11.第八話 『祝・トミカ合法化』前
私はやきもきしていた。
きっと、黒田くんは仕事をやりとげ戻ってくるはずだ。
だから、いつでもお祝いをできるように、食事の支度をしていた。
だから、ここ数日は毎日満漢全席みたいになってしまった。
いや力士になるわ。
もう逆に、シンプルなものが食べたい。
ご飯とみそ汁と漬物、それでええねん。
そういうマインドになっていたときだった。
「遅れてすいません。完全勝利ですよ!!……なんですか、その間が悪いときに来やがったみたいな空気は」
「……一木さん……」
【トミカ、『どうせ今日も来ない』って言った】
「一木さんも納得してたじゃ~ん。健康に良くないって!」
パンとスープの日なのです。
デザートも用意して無いのです。
「無罪放免、優遇措置、不干渉で、生活を続けられるのですから。もっと喜んでくださいよ」
そんな、至れり尽くせりな結果。
きちんと感謝の意を示したい。
準備したい。
「黒田殿、かたじけのうございます。恐れ入りますがご訪問は明日、改めてお願いしたく!! ささ!」
やり直しを所望いたす!
「なんで門前払いなんですか。おじゃましますよ。込み入った話を詰めたいので」
ああ、黒田殿!
皆、おもてなしじゃ!! おもてなしするのじゃ!!
花ちゃん、扇いで扇いで!
一木さん、肩をおもみして!
私は、お茶を淹れまする!!
「お祝いの品は持ってきましたよ」
慌てる私たちをよそに、黒田くんがケーキとお酒を出した。
「ささやかではありますが、僕から贈り物です。おめでとうございます」
「黒田くん……」
【黒田……】
『きゅぃぃぃ』
私たちは、感謝と感激に震えた。
できる男だ。
こういう人が出世するんだろう。
なんだか自分が情けないし、恥ずかしい。
「黒田くん、本当にありがとう。このお礼は必ずします」
「礼には及びませんよ。僕には僕のメリットがあってやったことです」
大人だ。
「供給ルートに僕がいる限り、『東京賢人会』は『秘薬』争奪戦から一抜けできますので、フフフ」
「おもいきり役得じゃないか、黒田くん!」
「もちろん、協会に卸す分は残しますよ、フフフ」
悪い大人だ。
とか言って、黒田くんはどうせ無茶はしないのだ。
苦労人黒田。
今日は彼の苦労が報われたお祝いでもある。
私は彼のグラスにお酒を注いだ。
「いやぁ、本当にご苦労様でした!」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
私たちは乾杯してケーキをいただいた。
花ちゃんはビビビとおいしさに震えて、ちまちま大事そうに食べていた。
一木さんは、合掌。悟りの域へ。いや、ようわからん。
お酒も久々に飲んだなぁ。全く、酔わないけどね。
花ちゃんはちょっとくねくねしてる。酔ってる?
一木さんは、スッと小瓶に分けた。蓄えておく気だな。
黒田くんは……
「くはは、鮫島のジジイめ! 僕を侮るからこうなるんだ!! くははは!!」
黒黒田、全・開!!
いや、あんたが一番酔うんか~い。
「トミカさん、僕は言ってやったんです」
「はいはい」
「『見当もつきません』ってね……」
何の話? 何のこと?
わからんわからん。
「教えるわけねーだろ!! クハハハ、一生悩んでいろ!!」
「すごいすごい」
黒田くんの口から飛び出したのは表に出せない愚痴の数々。
うわ、よく生きてたな、黒田よ。
え、あの探索者、そんなやつだったの? ひくわー。
ああ、あのニュースの裏ではそうなってたんだ~。
加えてギルドの経営やら、後進の育成やら、ベンチャーの社長かよ。
「トミカさん、聞いてますか?」
「聞いてる聞いてる」
相当うっぷんが溜まってるんだな。
まぁ、この人生の先輩が聞いてあげよう。
何のアドバイスもできませんけども。
「あ、そうだ一木さん一木さん一木さん」
【なぁに? 酔っ払い】
「ライセンスカードあげます。コレ、名義が『深緑の魔女』の、特例で作らせたので」
「え、なぜに一木さん?」
『深緑の魔女』様のなんでしょ?
「なんでって、それは一木さんが『深―――うごごご」
わー、黒田くんが一木さんに捕まった。
どうした、一木さん?
がんじがらめにされた黒田くんが森の闇へ吸い込まれるように消えた。
「花ちゃん、一木さんが時々怖いの、わかる?」
花ちゃんと二人、がくがくと震えた。
黒田くん、何をしたか知らないけど、謝っておきな。
たぶん、君が悪いよ。
「……あれ? 今日寝違えたかな?」
幸い、黒田くんは1、2分で戻ってきた。
なんだか、不思議そうに、こちらを見ている。
ズレた眼鏡をかけ直し、状況を確認している。
そうだよ、お酒はもういただいたのよ。
ケーキももう食べたのよ。
時間を確認して……うん、記憶が飛んでるね。
「すいません、手続きの話は?」
「それはまだだよ」
「ではトミカさん、まずこのライセンスカードはあらゆる契約、決済に必要なので無くさないように。一木さんに渡しておきますね」
「ああ、うん。私だと無くしそうだからってこと?」
「……まぁ、そうですね」
無くさねーよ、とは言い切れない。
そういうことだったのか。
「え、一木さんはなんだったの?」
一木さんは幹をくねらせ、かわいくすっとぼけた。
なにそれ、か~わ~い~い~!
酔っぱらっちゃった? ああ、そうなんだ~。
「黒田くんも、とりあえず、お酒飲むとき気を付けなよ」
「……僕、何か言ってましたか?」
「……また一緒に飲もうな」
「ええ、ぜひ」




