第二十七話 あの野郎どこ行った?
珍しいと言えば珍しいが、もうすぐ昼休みも終わりに近いため食堂はもう人気がまばらになりつつあった。
残ってるのは一番遅くに昼食にありつけた人たち位だ。
だからか、ほとんどの人が授業に遅れないよう急いでご飯をかきこんでいた。
まあ俺は昼飯にありつけずに事後処理だけどな、くそぅ。
「はあ、はあ、クラリス、まだいっかな?」
急いでここに来たものの、さっきの戦闘含め待たせすぎたからな。
もう教室に帰っちまったか?
食堂を奥の方へと進みながら周囲へと目を走らせる。
近くにいたやつが、俺が速足で通り過ぎていくので何事かと視線を上げて、目を見開き咽た。
「あ! アカホ・リューマ、貴様!」
「あ? あ、いた」
俺の知ってる中で、珍しくもフルネーム呼びするやつは今現在一人しかいない。
クラリスの取り巻きーズの一人、サラが立ち上り俺を睨みつけていた。
その隣にはやはりクラリスと、取り巻きーズの片割れリゼットもいた。
「貴様、今までどこにいたんだ! 自分からクラリス様を呼び出しておいて……って何だその恰好は!?」
そう言われて自分の服を見る。
風が土ぼこりをまき散らし火の粉が服を焦がしたので所々煤けたように黒くなっていて、右脇は黒く燃え散り肌の赤い火傷の後を見せている。
「ボロボロじゃないか!?」
ボロボロですやん。
「リューマさんいったい何があったのですか!? その傷はいったいどうされたのですか!?」
口を開けて呆然としていたクラリスが戻ってきて早口に捲し立てる。
「なにっていろいろ、まあそのことについてはちゃんと説明するから……お?」
首筋から何か垂れてる。
手で拭うと手が赤くなった。
ああ、あいつの血だ。
全部固まったと思ったらまだ残ってたか。
「リュ、リューマさん!? ち、血が! すぐに治癒を!」
「ああいいよいいよ、俺のじゃないから!」
クラリスが駆け寄ってきて、首にかざす手が淡い緑の光を放ち始めるが、俺はクラリスを落ち着かせてやめさせる。
そういうのが効かないってのは、別に隠してる訳じゃないが言いふらさないよう校長にも言われてるしな。
「おい、どういうことだそれは」
「どうもこうも、一戦やり合ったんだよ」
「一戦?」
サラの言葉に返しながらとりあえず首筋を拭っておく。
べったりついた。 うわぁ。
「あの、首の血は大丈夫でもこちらはそうはいかないでしょう。 せめてこちらの方は……」
クラリスが火傷の後を見て心配そうに治癒を進めてくれるが、それも断る。
「ああ、いいってば、俺あんまそういうのには頼らない主義なんだ。 そこで氷嚢でももらうから大丈夫だってば」
出来れば効かずともその優しさにあやかりたかった!!
が、この格好が格好なだけに少人数ながらも注目を集めつつある。
早くハワードらのとこに戻らねえと。
「しかし……」
「とりあえず遅れて悪かった、いろんなこと話さなきゃなんないから付いてきてくれ、場所を変えよう。 ここじゃまずい」
「そうですわね、こんなに埃っぽいと、いろいろとごめいわくですし、ね?」
今まで静観していたリゼットが立ち上がり、率先して二人を誘導する。
「貴族棟の裏だ、ハワードたちがいる。 先に行っててくれ」
「りょーかーい」
ふわふわと返事をしながら、二人を連れて出ていく。
さて俺も氷嚢をもらおう。
ヒリヒリするんだ、やせ我慢はつらい。
少しして袋に水と氷をぶち込んだだけの簡素なものをもらった俺は、患部を冷やしながらハワードらの元へと急いだ。
来る途中で鐘の音が鳴ったが仕方ない、先生にはあとで適当に理由を付けて謝ろう。
「あ、帰ってきた」
せっせと実行犯どもを縛り上げる作業をしていたフランが俺の足音を聞いて顔を上げる。
「わりい待たせた」
「龍真君、火傷は大丈夫なの?」
「ああ、こんくらいなら問題ねえよ」
縛り終えたハワードも声をかけてくる。
校舎の壁にはハワードとフランによって両手足を土っぽい何かで縛られた連中が力なくもたれていた。
「終わったみたいだな。 てか何で縛ったんだこれ?」
「ハワードの魔法だよ」
「ああ、そういうこと」
土属性の魔法とかで縛ったのかな?
