7.第五話 『コンサルタント・トミカ』 前
黒田くんとの遭遇から3日が経った。
その間、私は言われた通りダラダラして、ポーション作り以外特になにもせず過ごした。
そして、彼は戻ってきた!!
「黒田くん、お待ちしてました」
「トミカさん、お待たせしました」
「それで、結果は?」
結果発表!!
「あちらから条件を出されました。つきましては、トミカさんの判断を賜りたく。こちらです」
黒田くんから紙を渡された。
「なになに? 『協会への帰属意識並びに探索者としての責務』? 『能力の有無の確認と倫理観の共有』?」
お堅い文章で、理解するのに時間がかかったけど、特例を認めて欲しいんだったら、社会貢献して信用を得ろってこと?
「協会の一部は既得権益を守ろうと必死なのです。貴女とビジネスができないのであれば、不利益を被るからと、脅しをかけてきているのですよ」
「私、行った方がいいのでしょうか?」
これは仕方ない。ごねても良くないし、諦めなきゃね。
黒田くんも元々ダンジョンの外でって提案してくれていたのだし。
「トミカさん、選択肢はいくつかあります」
「いいのいいの。無茶なお願いをしてごめんなさい」
迷惑はこれ以上かけられないよ。
「このまま既得権益者たちの食い物にされるくらいなら、ここでこれまで通りに暮らすという手もあります」
黒田くんがまじめな顔で提案したのはつまり、これでの話を白紙に戻すということ。
「え? それっていろいろマズいじゃないですか。だって転売屋とか、探しに来る人とか、私もあれこれ違法だし、黒田くんはどうなるの?」
「それらは些細な問題でいくらでも解決しようはあります。しかし、一度世間にあなたの正体が知られれば取り返しはつきません」
すごく真剣に考えてくれている、黒田くん。
いい奴だ。
「交渉は決裂し、ポーションがもうもらえなくなったと揺さぶりをかけて、世間にその是非を問いましょう。役員や企業の自己保身のために、探索者全体に不利益を与えようとしているのですから」
あ、これは腹黒い計画だ。
それには私も乗った方がいいって感じ?
「奴ら、自分たちができないことを押し付けて試そうなど、恥知らずにも程がある。安定供給も市場の売価維持も、密造の取り締まりも一切できないくせに、何ておこがましい」
黒黒田くんだ。
「とにかく、そういうことですので、今日はこのまましばらく『緑』で説得したという体裁で帰ります」
「はい」
話が終わったところで、一木さんがうようよと近づいてきた。
本日のスイーツはアップルパイですよ。
「ああ、いい匂いですね。しかし、失態した僕に食べる資格は」
【黒田はがんばったわ】
ぽんと黒田くんの肩に触腕を乗せた一木さん。
「一木さん、ありがとうございます」
なんだろう、この差は。
私も大体同じ感じで労ったのだが?
アップルパイか?
「黒田くん、そのりんご、私が育てて収穫したんだよ」
「いただきます、一木さん」
スイーツ男子か、黒田くんよ。そういうのは流行んないよ。
「すごい。本格的ですね、サクサクの生地の香ばしさにりんごの奥深い独特な甘さと爽やかな酸味が混然一体となっていく」
なんて感想だ。
一木さんも嬉しそうだ。
私も何か言わなきゃ!
黒田くんの後ろで一木さんがうねうねと何か私に話している。
味の感想でしょ? 待ってて!
あ、違う。
『黒田にだけリスクを押し付けていいの?』か。
黒田くんは、真面目で信用できる人だと思う。
でも、私がここに引きこもって次に来る人は黒田くんじゃないかもしれない。
それは、なんか嫌だな。
相手を疑って、隠れて、様子を窺い、一か八か信用してみる。そういうの、外といるのと変わらないよ。
一木さんも、黒田くんは信用できるからこうしておもてなししているんだ。
本来、私のわがままに黒田くんを付き合わせているんだから、私がリスクを負うべきなんだ。
「黒田くん、私……黒田くんじゃなきゃ嫌です」
私は黒田くんに切り出した。
眼鏡の奥の目が険しくなったものの、軽くうなずいてくれた。
「トミカさん、誤解を生む言い回しですが、窓口は僕が望ましいという意味ですね?」
「それ以外にどんな意味が?」
「貴女はやはりずっと引きこもっていてください」
どういう意味だい?
「しかし現実問題として【経営派閥の条件をクリアする】、これは現実的ではありませんね」
「密造ポーションの出どころを見つけろ、だっけ」
「捜査に参加するのはダンジョンを出るのと変わりありませんから」
「そっか……」
「トミカさんが説き伏せる弁論術をお持ちなら話は別ですが」
「いやぁ」
ケンカになって終わりだよ。
腹芸とか無理だもの。
【偽物をここで見たら?】
一木さんがスマホで提案した。
「ここで、密造ポーションを見て何かわかるのですか?」
【やってみなければわからないでしょう?】
「そうですね。確かに鮫島教授の無理難題を解決してしまえば、彼に大きな貸しをつくり、もはや反論の余地は完全になくなる」
一発逆転を狙うってわけだね。
よっしゃ、いっちょやってみっか!
「一木さんお願いします」
黒田くんはポーションを取り出し、一木さんに渡した。
なぜだ、黒田よ。
ポーション作ってるのは私だよ。
「はいはい! ポーションなら私が見ます! やらせてください! 役に立ちます!」
「あ、失礼。どうぞ。ご自分のポーションの価値も分からない方には荷が重いと思いますが」
「やる前から毒吐かないでよぉ」




