10.第七話 『いいこと』
黒田の帰還祭りの大騒ぎも終わり、寝静まった森の夜。
暗黒の森に佇む男がいた。
「うぅーん、黒田だった」
「一木さんですか!?」
黒田はドキリとして、一木さんを見つめた。
いつもの木の一木さんではない。
ドライアドの精霊体だ。
「危ないのよ。夜は」
一木さんに近寄られ黒田はドキッとした。
「えぇ、少しばかり、一木さんに話がありまして」
黒田は平静を装い、眼鏡をクイクイ上げ続けた。
「トミカに内緒?」
「トミカさんには秘密なのでしょう? その姿のこと」
一木さんは、もじもじした。
黒田は、眼鏡をクイクイする。
「いえ、いいんです。トミカさんに言う必要はありません」
「どうして?」
「これからこのダンジョンには探索者が挑戦に訪れるでしょう。トミカさんのことですから、うっかり探索者と鉢合わせしてしまうこともあると思います」
「うぅーん。そうねー」
「その時、トミカさんから一木さんのことがバレるのが一番問題です」
黒田は『深緑の魔女』の片割れがモンスターであると知っていて、ライセンスを発行させた。
バレれば、黒田の立場も危うい。
「トミカは言わないと思うわ」
「あの人の場合、疑われたら隠せないでしょう。反応とか言い方ですぐわかってしまう」
「それはそうねー。あの子は素直なのよね」
「それに万が一のとき、あの人は何も知らなかった方がいいでしょう」
黒田はいざとなれば、自分が全て被るつもりだ。
「優しいのね、黒田」
一木さんに微笑まれて黒田は膝から崩れ落ちた。
「ついでにもう一つご相談が」
「今のなぁに?」
「いえ、こっちを」
黒田はタブレットの口座を見せた。
一木さんが覗き込み、黒田はドキッとした。
「黒田?」
「仮でギルドを立ち上げて、そこにポーションの売り上げを入金してます」
「ふぅん?」
「このギルドの資金が実質、トミカさんの資産なわけなんですが」
「うぅーん、それで?」
「これを見たら、トミカさんが『もう働かなくてよくない?』とか言い出しそうで」
「そうー?」
一木さんが首を傾げた。
黒田は胸を押さえた。
「はぁ、はぁ……はい」
「黒田に任せるわ」
「信用しすぎでは?」
「うぅーん。黒田なら、正しく使えるわ。もし使わないなら、欲しい人にあげて」
「いやそれは……寄付も検討ですね。はい」
じっと、一木さんは黒田のタブレットを見た。
「一木さん、タブレット欲しいですか?」
「うぅーん、いらない! トミカがくれたこれがあるもの」
「そうですか」
黒田は暗闇の中、天を仰いだ。
「うぅーん……ダンジョンでそれは死ぬわよ、黒田」
後日、新聞、雑誌、ネットでは、『深緑の魔女』による多額寄付が話題になった。
〈……10億ってマジか……〉
〈いや、最初が10億で、次20億らしいぞ〉
〈これ、ギルド『深緑』だってよ〉
〈なんで増えてんだよww〉
〈ポーションと不動産取引で稼いでるらしいな〉
〈100万でいいからくれぇ!!〉
〈まじで行動原理不明だな〉
〈人助けして、ポーションで命救って、寄付って……聖人かよ〉
〈『深緑の聖女』じゃん〉
その話題をトミカも黒田が持ってきた雑誌で知った。
「豪気なお方もいるもんですなぁ……ん? この『深緑の魔女』の寄付って、ものほん? 私のお金ってどうなってるんだ?」
【黒田に寄付してもらったわ】
「そっかー。え、私知らないんですけど!! 一木さんOKしちゃったの!?」
【しちゃったの】
「くそう、黒田!! 一木さんを言いくるめたな!」
トミカは黒田に詰め寄った。
一木さんはあたふたとただ様子を見守る。
「トミカさん、どうぞ」
「このインテリヤクザ! 私の30億返せ!」
「あれは根回しの一環です。省庁に許可も得ましたし土地所有者との算段が付きましたよ」
「土地? 何のことよ」
ターミナル周辺の土地買収に関する書類だった。
「ターミナルはやはり買えませんが、周囲の土地を購入しました。実質、このターミナルもトミカさんのものです」
そのターミナルの住所にトミカは見覚えがあった。
トミカはポロポロと涙を流した。
「黒田くん……あざす」
トミカは20年越しに実家を取り戻した。