こう、バインド! みたいな。
「リューマさん」
「ああクラリス、まあ、見ての通りだ。 これが原因」
この有り様という風に両手を広げつつ、食堂での俺の格好についての理由を見せる。
「はい、先ほどハワードさんとフランさんにもお話を伺いました。 私を騙り、ここに誘い出されて襲われたと」
「ああ、で、あの横になってるのがこいつらのリーダー各だろう」
寄り添うように壁にもたれている共謀犯どもの横で、苦悶に満ちた表情で気を失っている生徒を指さす。
それを見てクラリスは首をかしげた。
「彼が、そうなのですね……いえ、しかし、なぜ彼はあんなにも苦しそうにしているのですか?」
「それについては何も聞かないでくれ、頼む、マジで」
「え……あ、はい、分かりました……?」
何故苦しそうなのか分からないから不思議な表情でそいつを見るクラリス。
そいつの顔をしばらく見ていたが、はっと何かに気づき顔を上げる。
「クラリス様?」
「彼は、もしやベルグニウー辺境伯の……」
クラリスがポツリと誰かの名前をこぼす。
べる……なんと?
「ベランジェ卿の末弟、だったと記憶してますけど」
リゼットがそう付け加えるが俺は知らんぞ?
「誰それ」
「ベランジェ・ベルグニウー辺境伯、ヴァロア国領内のザントライユ国領に近い位置に領地をもつ貴族だ。 確か、マンディアルグ侯爵家に付いていた属家だったか」
「ぞくけ?」
ベルグニウーってのが伯爵でザントライユのお隣に領地があるってのは分かった。
属家って何?
「家同士の主従関係で従者の方の家の事だよ。 ベルグニウー辺境伯家はマンディアルグ侯爵家に仕える従者の家系なんだ」
ハワードがそう補足してくれた。
俺の周りには頼りになるのが多くて助かる。
「それは前言ってたガーディアンとかとは違うのか?」
「属家は古くからある主従関係で、両者の同意があれば結ぶことができます。 しかし、ガーディアンは言わばその実力を認められ、王家、またはそれに連なる親族、公爵家より、身を守る剣、そして盾として傍に仕えることを許され与えられる称号。 侯爵や伯爵などの爵号と似て非なる、王家とその親族たちを守る専用の称号みたいなものですわ」
そしてクラリスも要約して教えてくれた。
「ガーディアンは色々めんどくさいことしてなるもので、属家は、『おうお前属家な』 『OK』 で成り立つものってことか」
「随分軽い関係ね~」
「あながち間違っていないのが腹立たしい」
サラのジト目は気にせず本題に入ろう。
「えーっととりあえずだ、この主犯野郎がそのベルグニウーの息子ってのは分かった。 それで話しは変わるがマティアスってやつ知ってるか?」
「マティアス!?」
「おうっ、どったの!?」
サラが名前を聞いて声を荒げる。
俺がびっくりするわ、なんだよ。
「リューマさ~ん、まさかマティアスさんが彼らをけしかけた、とでも言うのかしら~?」
リゼットさん鋭い。
ぐうの音も出ねえ程の正解。
「その通りだよ、マヌケにも誰がけしかけたか教えてくれたよ」
「……」
「クラリス?」
俺の言葉を聞いてクラリスが考え込む。
その間クラリスの顔をじっと見るが、やっぱすげえ美少女だよなこの娘。
サラに睨まれたところでクラリスが顔を上げる。
「リューマさんが私たちの所へ来る前、ひょっとしてメリッサのクラスに行きましたか?」
「ああ行った」
「その内容を聞いても?」
「ああ、えーっと……セザールの事を聞いてみようって思って行ったんだ。 そしたら、聞いてる途中でなんかいけ好かん奴が出てきてな、邪魔されてそれ以上聞けそうになかったからメリッサの事も聞いてみようと思ったんだけど、またそいつが急に止めに入って結局何もわからずじまい、さらにそいつが何者か知らんし怪しいしで」
「結局何も聞けずに尻尾巻いて帰ったってことね?」
「おうそうだよ」
リゼットの言葉が耳に痛い。
「でもまあ、そこのベルグニウーの息子ってのが、そのいけ好かんやつがマティアスだってのを教えてくれてな」
「そうですか……」
「クラリス様、やはり……」
