10.第七話 『日本三位の女』
『深緑の魔女』が何者なのか。
手がかりは少なく憶測ばかりだった。
そんな時、『深緑の魔女』のポーションをたまたま手に入れた者たちがいた。
その夫婦は、ひどい事故で外傷を負い余命いくばくもない我が子と、残りの時間をただ穏やかに過ごしていた。
だが、奇跡は彼らに味方した。
『緑』で『深緑の魔女』に導かれ、ポーションを手に入れた。
2人はそれを息子に飲ませた。
すると、医者が匙を投げた息子はみるみるうちに回復した。
両親は、家族の未来を取り戻してくれた『深緑の魔女』に感謝し、直接会ってその想いを伝えたいと考えた。
だが、2人が再び『緑』に入ったとき、『深緑の魔女』は現れなかった。
そこで両親は何とか、彼女の情報はないものかあらゆる手を使い、ついに、有力な手掛かりを手に入れた。
「なるほど……では、『緑』で」
両親は魔女がくれたポーションのアンプルを、心当たりがあるという人物に見せた。
「はい……実際『秘薬』が入っていたアンプルです」
「拝見します」
(間違いない……この用法、用量を細かく書く癖のある字……トミカだわ)
彼女の中でトミカと『深緑の魔女』がつながった。
アンプルを手にしたのは『赤雲』ギルド長、坪根だ。
トミカを探しているときネットで興味深い情報を手に入れた。
これまで幾度となく使ってきたアンプルだ。
「それで、何かわかりますか?」
期待する両親の目の前で坪根は躊躇なくアンプルを叩き割った。
「ああ!!」
「何をするんだ!!」
「手が滑ったんです」
トミカ=『深緑の魔女』とは考えにくい。
しかし、製造の一端を担っているはず。
そんな有力な手掛かりを他の者に手渡す?
否である。
彼女は失墜した信用を取り戻し、復権するための起死回生を狙っていた。
その足で、ダンジョン協会本部へ赴き、自分が得た有力な情報を告げることにした。
(後は、『深緑の魔女』を捜索に同行し、トミカを見つければいい)
もはやギルドなど存在していない。
全員脱退し、残るは彼女一人。
トミカがいたとて何も変わらない。
だが、そんなまともな考えなどできる状態では無かった。
粗悪なポーションを常飲し続けた結果、ひどい依存症と中毒症状を併発し、ただ逆恨みによる執着だけで行動していた。
「帰れ!」
「なっ!!」
情報提供として手続きを踏み、代わる代わる対応した職員、巡り巡った受付窓口。
その果てに突き付けられたのは、全面的な拒否だった。
「何を言っているの? 『深緑の魔女』の有力な情報なのよ? 協会が知りたいことを私は知っていると言っているのよぉぉぉ!!!?」
「ああ、あなたの知り合いが関わっている。そうあんたは思ってるんだな? そりゃ勘違いだ」
「なぜそんなことがわかるのよ!!?」
「見てないのか? ニュースを」
職員が受付待ちの人が見るためのテレビを指さした。
そこに映っていたのは新たなランキング情報。
3位:S級『深緑の魔女』
「名前を伏せて公表されたってことは、ダンジョン協会はもう彼女の正体にノータッチってことだ。協会は彼女に対する不穏な噂、根拠のない憶測に対し、厳しく抗議する。つまり、今のあんただ」
「なっ、いや……そんな、どうして?」
「あんたこそ、『深緑の魔女』を探し出して何がしたい?」
「私は、トミカを……そうだ、元ギルドのメンバーを探しているのよ!! 彼女は『深緑の魔女』のポーション製造に関わっているのよぉぉ!!」
「そうか……元メンバーが再出発し、新たな仕事が軌道に乗っているところに乗り込んで、邪魔をしようって?」
気が付くと周囲からの刺すような視線。
複数人の協会員。
軽蔑と敵視の眼だ。
「うっ……いや……あんたじゃ話にならないわ!! 責任者を出しなさいよぉぉ!!!」
坪根は力づくで放り出された。
「キィィ!! う、訴えてやるぅぅ!!!」
地面に這いつくばり、汚れた女。
地面を叩き、怨嗟の言葉を吐いていた。
誰もが避けて通る女の傍に、近づく者たちがいた。
「興味深いことをおっしゃっていましたね?」
「は?」
「よければ我々が話を聞きましょう」
◇
一方そのころ、トミカたちは黒田の帰りを待っていた。
「一木さん、キノコたくさん採れたよ! これで料理の幅が広がるでしょ? キノコパスタ、ピザ、煮物もいいね!」
一瞥してすぐに一木さんはスマホに文字を入力した。
【それ、食べちゃダメよ!】
トミカと花ちゃんが顔を見合わせる。
「もう食べちゃった……ねぇ、花ちゃん? 私たち、死ぬの? オロロ……」
【二人は大丈夫みたい。黒田は食べたら死ぬ】
「捨ててくる……」
結果はまだ知らない。
だが、きっと上手くいっていると信じて、宴の準備を進めていた。




