4.第三話 『畑仕事』 前
緑のダンジョンで最も脅威とされるのは魔草だけど、私にとって一番は魔蟲だ。
もうね、あのブンブンって音が嫌い。
いや、逆に音も無く忍び寄るのも絶対やめて欲しい。
農園の魔草結界の中には入って来られないんだけど、元居た小さいのが飛び回ってる。
でも地中の蟲は腐植土に栄養をくれるから、これぐらいのゆるさが限界なのだ。
新たな畑の土づくりも順調に進んだ。
ダンジョンの地面は固いから土魔法で耕して、石とか雑草の根を除去。
肥料を撒いて整える。これを繰り返す。
でも、土がいい感じになるととにかく雑草でボーボーになってしまう。雑草の根っこがしつこい。
もうね、一日の半分、雑草抜いてます。
雑草に取り付いていた害虫は行き場を失うと、いつの間にか薬草畑にお引越ししている。
おい、勝手に住むな!!
家賃払え!!!
「仕方ないなぁ。一木さん、駆除しましょう」
一木さんが「正直、細かくてめんどくさい」とうんざりなさっている。
「えぇ~一木さん、お願いします~! 肥料分けてあげますから~」
私が交渉を始めると一木さんが根っこをせかせかさせてどこか行ってしまった。
破談!
ええい、もう私一人で手作業だ。
小さい緑色の害虫を、箸でつまんでいく。
これで半日終わるぞ。
つらい……
でもここで農薬を使うと、何が起きるかわからない。
農薬に耐性のあるスーパー病源虫が発生したとき、私にはどうすることもできない。
あきらめてたまるか。
生きるために、食べるために、戦う。
シンプルだ。
迷う必要はない。
「あ」
ハーブをかき分け、ずっと作業をしていたら虫と目が合った。
小さい害虫じゃない。
こぶし大の魔蟲だ。
こいつが親玉か。
緑色の甲殻の内に潜む、黒くとげとげしい口を開いた。
しまった! や、やられる!!
「うぎゃ!!」
驚いて尻餅をついた。
魔蟲が私の頭をかすめた。
「ひぃぃ!!」
匍匐前進!!
待ち伏せだ!! 退却!! 退却!!
メーデーメーデー!!
こちら前線トミカ軍曹!! 援軍を求ム!!
繰り返す、援軍を求ム!!!
本職の探索者が餌食になると噂の魔蟲との戦闘。
骨ごと肉を抉られるショッキングな画像を見たことがある。
私の魔法なんかが、通用するはずが……
――なぜ、ベストを尽くさないのか?――
昔見たドラマのセリフが浮かんだ。
「ええい!!」
小屋の増築で何度もやった土壁を出した。
これが私のベストだ!
折り返してきた魔蟲が壁に激突した。
いけぇ!!
全魔力で押し固めた壁が砕けた。
そんなあっさりー!?
「だめかー!!」
飛び散った壁に目をつぶった。
ん?
てっきり腹を貫かれるとおもったら、何も起きない。
恐る恐る目を開けると、魔蟲が根のネットに絡まっていた。
なにこれ?
私の土魔法で雑草の根っこが巻き込まれたのか?
おおう、雑草!! ありがとう!!!
さすが取っても取っても無くならないしつこい根っこだ!!!
雑草ネットの中で魔蟲がもがいている。
「おうおう、立場は変わっちまったなぁ。今どんな気分だ? 言ってみぃ?」
私は魔力回復ポーションを飲み魔力を充填。
薬草をむしり、その場で『調合』した。
あえて雑に調合すれば、それはそれで劇薬になる。
さぁ、できたよ。引っ越し祝いだ、受けとれぃ!!
私はそれを魔蟲にぶっかけた。
魔蟲はお陀仏となりました。
ふぅ、手こずらせやがって。
ガクガクの膝で薬草畑から這い出すと、うねうねと根を動かして一木さんとご近所さんがやってきた。
「『なにがあったか』って? どうってことないですよ、命のやり取りなんてね」
ニヒルを気取って心で泣いている私に、ご近所さんが寄り添ってくれた。
魔草なんで、感情は読めないけど。なんかそんな気がした。
触腕がぎゅとする。
「これ、食べようとしてませんよね? ね?」
私の不安をよそに、そのぎゅはしばらく続いた。