「ええ……」
どうやらクラリス達は何かしらの答えにたどり着いたらしい。
2人して頷き合っている。
「どうした?」
「アカホ・リューマ、お前の言うマティアスだが、そいつはマティアス・ラ・マンディアルグで間違いない。 ベルグニウー辺境伯の主家で、クラリス様のファイエット家と同じガーディアンの家門だ」
「あ~……なるほど、家同士が主従関係だから、その家の子供もそういう関係になってるのか」
「そう言うことだ。 それともう一つ、マティアスとセザールだが、アイツらは個人的に友人同士でもあるらしい。 よく二人で話しているのを見た」
「なに?」
マティアスとセザールが?
正直マティアスの堅物なイメージと、セザールの軟派なイメージのせいでなんで友人になれたのか分からない。
マティアスとセザールの関係を不思議に思っているとクラリスが聞いてくる。
「リューマさん、そのマティアスさんのことですが……二限目の途中で体調不良を理由に学校を早退されているのです」
「え、体調不良!?」
アイツが? 気分悪そうには見えなかったぞ?
しかも二限目の途中って、俺が第二クラスにいった直後じゃん。
「ああ、途中……というか、二限目の鐘が鳴って先生が入ってきたそのしばらく後にだ。 気分が優れないと訴えて、荷物を持って早々に教室を出て行った」
そうサラは言うが、途中じゃなくて直ぐじゃねえか。
「ワンちゃんが聞きに行って~、マティアスに追い返されて~、その後すぐに早退して~、お昼のこの事件~……どう思う? って聞くまでもないわよね~」
ワンちゃん言うなと抗議の視線を送るがうっふっふ~っと流された。
「これはもう黒です。 間違いなく」
「ああ、俺も真っ黒だと思うぜ」
サラの言葉に俺も頷き、ハワードも同意した。
「僕もそうだ思う、セザールの事を聞いたとたん目の色を変えて近づいて来たし、何よりメリッサさんについて聞こうとした時も不自然だった。 さすがにあの直後のこれは疑いようがないよ」
最初はセザールの事を聞こうとして失敗したと思ったが、怪我の功名ってやつだ。 やつだよな?
セザールとマティアスが友人関係でつながってるなら、今セザールがどこにいるか知ってるかもしれない。
むしろこの襲撃をかましてきた位だ、繋がってると見ても納得いく。
「そうですね、関連性はあると見て間違いないでしょう」
「おし、じゃあまずはセザールの居所を知ってそうなマティアスがどこにいるか、聞き出すとしますか」
そう言ってまだ呻いているベルグニウーの息子を見る。
今度の情報収集は失敗しないぞ。
「おい、こら! 起きろ!!」
とりあえずこいつをひっぱたいて目を覚まさせる。
3、4発叩いたところで目を覚ました。
「う、ぐ……ぁ、あ? こ、ここは……ん? な、なんだ!?」
目を覚まして体を起こそうとするが上手くいかずもぞもぞと這いずっている。
自分の体の不自由に築いたそいつは手足が縛られていることに気づき驚愕した。
まあ心中察するよ。
「おう起きたなこの野郎」
「な、貴様は!? こ、これはいったいどういうことだ!」
「自分の胸に手を当ててよう考えてみろクソッたれ」
「手縛られてたら無理だよね?」
はいフラン余計なこと言わない。
「き、貴様ら! 俺にこんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「ああ? 知るかよんなもん」
こいつ、捕まっといてなんつう言い草だ。
それよりまず聞くこと聞かねえと。
「てめえことなんざどうでもいい、単刀直入に聞く、マティアスはどこだ?」
「な、なに? さ、さあ、知らんな」
「知らねえわけねえだろうが……!」
「知らないものは知らない、それよりも早くこの拘束を解け! 辺境伯家であるこの俺にこんなことをして、どうなるか分かっているんだろうな! もう普通の生活は送れないぞ!」
「この野郎、脅しができる立場かよ」
手足を縛られているくせに上から目線で吠えるこいつに腹が立ってくる。
先にやってきたのはてめえだろうが!
