13.第九話 『魔草営業部』
西欧の島国でS級一位から三位、南半球最大の大陸でS級8名、中央アジアの某国でS級12名が死亡した。
『緑のダンジョン』内での度重なる死闘の果て、『悪魔草』は次々と上位種『傀草』へと進化した。
それらは文字通り、人に擬態する魔物。そして人の屍を操る。
結果起きたのは壮絶な同士討ち、心を削る陰惨な戦いだった。
各国は多大なる犠牲の末に『緑』の一時的封鎖を余儀なくされていた。
ダンジョン攻略は時代と共により高い難易度、ステージへと進んでいく。
約束された勝利など存在しない。
一方そのころ、日本の『悪魔草』は特異な進化を遂げていた。
◇
トミカ特製の看板を持つ『悪魔草』ならびにそれに準ずる多様な魔草種たち。
彼らは看板の意味を何度も確かめ、配置につき、緊張した様子でその時を待っていた。
「うっ……ここは?」
魔蟲に追われボロボロの探索者が来る。
すかさず、不戦エリアの魔蟲の狙いを、においでコントロールし排除する。
「悪魔草の群生地か?」
彼らはラジカセのスイッチを入れる。
すると、ドンドコと陽気な祭囃子が鳴り、不戦エリアを音で伝える。
これは眼をやられた探査者がいて苦戦した経験から他の営業部が提案して採用されたアイテムだ。
状況の変化を告げるにも都合がいい。
「もしかして……本当にあったのか……」
探索者は多少戸惑うが、最近は噂を聞いていて理解が早い者が多い。
『悪魔草』の誘導に素直に従う。
ただ警戒する余裕を無くしているだけなのだが。
彼らは付かず離れず、ポーション購入を促す。
【もう、あきらめていませんか?】
【そんなあなたに朗報です!】
【一日はまだ終わらない!】
「ダメだ。金なんてない……」
このとき、金銭的な余裕のない探索者もいる。
イレギュラー対応だ。
『キュィィ……』
戦々恐々とする魔草たち。
【キャッシュレス対応しました!】
「いや荷物は全部、落としてしまって……すまない」
『キュィィィ……』
こんなときはベテランの出番だ。
【持ち合わせがなくても安心!後払いプラン】
「え?」
たくさんある営業オペレーションから最適な、対応を選び、素早く判断する。
この場合は鍵を開け、後払いボタンを押し、ライセンスカードをタッチさせてから、後払いの振込用紙を渡し、ポーションを都合するのだ。
この複雑な手順は選ばれた精鋭にしかできない高度な対応だ。
他の魔草種はベテランに憧れの視線を送る。
「ありがとう、これで家に帰れるよ……ありがとう」
このとき探索者の警戒心は完全に消え失せ、握手する者までいる。
【ぜひまたお越しください!】
「二度と来ないよ!!」
探索者を見送るとラジカセをオフにする。
森に静けさが戻る。
一仕事を終え、彼らは緊張を解く。
各段に対応力は上がっている。
経験値的にも十分に次へ進化できる段階にある。
だが、進化はストップしている。
必要がないからだ。
進化して消費エネルギーを増やしてまで必要な生存戦略などない。
もちろん、進化による優位性を獲得しようとする者もいた。
営業部は魔草ネットワークで一度あれこれと話し合った。
彼らの思考は、ある疑念に基づいていた。
――進化して望むものが手に入るのか――
この森で唯一自分たちを脅かす存在とは、『なかよし』だ。
肥料がもらえて、純度の高い魔力水がもらえて、栄養価の高い作物がもらえて十分幸せだ。
彼らには、自分たちは特別なことをしているという自負、誇りがあった。
望むとすれば、それは確固たる自分の役割。立ち位置。
いわば、他に誇れる自分の仕事だ。
結果起きたのは、行動の振り分け、個性の拡張だった。
営業に秀でた者もいれば、戦いが得意な者、考えるのが得意な者など。
花を育てる者。
魔獣を飼う者。
像を建てる者。
湧水を探し当てる者。
お土産を作る者。
交換する者。
物を調達する者。
踊る者。
描く者。
まるで村のように、営業部は進化していった。
「なんか最近、営業部が活気すごいよね、ね、花ちゃん?」
洗濯物を取り込む当番をサボった花ちゃんにトミカは営業部を引き合いに出す。
しかし花ちゃんは動かない。
もう慣れている。
他所は他所、ウチはウチ。
いいじゃないか、一体ぐらいぐうたらしている個体があっても。
花ちゃんは確固たる自分を持って、のんびり日向ぼっこし続けていた。
それに釣られたトミカと一木さんが並び、三人で仲良くみかんを食べた。




