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第十六話 決闘

「リューマ君、なんであんな事を! ファイエットに決闘を挑むなんて……!」


 場所は実技場内の控え室っぽい所、そこでこの後の決闘のために装備を整えていた。

 あの宣戦布告の後、決闘場所やルールを決めて足早にその場を後にしてここに来たのだ。

 決闘場所はここ実技場、勝敗はどちらかが降参の意思表示をするか叩き伏せるまで、使用武器は貸出倉庫内にある物のみで、その中にある物ならどれでもいい。

 これは、あのメリッサ・ファイエットはすでに自前の得意とする武器を持っているらしく、それでは公平ではないということらしいのと、お互いへの致命傷を避けるためだ。

 刃の付いたやつだと最悪死人が出かねない。主に俺とか俺。


「それでも引けねえよ、ハワード」

「何でそこまでして……僕なんかのために……」

「エルヴェシウスだからとか、父親がどうだからとか、それでやめろだなんておかしいだろ?」

「そうだよ! ハワードはハワードだもん!」

「リューマ君……フランさん……」


 話しながら授業の時と同じ軽装鎧を付けていく。


「でも、相手のファイエットさん? ってすごく強いんだよね、勝てるのかな?」

「まあ、負けた時は……負けた時で何とかするさ」

「そんな、楽観的な……」


 小手よし、足よし、鎧よし、うん、ちゃんと付いてるな。


「お前の言う通りなんだ」

「え?」

「家族のこと、正直考えないようにしてた、最悪なことになってるんじゃないかって考えが出てくると一日中そのことでいっぱいになって、俺は一人だけなんだって腐った気になっちまう」