「当然だろう、貴様はただの平民、俺は貴族だ。 これが終われば今のありのままを報告させてもらう。 そうなれば貴様らは終わりだ、なにせただの平民が貴族に手を出したんだからな」
「てめえ、でけえ口叩くのもいい加減にしとけよ?」
血が上りつつある頭で考えることなくこの野郎の胸倉をつかみあげた。
どう考えても立場が分かってねえのはこいつだろうが!
「ははっ、殴るのか? やってみろ、侯爵家の人間を殴ったとなればただの平民の貴様は牢屋行き、最悪極刑にだってできる、本当に終わるぞ? まあこれを解いて謝ると言うなら、目を瞑ってやらんこともないがな」
「ああそうかい、じゃあ……」
拳を握りこむ。
俺の堪忍袋の緒は切れやすいんだよ、ちと我慢の限界だ。
一遍このクソ野郎の顔面をぶん殴ってやろうかと思ったその時、拳がそっと誰かの手に包まれた。
振り返るとリゼットがいた。
「随分とお口が達者ですね~、ベルグニウーさん」
「え……? な!?」
リゼットが俺の後ろから出てきたことに気付いたこいつは、今ようやく俺の後ろにいる連中にも目が行ったようで、その顔を威勢のいい表情からすぐに強張らせた。
「な、なぜ貴様らが、ファイエット家がこいつらと……ここに……!?」
「あら~別にどうして私たちが彼らと一緒にいるかどうかなんて、貴方には関係ないでしょ~? それよりも、貴方をけしかけたマティアスさんがどこにいるのか、教えてもらいたいのだけど~?」
さっき触れた手の温かさはこいつの手か。
しかしその言葉尻からにじみ出るものは凍えるほど冷たい。
威圧感が違いますよ。
「だから、知らぬと言っているだろうが!」
「今ね、セザールさんにとある嫌疑がかかってるの。 でもそれを調べようとしたらマティアスさんがどういうわけか妨害してきて、そのせいでマティアスさんにまでその嫌疑が及んでるの。 共謀じゃないかって」
「何をバカなことを!! 言いがかりも甚だしいぞ!」
「でもセザールさんとマティアスさんには友好があるし、彼が友人を守ろうとしてるかもしれない。 だから、それを調べている彼らを消そうと、貴方をけしかけた」
ベルグニウーに顔を近づけながらささやくように話すリゼット。
静かな威圧感にベルグニウーは体をゆすって這いながら後退していく。
「き、貴様、マティアス様が犯罪の片棒を担いでいると言うのか。 何たる侮辱か!」
こいつの糾弾にはものともせず、リゼットは耳元でささやく。
「でもこちらは公爵家が指揮を執ってる、その下となる侯爵家ならその協力には応じなければならないわよね。 でも彼は賢いから、害が及ぶとなればすぐにあなたを切り捨てるわ。 ある嫌疑はとっても重罪なものなの、もしそうなら……終わっちゃうのはどっちかしらね?」
リゼットがさっと立ち上がり俺の横まで戻ってくる。
ベルグニウーの顔には冷や汗が流れていた
「重大よね? なにせ公爵家に牙を向けたもの。 伯爵家がやったとなれば、これはもう立派な国家反逆罪になりかねないわ~」
「なっ……!?」
「え、マジ?」
さらっと凄まじいセリフが飛び出したせいで素でこぼしてしまった。
「え~マジよ~、だってご存知の通り公爵位は王家の親族、本流でないとはいえ……ね~?」
「ん……ぐ……」
ベルグニウーがさっきの勢いが嘘のように黙っている。
「爵位剥奪じゃすまないかも、それに加えて国外追放……もしかしたら……」
リゼットがゆっくりとかがみながら顔を近づけていく。
もうベルグニウーの顔には血の気がない。
「一族郎党……――――かもね?」
こいつにだけ聞こえるような小さな声でベルグニウーに最後の言葉をささやく。
額からはダラダラと冷背が零れていた。
