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第十三話 そんなに物騒なもんじゃないよ

 図書館の一件以来、ハワードには何も聞いていない。

 あの言葉や様子からして聞きづらいってのもある、だから自分が踏み込んでいいのかどうかわからなかった。

 次の日からの様子が変わらないから、なおさら……な。

 でも、あれが聞こえてしまったから、笑顔に影があるように見えるのだろうか。

 それから数日、この学校にきて初めての休日。


「ふああああ…………はぁ、朝からごろごろするのもアレだな」


 暇だ、することがない。

 パソコンねぇ、テレビもねぇ、マンガもゲームもそろってねぇ。

 おらこんな休日はいやだぁ。

 何もないならお出かけすればいいじゃない。

 そうするか。


「……ハワード、誘ってみるか」


 ハワードが抱えてるものは多分、平凡に暮らしてきた俺には想像もつかないものだろう。

 だから、自分からづかづかと踏み込むよりも、ハワードが自分から話してくれるまでは待とうと思う。

 何とかしたいとは思ってるけど、話す気がないというなら、俺にはどうすることもできない。

 でも、気分転換ぐらいはさ、いいだろ?。


「はーわーあーどーくーん、あーそーぼー」


 呼び方が子供過ぎるか?

 いやあこんなもんさ。

 ハワードの部屋がある階に降りてきて、その部屋に向かった俺はさっきまでの悩みを頭から追い出して明るく呼びかけた。

 …………返事がない、いや冗談だよ?

 ノックしてもう一回呼んでみる。


「ハワードー、いるか―?」


 時計は十時を回る前、まだ早いかな?


「どしたん?」


 すると横から声をかけられたので見てみると、Tシャツに短パンという雑な格好をした金髪の青年が立っていた。

 あ、こいつ、確か最初の剣技の授業で最初に呼ばれてた奴。


「あー……たしか……誰だっけ?」

「ロイク・ロヨネだっての、覚えといてくれよ……」


 おいおい……という感じにロヨネは項垂れた。

 ああ、確かそんな名前だったな。

 色々あって覚えが曖昧なんだよ。


「わりいわりい、で、ロヨネ、ハワード知らねえか?」

「あいつか? さあ、朝飯食って部屋戻る時は確かいたような気はするけど」

「そっか……」

「町にでも下りたんじゃねえの?」

「かなぁ、わりいな、ありがとう」

「おう……ふおあああ……」


 答えながら眠そうにあくびをする。

 もう十時だぞ。


「お前学校にいる時と全然違うな」


 確か学校にいる時は爽やかな好青年って感じに見えたけど。


「ああ……そりゃあ学校には女子がいるからな、カッコつけといたらモテるかもしれないだろ」


 サムズアップすんな。

 なんちゅう不純な動機だ。


「女子が見てない所でもやっといたほうがよりモテるぞ」

「男しかいねえ場所でやったって虚しいだけだろ、じゃあ寝るわ」


 まだ寝るのか。

 腹をポリポリと書きながら部屋に入って行った。

 ハワードの隣だったのな。

 しかしハワードは留守か。

 どうしようか。

 せっかく出てきたのに部屋に戻るのもなんか億劫だから、結局寮のエントランスまで下りてきた。

 このまま俺も町の散策にでも行こうかしら。

 元々そのつもりだったし。

 と、言うわけで寮を出ようとしたところで女子が一名、外から戻ってきた。

 フランじゃん。


「ようフラ……ン、朝から、どっか行ってたのか?」

「あ、リューマ、さっきまでハヌーのところでお世話してたんだよ」


 そう言うフランはさっきのロヨネほどではないにしろ、龍舎で作業するためか下はジャージ、上は白いTシャツという出で立ち、重労働だったのか結構汗をかいている。

 だから……ね?

