9.第六話 『代理人黒田の逆転』
黒田はすぐに、裏を取った。
具体的な企業名があれば、そう難しくはない。
政治的なつながりはともかく、ダンジョン関係者は独自のネットワークを持っている。
それが『東京賢人会』、日本のトップギルドの一つともなればなおさらだ。
大手の外資系企業もまた協力を惜しまない。
外部に漏れれば企業イメージは下がり、株価も下がるからだ。
「クロダサン、ご配慮、感謝します」
「こちらこそ、すぐに動いていただきありがとうございます」
すぐに怪しい顧客の情報は入手された。
そこから違法業者の流通経路が明るみになっていった。
関与していたのは国際的に活動している闇ギルドで、その生産拠点を現地捜査機関が摘発に動いた。
「現在、密造生産拠点の一つが判明し、関与した薬師たちの身柄を拘束したとのことです」
黒田はダンジョン協会の上層部に報告した。
「まさか、これほど早く結果を出すとは……」
「見ただけで鮫島教授と同じ見解を示したそうだ」
「市場に紛れた粗悪品の回収も進む」
「それだけではない。日本が中央アジア全域に、貸しをつくれた。この意義は大きい!」
会議の参加者たちはそもそも、唐突に現れた『深緑の魔女』の力を疑っていた。
『秘薬』は偶然できたか、発掘したか……作ったところをだれも見ていないからだ。
その疑いは、完全に晴れた。
「よろしいですか?」
黒田が、本題に切り込む。
もはや鮫島を始めとする反黒田勢力たちは全く元気がない。
彼ら製薬会社の人間がどれだけの人員と金をかけても、なんら対策できなかった粗悪品の供給ルートそのものを叩いたのだ。
完全なる敗北であり、取り繕うこともできない。
しかし、黒田はそんなことはどうでもよかった。
「彼女の存在、それをどうするかが最も重要な議題です」
協会が最後まで渋っていたのは、トミカの存在を公にするか否かだ。
「お分かりの通り、彼女は生産職として超一級の逸材です。ポーションを作らせたら、各国がその力を欲するのは眼に見えています」
「しかし、それは協力するのが道理だろう。彼女は世界に貢献できる力を持っている。だからS級なのだ」
「ただの戦闘要員ならそれで済んでいましたが、彼女は生産職です。彼女の存在はどこの国がどう運用するかで、ダンジョン市場全体を左右してしまう……!! 公表したとき、彼女は現在の暮らしを放棄させられる。それが問題です」
誰にも否定はできなかった。
そもそもS級になるようなものは変わり者が多い。
中でもダンジョンに住んで、薬草を栽培し、魔草を使役するトミカはその最たる例と言える。
話がこじれた時の関係修復は困難を極めることが分かりきっている。
「……言うことを聞かせられないと?」
「無理ですね。今は対等な交渉に応じていますが、彼女には強力な従魔が二体います。いえ、おそらくあの周囲ほぼ全ての魔草が彼女の支配下と考えた方がいい。ざっと……100体」
黒田はあえて大げさに言った。
おそらくトミカは黒田の頼みなら聞いてくれるだろう。
魔草100体もでまかせである。
だが、危機感を煽ることでトミカが都合よく使われることを防ぐ算段だ。
「な、なんだと……? 破格のテイマーである内海舞は12体だが」
「桁が違うぞ。そんなことが可能なのか?」
「しかも魔草だ。一体でも前例がないのというのに……どうやって?」
もはやその疑問を鮫島教授にぶつける者は誰一人いなかった。
黒田は淡々と答えた。
「見当もつきませんね」
「……敵対は得策ではないということか」
「少なくとも、我々日本の上位5名だけでは勝ち目はないでしょう。無駄な争いはするべきではありません。彼女の細やかな望みは叶え、ポーションを用立ててもらう。そのための環境づくりに全力で取り組む。非公表で進めるのは大前提です」
黒田の演説にはかなりの説得力があり、反対派の役員たちも二の句を継げなかった。
代わりに口を開いたのは別のS級だ。
頭一つ抜けた活躍を見せる黒田に、変わり者のS級もまた意見を求めるようになった。
「ランクはどうするんだ、黒田さん?」
ランク制度はその国におけるダンジョン協会への貢献度、レベル、ダンジョン踏破の実績などから世界ダンジョン機構のシステムが判断する。
不正防止のため、これを偽ることはこの会議でもできない決まりだ。
「どうするも何もないですよ。ランクはいじれませんからね」
「なら、どうするんだ? 公表しないんだろう?」
「彼女の名を伏せるのは当然ですが、『秘薬』を生み出している者がいることはいずれわかる。そのとき、各国の非難を浴びて関係がこじれるのも馬鹿らしい。なので、『深緑の魔女』として正当にランク入りさせるのが得策かと」
「例外的にか?」
「そうです、特例です。特別待遇です。天然記念物として扱いましょう」
「……そこは、人間国宝じゃないか?」
会議では一丸となって『深緑の魔女』を保護し、過度な干渉はしないことで一致した。




