2.第一話 『年貢の納め時』 後
暗黒お奉行さま、黒田くんが我が農園にやってきた。
初めての人間のお客様だ。
歓迎、歓待の宴じゃ!
「あ、ちょっとお待ちを!!」
私はダッシュで小屋の外に干していた洗濯物を取り込んだ。
もー! 花ちゃんもー!
いきなり躓いてしまった。
そして屋外テーブルと椅子を念入りに拭いた。
「どうぞ!!」
彼はキョロキョロと周りを見渡しながら席に着いた。
あんまり見ないでぇ~!
「本当にここで暮らしてるのですね」
「おほほ、夏はこちらでバカンスですの」
「今は秋ですが」
いつまでそんな態度でいられるでしょうね?
S級といえど、人間。
欲望は人間の強力な原動力であると同時に弱点でもある。
この大自然がもたらした叡智の結晶を前に、人は無力であるということを知るでしょう。
さぁ、喰らえ!
私はハーブティとイチゴのタルトを切って準備した。
「これ、よかったらどうぞ~。お口に合いましたら良いのですが、おほほ」
「いただきます」
どうだぁ~?
眼鏡の奥の目がカッと見開かれた。
そして笑顔がこぼれた。
「ふふ、美味んまっ」
決まった!
クリーンヒット!
ふふふ、低級の薬師と私を侮っていたな?
君が甘党なことをトミカ先輩はきっちり覚えていたのさ。
君が飲みやすいポーションを作るのには工夫が要ったからね。
「お気に召していただけたようで何よりですわ。おほほ」
「これを、トミカさんが? おみそれしました」
「この程度、淑女の嗜みですのよ、おほほ」
無理に決まってるじゃん。
もちろん、一木さん。
さすが一木さん。
もはや料理の腕では私をはるかに凌駕している。お台所は彼女のテリトリーである。
よーし、好調な出だしだ。
ふっふっふ……たーんとおあがり~。
「ダンジョン内で作物を育てて暮らしているようですね」
「あ、はい」
そうです。全部自家製で……
「ダンジョン内に定住、そして無許可での栽培。どちらも違法です」
はっきり突きつけられた〜!
だ、だめか〜!?
「はい、あ、いやそのぉ~……」
すっとぼけるんだ、トミカ。
知らなかったというんだ、トミカ。
「すみませぇん……」
悪事レベルが低い私には無理!
もう全部洗いざらい告白したい!!
「もう一度聞きますが、なぜわざわざここに暮らしているのですか?」
「実は……」
私はここにたどり着いた経緯を説明した。
黒田くんはなんだか呆れた顔で、あまり心証はよくなさそう。
「販売許可がないため、ダンジョン内でグレーな販売を……いや、計画的に行うのなら普通に違法ですよ」
「はい」
ですよね。
「ところで……あの木と草は貴女の従魔ですか?」
一木さんと花ちゃん。
ちょっとずつ近づいていたからバレちゃった!?
「だめ、殺さないで!」
「いえ、他所の従魔を勝手に殺したりはしませんよ」
「あ、一緒に暮らしてる一木さんと花ちゃんです。従魔とかではなく」
おいでおいで、二人共。
「魔草も、ここで暮らしているんですか?」
「はい」
「ちなみに、従魔登録はしたうえで飼育していますよね?」
「いや、従魔じゃないんで」
黒田くんの顔が曇る。
怖い〜。
あはは、タルトのお代わりは要りませんか?
「えっと榊原さん」
「いや、トミカと呼んでくださいよぉ、旦那〜」
「僕は賢者で、『鑑定』スキルを持っています。ステータスを見ても?」
「はい、どうぞ」
黒田くんはブツブツと何かつぶやきながら、私、一木さん、花ちゃんを見た。
なんか、意外とリアクションの大きい人だな。眼鏡キャラの割には。
特に一木さんで驚いてるけど、教えて?
私にも内容を共有して?
「なるほど、謎は全て解けました」
「な、なんだってー!」
何の謎だい名探偵?
さぁ、聞こうじゃないか、名探偵?
あとさっきから一木さんが黒田くんにスマホを見せてるけど、こらこら、失礼なことしちゃいけません。
花ちゃんも真似して絵を見せない。
うん、イチゴタルトの絵だね。上手だねー。
私の分あげようね。
「トミカさん」
「はい」
お沙汰が下る。
大丈夫さ。2、3年で出てくるから。
待っててね、二人とも。
「違法行為について僕がなんとかします」
「ハハー!」
あれ?
急になんでですかお奉行さま。
「く、黒田くん……」
こんな先輩を、君は庇ってくれるというのか!?
いい奴だね。
暗黒御奉行とか呼んでごめんね。
「代わりに、我々の提案を受けてもらえませんか?」
「はい、受けます!!」
「まだ何も言ってませんが……」
「なんでもやります!!」
ここでの暮らしが続けられるなら。