 アルセムに居た頃は、家族の事を探しに行こうと強気でいたけど、森での事件のせいである時から、もしかしたら、と胸糞悪いことが頭の中に出てくるようになった。

 そのたびに手伝いに精を出して必死に悪い予感を、いっそ家族ごと忘れようとバカなことをしたこともあった。

 どのみち今は探しに行ったところで野たれ死ぬだけだからと。

 そしてそれを思い出しては考えてしまってまた忘れようとして、と何度も繰り返した。

 今でも、夜になると時折そうなってしまう。


「やっぱ家族が心配でさ、お前に一緒に探しに行こうって言ってもらえた時、正直嬉しかったんだ」


 あれだけでだ。

 何というチョロイン、死にかけたせいでちょっと優しくされただけで靡いてしまうダメ男だと自覚した。


「だから、お前を退学になんてさせない。俺は友達が少ないからな、お前がいなくなったらボッチになっちまう」

「リューマ君……」

「ねえリューマ? 私は? わーたーしーはー?」

「おやフランさんどうしました?」

「よしリューマこの後は私と決闘しよう! 勝ったらなんでも言うこと聞いてもらうからね!」


 何を言ってるんだお前は。


「じゃあ俺が勝ったらお前は俺の奴隷にでもなってもらおうか」

「え? リューマってそういう趣味……?」


 フランが身を固めて引いた。

 何で顔が赤いんだよ。


「あ、やっぱいらねえわ」

「なんだとおお!」

「わああ! 二人とも何やってるの!?」


 大事な決闘前なのにアホなことで取っ組みあってるとコンコンとドアがノックされる。


「よう、イチャつきやがって余裕そうじゃねえか」

「ん? あ、お前は」

「あーっまってまって手がぁぁああ痛たたたたたた!?」


 ロヨネだ。

 フランの手を握り閉める俺が目をやると、開けたドアにもたれ掛ってそいつがニヤニヤしていた。


「ロヨネか、どーしたんだよ」

「うひぃぃぃ……手がぁぁぁ……」


 とりあえずフランを解放しておく。

 ちなみにイチャついてるとかじゃないからな。


「なーに、見てたぜえ? 食堂での騒ぎ。 よりにもよってメリッサの方にケンカ売るとはな」

「あいつのこと知ってんのか?」

「もちろん、かわいい女の子の事はきっちり下調べ済みよ」


 ふふんとドヤ顔だ。

 こいつがどういうやつかよく分かるセリフだな。


「え? それって私の情報はあるのでしょうか?」

「え? あー……無いな」

「リューマが終わったら次はお前だ!」

「てめえは誰にでもふっかけるんじゃねえ」

「ごめんぶふううぅぅ……」


 ほっぺたを挟み込んで黙らせる。


「じゃあメリッサってどんな奴なんだ?」


 俺のイメージじゃあ深窓の令嬢のような見た目の猫かぶりだな。

 庭での印象がぶっ壊れた。


「ああ、メリッサ・エルザ・カルロス・ラ・ファイエット、ファイエット家の次女で、パラディンの第二候補、実力だけで言えばこの学年のトップクラスだ、正直勝てるような相手じゃない」


