11.第八話 『実家神殿』
20年前。
石でできた巨大な遺跡。
ターミナルが現れたことで、消えたトミカの実家。
そこそこ広かった平屋の母屋も、廊下で続いた離も、蔵も本殿も消失した。
その名残は参道と長い石の階段ぐらいしかない。
それも雑草が侵食して荒れ放題だ。
「あれは?」
トミカは参道の脇に見慣れない建物を見つけた。
「救護所と備蓄庫です。ここから入るのは無理ですが、非常時このターミナルから出る人はいるかもしれませんからね」
「なるほど」
コンビニほどの仮設住宅で、ベッドや固定電話、非常食など、非常用設備が常備されていた。
「おお~、綺麗になってる!」
石階段の下に続く私道から先が様変わりしていた。
道路沿いは地価が下がり、長らく手付かずの林と空き地と廃屋があるだけだった。
荒れ放題だった周辺を黒田が買取り、整備したのだ。
丘の周囲をぐるりと囲うように高い壁が敷かれている。
「大抵はゴミ処理と解体でしたが、おかげで安く買い上げられましたね。マスコミ対策にもなりますし、僕を付けてくる輩も防げます」
「そうなんだね。そっかそっか」
黒田が淡々と理屈を並べるが、トミカにはその優しさだけが届いていた。
「あのあたりにギルド本部を建設します」
シートで覆われた建設区画。
「そこからケーブルを引くので、いずれダンジョン内でも通信ができるようになるでしょう」
「おお、動画見放題」
【見放題!?】
「連絡用ですよ?」
「メールしようね、黒田くん」
【メール】
「遊びじゃないですよ?」
管理や工期など今後について黒田から説明を受けた後、トミカは救護所に立ち寄った。
「おほほ、お花を摘みに~」
「ごゆっくり」
文明的な設備に、すっかり気が緩んだトミカ。
「ふんふん~ん~、らら~ら~、果~てしな~い~」
鼻歌から全力で歌い始め、サビにさしかかったところで、彼女はトイレに備え付けられていたものに違和感を覚えた。
「この大空~と~! ……お?」
ふと洗面台の鏡を見た。
「あ、鏡買うの忘れてたわー。あはは、はは……お?」
そこに映るものを三度見して硬直した。
「な、なんじゃ……!!」
その時トミカの脳内シナプスに電流が走った。
街で見た自分、周囲の視線、黒田との再会時の反応……トミカの中で放置していた事柄がつながった。
「整形? 改造手術? 特殊メイク……あ! 私、S級になったんだったわ」
S級になった変化であることは明白だった。
違和感と恥ずかしさ。
今の今まで鏡をまともに見てもいなかったという恥。
今更気が付いたのでは、自分が抜けていると思われてしまう。
まるで、バカだと思われてしまう。
「うん、わかってた。気づいてましたとも。別に?普通です。はぁ?って感じですけど」
脳内黒田に馬鹿にされるのを避けるためトミカは元々気づいていたフリをすることにした。
「……おおぅ、この顔だとダサい恰好が際立ちますなぁ。何だこれ?」
そ~っと救護所を出ると一木さんたちが黒田とヒソヒソやり取りをしている。
「なにさ!? 何の話さ!?」
「長いなぁと思いまして」
【調子悪い?】
「元気ですわ!」
一方そのころ、遠い世界の超越者たちが、何かを感じ取っていた。
『なんだ……この気配は? どこかでダンジョンブレイクが起きたか……』
『……東……日本に、何か起きたようね』
『強大な力だ。おお、なんということだ!! 終わりが始まったのだ……!!』
超越者たちの言葉に、緊張がかけ巡る。
世界のバランスが崩れる、その予兆かと……
「一木さん? バレないでくださいよ? 正直従魔のステータスじゃありえないですから」
黒田の声に、一木さんははたと意識を広げるのをやめ、擬態して存在感を消した。
ゆさゆさと葉を揺らして笑う。
自分もネットワークを広げられると、確信して。
『本当だよ、ママ!! 嘘じゃないって! わかってるさ、宿題は夕飯までにやるよ……』
『北? 南? 西? 日本はどこ?』
『ああ、くそう。飲み過ぎたか。忘れてください皆さん』
トミカたちは見物し終えて戻ることにした。
その前に砕けた石畳の間から生える雑草を見渡す。
トミカの莫大な魔力が大地に浸透していく。
一木さんと花ちゃんもそれに続く。
雑草は朽ち殺風景な石の遺跡を覆うように、色鮮やかなで美しい花々や樹木が育ち、咲いていく。
周辺の土壌を変質させ、鬱蒼とした陰気さをかき消していく。
「こんなんですけど、トミカです」
一木さんと花ちゃんに寄り沿われながら、トミカは家族の眠る土地に黙祷をささげた。
「あ、『神々』にも寄っていい? ごあいさつしないと」
「そうですね。いっそ鳥居でも建てますか」
「いいねぇ」
その後、建設作業は順調に進んでいった。
「どうなってるのよぉぉ!」
ターミナルにやってきた坪根は愕然とした。
闇ギルドに脅され、誰の協力も得られず仕方なしに自らトミカを探そうと、借金をしてポーションを買い込みやって来たのだ。
「ちょっと、入れなさいよ!!」
フェンスで覆われた一帯をぐるぐるとめぐり、強行しようとして黒田の部下に止められた。
「ここから先は私有地です。ターミナルを利用するなら、別の場所を使ってください」
「何の権限があって、何様よぉ!! 横暴じゃないの!!」
坪根の様子は、『深緑の魔女』の特ダネを狙うマスコミのネタになった。
「何撮ってんのよぉぉ!!」




