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第十話 或る中庭の出来事

 なんということでしょう。

 校舎の中央には広い中庭があり、多くのベンチも設置されていて、暖かな日の光と吹き抜ける爽やかな風が芝生を撫で下ろし、優雅な昼下がりを演出するとかなんとか。

 そんな中庭に俺は迷い込んでいた。


「どこだよここ……」


 迷い込んでいた。

 ピンポンパンポーン、一学年第三組赤穂龍真君が迷子です。保護者の方は至急……。


「……! 違う違う!」


 自分の両頬を軽く叩いてバカな妄想を叩き出す。

 迷った挙句頭の中に例の放送がかかってきて心臓の心拍数が上がるのがわかってしまった。

 まだだ、まだ迷わんよ。

 こんなん人を探して道を聞けば何とかなる。

 ……人がいればな。

 現在時刻は12時を過ぎた辺りだ。昼なんだからみんな昼飯を食いに学食に向かっているはずだろう。

 こんなところには人っ子一人いなかった。誰か弁当作ってここで食べようって奴はいないのかよ。

 俺は三限目が終わって昼飯を食いに行こうと学食に向かっている所だった。

 二限目の少し興味を持てた武具知識、三限目のさっぱり訳の分からん戦略基礎が終わってようやく昼飯時。

 朝飯があれなんだから昼飯にも俄然期待がかかるもんだ。

 ハワードは先生に先の授業の質問で遅れるし、フランは居眠りしてしまったために現在説教中、そんなわけでハワードたちに先に行っておくことを告げて学食に向かったわけ。

 その時に学食がどこか聞いといたはずなんだよ。

 教室を出て右言って階段下りて左に行って……それで……その後どう行くんだったっけ。

 どうしてここに来たんだろう……。

 とりあえず本当に誰も居ないのか確認するため中庭全体を見渡すように廊下を進んでいると、奥の方でベンチに腰かけている人影を発見。人っ子一人はいた。


「たすかったぁ、学食どこかわかるかな?」


 見つけたその人に向かおうとすると、本を読んでいたその人は近づく俺に気づいて顔をこっちに向けた。

 そして目があって俺ははっと息をのんだ。

 美少女だ。すげえかわいい。日の光に当たって文字通り輝く金色のロングヘアー、優しげな表情を映す大きな瞳、小鳥を指に停まらせ微笑む姿はまるで絵画のようだった。


「あの、どうかされましたか?」

「え? あ、いや……」


 いつの間にか見とれて呆けていたらしい。


「実は……その、学食に行こうと思ったら道に迷っちゃって、あははは」


 学校で道に迷う。これほどまでに情けない言い訳があったろうか、いやない。

 正直、えー……みたいに引かれると思ったんだが、彼女の反応は意外とそうではなかった。


「あら、そうなのですか? 実は、私も食堂がどこにあるのか分からなくて、案内してくれる友人が来てくれるで待っていたんですよ」

「え、ああそうなんですか、まあここ広いですしね」


 彼女も学食がわからないということを聞いて変な仲間意識を持ってしまった。

 これを機に仲良くなれたらとかは……思ってないよ?


「うふふ、そうですね、私も最初は教室に向かうのにもどうやって行ったらいいのか、全く分かりませんでしたから」

「ですよね、学校内の地図とかあったら便利なんですけどね」

「あら、それは良い考えですわね」


 口に手を添えて上品に笑う仕草がすげえ様になってる。

 その笑顔にくぎ付けになりそうだった。


「あー……てことはその、あなたも学食がどこにあるか分かんないんですよね?」

「はい、申し訳ありません」

「別に謝るようなことじゃないですよ、もともと詳しく場所を教えられといて忘れちゃった自分がわるいんすから、あははは」

「まあ、うふふふ」


 ああ~やばい、なんか自分が自分じゃない感じ。

 こんなかわいい子と仲良くなれてすごい浮かれてるのがわかる。


「それでしたら、もうすぐ私の友人が来るのでご一緒にどうですか?」

「え、いいんですか?」


 そりゃあ願ったり叶ったりだが、ほんとにいいのかな。

 たぶん彼女の友達って、ほとんど女子ばっかりなんじゃないの?

 いや、偏見であることは認めるが、見た目や立ち振る舞いからしてこの人貴族って言うやつじゃなかろうか。

 こういうお嬢様と一緒にご飯食べるのって、取り巻きみたいなやたらとその人を持ち上げるような人とかなんじゃ……、マンガ読みすぎだろうか、だろうな。


「はい、そちらに不都合がなければ……ですが、よろしいでしょうか?」


 はい、大丈夫です!