 まあそうだろうよ。


「最初の剣技じゃあバリストン騎士団長が見てるからって猫かぶってたらしいが、次からのがヤバい」

「ヤバい?」

「ああ、対戦相手を怪我しない程度にボッコボコにしたのさ、文字通り手も足も出ないほどのレベル差を見せつけてな。 それでもうすでに一人、学校をやめたやつがいる」


 前科ありかよ、あの野郎。


「まあクラスメイトから脱落者が出るのは忍びないからな。 そこで俺から一ついい情報をプレゼントだ」

「良い情報?」





 ~~~~~~





「ほう、なるほどね」


 そのいい情報を聞いた俺は……それでも勝てる気がしないんだけどな。


「単純だがあいつにとっては一番効くと思うぞ、なにせそこからは待機させる(・・・・・)のは至難の業だからな」

「ありがとよ、まあ頑張ってみるわ」

「骨の2・3本は拾ってやるよ、じゃあな」


 おうせめて俺が負ける前提はやめーや。

 ロヨネが笑いながら部屋を出ていく。

 部屋が静まり返る中、動悸が速くなってることに気づく。


「時間だ」

「僕が言えた義理じゃないかもしれないけど、頑張って」

「リューマ、ファイトッ!」

「おう、すぅ――――、はぁ――――……おし、行くか」


 俺はダチに見送られてメリッサが待つグラウンドに向かった。

 俺が使う武器は基本のナイトソードとナイトシールド。

 それと、倉庫内で見つけた秘密兵器。

 他にも種類はあったが、素人の小手先が通用するとは思わなかったので置いてきた。


 そして、通路を出て実技場のグラウンド内に入った俺を待っていたのは、なぜか集まった観客たちと。


「待たせたな」

「ふん、ようやく来たわね」


 メリッサ・ファイエットだ。

 薄ピンクの本格的な鎧を身に着けグラウンドの中央で待っていた。

 俺はメリッサから大体10m位の距離まで近づく。

 淡い色とはいえなんだその鎧は、目立つぞ。


「悪いな、付けるに時間かかった、つかお前すげー鎧着てんなあ」

「使用に制限を設けたのは武器だけで、鎧については何も決めてないはずよ」

「まあそうだが」


 だからってお前、そんな一部の隙も無さそうな鎧なんかつけてくんなよ。ちくしょう。


「ところで、なんでこんなにギャラリー集まってんの?」

「さあ? 食堂であれだけの事をやったんですもの、誰も知らないはずってわけでもないでしょ?」


 まあ衆目の面前で宣戦布告したからな。

 そっから広まったんだろう。俺には関係ない。

 やることはただ一つ。


「それと始める前に、この後のこと、決めときましょう?」

「後のこと?」

「ええそう、例えば、私が勝ったら貴方もエルヴェシウスと共にどこかへ消えてもらう……とか」


 メリッサが不敵な笑みを浮かべながらそう言ってくる。


「なるほどね、そういうこと、じゃあ俺が勝ったら、てめえがハワードに頭下げんのは当然として……よし、てめえには便所掃除だ! この学校の便所、全部、ひとつ残らず、きれいさっぱり掃除しろ!!」


 俺が通ってた中学じゃ、宿題一個忘れるごとに便所掃除一日が課せられてた。

 俺のいたクラスは宿題忘れるやつが多かったのだが、これが言い渡されてから一気に宿題忘れが減ったのだ。

 お前らそんなにしたくないんだな。まあ俺も嫌だが。

 そういやこいつへの罰ゲームどうしようかって考えて速攻で出てきたのがこれだった。


「ふん、いいわ、掃除でもなんでもやってあげるわよ」


 言ったな?

 だがメリッサは余裕の笑みを崩さない。

 自分が負けるはずがないって思ってんだろうな。


「そんじゃ始めますか」

「ええ、開始の合図は、このコインを投げて地面に落ちたら、でいいかしら?」


 メリッサが腰辺りからコインを一枚取り出した。


「ああ、それでいいぜ」

「覚悟はいいかしら? 私をあの名前で呼んだこと、後悔させてあげるわ……!!」


 メリッサがコインを思い切り空へと指ではじきあげ、巨大な盾を構えながら細い剣を抜き放つ。

 あいつが使うのはレイピアとビッグシールドか。


「てめえも覚悟しとけよ? これが終わったらてめえのデコッパゲが真後ろに後退するまで、地面まで頭さげさせて磨き上げてやるからな!!」


 俺も盾を構えて剣を抜く。

 そして、コインが落下した。


 ――――が、俺は動かない。

 盾を構え相手を睨んだままじっと警戒態勢を取る。


「あら? 威勢よく啖呵を切った割には随分及び腰じゃない」


 突っ込んでくると思っていたのか、全く動かない俺に呆気に取られていたメリッサがクスクスと嘲笑う。

 別に俺は、自分が誰にも勝てない位弱いだなんて思っちゃいないが、だからと言ってこいつには勝てるとも思いあがっちゃいない。

 負けるわけにはいかない、だから慎重に動く必要がある。

 まずは相手の実力を見とかないと。


「そう、動く気がないのなら、そのまま縮こまってなさいな」


 そう言ってメリッサが剣を地面に突き刺すと右手を高く掲げる。

 なんだ?


「何!?」


 おいおいおいおいおい、あれってまさか……

 掲げた手のはるか上で赤く揺らぐ円が出現し、複雑な文様を刻み込んでいく。

