13.第九話 『エンカウント』
黒田は錯綜する情報と、違法業者までもが『深緑の魔女』を探していることから、事の決着を急ぐようダンジョン協会に進言した。
「私の仮説が正しければ『魔草』のネットワークに入ったものは莫大な経験値が共有されます。その力はすでにS級相当だと想定されます。半端な戦力では、真実にはたどり着けず、話し合いのテーブルに彼女をつかせることすらできないでしょう」
事実、捜索活動により浮き上がった人物像は協会とネット情報で完全に二分された。
協会の事務員たちはライセンスカードやこれまでの活動記録から候補を12名にまで絞った。彼らの不眠不休の努力の結果と、実際に助けられた者たちの目撃証言を照らし合わせるも該当者なし。
有力な情報は、銀色の髪とエメラルドのような目をした和服の女性。
この特徴的な人物像は助けられた者たちで一致していた。
しかしそのような者は、日本はおろか近隣諸国の探索者でも該当する者はいなかったのである。
当然である。
彼らが捜す人物像は一木さんの精霊体であり、データの海の中には一切答えが無い。
協会はこの情報がブラフ、何らかのスキルでゆがめられた認知であると想定して動かなければならない。
上層部はこれがどれだけ困難か理解し、黒田の意見を重く受け止めた。
「意見はご立派だが、混乱を収めるならば、賢者殿が自ら出向かれるのが得策なのでは?」
鮫島教授だ。
彼はここぞとばかりに黒田自身に責任を負わせようとした。
その失脚を目論んでのことだとわかりきってる。
しかし、黒田は受け入れた。
「なるほど、理論や仮説ばかり唱えようと自ら立証できなければ意味がありませんからね」
「ぐっ、その通りだ」
黒田の皮肉に鮫島は奥歯を噛みしめた。
「代表、どうするんですか? あんなこと言っちゃって」
「もちろん、『深緑の魔女』とコンタクトし、交渉しますよ」
「え、代表一人で!?」
「相手の信頼を得るにはそれがベストです」
黒田は調査として一人で『緑』へ入った。
◇
「『鑑定』」
黒田は『鑑定』で周囲の魔草を常時見極めていった。
魔草たちは看破され、しおしおと居心地が悪そうにしているだけだった。
「なるほど、やはり、擬態を見破るとあちらから襲ってくることはないようですね」
そして、すぐにその場に居合わせることになった。
彼は物陰から様子を窺った。
「誰かいますね。エンチャント『気配遮断』、『千里眼』」
男が女を責めている。
やがて女は異様な威圧感を放った。
男はその威圧に耐えきれず、銃を抜いて撃った。
その弾が当たったのはそれまでそこになかったはずの壁。
「速い……それになんという強度」
地面からせり出した黒い鋼鉄の板は、ミサイルも防ぎそうな装甲だった。
男は魔草の根に絡めとられ、わめき散らす。
女は男のマジックバックから、ポーションのアンプルを見つけ激怒した様子だ。
経緯は見て取れた。
黒田は介入することにした。
「『城壁』」
男と女の間に出現した岩の壁。
それは一撃で砕かれた。
(ぼくの上級魔法を拳で、ですか……)
黒田は確信した。
「あなたが『深緑の魔女』ですね?」
黒田は姿を現し、尋ねた。
突如現れた黒田に戸惑う様子の女だったが、彼女はあっけからんと答えた。
「違います」
証拠は揃っている。
圧倒的な威圧。
銃弾を後出しで防ぐ魔法の速度と強さ。
魔草の援護とS級高等魔法職の防壁を破壊する拳。
確かに、情報と容姿は違うが、話の経緯からこの大量のポーションを補充しに来たことは確かだ。
「呼び方は脇に置きまして。それを作ったのは貴女なのでしょう?」
黒田は事実を突き付ける。
するとトミカは、観念した様子でライセンスカードを取り出した。
「私がやりました……後生です、どうかご慈悲を」
(何か違法行為を?)
「協会に判断を仰ぎますので」
「いや、黒田くん。話し合おう、人間同士腹を割ってさ!」
(黒田くん? 馴れ馴れしい人だな)
黒田はライセンスカードを受け取り二度見した。
「えぇ~榊原トミカさん、ですね? えぇ、トミカさん!?」
「そう、忘れちゃってた!? 私、トミカだよ!」
二人は知り合いだった。




