5.第三話 『来訪者』 後
「お問い合わせの多かった一木さんの呼び方ですが……いちきさーん! ……あ、きたきた!」
【呼んだ?】
「ということで、『いちきさん』って『さん』をつけて呼んでね!」
どうも、底辺E級薬師のトミカ改め、S級魔女のトミカです。
本格的に引きこもる決意をしました。
S級って言ったってねぇ、あたしゃ虫も殺せないか弱い女なのさ。小難しい利権争いに巻き込まれてとばっちりなんてごめんだね!
私が狙われないようにと、黒田くんもそれを尊重してくれた。
「何かご質問は?」
「えっと……無人販売はいかがいたしましょ……?」
もはや暗黒お奉行さまは、表情を取り繕うことすらしない。
ああ、舌打ちやめて! バカな質問してごめんて!
「それも、勝手にやらないでください。販売方法はこちらが指示します。おそらく協会で貴女の専門チームを組織し、彼らが最適な方法を検討するでしょう」
「チームですか。重ね重ね、お手数をおかけします」
「いずれにせよ、転売屋があのように買い占めているわけです。貴女は狙われている自覚をお持ちになってください」
「はいぃ」
しかし、いろいろ怒られてはいるものの、私にとってはすごく軽いペナルティだ。
これはいわゆる社会奉仕活動と保護観察処分で済んだ、ってことでよろしくて?
あ、いやそれをこれから黒田くんが交渉してくださるんだ。
黒田くん、気難しそうなのに。
ああ、そうか。
ここの空気、食べ物が彼の心を解きほぐし、血の通った判断を促してくれたのだろう。
ああ、大自然教、大体なんでも大自然教。
「ご質問は以上ですか?」
「黒田くんもダンジョンで生活してみませんか?」
「脳みそまでお花畑なんですか、トミカさん?」
すごい毒を吐かれたんですけど。
「周囲に魔物がはびこるダンジョンで落ち着けるはずがないでしょう? 僕は貴女のように神経図太くはありませんので」
「いや私結構ビビりですよ。この前も寝てたら……あ、思い出した!!」
私にもあるのだ。
この森における唯一の脅威が。
「『深緑の魔女』はどうすれば?」
ポーションを売ると、彼女の名前を勝手に使っているとまた怒られる……
次は命取られるぞ。
おら死にたくねぇだよ。
なぜだろう。
黒田くんは一木さんとヒソヒソやりとりし始めた。
ああ、疎外感。
「トミカさん、いいですか?」
「はい」
「『深緑の魔女』と僕は知り合いです」
「なんと!」
さすが顔が広くてらっしゃる。
あれ、でも再会した直後、私を『深緑の魔女』だと勘違いしていたような……?
ははーん。
そうか、私が本物のフリしてないか試してたんだね!
全く悪い人だよ、黒田くんは。
「彼女はあなたがそれを名乗ることを何ら問題に思っていません」
いや、名乗りたくないっす。
いろんな法に反するよ。『勝手に有名人を語って商売した罪』とか『無職のアラサー喪女が儚げ銀髪美女になりすます罪』とか。道理に反するよ。
あたしゃ、確かに褒められた人生を歩んできちゃいないよ。
けどね?
犯罪だけはしたことないんだからね!
「わかっていないようなので、この際はっきり言いますが、『深緑の魔女』のこれまでの活動、そのネームバリューを使って初めて対等以上の交渉ができるのです」
「でも、それって詐欺なんじゃ……後でバレたら」
「交渉するのは僕です。いやならご自身でおやりなさい」
「すいませんでした! 何卒よろしくお願いします!」
なんだか何を言っても怒られるぞ。
「へへへ、さぁ、ポーションならいくらでも持っていってくだせぇ」
「ではこの辺りの極上、即効性のある上級、いや、副作用なしの下級? ちっ、ややこしいですね!」
黒田くんがサンプルで価格帯を見繕ってくれた。
また怒られた。ラベリング、全部やり直しだよ……
「一応聞いておきますが、ポーションの効能は誰で確かめたんですか?」
「……自分です」
「そうでしょうね。S級で試したところで、全く参考にならないので、あなたはグレードを勝手に判断しない。全て一木さんに聞いてください」
「ふぁい」
なんで一木さんなんだよ。
私薬師10年もやってるんだぞ。
いや、確かにS級の使用感なんて知らないけどさ……
「では私はこれから上層部と交渉します。それまで売り物になるポーションを作る以外何もしないこと!」
「はい」
なんかすいません。
でもこれで、なんとかお目こぼしいただけそうだ。
黒田くんはお帰りになった。
これでよかったんだ。
「一木さんもありがとね」
【任せて】
「でもぉ、黒田くんと何を話してたのぉ? ねぇぇこっそり教えてぇ〜? 誰にも言わないからさぁぁ~」
私は一木さんにまとわりつく。
【トミカ、世の中には知らなくても良いことがあるのよ】
いやそんな世間知らずみたいにあしらわないでよ。