 その、Tシャツがですね。


「どしたの?」

「なんでもない」

「なんで顔逸らすの?」

「いやほんとに何でもないんだ」


 小さくないんだよ、デカくないけどあるんだよ。

 だから余計に前を向けらんない。


「んん? それよりリューマはどこか行くの?」

「あ、ああ、ちょっと町に行こうかと思ってな、ハワードも誘ったんだけどいないみたいだし」

「ほう、ふーん……」


 なんよな。

 目の端に映るフランがジトーッと俺を見てくる。

 視線は下げてない。誓ってもいぃ……無理だったよ。


「ハワードは誘って私は無視?」

「お前女子寮だろうが、どう誘えと」


 この寮、右が男子寮、左が女子寮となっているが、2階まではつながっていて、そこから上がそれぞれ男子女子で分かれている。ツインタワーを小さくした感じ?

 なので全員一度はエントランスを抜ける形なのだが、無論、女子寮は男子禁制、その逆も然り。

 だから男の俺がフランを誘おうとしたら、まずはここで受け付けっぽい感じのメイドさんにフランへ伝言を頼まなくちゃいけない。

 いや正直それがめんどかっただけなんだが。


「メイドさんに言ってくれればよかったのに」

「それがめんどかったんだ」

「それはつまり私を誘うのが面倒臭いと」

「そうですねぎゃあああああああ!!」


 言うや否やこの野郎、おもむろに自分のおでこを触ったと思ったらそれを俺の頬にべっちゃりとくっつけてきやがった!!

 汗が、生ぬるい、気持悪い。


「何しやがる!?」

「そこは私も誘おうよ!」

「何でだよ!?」

「暇だもん!!」


 かんけつう。

 とりあえず持ってたカバンからタオルを出して拭いておく。


「分かった、分かったからまずその手を下せ」

「それじゃあすぐお風呂入って着替えてくるから、待っててよね!」

「おーう……」


 フランがバタバタと女子側に入って行った。

 はあ、ゆっくり散歩というわけにはいかなさそうだ。

 …………お風呂か……はっ!?

 いやいやいや、俺は何を考えてるんだ俺は!?

 しみる汗、張り付くシャツ、透け……それも違う!!

 ……桃が食べたい。

 それからしばらくして。

 パタパタと小走りで近づいてくる人影が一つ。


「おっまたせー」

「待ったよ、すっげー待ったよ」

「ごめんごめん」


 フランがいつものニヘラ顔で謝るがまあいいか、急ぎでもないし。

 コーディネートについては全然わからないので詳しくは言えないが、今日のフランの格好は白のワンピースにベージュのジャケット。

 後こまごま。

 基本制服姿だったから新鮮。


「んじゃ行くか」

「おー、という前に」

「まだなんかあんの?」

「とりあえず私の格好に一言」

「……ふつう」

「ちぇい!」

「ぐはあ!」


 左はあかんてぇ……。

 突きのダメージを残しつつなんとなく町に下りてきた俺たちは、とりあえず城の南にある通称噴水広場にまで来た。

 ここは名前そのまんまに、真ん中にデカい噴水が置かれた広場で、城の南に広がる商業区の真ん中に位置する。

 広場の端には噴水を囲むようにぐるっと出店があり、区の中央ということと休日でもあるということで、人でごった返していた。


「それでリューマ、どこ行くの?」

「知らん、適当に散歩する予定だったからなんも決めてない、お前はどっか行く場所あるか?」

「無いから付いて来たんだよ」

「さよで……」


 周りを見ると野菜を売ってる店、変なアクセサリーを売ってる店、武器の販売までしてらあ。


「とりあえず適当に回るか」

「りょーかーい」


 そうして俺たちは、二人で様々な店を冷やかしながら、適当に買い食いしつつ商業区を回っていく。


「んぬうう……」

「なんちゅう声出してん」


 見て回っていた店の一つで、ネックレスタイプのアクセサリーの店で物色中のフランが奇妙な唸り声を出していた。

 どうやら御眼鏡にかなった品を見つけたらしい。


「何見とん?」

「マジックアイテム」


 ほう? マジックアイテムとな?

