9.第六話 『壺魔人』後
失敗を重ね、不安を振り払い、土と対話する。
美とは何か、芸術とは何か、魂とは、真理とは……
私は探求を続けていた。
「ダレ、カ……ダレ、カ……」
この声は……
私は小屋から飛び出した。
すると、農園と森の境にデカい緑の物体がいた。
「なんだ、人違いか」
「タスケテ」
「なにやつ」
「黒田です」
ずるずると複数の魔草に取り付かれている男だった。
というか黒田くんだった。
「まぁーっ!! まぁ、まぁ、まぁ!! 黒田くん!!!」
黒田くんが戻った。
「一木さん、花ちゃん、黒田くんが戻りましたよー!」
うようよと二人も駆け寄ってくる。
そして、魔草の塊に合流した。
「ふふ、新種のモンスターみたいだね」
「タスケテ……」
「皆さん、うれしいのはわかるけど、寄生はやめましょう」
みんなが離れるともみくちゃでくしゃくしゃのスーツのボサボサ頭の人がいた。
「はぁ、はぁ、途中捕まってしまって……助かりました、どうも」
「うれしいなぁ。黒田くんが無事に戻ってきてくれて」
【これは無事なの?】
「言ったでしょう……また、焼き肉しましょうと」
黒田くんが、マジックバックからコンテナを出した。
お米や、雑誌、新聞、その他消耗品の追加などが満載だった。
「ありがとうございます。まずは、みんなで焼肉しちゃいましょうか!!」
【そうね】
『きゅいぃ!』
「黒田くんの帰還祝いだよ」
営業部も含めて、みんなで焼肉だ。
肉やお酒が運びこまれ、祭囃子が流されて、お祭りみたい。
各自、食べ物を持ち寄り、魚を焼いたり、鳥を焼いたり、食べて、飲んで、踊っている。
黒田くんに花を手渡す人も。草だけど。
お祝いの品が積まれていく。
「人気者だね、黒田くん」
「ありがたいです」
満を持して、私もこのひと月の成果を見せよう。
「黒田くん、これを君に譲りましょう」
「こ、これは……」
自作の壺。
「トミカさん……」
「すごいでしょ?」
「壺、歩いてますけど?」
私の壺には魂が宿っておるのだよ。
「すごいでしょ?」
「……誰ですか、この人に壺作りを教えた方は!?」
『ぎゅぎゅ!』
「私が破門? なぜですか師匠!?」
何がダメなの?
土をこねて、ろくろを回した。
釉薬だって自作したのに……
これを塗って焼くと、艶が全然違うんだ。
壺づくり禁止命令が出された。
トコトコ動いてかわいいじゃないか。花を生けるとたまに倒しちゃうけど。
「貴女はモンスターを生み出さないでください。それより、レポートを」
「あ」
レポート……?
「このひと月、まさか動く壺を作っていただけとは言いませんよね」
黒田くんは眼鏡の奥で目を細める。
「そのまさかが起きる。だってここはダンジョンだからね」
「ダンジョンは関係ありません」
あ、ヤバい。お説教黒田だ。こうなると長いんだ。
「まぁ今回は良いでしょう」
「良いの?」
「貴女のポーションには助けられましたから。それから、営業部の皆さんにも」
黒田くんは頭を下げた。
「皆さんのおかげで、『奈落』の66階層、67階層を突破しました。ありがとうございました」
おおー!?
え? 66階層と67階層どっちも攻略しちゃったんだ。
す、すげぇ……
本当に日本ダンジョン界を変えちゃうんじゃない?
だって、階層を制覇したらそれだけ新しいアイテムや新しい魔物、情報なんかが丸々手に入れられるってことでしょ?
それが一気に2階層分。
なんか、忘れてたけど、そうだった。
黒田くんはすごい人だったんだ。
「まぁまぁまぁ、堅苦しいことは言わず、どうぞお座りになってらして! 今お肉をお焼き致しますので、どうぞお座りになってらして!」
「急になんですか」
このままいけば、黒田くんは国民栄誉賞、協会の役員、果ては協会庁長官、いや、総理大臣?
気のせいかなんだか、前よりも大きく見えるぞ。
これは私も態度を改めねば。
「わたくしは今からレポートを書きますので、お肉を食べてらして」
「いいですよ。一緒に食べましょう」
なんと寛大な……
「それに、話したいこともありまして」
「なんなりと」
「今回僕だけでなく、『東京賢人会』のメンバーにも一人も死者は出ませんでした」
「お怪我をされた方は?」
「おかげさまで皆無事でした」
「それは何よりでした」
「貴女には救われました。本当に、ありがとうございました」
薬師は攻略には参加できないけど、人の生き死には関わることになる。
こうして、お役に立てて、お礼を言われるなんて初めてかもしれない。
ああ、そうか。
私は今、薬師として報われたんだ。
「私の方こそ、生きて戻ってきてくれてありがとうございました」
「それで、少し営業しすぎまして」
「え?」
「ポーションの受注が殺到してますし、緑に挑戦する者も増えるでしょう」
「仕事の話はやめましょう、ね?」
黒田くんは構わず続けた。
「繁忙期がやって来ます。フル稼働でポーションの製造を」
いやぁ、薬師として、ごひいきさんが増えるのはうれしいんですけど……
「でも壺……」
「壺はいいです」




