第十一話 まともな試合をしなかったのはおそらく俺らだけ
時刻は一時。
場所は校舎裏にある第一実技場。
ここはまあいうなれば運動場というか屋根のない体育館、ていうかコロシアム。
ここは騎士剣技、魔導実技、操龍、基礎訓練で使用するために校舎と行き来するので行き方は覚えとかないとな。
で、今回俺たちのこの実技場初の授業は騎士剣技を学ぶ。
聖王騎士団に所属する全騎士団員は、普通の騎士はもちろん、魔導士であろうと龍騎兵であろうと、最低限一般的に支給されているナイトソードを装備することが義務付けられている。
これは騎兵なら龍がダメージを受けて戦えなくなったり、魔導士なら魔法がなんらかの理由で使えなくなったりした場合に備えての自衛手段としてだそうで、騎兵も魔導士も、剣技において一定の技量は求められる。
なので、この騎士剣技についてはどの進路においても重要になる、ということらしい。
だから単位も他に比べてデカいとか……心配だ……。
そんなことに悩みながらも実技場に到着した俺たちは、控室っぽいような場所に男女別々に入り、それぞれ動きやすい運動着に着替えた。ジャージみたいだ。
さらに用意されていた軽装の鎧もつけるらしい。
俺が見たことあるやつよりもだいぶ小さい。
まさに覆うだけの手甲と脚甲、各関節と急所を守るための鉄製サポーター、薄い鉄鎧。
「確か二限目習ったよな」
「うん、本格的な鎧に比べてそんなに難しいものじゃないから大丈夫だよ」
そういいながらハワードはテキパキと鎧を付けていく。よく覚えてるな。
ええと、これがここでここをこうして……んん?
午後の実技でさっそく装備するからと、二限目の武具知識の授業で習ったことを何とか思い出しながら、ようやくつけることができた。
そうして、なんかジャージのような運動着の上に軽装鎧という非常にシュールな出で立ちで、だだっ広い実技場の真ん中にポツンと数十名が集合した。
「はあ……広いって言いたい」
「もう言ってるじゃん」
「おうフラン」
「ね、どう?」
くいっと体をひねってモデルのようなポーズをとってるが、格好が格好だから色気もくそねえな。
だからどうって言われても。
「んー……地味だな」
「えい!」
「うおおっと!?」
こいつへそを突いてきやがった。
なんてやり取りをフランと始めたところにこの授業の担当する先生数人が入ってきて全員がざわざわとどよめいた。
その入ってきた先生たちの先頭は、なんと我らが騎士団長殿だった。
なんで来てんですガラハッドさん。
「あーオホン、皆静かに、今日の剣技については、私、ガラハッド・バリストンが見させてもらう。
何故かというと、各クラスの剣技の最初の授業を、騎士団長が直々に指導するのは、まあ毎年の恒例行事みたいなものだ。
なので、このことについては他の皆には内緒で頼むぞ? もちろん来年の新入生にも行うのでよろしく」
恒例行事て。
しかしま経験豊富な先輩騎士に、それがしかも騎士団長直々にご教授賜るということで、他のクラスメイトは緊張しつつやる気があふれてる感じだ。
「バリストン団長に見てもらえるなんてな、下手なことはできないぞ」
「どうしよう……私うまくできるかしら……」
各々緊張が言葉に表れているけど……お前はどうだフラン?
「……」
「フラン? 大丈夫か?」
おお、さすがにフランも緊張な面持ちですな。
「リューマ……」
「なによ?」
「鎧のベルト閉めすぎた……少し苦しいかも」
どうやら大丈夫なようだ。
さて、ガラハッド曰く今回の授業は二人一組になり、それぞれ打ち合いをさせ、各々に指導していくという形をとるらしい。
さて、クラスの人数は偶数だから余るということはないが、先生一人余りましたーで先生と組むということになったら……詰むな、相手がガラハッドとか。
手加減なしならまともな試合にならなさそう。
「さてと、じゃあ俺はハワードと……ん?」
誰かに肘の部分をくいっと引っ張られた。
ってフランか。
「組もう」
「断る」
さてハワードどこかな?
何だよフラン離してくれ、早くしないとボッチになっちゃう。
「お願いだよう、みんなすぐに決めていって知ってる相手がいないんだよう……」
「えー……」
よく見るとこの一瞬ですでにほとんどが組を作って待機していた。
どうやら並ばずにバラバラで居たのが幸い?したらしく、説明した時点でそばにいた仲良し組が組んで行って、まだ決まってないのはごく少数だ
あ、ハワードも他のやつに誘われてるところだ。まじかー。
「はあ、分かったよ、分かったから揺さぶるな」
「ありがとー!」
そう言うならガックンガックン揺らすでない。わざとか? わざとだな?