 フランが手に持っているのは、細い銀色の鎖の先にオレンジの水晶がくっ付いている。

 とてもシンプルなものだな。


「マジックアイテムってなんだ?」

「えーと……魔法のアイテムの事だよ」


 説明になってねえ。

 一瞬考えて捻り出したのがそれか。


「何だ兄ちゃん、マジックアイテムを知らねえのかい?」


 その店の店主であろうおじさんが言ってきた。

 都会の路地裏でやってそうな屋根のない簡素な店だからか、つばの広い帽子をかぶって日よけにしている。


「ああ、なにせ田舎もんだから、こういうのは初めて見るんだ」


 まさか異世界から以下略。


「マジックアイテムっつーのはこういうネックレスとか、腕輪とか、まあ身に着けるアクセサリーだけじゃあねえが、こういうアイテムに、魔法の術式を埋め込んだ物の事さ」

「なんか特別な力でもあるのか?」

「そりゃああるさ、魔法をうめこんでんだから。例えばこのネックレス、こいつには簡易的な回復魔法の術式を組み込んでるから、起動させれば小さい傷ならすぐ治る」

「へえ」


 回復魔法か……俺には要らないな。


「まあものがものだから、こんなに小さい奴だとこの程度の術式しか組み込めないけどな。まあお守り程度にと思っといたらいいさ」

「ふーん……ちなみにフランが持ってるのはどういうアイテム?」

「いい匂いを出す魔法だって」

「どういう魔法だ」


 フレグランスというタイプの特殊な魔法らしい。

 毒性を含ませることで罠等に使えるんだとか。

 おっちゃん詳しいな。


「買うのか?」

「どうしようか迷ってる」

「もう毒殺したい相手が現れたのか……」

「違うよ!?」


 よかった、知り合いからそんなやつが現れるのはショックだからな。


「手持ち少ないからなぁ……」

「金欠気味なのか?」

「ハヌーのお世話とかでねー」


 お前よくそれで買い食いとかできたな。

 ガックリと肩を落としてそっとネックレスをあった場所に戻すフラン。


「ぬう、諦めるか……」

「はぁ、買ったろうか?」

「え!? あ、いやいいよ! そんなの悪いし!」


 パタパタと手を振って遠慮するけど、そんなに眺めといてようゆわーね。


「気にすんな、おっちゃんこれいくら?」

「おう、まあ……よし、500だ」


 そういいながらおじさんが何かしら書かれていると思われるプレートをパタリと倒す。

 500か、確かここら辺の金銭感覚はまだあやふやなのだが、さっき買った菓子パンっぽいので大体300リオラくらいだったな。

 ちなみにリオラってのはこの世界での通貨単位で、むかーしのなんか偉い人の名前らしい。

 今はまだリオラ=円って考えでいろいろ買ってるけど、いずれはここら辺の事もちゃんと考えとかないと貧乏生活に陥りそうだ。

 くそう、学ぶことが多すぎる。

 とりあえず財布から銅の硬貨を五枚取り出して渡した。

 この銅貨が一枚100リオラに相当するらしい。

 十円玉みたいだから間違えそうだ。


「おう、ちょうど500だ、ほら姉ちゃん、もってけ」

「あ、ありがとうございます」


 フランがそういいながらもう一度さっきのネックレスを手に取る。


「俺じゃなくて、そっちの兄ちゃんに言ってやんなぁ」

「あ、そだね、ありがとうリューマ」

「まあ気にすんな、次の機会にでもなんか奢ってくれ」

「うん!!」


 笑顔がすげえまぶしい。

 そしておじさんがニヤニヤしてやがる。


「それじゃあ行くか」

「うん」

「おい兄ちゃん」

「なんですか?」


 離れ際に店のおじさんがこっそり言ってきた。


「頑張れよ」


 何をだよ。


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