「ね? 彼らを襲ったのは、ひょっとしたらそれとは関係ないことかもしれないし、目をつむってあげることもできると思うの。 主を思うなら、その嫌疑を晴らすためにもマティアスさんの居場所を教えてほしいな~」
「ぁ……ぐ……」
ベルグニウーは震える唇を噛みしめながら口を開くのを躊躇ったが、ついに陥落した。
「わ、分かった……マティアス様は、潤いの館にいる」
それを言い終わった途端、周りの固まった空気が和らぐのを感じる。
ふひ~……やべえ緊張感、口ん中カラカラだ。
ちょー怖ええ。
額の汗をぬぐっているとリゼットが近づいてきた。
いつもの営業スマイルに冷えた雰囲気はもう感じない。
「相手から情報を聞き出すときは、相手より立場が上、それでなくともせめて対等であると示さないとダメよ? じゃないとさっきみたいに舐められて有耶無耶にされるか、逆に余計なことを言って情報をとられてしまうこともあるんだから。 よく覚えておいてね、ワンちゃん♪」
「お、おう」
「リゼット、よくやってくれました」
「お褒めに預かり光栄ですわ、クラリス様」
やっぱりこの子にはなんか腹黒さを感じるな。
いやまあとにかく、ようやく口を割ったんだ。
マティアスは潤いの館ってとこにいるらしい。
「マティアスは潤いの館か……ってどこだ?」
館って言うんだから建物だよな?
旅館か?
「ふむ……聞いたことないな」
「私もないわね~、クラリス様はご存知ですか?」
「いえ、私も聞いたことのない場所です」
どうやらクラリス達は知らないらしい。
「ハワードとフランはどうだ?」
「ぜーんぜん」
「うーん、どうだったかな……ん~……」
どうやら二人も知らなさそうだ。
さすがに名前だけじゃどこにあるか分からないか。
「おいベル何とか、その潤いの館ってのはどこにある」
「ベルグニウーだ! 場所は知らない!」
「貴様、まだ白を切るか!」
サラが詰め寄るが、ベルグニウーは慌てて付け加える。
「本当だ! そこに行くとだけ聞いて、どこにあるかまでは知らない! 私も初耳なんだ!」
そう必死に訴えるこいつの目をリゼットがじっと見つめる。
「嘘は言ってなさそうだけど?」
「クラリス様を騙るやつだ、信用できるかどうかも怪しい」
「とりあえずああだこうだ言ってても仕方ねえ、そこを探して行ってみようぜ、そんで嘘だったら……これでいいんじゃねえか?」
左肩から親指をスー……っと反対側に滑らせる。
ほんとに知らないと言ってるんだ、あんだけ言われてまだ白を切るような馬鹿じゃないだろ。
でも嘘なら嘘で当然の報いは受けてもらう。
俺の動作が何を意味しているのか理解したのか、ベルグニウーの顔が一気に青ざめた。
ふふん、してやったり。
「あ、思いだした」
急にハワードがそう言った。
どうやらさっきまで潤いの館について記憶の中をまさぐってたらしい。
「思い出した……とは、潤いの館についてですか?」
「はい、確かスラム街に、昔そういう名の宿泊施設があったはずです。 確か西のスラム街にあったはずだけど……」
クラリスの問いにハワードが記憶を手繰り寄せるようにゆっくりと答える。
「スラム街か……なんかヤバそうな場所だな」
犯罪がはびこってそうな廃れた街のイメージが出てくる。
そんなとこ行って何しようってんだあいつは?。
「ヤバいわよ~それも冗談抜きで」
「私たちは近づいたことはないのだが、入れば二度と出てこれないとか」
どこの呪われた館だよ、全然潤ってねえじゃねえか。
「噂はともかく、非常に治安の悪い場所であるということは確かです。 向かうのならこちらで武装を用意させましょう」
「じゃあすぐ行くか? 俺はそれでもいいけど」
こういうのは直ぐに行動したほうがいいだろうしな。