くだらないやり取りを繰り返してるところでガラハッドが指示を出した。
「えーそれでは、呼ばれた組は武器を受け取ってそこの、白線の上に立ちなさい。
私の合図で開始だ。いいか?」
「はい!!」
綺麗にそろった返事と共に、サポートで来ていた他の先生たちがいそいそと練習用武器の準備に取り掛かる。
用意されているのはごく普通の剣と盾。
剣は城壁や校門にいた騎士が下げていたものと同じものだ。
曰く刃はつぶされていているらしいが……俺の場合それでも洒落にならないんだよなぁ。
盾の方は五角形のナイトシールドと呼ばれているもので、騎士の基本装備の一つらしい。
この剣と盾を使って戦うのが騎士のスタイルということらしい。
「ではまず……ルフォール、と、そのペアは……ん、ロヨネか、じゃあルフォールとロヨネのペアは前に」
二人の名前が呼ばれ、それぞれが前に出て武器を受け取り白線の上に立った。
両者が構える。
おお、様になってる。かっこいい。
「では……始め!」
ガラハッドの合図とともに両者が接近、互いの剣をぶつけ合う。
だが、なんだろう……? 動きがもっさりしているというか、なんかぎこちない。
もっとこうスマートいうか、スタイリッシュというか……自分で勝手に理想を高くしすぎたんだろうか。
一方が盾で防ぎ、相手が次の攻撃のために剣を下げた瞬間に、自分の剣を相手に叩き込む、だがそれは相手に読まれていたのか普通に防がれた。
ていうか二人とも右手に剣、左手に盾だから、攻撃すれば大体盾持ってる方へ振り下ろされるので下手に構えない限りお互いの攻撃は防がれる。
地味だ。
素人の考えた下手な殺陣を見てる感じ。
自分もああならないとは限らないけど。
「そこまで!」
しばらくしてガラハッドが止めて終了。
二人ともにそれぞれ良かったところを褒め、反省点を挙げて今後どう改善していくべきかを言って、そして次の組を呼ぶ。
大体この繰り返しか、呼ばれるまで暇だな。
「ねえねえ」
「ん?」
フランが肘の辺りを引っ張ってくる。
そんなに引っ張られると伸びるんだからよしてくれんかい?
「ベルト直して?」
「自分でやれい」
「手袋付けてるからやりにくい」
外さんかい。
仕方ないので留め具がついている鎧の左脇を見てみる。
ベルトの一番後ろの穴で留められてるな。そりゃあ苦しいだろうさ。
「はぁ、手え上げろ、直すから」
「ばんざーい」
子供か。
さっそくベルトを緩めようとするが……なかなかうまくいかない。
分厚い手袋してるせいで妙に難しくなってる。やっぱ外すか、でも小手も外さなきゃいかないから、また付けること考えるとめんどいんだよなあ。
「くそ、かてえ」
「くすぐったいよ、変なとこ触んないでね?」
何言ってるんだろうねこの子は。
「触るとこがあったらの話しだろうよ」
「…………あるよ?」
知らんよ。寄せるな、上げるな、鎧の上からじゃどうにもならんだろ。
…………目測で大きめのお茶碗位……いやなんでもない。
「こ……の……っし、外れた」
「ふぅ……ありがとう」
何とかベルトが外せた。少し指先が痛い。
「これくらいか?」
「あ、もう少しきつく」
「ここ?」
「うんうん」
で、適切な位置にベルトを締めて留める。
ふぅ……ドキドキしてない。してない。
「いやあ助かったよ」
「ったく、次は自分でやれよ」
というところで二組目が終わったのかガラハッドが二組目を呼び戻していた。
評価を聞き終えた二人が戻ってくる。
「では次は……マートニー、とそのペアは?」
「あ、俺でーす」
ガラハッドがフランのペアを呼ぶ。
つまり俺の番だ、意外と早かった。
返事をしてさっそく前に出て武器を受け取る。
「おおっと」
「大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫、大丈夫」
あいつら片手で振り回すから案外軽いものだと思ったら、重い、片手で持った瞬間ガクンと来た。あぶねえ。
先生に心配されつつ、盾も受け取って白線の上に立つ。
目の前には同じような出で立ちでフランも立っている。
