5.第三話 『畑仕事』 後
魔蟲を駆除できたのはまぐれの一回限りだった。
はい、もうね。
こういうのは専門家にお任せします!!
虫、無理!!
相変わらず細かいのは私がせっせと退治するのだけど、でかいのは無理!!
一木さん一人ではカバーできないので、ご近所さんにもお手伝いで農園に駐在してもらうことに。
私と同じぐらいの背丈。
大きな葉っぱとつぼみのような頭部を持つ、食肉種。
擬態のモデルはダンジョン産の上陸蓮だろう。あれはきれいな花を咲かすんだ。近寄ると眠くなるし触ると毒があるけど。
対価は私の魔力水と、肥料、そして私が取った小さい虫ということで交渉が成立した。
着任初日、親玉の魔蟲を駆除してもらうと、小さいのも減った。
私があんなに苦労したのに、おびき寄せパックンチョで終わった。
頼りになる~。
「ああ、だめだよ! 花ちゃん!! そこは野菜畑なんだから~!」
仕事を請け負ってくれた駐在の花ちゃんは一木さんよりアグレッシブだ。
ちなみに花ちゃんと命名したのは、頭?の部分がつぼみになっているから。
『つぼみさん』だと、咲いた後変でしょ?
「『私、ここで寝る』じゃないのよ。野菜植えるんだから。私餓死しちゃうから」
花ちゃんがくいくいっと葉っぱのついた触腕で手招きする。
「『手を出せって?』」
握手かと思ったらどろっとした。
えぇ~なにこれ?
甘いにおいだ。蜜かな?
「いや『これ食え』って、私虫じゃないのよ。まぁいただきますけども」
あ、甘い。美味い! なにこれ……!
でも花ちゃん、蜜を直で手渡ししないで。
べたべた。
それを見ていた一木さんが蜜に触腕を延ばす。
え、欲しいのこれ?
あ、花ちゃんが怒ってる。
「あんたんじゃないから!!」とぷんぷんだ。
たぶん、一木さんの方が年上だよね?
花ちゃんをなだめて、蜜は一木さんと分けていただいた。
これ、ポーションの材料になったかも。
全部舐めた後に気が付いたけど、花ちゃんはそれ以降くれなかった。
畑の一角は花ちゃんが占拠したので、明け渡した。
住み込みで働いてもらうということで。
ちゃんと『花ちゃんのおうち』とガーデンフェンスで仕切った。
花ちゃんは畑の養分を狙って出没する魔蟲をその蔓のような触腕で捕らえる。
腕からは食虫植物のような粘着性の蜜が分泌されて、つぼみの中にパックンチョする。
クリオネみたいなショッキングな食事シーンだ。
一度見ると結構エグくて、「それどうにかならない?」と相談したら、地面に引きずり込んで見えないようにしてくれた。
魔草にもテーブルマナーはあるらしい。
大活躍の花ちゃんだけど、時折夜寝てる私の顔を覗き込んでくる。
「『死んだ?』って。生きてるよ!!」
花ちゃんからすると、毎夜死んでるように見えるのか。
「なんだ、まだか」的な反応をされる。
え? 私死ぬの待ってる? 死んだら食べようとしてる?
そのつぼみを近づけないで。ネバー。
日中、畑仕事をしていると、「やめろ、命をぉぉ!!」と絡みつかれる。
雑草にも命があるって?
雑草、お前は確かに役に立った!!
だが、それとこれは話が別だ!! ふははは!!!
雑草は根絶やし。花ちゃんが止めるが関係ない。
これはね、必要悪なのよ。
何かを生かすことは、何かを殺すということ。
人はその業を背負い生きていく。
大自然もまた同じ。
前は根っこを手作業で引き抜いていたけど、土魔法でまとめて出す方法を見出した。
なんなら、もう雑草だけ地面の上に強制排除できる。
私はこの手法を繰り返していくうち、雑草の養分を土に還元する方法を会得した。
私こんなことできたん?
すごっ。
花ちゃんが怯えてる。
大丈夫、あなたは友達だから、枯らさないよ?
だからこれからも……ね?
和解の肥料をささげると、花ちゃんもポリシーを曲げた。
お互い仲良くやっていきましょうや。
私が種を植えると、『しょうがないなぁ、私が面倒みてやるよ』と、花ちゃんが私より熱心に見守り始めた。
こうして、薬草畑は一木さん。
野菜畑は花ちゃんに協力してもらい、順調に農作業は進んだ。
いや、進み過ぎだわ。
一週間も経ってないのに、もう野菜畑には収穫物が実っていた。