 そして一つの円にびっしりと模様が描かれると時計回りに回転し、それを囲う様に大きな円が浮かび上がり、その中にまた模様を刻みながら最初の円とは逆回転する。

 よく見たことない俺でもよく分かる、てか、習ったよ。


「クソっ! いきなり魔法かよ!」

「あら、魔法については何も決めていないわよ。だから、そのまま消し炭に変えてあげるわ。……求るは鉄槌、根源には炎、降るは一撃、屠るは爆炎……」


 消し炭とかふざけんな!

 だが、こんなに早くチャンスが来るとは思わなかったぜ。

 俺は、三重目の円が完成し四重目の円が描き出されるところでメリッサへと突撃した。


「――っ!?」


 詠唱中のメリッサが目を見開く。やはりメリッサには通用するのか!

 突撃すれば返り討ちに合うリスクはあるが、それでもこの好機は逃せない。

 それは魔法の詠唱途中の攻撃だ。

 詠唱中に攻撃して魔法を止めるってのは俺の世界でのゲームでもポピュラーな妨害方法で、こっちでもそれは同じ。

 そして、これが最大のチャンスとなるのは相手がメリッサだからでもある。

 ロヨネから教えてもらったいい情報ってのが、曰くメリッサは第六環位魔法というクラスからの魔法しか使えないということ。

 第六環位魔法、簡単に言えば上級魔法の事で発動までにめちゃくちゃ時間がかかる。

 そして環位が上がれあ上がるほど途中で止めることが難しくなってくる。

 その難しさの境目が第四環位から、つまり、魔方陣に四つ目の円ができるところからだ。

 さらに詠唱中はその場を動けないときた。

 ならもう行くしかないだろ!


「こいつ、これを待ってたのね!?」

「もらった!!」


 距離は十分詰めた、あと2・3歩で俺のリーチに入る。

 だがここで、メリッサが僅かに口角を上げたのが目に入る。

 そして、あと一歩の距離でメリッサが動いた。


「お・バ・カ・さん」

「っ!?」


 メリッサをとらえ振り下ろした剣筋は、しかし相手に掠りさえしなかった。

 左に動いてそれを避けたのだ。


「何っ!?」

「はああ!!」


 勇ましい声と共にメリッサが剣を振り下ろしてくる。

 それを強引に体をひねって剣をぶつけ、何とか防いで体勢を立てなおす。


「マジかよ……何で動けるんだ……?」

「どうやら少しは知恵が回るようね。第四環位詠唱中に攻撃を仕掛けるのはよかったわ。待機難度が急激に上がるからその隙を狙ったんでしょうけど、残念ね、難しいけど、できないわけじゃないのよ?」


 真上の魔方陣を見上げる。

 回転していた魔方陣がピタリと停止している。


「まじか……」

「動かないからまさかと思ったけど、的中ね。出てこないなら、炙り出せばいい」


 俺の狙いがばれてたのね。

 ならわざと使っておびき出すと……。

 まんまと掌の上でってことで、浅知恵じゃあどうにもならんということか。


「さあどうするの? 私はこのまま詠唱を続けるけど?」

「どのみち掌の上なら、掌から頭まで駆け上がるまでだ!!」


 要するに突撃!!

 さっきの動きで分かった、まだ見えないわけじゃい!

 盾を構えてメリッサに接近し、剣を振り下ろすための動作に入る。

 それを見たメリッサが盾を前に構えたところで、ワンテンポ挟んでそのまま盾で相手に激突する。


「こいつ!?」

「うおらああっ!!」


 立ったまま構えても頭の先から足先まで隠れる程の巨大な盾に防がれるが、右足で縦の横を蹴りつけてこじ開ける。

 そして、空いた背中に叩き付けようと剣を振り下ろすが、蹴られる勢いを利用して一回転したメリッサが難なくそれを打ち払う。


「小賢しいのよ!」


 打ち払いから素早く突きを繰り出してくるが、こちらも事前に構えてた盾でかろうじて防ぐ。


「小賢しくて悪いかよ!」


 盾を離して突出してきた腕をつかみ、間髪入れず引き寄せる。

 ショートレンジ、この距離ならやつは盾を構えられない。

 メリッサが盾を構える前に引き寄せてたので、巨大な盾が背中に当たる。

 それをこじ開けるように引き寄せる勢いのまま右ひじをメリッサの顔に叩き込む。


「ォアアアッ!!」

「きゃあっ!?」


 だがメリッサがとっさに顎を下げたためモロに入ることはなく、かぶっていた兜に守られてしまった。

 だがその衝撃が効いていないわけじゃない。

 停まったメリッサに追撃をかける。


「おらあああ!!」

「くうっ……なんて戦い方を!!」


 斬るというよりも殴りつけると言った方がいいかもしれない雑な袈裟切り。

 遠心力と自身の勢いをつけた渾身の一撃はまたしても防がれる。

 剣と盾がぶつかり合う重く激しい音が轟く中もう一度突撃する。

 ひじ打ちが切り開いたチャンスだ、畳み掛ける!!


「ふんっ!!」

「ぐああっ!」


 袈裟切りで叩き付けてそのまま右肩で突撃し、メリッサを押し倒す。

 よし、行ける!!


「調子に乗らないで!!」


 尻もちをついたままメリッサが盾を捨てる。

 その左手はこっちを向いて赤く光っていた。


「しまっ……!?」

「くそっ……放つは一撃、求るは爆炎! フレイボム!!」


 しかめっ面をしながら放たれた炎の一撃が目の前で爆ぜたのだった。


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