前の組らはもちろん、この学校にいる連中は騎士になるべく、ほとんどが入学前から訓練してきたらしい。
こっちに来て半年しかたってなく、ごく普通の一般高校生だった俺と比べたら、例え同い年でも経験値が圧倒的に違う。
だとしたら、普段ニヘニヘしてアホっぽいフランも、現時点では俺より強いはず。
せめてかっこ悪いとこは見せないようにしないと。
「それでは、はじめ!」
ガラハッドが合図を出す。
まずは相手の出方を見る、自分から突っ込むのは危険だ。
盾を前にしてフランの動きに注意しよう。
フランの方は盾を左腕に固定してあるのか、両手持ちでゆっくりと剣を前に構える。
「よいっしょっと、よーし、よっしゃこいやー」
最後のセリフ棒読みじゃねえか。
気の無いセリフではあったが、せっかくなんで自分を奮い立たせる意味も込めて答えておこうか。
「おっしゃいくぞオラアアアア!!!!」
「ひ~!?」
なんだよう。
「龍真君チンピラの喧嘩じゃないんだから、もっと穏やかにやろう」
「すいませーん!」
ええいくそ気が抜けるなもう。
さて、気を取り直して再び構え直す。
フランの方は全然動かない。
相手も待ちの体勢だろうか。
実力差がどれ位かわからない以上無暗に突っ込みたくはないが、どうする?
このままじゃあお互いへっぴり腰みたいじゃないか。
「へいへーいリューマー、ビビってるー?」
このやろう。
なんて安い挑発を……。
お互いの距離は大体3m、少しずつ、少しずつ、送り足の要領で近づいていく。
別にあのニヘラ顔の挑発に乗ったわけではない。断じてない。
距離およそ2m、1m近づいただけでもだいぶ違うな。
構えられた剣先が近くになり、背中に嫌な汗が滲んで、自分でも呼吸が速くなっているのがわかる。
森での事件が頭によぎる。気の無い殺気。
いかんいかん、んなこと思い出すんじゃない、相手に集中。
フランの方はまだ動かない。
大体2歩踏み込めば届く距離、盾をやや左に向けてさらにあと一歩近づく。
「どうした? 来ないのか? こっちは来てやったぞ?」
「むぅ……」
会えて余裕ぶるが、フランは固い表情できゅっと口を結んでいる。
と、そこでフランの表情が解けて、ふと視線を俺の後ろに向けた。
まるで何かを見つけたみたいに。
「あ、アレ」
「ん?」
まあ、あれですよ、練習だからね。
ついですね、堅い視線が急に柔らかくなったから、その視線につられて俺も振り向いてしまいまして。
死角から刹那の風切音とともにナイトソードが襲いかかってきた。
「のおおおお!?!?」
とっさに掲げた左腕に重い衝撃が叩き付けられ、盾が甲高い悲鳴を響かせる。
目の端にフランが動くのが見えてとっさに反応できたが…………騙し討ちかよ!!
「あ」
まさか防がれるとは思っていなかったのかフランからぽそっとそんな一文字がこぼれた。
あ、じゃねえよあじゃ。
「えへへ、失敗しちゃった」
「そ、そうか、失敗しちゃったか」
「えへへへへ」
「ははははは」
とりあえず、俺は盾で押し返した後、盾を捨てて剣を両手持ちにし、さながらフルスイングの様にフランの剣に叩き付けた。
「どっせえええい!!」
「きゃああ!?」
金属音を響かせてフランの手から剣が弾き飛ばされ、数メートル先に落下する。
意外とよく飛んだ。
「あ、危ないじゃん!」
「お前人の事言えんだろうが!!」
「はーいそこまで! そこの二人、ちょっとこっち来なさい」
ガラハッドに呼び出しをくらってしまった。
とりあえず吹っ飛んだ剣と捨てた盾を拾っておく。
「あーコホン、まずマートニー君」
「はい」
「騎士なんだから、騙し討ちはいかんよ、正々堂々戦わないと」
「はい、ごめんなさい」
そらみろ。
「龍真君」
「はい」
「君は少々乱暴に過ぎるな、棍棒じゃないんだから」
「すいません」
なんよフラン、ニヨニヨしよって。
お前の方が酷いんだかんな?
くそう、まともな試合にならなかったな。
カッコ悪いとこ見せないようにと思ったが、意に反して情けない結果になってしまった。