だがクラリスはそれに答えず、真剣な表情で俺の前に立ちしっかり俺の目を見て話し出す。
「リューマさん、ここまで協力してくれたことには感謝いたします。 ですがここから先は本当に危険です
。 スラム街での行方不明事件は確かにあり、死体となって発見されることも少なくありません。 下手をすれば死ぬ場所です」
そう話すクラリスの顔は、確かに俺たちを心配してののものだった。
出来れば、これ以上は手を引いて、待っていてほしい。
「そこに、あんたらも向かおうってんじゃないか」
「私たちは幼いころから剣術の指南を受けてきました。 その腕には自信があります」
「実際、クラリス様は騎士の方と手わせをして勝っている、心配は無用だ」
メリッサでも強いと分かる腕前だったのだ。
双子のクラリスも、相当のもんだろうな。
「今回の件で巻き込んでしまったために、このような攻撃を受けケガまでさせてしまいました。 これ以上、みなさんを巻き込むのは……」
「……」
申し訳ありませんと、頭を下げるクラリス。
彼女の言う通り、ここで手を引いて吉報を待つのが賢明かもしれない。
敵の意表を突くことでしか状況を打開できない俺たちじゃ足手まといかも知れない。
賢いやつならそうする。
「クラリス……」
「……」
賢いやつなら……な。
「顔を上げてくれよ」
「リューマさん、私は……」
「ていっ」
「あ痛っ!? リュ、リューマさん!?」
デコピンだ。
顔を上げた瞬間に力いっぱい弾いてやった。
急なデコピンにちょっと涙目になるクラリス。
いかん、ちょっとかわいい。
「ア、アカホ・リューマ! 貴様むぐんん……!!」
「まあまあサラちゃん、待って、待って」
代わりとばかりに抗議の声を上げようとしたサラがリゼットに止められる。
そして続きをどうぞとばかりの目配せ。
どうも。
「クラリス、すみませんて謝るんなら、さっきのデコピンでチャラにしようぜ」
「リューマさん……でも」
「でもな、ここまでされて引き下がるってのは嫌だね」
「しかし!?」
「それに言ったろ? 妹を心配する気持ちは分かるって。 手の届きそうな場所にいるんだ、確実につかまなきゃ」
「リューマさん……?」
「それに何より、マティアスの野郎にしっかりと礼をしなきゃ気が済まねえんだ。 あいつとっ捕まえて、セザールの居場所を聞き出さなきゃ、襲撃された俺が納得できねえ。 もう十分、足突っ込むどころか腰まで浸かったんだ、最後まで手伝うよ、必ず見つけようぜ」
顔を伏せたクラリスの目尻に何かが光る。
それを拭って顔を上げるクラリスの表情は明るい。
「黙って待っている方が賢明な判断だと思うんだがな」
納得できてなさそうな顔でそんな悪態をついてくるサラ。
「俺らがそんなに賢明に見えるか?」
「無い!!」
この野郎即答しやがった。
まあそうだけどよ。
「待って!? いま何気に私たちも含めなかった!? さっき俺らって! らって!」
「まあ確かにそうだよね」
「ハワードまで!? じゃあ仕方ないね!」
この掌返しよ。
「私もここで降りるつもりはないよ! 私、ちゃんとメリッサちゃんと友達になれたんだよ。 何もせずに待ってるなんて無理!」
「僕もメリッサさんとは、ちゃんと話し合えば良い関係が築けると思うんだ。だから、誘拐なんて見過ごせないよ」
「ハワードさん、フランさん……」
全員付いていくってさ。
「皆、全部覚悟の上でついてくよ」
「リューマさん、みなさん……はい! ありがとうございます!」
目的地は決まった、まずは西スラムの潤いの館だ。
そこでマティアスを捕まえる!
感想、ブックマーク、ありがとうございます。
じわじわとですが進んでますので、よろしくお願いします。