 てか、なんでそんな不安げな目で見るの? そんな目で見られると「はい」or「YES」しか言えなくなっちゃう。


「リューーマーー!!」

「あら?」

「は!? なんだ!?」


 いきなりでっけえ声で呼ばれてびっくりするだろ!何だよいきなり! 

 馬鹿でかい呼び声に振り替えると、大きく手を振るフランとハワードがいた。


「そんなとこで何やってんのーー!! 食堂行こうよーー!!」

「あ、ああ! すぐ行く!」

「お友達、のようですわね」

「これで道に迷わずにすみますよ……」


 くそ、よかったような残念なような。


「ファイエット様ーー!」

「あら、私の友人もいらしたようですわね」

「みたいですね、それじゃあ俺はこれで」

「あの」


 腹が減っているからかフランがそわそわし始めたので、二人のところに行こうとすると呼び止められた。


「食堂でまたお会いになれましたら、ご一緒致しましょう、アカホ・リューマさん」

「え? 知ってんの?」

「ええ、私も出席していましたもの、あの入学式に」

「ああ……なぁる……」


 ご出席されてた方でしたかぁ……。

 あのシーンを知っているとわかって、こう、テンションがズーンと。

 そうして彼女は呼んでいた友達の元へと向かった。

 あ、そういえばあの子の名前しらねぇ。

 たしかファイエットって呼ばれてたような気がする。


「わりいお待たせ」

「お待たされましたー、ていうかリューマ何でこんなとこにいるの?」


 それはーほらーあれだよーあれー。


「こんなとこに中庭があるからめずらしいな、とか思ってさ、別に迷ったとかじゃないからな、ほんとだぞ?」

「あ~もしかして道に迷ってここに来たとか~?」

「うぐ、何でわかった」

「リューマ君……」


 こいつやべぇよエスパーかよ。


「やっぱり迷ったんじゃない~」

「じゃあお前は教室から地図もなしで学食まで行けるか?」

「無理!」


 頬を右手で挟んで小刻みに揺さぶるブルブルの刑。

 これすると妹が無邪気に笑うんだ。


「はぶるるるるるるるるるる」

「ところでハワード、ダイエットって知ってるか?」

「え? ダイエット?」

「ふはあ、痩せること?」

「ちゃう、間違えた、ファイエットだったっけか? さっきそこですっげー美少女とあってさ」


 別に下心があるから情報がほしいとかでは。


「美少女ってそんな照れるな~」

「お前じゃねえ」

「ですよねーへぶるるるるるるるるる」


 刑再開。

 意外と疲れるんだぞこれ。


「ファイエット……ファイエット……、あ、確か十家のザントライユ家のガーディアンに……いたよう、な……?」

「なんかかっこいい名前が聞こえたけどガーディアンってなに?」


 中二心くすぐられる言葉ですな。

 ガーディアンってことは護衛とか何かかな?


「ガーディアンっていうのは騎士の称号の事だよ。 特に貴族や王族、十家の近衛騎士に与えられる称号で、騎士が目指すものの一つに挙げられるんだ、いわば騎士の最高栄誉だね」

「やっぱボディガード的な役目か、ってことはあの子もガーディアン?」


 入学式にいたとはいうけど、在学生か入学生かわかんなかったから学年は分かんないけど、多分同い年かせいぜい2歳差だろう。まさか先生ということはあるまい。

 それでもう正式な騎士ってことは、いわゆる一握りの天才ってやつか。木星行ってそう。


「多分違うと思うよ? ここに在籍している間は一応騎士という扱いでも正確には準騎士、見習いってことだから、正式な騎士団所属じゃないんだ。

 だからファイエットは家名、ザントライユ家のガーディアン、ファイエット家のことだと思うよ。 

 ガーディアンの称号はその一族に与えられることもあるから、多分ザントライユ家に代々仕えてきた家系だろうね」

「お~さすがハワード先生」


 すげえ詳しいな。


「先生だなんて」

「照れんなよ~」

「はぶるる……ぷはあ、ふ~、でもよく知ってるね、私何言ってるか全然分かんなかった」

「まあその……興味が出ると知りたくなっちゃうんだよ、あははは……」


 ハワードのテンションが少し下がったようにも見えたが気のせいか?

 まあ貴族について興味があるってなんか変なイメージがするし、知られたくないことではあるのかな?


「まあなんにせよとりあえずメシ! ご飯! 昼食! 午後は実技だろ? 腹減ってちゃなんもできんぜ」

「そうだよご飯ご飯! 早くいこ!」

「そ、そうだね」


 そしてようやく俺たちは学食で昼食を食べたのだった。

 うまかった。ただひたすらうまかった。予想した通りの豪華さだったよ。

 それとあのファイエットさんに出会えませんでした。

 あんな人盛りだくさんのところで探すとかまあ無理だよな。



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