6.第四話 『交渉人・黒田の受難』
ダンジョン協会の役員はおおまかに二つの派閥に分かれる。
探索者の視点に立ち、彼らを支援することを目的とする現場主義派閥。
協会の経営のため協賛企業との関係を第一に考える経営派閥。
両派閥が軒を連ねる会議に黒田は現れた。
そして、『深緑の魔女』とコンタクトに成功した報告を行なった。
「さすが」
「仕事が早いな……」
「一体どんな人物なんだ?」
期待が高まる中、黒田がまず告げたのは要求だった。
「『深緑の魔女』はダンジョン内で活動を続け、その正体は非公開とすることを望んでいます。また、そのポーション製造過程における違法行為を免責とするならばこの『秘薬』を定期的に協会に卸すと約束するそうです」
会議に感嘆の声が漏れる。
「バカな」
しかしそれは経営派閥には受け入れられなかった。
協賛企業の製薬会社にとって強力なライバルが増えることを意味するからだ。
(大企業が、低価格帯の製造だけをしろと?)
新規参入の上に、特例を認め、直接交渉することも、ノウハウを盗むこともできない。
(製薬会社の発展に貢献すれば良いものを、厄介な)
それでは、経営にダメージが発生するだけだ。
経営派閥の多くが、製薬会社の役員として報酬を受けとっているし、定年後の天下り先として守らなければならない。
(秘薬は欲しい、だが……)
(一部のトップランカーの権威が増すだけ)
(功績を独占されては株価にも影響がでる)
彼らは市場の崩壊や、供給のバランスを盾に黒田が提案した『深緑の魔女』からの提案を全て却下した。
「違法販売は如何なる理由があろうとも看過できない!!」
「我々製薬会社に監査をさせない気か?」
「表に出られない者のポーションを合法として認めるわけにはいかんだろう!!」
しかし黒田も負けていない。
「すでに違法販売のポーションは広く出回っておりその対策は全く進んでいません。監査としての機能は無いに等しい」
「何だと!」
「有名無実。結果の無いところに評価は無い。それが自然なこと。彼女のポーションを協会で販売すれば、むしろ市場の不安定な相場も正常に戻るでしょう。あれはできない、これは認めないというのなら、彼女は海外と契約してしまうかもしれません。それで良いのですか? そんなことになれば日本は世界の笑いものですよ!!!」
黒田の言い分に現場主義の探索者から成り上がった役員たちは賛同した。
「まずは第一歩というところではないか」
「前向きに検討しましょう」
「これで日本ダンジョン界が変わるでしょう」
経営派閥は反発。
「足元を見られ言いなりになれと!?」
「協会の権威が損なわれるではないか!」
「S級としての責任を果たすべきは君だ!!」
黒田は眼鏡の奥から私腹を肥やすことしか考えない者たち既得権益者たちを睨みつけた。
「不満があるのでしたら、どうぞご自分たちで交渉をなさってください。僕は無償奉仕をしているにすぎません」
黒田の言い分に誰もが口を噤んだ。
「まぁまぁ、これでは水掛け論ではないですか」
まとまりかけた議論を止めたのは鮫島だった。
黒田が『緑』に入り、『深緑の魔女』とコンタクトを取ってきたことで、鮫島の立場は危ぶまれていた。
さらに秘薬の供給により、日本ダンジョン界が発展してしまえば、黒田の発言力は完全に鮫島を越えてしまう。
彼はそれだけは阻止しなければならなかった。
(探索者が我々知識人に逆らい強い発言権を持つなど、ナンセンスだ)
両派閥の調停を買って出た体で、引き延ばしにかかった。
「黒田君、S級相当のステータスだと君が見たからと言って、何の証拠も提示せずに特例ばかり押し付けるのは感心しないな。とはいえ、秘薬はあるわけだし、ここは協賛企業の立場も考えて、『深緑の魔女』に協力の意志があるのか、成果で示してもらうというのはどうだね?」
「ポーションを供出する以外に、さらに協力を?」
「信用はモノではなく、行動で得るべきだろう?」
鮫島は密造され市場に出回るポーションの調査を受け持っていた。
しかし、結果は振るわず頭を悩ませていた。
「密造ポーションから供給元を探し出してもらえないだろうか? ポーションの専門家ならできるだろう?」
「それは厄介ごとを押し付けるということですか?」
「口に気を付けたまえ。君はただの交渉役だろう? 我々が確かめたいのは本人の意志だ!! 不服ならば、ここに来て異議を申し立てればいい」
勝ち誇る鮫島。
予想外の邪魔に、舌打ちする黒田。
「秘薬ですよ? みすみす手放すというのですか?」
「安定供給が可能かどうか不明では意味がない。秘薬の供給による影響をコントロールできないのなら、市場の崩壊を招きかねん。そもそも、その秘薬が生産されたものかも分からん」
完全に流れは鮫島に傾いた。
提示された条件は理不尽で、達成不可能に思える。
(自分のポーションすら価値がわからない人ですからね)
そこでふと黒田は疑問を抱いた。
(ならなぜ、販売したポーションに不良品がなかったのでしょうか?)
考えたところで勝算が薄いことに変わりはない。
「では、当人と協議します」
「はいどうぞ」
黒田は作戦を練り直すため『緑』に引き返すことになった。




