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第十二話 隠されていた本

 ガラハッド指導による騎士剣技が終わって、その日の放課後。

 場所は図書館。

 剣技の後基礎訓練があって、その日の授業は終了、朝頼んでいた教科書の翻訳をするために、俺とハワード、そんでおまけのフランも一緒にここに来た。

 中に入って空いている学習スペースを確保、とりあえず今は明日使う教科書の範囲だけでも訳しとかないとわけ分かんなくなりそうだ。


「何で言葉は分かんのに字は分かんねえんだ……」

「リューマ君の世界にはエルナ文字は使われていないのかい?」

「ないない、ヒエログリフでも見たことねえって」


 この字エルナ文字というのか、忘れたころに知らんことがさらに出てくるから油断ならんな。

 どうしたフラン、顔が赤いぞ?


「ヒ? エロ?」

「そこで区切るんじゃねえ」

「なんかエッチだね」

「とりあえずエジプト人に謝ろうか」

「エジプト人さん? ごめんなさい」


 素直でよろしい。

 さて、そろそろ翻訳も終わりそうといったところまで進んで、ふと窓を見上げるともうすでに日が沈みかかっている所だった。

 そんなに多いわけではないのに結構時間がかかったな。


「これで……終わり、っしゃー終わったー、はー……」

「お疲れ様、リューマ君」

「やっと終わったねー、おつかれー」


 やかましいフランは何もしとらんだろーに。

 ほとんどハワードに翻訳してもらったからな? お前が訳してくれたとこほんの1、2行だからな?


「そんじゃ片付けて帰りますか」

「あ、それじゃあその前に本を借りたいから、見てきていいかな?」

「ああ、わかった、悪いな長く付き合わせちまって」

「気にしないでよ」


 ハワードが本を借りというので、その本がある場所を捜索中。

 だいぶ奥、というか端っこまで来たな、ここには何があるんだ?


「ここら辺は大体魔法に関する本とかだね」

「ハワードは何借りるの?」

「魔法に関する図鑑みたいなものかな、代々の魔道士達が考案した魔法が載ってるんだ」


 へえー、読める様になったら読んでみたいな、どんな魔法があるか興味あるし。

 できれば、できれば使ってみたい。未練たらたらじゃねえか俺。


「この辺りかな」


 とある一角で立ち止まって本棚を物色し始めるハワード。

 ハワードが探してる間なんとなく手持ちぶたさなので、目の前にある本を取ってパラパラとめくってみる。


「読める?」

「んなわけねえだろ、お前は?」

「私が理解できるわけないじゃん」


 おい異世界人。

 とはいえ探し物が物ならここら辺にあるのは専門的なものってことか。

 そりゃあわからんわな。


「フランは魔法使えんのか?」

「私? 使えるけど集中しなきゃいけないから基本使わない」

「一応使えるのか、何が使えんの?」

「基本的な強化くらい」


 フランの言う強化とは、何メートルもジャンプできるようになったり、とてつもなくデカくて重いものを持てるようになったりとか、人の限界を超えた力を得ることではなく、その人が出せる力の限界を少し上げて引き出す、ということらしい。

 スーパーマンじみた破格の能力を得る魔法はまた別にあるんだそうだ。


「リューマは使えないの?」

「加護がないからな、おかげで回復とかも効かないし」

「あ、そういえばそうだったね」

「忘れてたんか」


 お前校長室での話盗み聞いてたろうが。


「あれ? てことは、使えば私の方が有利……」

「…………」

「よし」

「よし、もうお前とは組まん」

「あーごめん、ごめんってばー」

「じゃあ騙し討ちとかはもうやめてくれよ? くらったら洒落にならねえんだから」

「はい、わっかりましたー」


 ほんとにわかってんのかね。

 と、視線を下げた時、何か変な違和感を感じた。


「んん?」

「どったの?」

「本が……でてるだけか」


 L字通路の角の本棚、一番下の一番端っこの部分の本が少しだけ出ていたのだ。

 大体六冊くらいが出っ張っていた、一冊位ならわかるが何でこんなに。


「戻し方雑すぎんだろ……と、ん?」


 別にほっといてもよかったんだが、なんとなく戻そうとその本を押し込もうとしたら全然動かない。

 どうやら奥に何かあるらしい。


「なんだ?」

「なになに? 何かあったの?」

「ああ、奥に……な、っと」


 出ていた本を取って奥を覗き込むと、一冊の本が奥のカベにぺったり張り付くように横にしておかれていたのだった。

 その本を取り出してみるが、例によってタイトル不明。


「何だこの本」

「みしてみしてー」

「ほれ、なんて書いてんだ?」

「んーとー……構造変形について、アンリ・ユベール・エルヴェシウス……て誰?」

「知らねえよ」


 構造変形? なんか化学っぽい響き。

 フランがパラパラとその本をめくってるとハワードがお目当ての本を見つけたのか戻ってきた。


「ごめんお待たせ、やっと見つけたよ」

「あ、ハワード、これこれ、なんか変なの見つけたよ」

「変なの?」

「ああ、いっちゃん端っこの奥に隠すみたいに置いてあってさ」

「へえー、なんていう本?」


 ハワードがフランからその本を受け取る。


「確か、構造変形、だっけか?」

「え?」

「エルヴェシウスなんて聞いたことないよ」

「それはお前がアホなだけなんじゃねえの」

「アホとはなんだー」

「どうしたハワード」


 ポカポカと肩たたきするフランをほっといて、ハワードに聞くが何やら様子がおかしい。

 じっとその本を見つめていた。


「エルヴェ……シウス……」

「どうした?」

「全部……燃えたと思ってたのに……」

「え?」

「あ、ごめんね、僕も知らない人だったからわからないや」


 そいう言ってるが……聞こえてしまった。

 そのつぶやいた言葉が。


「んー……気になっちゃったからこの本も借りることにするよ、それじゃあさっそく戻って読んでみるね、また明日!」

「あ、ああおいハワード……」

「また明日ね~、ってハワードどったの?」

「あ、いや……どうしたんだよ……」


 俺たちは、その本を抱えるように去って行ったハワードをぽつんと見送ることしかできなかった。

 あの本を見て、見るからにハワードの様子が変わったのだ。


「あの本……いったいなんなんだ?」

「さあ?」


 その日以降、ハワードはいつもと変わりない姿だったが、どことなく、影があるように感じたのは気のせいだろうか。


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