8.第六話 『壺魔人』前
黒田くんが旅立ってしばらく。
いつもなら一週間ごとには来ていたので、花ちゃんがウロウロと黒田くんを探し始めてしまった。
「花ちゃん、黒田くんは多分今週は来ないのよ」
『きゅぃぃ?』
「いや、『死んだ?』って、死んでないよ」
花ちゃんは『奈落』をよく知らないようだ。
当然だけど。
いや私も、60階層なんて縁がないから、どう大変か想像つかない。
「いつ戻るかなー? ひと月は無理なんじゃないかな」
『きゅぃぃ!』
花ちゃんはぷりぷりとお怒りだ。
いや、黒田くんは遊びに行ってるわけじゃないのよ?
花ちゃんをなだめていると、森の方からソワソワと別の魔草が農園を覗いていた。
『ごめんください』と礼儀正しい。
「あら? 営業部長、どうしました? 今週のお肥料は払いましたよ?」
『きゅきゅきゅ?』
「はぁ、あなたもですか……黒田くんは死んでないってば」
魔草営業部がそろそろと代わる代わる農園にやって来ては『黒田死んだ?』、『ねぇ、黒田は死んだの?』、『もう死んだ?』とやたら聞いて来た。
「なんか、不安になってきたぞ……死んでないよね? ねぇ、一木さん、ねぇ!?」
頼りの一木さんはいつになくうねうねしてる。
それは……なに? どういう感情?
「え? 『回線が』? 『弱くて……』? ダンジョンに電波は来ないよ?」
なんだろう。一木さん独特の怪電波でもあるの?
一木さんは落ち着きなく、うねうねと動き回っている。お珍しい。
私も暇なので、スマホで電波を探した。
「電波ないねー」
触腕がうねうねと動く。
まるであれだ。ダンジング? うっ? ダンシング?
【ダウジングね】
「あ、そうそう」
一木さんはうねうねと動き回り続けて、結構遠くまで来てしまった。
「いやいや、一木さん一木さん、そっちはターミナルだよ」
一木さんが電波を一本見つけた遭難者みたいに根っこをバタバタさせる。
出たいのかなぁ?
と、そこへ、見知らぬ探索者集団。
「よっし! 行くぞ!」」
わー!
一木さんは擬態し、私もとっさに隠れた。
ツタ屋さんに『またお前かよ』とあきれられる。
セーフ……
「聞いたか? 『黒衣の賢者』が66階層挑戦だとよ」
「ムリムリ。あの人S級だけどまともに戦ってるところ見たことねぇし」
「え、やばくねぇ? 『深緑』の窓口なのに……」
やばくねぇ?
やっぱ、不安だ。
「一木さん、どうしよ。ちょっと不安になって、きちゃった」
どうやら一木さんもだ。
え?『「奈落」に様子を見に行こう』って?
うぅーん……
あとで黒田くんに怒られそう。
「いや、ここは黒田くんを信じましょう」
一木さんちょっと揺れていたけど、最終的にコクリとうなずいた。
私たちは農園に戻った。
これはあれだな。暇だとダメだ。良くないことを考えてしまう。
それに、戻ってきた黒田くんに何か言われそうだ。
『僕がいない間、だらけてたんですか?』
『気楽なものですね、道楽でS級になられた方は』
『お暇でしたらもっと仕事をさしあげますよぉ?』
『生きててなにが楽しいんですか?』
『生産性の無い者に生きる価値なし』
『働かぬなら、腹を切れい!!』
『おれは貴様を倒す者だ』
くっそぉ、黒田めぇ……
あ、いけない、ヤダわ、私ったら!
脳内黒田とケンカするところだったわ。
何かしなきゃ。
そうだ。
黒田くんと言えば……
私は魔草営業部の集落に足を運んだ。
「先生、私に壺作りを教えてください」
『ぎぎゅ』
「はい、師匠と呼びます! はい、厳しくお願いします」
壺師匠に、有意義なノウハウを教わりに来たのだ。
フフ、黒田くんよ。
私の芸術センスの高さに驚くなよ。
高校生の時、美術選択で8だったんだぞ。
壺は色んなものに使える。
貯めたり、隠したり、植木鉢みたいに植えたり……
魔草村でも珍重されている。
そして、黒田くんは壺に目が無い。
これで戻ってきたとき壺を作れるトミカさんを見て、敬うこと間違いなし。
私は普段のルーティンに、壺の修行を加えた。
土をこねて、形を作って焼く。
これは私にぴったりだ。
なにせ、土だ。
魔法でちょちょい。
『ぎぎゅ!!!』
「あぃ、すいません」
うん、すっごい怒られた。
気持ちを込めて土に触れながらやれと。
フフ、だが私の優位は揺るがないのさ。
ろくろを回すのは、カチカチでくるくるすれば良いのだ。
私だけ全自動なのさ。
『ぎぎゅ!!!』
「あぃ、真面目にやります。いえ、やります。帰りません」
怒られた。楽をするなと。
もう、いいかも。
ああ、やりますー!!
そうして、悪戦苦闘している間もみんなが黒田黒田と聞いて来ていた。




