11.第八話 『トミカの受難』 前
私、見たんです!!
暗闇に、青白く燐光を帯びた、彼女の姿を。
新緑を思わせる瞳が、銀色の髪の隙間から私を覗き込んでいた……!!
ひ、ひぃ~!! スクリ~ム!! セイブ ミー!!
「本当なんだって!! 私、『深緑の魔女』を見たんだよぉ~!!」
私が慌てて荷造りをしているというのに、花ちゃんは『お絵描き楽しい!』と無関心である。
私以外にこの森の中で暮らす変人がいようとは……!
もたもたしてたら肝を取られちまうだ!!
おら、まだ死にたくねぇだよ!!
「ねぇ、一木さんは信じてくれるよね?」
一木さんは『あなたは正しい』と言ってくれた。
スマホの文字読み上げ音声で。
『大丈夫。あなたは安全』
「ほんとに? セイブミー?」
『本当に。セイブユー』
「一木さぁーん!!!」
圧倒的信頼感。
荷ほどきした。
でも、あれは何だったのかしら?
敵情視察? 警告?
いえいえ、ワタクシ歯向かうつもりなど毛頭ございませぬ。
みかじめ料は納めます。
一先ず、農園の入り口に祠を作った。
そこに、収穫物をお供えしてみた。
毎夜、また現れるかもしれない魔女に怯え、花ちゃんを抱きしめ眠る。
ウザがられるけど。
これは頼むってぇ! 怖くて寝れないんだってぇ!
花ちゃんはなんだかいい匂いがするし、ひんやりしてて気持ちいいのだ。
一木さんは優しくて、私に『食べたいものある?』と聞いてくれるようになった。
最初は簡単なスープとかを頼んでいたけど、今はもう「コロッケ!!」、「餃子!!」、「肉まん!!!」と大きな声で欲望を叫んでいる。
その度に一木さんはすごい勢いで学習していく。
ちなみに肉は主に花ちゃんや、お仲間が持ってきてくれる。魔獣の肉だ。
血抜きや解体はなんとか頑張ってみんなでやった。
なんか熟成が要ると一木さんに言われて、それ用の涼しい場所をどうにか造ることに。
私は言われるがまま『カチカチ』で地下室を作った。
つるつる滑るし、結露ですごい湿気なので、カチカチと地面の間に、カラカラの土壁を挟む。
ポーションと同じで魔力を小さく、細かく運用することで、コントロールできるのだ。
やる前に座禅を組み、邪念を取り払い、瞑想。ヨガもいい。
食料庫が完成したら、今度はオーブン。
肉を焼くなら必要でしょ!?
こっちは『カチカチ』で形を作るだけ。
シンプルな石窯だ。
こうして我が家の食卓に肉が並ぶことになった。
「それでは行きます!!」
窯の下は薪を入れる空間で、上の窯に熱が溜まる仕組みになっている。
温まった窯に、あらかじめ油で揚げた肉を投入する。
私たちは窯の前で火を絶やさず、待った。
香ばしい匂いによだれが止まらない。
「もういいんじゃないかな!」
肉を取り出すと、食欲をそそる香ばしく焼けた匂いが広がり、油で照り照りになった表面がパチパチと音を立てた。
ごくり。
生唾を飲み込み切り分ける。
柔らかい肉から湯気と共に香りが立ち昇り、肉汁があふれてくる。
「では、トミカ、いかせていただきます!!」
アツアツのお肉を口に頬張る。
味付けはシンプルな塩コショウだけだ。
それだけで、十分。
肉のうまみが肉汁と共に口に流れ込む。
「ああ、うめぇ……」
一木さんと花ちゃんも、バクバクと食べている。
私はすっかり英気を回復した。
美味しいものを食べて魔女ショックから立ち直り、私はライフワークを再開した。
畑で採れた薬草からポーションを生成する。
買い出しで、アンプルを大量に調達したので、これまで以上にポーションを作成することができるようになった。
作り置きするのだ。
たくさん売れたら、便利なマジックアイテムが買える。
魔法式冷蔵庫は欲しいな。
あれ? 待てよ……
あるじゃん食料庫……
地下は冷気も十分ある。
ポーション用の倉庫を増築。
ちょっとした秘密基地みたいになったぞ。
保管場所も確保できた。
ここなら長期保存もできそう。
これまでなら手を出さなかった種類のポーションとかも、時間をかけて実験できそうだ。
ひ弱な私がここで生きていくには、いろいろあった方がいいからね。
私はライフワークの幅を広げることにした。




