2.第一話 『ファームへ移住』 後
私は悪夢を見て目が覚めた。
私のポーションが足りなくてギルドが全滅する夢だ。
飛び起きて、やっとここがダンジョンの中だと思い出す。
「そうだった……」
農園への引っ越し。
途中で疲れて、爆睡してしまった。
ダンジョンの中で。
身体をまさぐる。うん、五体満足だ。
今日はまず、土魔法で小屋を増築していこう。
やっぱり半分ベッドで埋まっちゃうのはいただけない。
「一木さん、おはよう……」
庭木に扮しぴっちり立っていた一木さんが、しな垂れる。
一木さんがグワンと胴体をまるめて小さくなった。
落ち込んでる?
「あ、いや……木は風で枝葉が動くんだよ、一木さん」
そもそも、一木さんの見た目覚えちゃってるから見間違えようがないのよ。
知らないふりして、ずっと動かずにいられると、なんだか申し訳ないし。
タライに水をためて顔を洗い、しゃっきりさせる。
一木さんもやってきてばしゃばしゃと真似をする。
フフ、かわいい……
私は低ランクだから魔力はあまり無いけど、ポーションはいくらでもあるのだ! 大盤振る舞いだぞ!
朝食代わりに魔力回復ポーション(榊原トミカ様向け)をキメる。
「おっし! 我ながら普通!」
ポーションには下級、中級、上級と等級がある。
私のはコスパ重視でお求めやすい下級だ。
探索者の7割はこの下級で十分なのさ。もちろん私もだ。
小屋の増築には土魔法だ。
回復した魔力で、まず土壁を立ち上げた。
普段土魔法なんて耕すためにしか使ってない。
柔らかくするのと、固くして建てるのとは勝手が違うなぁ……
私はフィーリングでしか魔法を扱えないから、何度もやって奇跡的にうまくいったのを活かすしかない。
1枚土壁を作ってはポーションを飲み、壁を作っては飲みを繰り返す。
そうして無理やり拡張した居住スペースに、衣類や最低限の日用雑貨を置いていく。
「こんなものかな」
何とも頼りない土の小屋。
見栄えも悪い。
でもいいのさ!
誰も来ないし!
それから畑に水をやる。
それぞれにギルドメンバーの名前が書かれた目印が刺さっている。
これは各人のステータスや要望に応じて、薬草の品種を変えたり、採取するタイミングを変え、依存性や不快感が出ないようするためのものだ。
「これも、もういいかな」
正直前職を思い出したくないから、目印は撤去した。
フン!
踏んづけて、投げ捨てて、サンドバックにして薪にしましたよ、ええ。
朝からいい運動をしてしまった。
ただ薬草はこのまま使おう。
ここで暮らすと言っても、本当に無一文ではやっていけない。
塩とか。マッチとか。
鉄製品が壊れたら買い換えないと。
あと、電源はポータブル電源と太陽光発電パネル。
さすがにスマホ無しとまで思い切りよくはいけない。
収入源はポーション販売しかない!
え? 違法販売じゃないかですって?
そう。
でもこう、ダンジョン内の助け合いの精神は例外でグレーなのさ。
困ってる人を見殺しにしろって言うの!?
助けたお礼を拒むなんてなんてできないわ!
探索者が窮地に陥るなんてここなら無限にあるだろうし。
無人販売所を設置しておけばいいでしょう。
欲しい方はお金を入れて持っていってもらう。
原始フルセルフレジ。
完全に信用販売だけど、原価ゼロだし大金が欲しいわけじゃない。
それに誰かの役に立つなら、それでいいのさ。
私はいつものように、ポーションを作ることにした。
今日はまず下ごしらえから。
採取した薬草を茎や葉、根に分けて、それぞれをすりつぶしたり、煮詰めたり、乾燥させたりしておく。
「疲れた。いやもう少し」
夕方。
畑も広げて、食用の野菜の種をいくつか植えた。
水を撒いて終わり。
「よしっと」
水を撒いていたら、何か視線を感じる。
「え、一木さん、また?」
どうやら水をせがんでるわけじゃないようだ。
のそのそと蛸みたいに根っこを動かして畑に近づいた。
じっと何をしているのかと思ったら、飛んでいる虫を触腕で捕まえた。
「おわ~お見事」
どうやら、害虫駆除をやってくれるみたいですね。
すてき、一木さん、惚れちゃいそうだよ!
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」
葉っぱがわさわさと動く。
なんか、一木さんと会話が成立している気がする。
気のせいか?
でも、孤独感が無いのは気のせいじゃない。
ここに引っ越してきてよかった。
もっと孤独で寂しい日々を覚悟していたけど、そんな必要なかったね。
私はようやく引っ越し作業を終えて、再び穏やかな眠りについた。




