに!?」

「龍真! 大丈夫!?」

「お、おう」


 ハワードに手を借りて立ち上がった俺は、カウンターの上、階段を上がって2階の奥につながる通路を警戒するクラリスが目に入る。


「クラリス? 何かいるのか?」

「はい、気を付けてください」


 その言葉を合図に俺とクラリスが剣を抜き、ハワードが杖を構え直す。


「ふふん、なかなかやるじゃあね~か、クソガキども」

「ああ?」


 野太い声が聞こえ2階の通路の奥から誰かが出てくる。

 身長は高い、普通に2mは行きそうで筋骨隆々の偉丈夫。

 そして、やっぱり見た目で悪い奴だぜと言いふらしているかのようないかつい装備。

 装備だけは外の連中よりもヤバいかもしれない。

 そんな大男が出てきた。


「ぐふはははぁ~、さあ~てクソガキども、お掃除の時間だぞ?」


 まごうことなき敵だ。

 デカいその手に握る斧が鈍い光を放っていた。






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