1.第一話 『救世主はダンジョンにいる』前
無人販売と協会に卸したポーションの販売が好調なようで、黒田くんは頻繁に運び屋をしてくれている。
なんだか申し訳ないけど、彼は彼で、うちに来るとのんびりしているので、気を休められているのだろう。
「お疲れ様ー」
「お疲れさまです。お変わりありませんか?」
「ないよー」
一木さんは黒田くんが来る日はちょっと手の込んだものを作っておもてなししてくれる。
お米、卵、牛乳、お酒だけでなく、気を利かせた黒田くんが料理本なんかも差し入れてくれたので、一木さん食堂の品数も倍増だ。
「一木さん本日のスイーツはなんでしょう?」
【イチゴのショートケーキ】
「うぅん、さすが、絶品ですね」
満喫してるね。
誰だっけ? ダンジョン内で暮らすなんておかしいって言ってたの?
「いや、おかしいですよ。この記事御覧なさい」
「ほほう?」
ええ、なになに?
最近は黒田くんが新聞や雑誌を持って来てくれているおかげで世情に疎い田舎者じゃないですよ。
「【熱愛報道!? S級一の堅物『黒衣の賢者』を攻略したのは『深緑の魔女』?】」
「そこじゃないです」
『足しげく通う男、黒田のマメさが彼女の心を解きほぐしたか』、だって。
「黒田くん、『深緑の魔女』様とお付き合いが?」
「違いますよ。僕がここに通っているから、根も葉もない記事が出回ってるだけです」
「そいつは申し訳ねぇ」
「ゴシップ欄じゃなく、報道特集を」
世の中は目まぐるしく変化していっているのですね。
【各国で手痛い人的損失 『アウラウネ』を前に戦力を失う】
【ダンジョン経済に大きな痛手か 現地法人撤退も視野】
【ポーション外交 危機の各国へ救援の打診】
【日本がダンジョン市場で存在感 『深緑の魔女』の影響拡大】
雑誌の記事に、自分と関係している内容があるとちょっと不思議な気持ちになるね。
一先ず、お役に立てているようで何よりです。
それに引き換え、海外はとんでもない被害が出ているようだ。
「『アルラウネ』による被害? 怖いね」
確か、数年前に研究の失敗で外に魔草種漏れだしたとき進化して大都市を壊滅させたのが『アルラウネ』だった。
見た目は人間そっくりになり、近しい人に化けて襲うから反撃できないという凶悪なモンスターだ。
「日本は大丈夫なの?」
「いや、貴女が知っていてくださいよ」
「え、なんで私が?」
「花ちゃんですよ」
あ、アルラウネの進化前って悪魔草か!
「花ちゃん、進化してないですよね」
「御覧の通り。ソー、キュート」
呼ばれたと思って花ちゃんが駆け寄ってくる。
「うわ、人懐っこい!! 絡みつかないでください、スーツがぁ!」
「花ちゃんはほら、愛嬌がカンストしてるんで」
ま、大丈夫でしょう。
ちょっと進化後も見てみたい気もするけどね。
「しかし、営業部も総じて進化していないのは、何か貴女が命じたのではないのですか?」
「……何も」
「では、あの集落のような暮らしぶりは?」
「自然と……」
そうそう、黒田くんにはレポートを毎回提出する宿題を出されているのです。
大体、観たことをそのまま書いているが、黒田くんはA+をくれている。私は優秀な生徒です。
レポートにも書いたのだが、最近営業部は発展を遂げ、栄えている。
一木さんも、食材(お魚や鳥)はもちろん、小屋に飾るお花なんかも買い出しに出向いている。
おかげさまで、なんということでしょう。
殺風景だった部屋の中が彩り豊かに。
ちなみに私は壺をもらった。
廃ポーションを捨てていた場所の土が欲しいといわれたので物々交換で。
「興味深いですね、魔草種が人間の暮らしを真似するとは……」
黒田くんもすっかりなじんで、あちらの営業さんに交渉を持ち掛けられている。
私はDIY系の知識は全然だから、その辺を黒田くんに質問しているそうで、壺づくりや彫像なんかも動画を交えてレクチャーしてくれたらしい。
「また、詳しく報告をください」
「あ、黒田くんも壺持って帰ってね」
「僕にですか? これは……」
黒田くんが、目利き鑑定士の顔になる。
「お世話になってるから黒田くんにもって」
「これはいいものだ。ありがたく頂戴します」




