1.第一話 『ファームへ移住』 前
20年前、世界中に謎の遺跡が出現した。
五つの入り口があるターミナルだ。
入口の先にあるのが『ダンジョン』――魔物、魔獣などのモンスターがはびこる別世界だ。
その資源や攻略により得られる魔法のアイテムを目当てに、多くの探索者が日々探索に明け暮れている。
ダンジョンは五つに分かれている。
『龍のダンジョン』
『奈落のダンジョン』
『魔城のダンジョン』
『神々のダンジョン』
『緑のダンジョン』
『神々のダンジョン』は白い空間に一人放りだされ、神から職業やスキルを与えられる。その後は、稀に加護をもらえることもあるとか。
ちなみに私の神様は豊穣を司る樹だった。
その他の四つは別々のターミナルからそれぞれ同じダンジョン内に合流する。
例えば、『龍のダンジョン』に青森で入っても鹿児島で入っても、同じ『龍のダンジョン』内だ。
ただし使うターミナルによってダンジョン内のどの場所に出るかが違う。
だから、ターミナルによっては不便で全然使われていなかったりする。
入った瞬間魔物の群れとエンカウントとかもあるんだとか。
おっかない。
私が入るターミナルも、その口らしい。
4つのダンジョン全部が外れのスタートポジションで不人気だから、探索者はおろか買取業者とかもまったくいなくて閑散としている。
遺跡前のゲートでライセンスカードをピッてして終わり。
寂れた地方の遊園地みたいで通るたび物悲しい。
私が選ぶ入り口は一択。
『緑のダンジョン』と呼ばれる、森と草のダンジョン。
5つの中で一番不人気とされるダンジョンだ。
石でできたゲートを潜れば、ふかふかの土の地面に出る。
巨大な樹木が生い茂り、苔と下草でどこもかしこも緑に覆われた森の中だ。
後は、慣れた道を1時間ほど進めば目的地に到達だ。
フフ、私に魔獣のタイプとか脅威度なんて関係ない。
なんせ、戦闘力皆無の生産職ですからね。
何が来てもアウトです。
途中魔獣や魔蟲に遭遇したら即死。
ソロで入るなんて自殺行為ですって?
いえいえ、これがですねーコツがあるんですよ~。
「あ、どうも~。お邪魔します~」
これです。
あいさつだ。
ただしあいさつしたのは人間じゃありません。
大人ほどの丈を持つ、森の『魔草』と呼ばれる植物。
まぁ、いわゆる広義の魔物だね。
動く者に巻き付き、魔法で攻撃したり、溶解液で溶かして吸収したり、寄生して人間を操ったり、魔蟲を引き寄せたり……多種多様な食人植物のモンスターがはびこっている。
それがここが不人気の理由だ。
そんな『魔草』の生い茂るダンジョンを、このE級の私が一人で行き来できるのはなぜか?
私が『魔草』の皆さんから敵扱いされないからなんですね~。
たぶん、薬草を扱いすぎてしみ込んだ匂いとか、生命力の無さとかで同族扱いされてるとか、そんな悲しい理由です。
そりゃ最初は怖かったけど。もう恐怖心も麻痺しましたよね。
だってこの『魔草』のおかげで安全にこの道を歩けるのだから。
森の魔獣や魔蟲は、この『魔草』を避ける。畑のハーブみたいに。
なので、草に浸って、人間らしさを消し、『魔草』ルートを辿る。
これが最適解なんですね。
大まじめです。
事実私はその先に、自分の農園を10年掛けて築き上げたのだ。
「あ、そうだ」
これからはご近所さんとなります。
なにとぞ魔獣やら魔蟲やらから守っていただきたい!!
ならばこれが私の誠意!
「これ、つまらないものですが」
私は水魔法で散水した。
あ、そーれ。
魔力を含んだ水は、薬草栽培には必須。
植物なら、引っ越しそばみたいなもんでしょ。
葉っぱが動き、頭が揺れている。
まるで踊っているみたい。
初めてあげてみたけど、こんなによろこんでもらえるなんて。
おおー、かわいいですなー。いいですなー。
そういえば、無許可で魔物を育てるのは違法だったっけ?
あ、いや……水をあげてるだけだから問題ないはず!
「内緒ですよ」
葉っぱがくいっくいっと手振りしている。
あら、もっとくれって?
「えっと、これぐらい?」
葉っぱがくねくねしている。
え? もっとですか?
「はぁはぁ、ご勘弁を、底辺生産職にはこれが、限界……」
すいませんねぇ、クソ雑魚魔力で。
葉っぱがさっと動いて道ができた。
あ、はい。もういい、通れってことですね。
「あ、ありがとうございます」
そこから少し草むらをかき分けると、木々が等間隔に立つ中、ぽっかりと開けた場所がある。
木陰は涼やかで日向は燦燦とした日差しが温かく、心地よい。
私の城だ。
私の農園。
大自然の中に小さい畑と、土魔法で造った粗末な小屋があるだけ。
私はすぅっと深呼吸した。
嫌なことがあっても、苦しくても、ここで薬草を育てているときは気が楽になった。
大自然の力が私を慰めてくれる。
ああ大自然よ、私に力を与え給え!
私は大自然教、開祖にして唯一の信徒です。
「おーどれどれ」
私は農園の薬草をチェックする。
毎日は見に来られなかったけど、スクスクと育っている。
結構雑草とかもあるし、害虫とかもいるな。
土が元気な証拠だ。
「あ、一木さん? いらしてたんですねー」
私が話しかけたのは草ではない。
木。
幹があって枝があって葉が生えている。
見た目はいわゆる木です。
じっと動きを止めていたその庭木ぐらいの細い木が動いて寄ってくる。
いわゆる『トゥレント』と呼ばれる魔物だ。
思えば彼女とはここに薬草を植えたころからの付き合いだ。
この場所を開墾するとき、何となく「使っていいですか?」と聞いたら退いてくれて。
それ以来私が勝手に「一木さん」と慕っている。
一木さんは「ここに住むん?」とでも言いたげだ。
枝のような触腕で口元?を抑えているのが、しゃべているポーズなのだ。
大家さんにあいさつと思った方がいいのかな。
「あ、引っ越してきました。改めてよろしくお願いします」
一木さんが様子を窺っている。
「あ、これつまらないものですが」
さっき『魔草』にあげたように水魔法で根っこに水を掛けた。
あ、喜んでる。ショーシャンクの空にみたいに浴びてる。
うおー、私は自由だーって?
さっきご近所さんにあげたから、もう勘弁して。
「一木さん、じゃ、私やることがあるので」
忙しいのはこれからだ。
まず、小屋から農具を引っ張り出してから、掃除していく。
それからマジックバックの荷物を取り出す。
今までは寝泊まりするだけだったけれど、生活するためにはそれなりに家具とかがいりますからね。
持ってきましたよ!
「よいしょー!!」
マジックバックを置き、ベッドを引きずり出す。
目覚めろ、私の筋肉!!! なんでこんなごついベッド買ったんだ私!?
「うおおお、はぁ、はぁ……」
ベッドって何キロ?
入れるときはバックを動かすだけだったのに。
バックを引っ張るとベッドがついてくる。
誰か抑えてぇ……
そこに、ベッドを引っ張る木の枝が。
「い、一木さん……すまねぇ」
軽々とベッドを引っ張りだし、スッとスペースに寄せてくれた。
「ここでいいの?」という感じで私の反応を待っている。
「ありがとー!!」
思わず一木さんに抱き着いた。




