↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/52

5.第三話 『焼肉』 後  

 


 食事の後、黒田くんと一木さんが難しい話をしている。

 それはいつものことだけど、黒田くんの方にいつもの冴えがない。

 いつもはもっと淡々としているのだが、何かこう……一木さんに対してよそよそしく、私に対して馴れ馴れしい。


「あっ」


 黒田くんが飲み物をこぼした。


「申し訳ない」

「もう、そそっかしいんだから」


 ま、私もよくやるけど。


 隣の一木さんが世話を焼こうとする。


【服が染みになるから、洗いましょう】

「いや、結構です」

【いいから】


 一木さんが黒田さんを脱がせた。

 ちなみにジャケットだ。

 一木さんはそれを受け取り、花ちゃんにポイっ手渡した。


 あ、花ちゃんにやらせるんだね。

 任された花ちゃんは気合十分だ。

 花ちゃんが分泌する界面活性成分が汚れを落とすのさ。

 天然由来?だから生地にもやさしいぞ。


「……え?」


 それ、大丈夫な洗い方ですかっていうツッコミも飛んでこない。

 どうした、黒田?

 ツッコミをサボるな。



「僕はしばらく来られないかもしれません」

「え?」


 どうしたの、急に真面目な顔して。

 いつもだけど。


「トミカさんのポーションを協会で公式に販売する算段が付きました」

「え、そうなの! 早く言って!! 一番最初に、開口一番、それを言って!!」


 ビッグイベントじゃないの!!

 これまで政府系の試験だとか、外交交渉で使ったりとかはあったけども。

 一般販売は転売のナンバリングとか対策する必要があったので、時間がかかっていたらしい。

 ようやくですか。


「売れそう?」

「僕次第なところはありますね」

「どういうことですか?」

「それが値段相応か、どれだけの力があるのか、僕が実証します。そのため、未踏破の領域に挑戦します」

「え」


 そうか……『深緑の魔女』ブランドそのものは、注目されているけど、大金払ってまで試すのはリスキーだ。それっきゃないとなったら使うだろうけど、そりゃ不安か。

 だって、顔も名前も知らないんだし。

 実際、作ってるの成りすましの私だし。


 責任重大なんですけど。

 肉食ってる場合じゃないよ!



「いや、黒田くん、そんな思い切りのいい生き方君らしくない。安全マージンを考えて堅実に生きるのよ!」

「率先して探索者の手本になる。それがS級の役目です」

「黒田くん……」



 立派だ。

 探索者の鑑だ。


「いいの? 私、結構大事な時にポカしますけども……もし失敗作が混ざってたら……」

「わかってます。あなたは大体なんでもズレていて、危なっかしく、社会人としてままならない人です」


 言いすぎだろ。

 危ない賭けに出て一攫千金を夢見るギャンブラーだろ、探索者なんて。その長たるS級に言われたくありません。


「その上非常識で、しかもその自覚がない。始末に負えない」

「やい、ここは反語をつかって良いことを言うところでしょ、普通。君も大概だからね?」

「ですが、薬師としてのあなたの実力だけは信じている。だから僕がやるべきなんです」



 黒田くんは真剣な眼をしている。



「わかったよ、わかりました。なら、応援します」



 死亡フラグっぽいけど、私に止める権利はない。



「それで、派兵先はいずこに?」

「派兵? ああ、『奈落』の66階層『神魔六神将の間』です」



『神魔六神将の間』。

 よりにもよって。


 私を信じるな、黒田ぁ!!


 日本ダンジョン界が停滞と衰退へと進んだきっかけだ。

 私が薬師デビューした直後だったからよく覚えている。


 S級クランが壊滅し、当時のS級一位から八位が、全滅した大事件。

 それが、『神魔六神将の間』だった。


 ダンジョンボスが6体、パーティを組んで連携してくるというえげつない部屋である。


 便利なアイテムや精霊との出会い、加護の取得など、『奈落』攻略はダンジョン界全体に必要不可欠だった。

 それが、ここでストップしたために、日本ダンジョン界は急速に衰退していった。


 その後海外勢が、攻略に挑んだものの、やはり突破は難しく、撤退が相次いで、今やだれも挑戦しない。



「えっと……それ、他のS級の方々はご参加なのかしら?」

「『東京賢人会』のみで」


 あ、これ絶対ダメなやつ。

 確実に死ぬやつ!!



「行くな、黒田!! 行くなら、私の屍を踏み倒してお行きなさい!!」

「えぇ」

【危ないことしないで】

「いや……」

『きゅぃぃ……』

「纏わりつかないで」



 黒田くん、君は強い。

 けど、基本文系のひょろがりだろ。

 我々に体育会系のノリは無理じゃん。


 わかるよ? 体育会系になめられているとムカつくよね?

 でも、見返す必要なんてない。

 あなたは、勉強をがんばればいいの!



「ご安心を……帰ったら、また焼肉しましょう」

「馬鹿だよ。私のポーションなんてどうでもいいから」

「それだけではありませんよ。この日本ダンジョン界に停滞している空気を取り払える、その確信がありますのでご安心を。勝算があるんです」

「でもぉ……」

【行かせましょう、トミカ】

「そんな、一木さん!」

【黒田なら大丈夫。黒田の『大丈夫』は本当に大丈夫だから】


 そうかい。


 わかったよ。



 男の覚悟をこれ以上、揺るがす真似は致しません。

 ここは応援して送り出します。



「頑張って。辛かったら戻っておいで。これ、持ってお行き」


 マッチ代わりで便利だけど、黒田くんの命には代えられない。


「これは『炎蛇王の魔杖』!? なぜここに?」

「落ちてた。あとこれも」

「そんなバカな」


 洗濯の乾燥にと思ったけど、仕方ない。

 黒田くんの命の方が大事だ。



「『風神帝の大聖杖』!? なぜここに?」

「ドロップアイテム。拾ったの」

「そんなバカな」


 本当に今朝、森に落っこちてた。


「……経緯は聞きません。ありがたくいただきます」

「黒田くん、戻ってくるって信じてますからね」

「はい、ありがとうございます、トミカさん」

【黒田、これも持って行って】

『きゅいぃぃ』


 二人もいろいろあげている。

 一木さんは、何かの種。

 花ちゃんは、拾った石とか、黒田くんの似顔絵。

 

「信じてるよ、黒田くん。また絶対焼肉するんだからね」


 見送りに営業さんたちも来て、いろいろと渡していく。


「大丈夫、君ならやれるよ。みんなが付いているからね、黒田くん」

「はい、はい……あ、どうも、あこれも……はぁ、はぁ……多い!! 信じろ、僕の勝算を!!」



 黒田くんはちょっとキレ気味で帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここで渡されたアイテム群、大体が仕事したので心配は無駄じゃなかったのであるwww
ひと舐めでHPMP疲労完全回復、四肢欠損再生、ダンジョン内で常時全ステ50%バフがかかる魔女汁が中級ポーションなみの価格でお求めやすくなっております
黒田君が瀕死の重症負ったとしたら魔草のスタンピードが起こるので要注意っすね そこに魔女さんもキレッキレになって乗り込んできそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。