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3.第二話 『交渉人黒田』

 


 僕は嫌な汗をかいていた。

 久しく忘れていた、S級の壁を越えたときから感じたことが無かった緊張感だ。


 全ては僕の目の前に座る彼女のせいだ。


 榊原トミカ。

 まさかというか、納得というか……この人のことは覚えている。


 僕が初めて所属したギルド『赤雲』で専属薬師をしていた、先輩だ。

 もう8年も前のことになる。


 非常識な量のポーションを消費する『赤雲』の運営を支えるため、昼夜を問わず働き続ける薬師。

 正直、最初はただの変人だと思ってた。

 だが、新人だった僕にも丁寧で、ポーションの効き目を細かく調整してくれた。


 今にして思えば『赤雲』で一番プロに徹していたのは彼女だったのかもしれませんね。


 それでも、今の今まで忘れていた。

 下級職である薬師で、やっていたのは『調合』。

 E級で魔力は少なく、ステータスは一般人と大差なかった。

 それが『鑑定』で見ると今は全くの別人だ。


 見たことのないスキル――『創薬』、『豊穣』

 見たことのない属性魔法――『大地』

 本人は否定していたものの、職業は『薬師』から『魔女』になっている。

 魔法系上級職でありながら、パワーやスピードは前衛職並みに高い。

 そしてすでに僕以上の魔力量。

 しかも『鑑定』中も能力値は上昇し続けている。


 規格外。

 間違いなく超S級クラスだ。


 まさかと思っていましたが、やはり経験値共有……


 欲しい。

 僕のギルドじゃなくてもいい。

 日本ダンジョン界に、この人は必要だ。


 しかし、彼女単体ですらこれだというのに……


 僕にスマホを向ける木がある。


【私のステータス、トミカに話したら●す】


 話す魔物はいる。

 古龍や悪魔、魔神だ。

 しかしスマホを使い脅してきた魔物は初めてだ。


 見た目はトゥレントなのに、実態は『ドライアド』……?

 確か『ドライアド』は海外で数度目撃証言がある木の精霊で、曰く美しい女性の姿をしていたという。

 能力値はトミカさんと同等かそれ以上ですか……

 それにスマホを扱うこの知能の高さは……一体トミカさんが何をしたのか、想像できませんが謎は解けましたよ。


『深緑の魔女』の正体はこのドライアドとトミカさん、両者の情報が混合した結果なのでしょう。


 ……どうもトミカさんの方はいろいろと知らないようですが。


「この……トゥレントは、あなたが使役しているのですか?」

「いいえ? お友達ですが?」


 ちっ、ケロッとした顔が何とも。

 従魔ではない。確かにステータス上は『なかよし』となっている。

『なかよし』とはなんですか?

 この人はステータスでもふざけているのでしょうか?

 

 下手に処罰などして、どれだけの損害が出るかわかったものではありません。


「違法行為について僕がなんとかします」

「ハハー!」

「代わりに、我々の提案を受けてもらえませんか?」

「はい、受けます!!」

「まだ何も言ってませんが……」

「なんでもやります!!」


 この能力値を傘に着て、横暴を働かないのはマシと考えますか。


「ではトミカさん、貴女のお力を日本の探索者たちにお貸しください」

「はい! 頑張ります!」


 返事はいいですね。


「まず、これまでの貴女の犯罪行為に酌量を求めるための交渉材料は何かありますか?」

「はい!!」


 様々な犯罪行為に目をつぶる代わりに、トミカさんは何でもやると豪語した。

 僕は最低でもダンジョン協会の上層部を説得するだけの対価を持って帰らなければならない。

 となれば、アレしかないでしょう。


「こちらです!!」

「こ、これは……!?」


 小屋の傍の地下室にはたくさんの食材が並んでいた。

 野菜と果物、ジャムや肉などちょっとした食料庫だ。


「すごい、なんでもありますね。肉の処理も完璧です」

「あ、それは一木さんがやってくれましたの、おほほ」


 この人、理解しているのですか? 特例を認めさせるのに、食べ物とは……


「トミカさん」

「はい、いかがでしょう」

「この調子で作物を卸すからなどと言わないでしょうね?」

「いや、これミラクルな作物なんですよ!?」

「ダンジョン産の食べ物を流通させるとなったら余計に許可が要るでしょう? 僕は、仲買人ではないんですよ」

「はいぃ……すいません」


 ズレてる。


【トミカのポーションは反対側よ】

「え?」


 突き付けられたスマホの画面。


 わかってる……そうですよ。普通そちらでしょう!

 なぜ魔物の方が話が通じるんだ……


「トミカさん、ポーションは?」

「えぇーでも、ポーションは中級までだし」

「ちっ、能書きはいいからお見せなさい」

「あ、はい」


 彼女が慌てて案内したもう一方の地下室に足を踏み入れ、僕は眼を疑った。


 そして言葉を失った。


「まさか」

【これ全部ポーションよ。中級なんてないのだけれど】



 ちょうどコンビニほどの広さに、中央に4列90cm高さ180cm棚が12棚。壁にも12棚+12棚。

 そのすべてに中身が入ったアンプルが配置されている。


「たくさん、ありますね」


 そのうちの一本を『鑑定』した。


 何ということだ。

『秘薬』じゃないか……!!

 ラベルに中級って……


「トミカさん貴女は商売から手を引いた方がいい」

「えぇー。でも、結構軌道に乗ってるんですよ?」


 トミカさんが自慢気に売り上げを記録した台帳を見せた。

 僕はそれを見て、地面に叩きつけた。


「あ」

「希少な秘薬を、安売りするな!!! 市場が崩壊するだろ!!!!」


 思わず感情的になってしまいました。


「いや秘薬てwww」


 この反応……そうか。

 トミカさんは自分のステータスを把握してないのだ。彼女の中で自分はまだE級の薬師であり、下級より効能がありそうなポーションを全て中級だと……


「あなたはなぜ止めないのですか!!!」

【大は小を兼ねると――ごめんなさい】


 これにはドライアドも反論できず縮こまる。


「もう~なんで一木さんに怒るんですか?」

「ちっ」


 ズレてる。いやここまで来るともうボケている。


 これだけの秘薬があれば、これまで停滞していた攻略が爆発的に進む。

 まさに宝の山だ。


 しかしそれはダンジョン関連の探索者のランクや各国との力関係など、さまざまなパワーバランスを崩壊させる劇薬となりかねない。


 その運用はキチンと管理されなければならない。


 絶対にこの人には任せられない。


 僕がやらなければ……

 僕一人で?


 いや、まともな方の『深緑の魔女』がいるじゃありませんか。


「一木さん、今後の販売ルールと、彼女の動向における情報共有の方法についてご意見をお聞かせください」

「なんで、なんで一木さんと? 私が働きますから!」

「貴女は黙ってポーションを作っていてください」

「はいぃ」


 僕は今後について一木さんに相談し始めた。


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― 新着の感想 ―
ほう・・・最新作・・・とみてたけど、黒田君がすべて持ってったwwwがんばれ!苦労しかないぞ多分!
やっと常識のある人間が出てきたw
ドライアドに叱れる黒田はスゲーな!!
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