7.第五話 『ただいまとおかえり』 前
私はおそるおそる帰還した。
私の農場、私の城。
異常はなさそうだ。
「ただいまー」
花ちゃんがすぅーと近づき、全身で絡んでくる。
うわ、寂しかったんだね。ごめんねぇ。
でも、その蔓で巻き付かないで。
抱擁より、拘束に近い。
一木さんも擬態を止めて触腕を振りながらゆっくり近づいてきてくれた。
「二人共ただいま……」
え? 何かあったかって?
ありましたとも……
聞いてくださる?
いわゆる幽霊見たり枯れ尾花だ。
『深緑の魔女』とかいう、摩訶不思議高等職で、不老不死で、なんか世界屈指の生産職がいることになっちゃってる。
そんな人ここには居らぬ。誤解ですって誤解。
ここには、30過ぎて再就職できず、社会から逃げた引きこもりしか居らぬ。
きっとみんなここに住む方法とか、魔草と仲良くなる方法とか、大自然教のことを知りたいんだろう。
教えた方がいいのかな?
私が不法占拠し、違法栽培し、ポーションを無免許で販売していることを?
私が知る限り、世の中はそこまで寛容じゃないし、そんなんだったら戻りたくない。
「『悩み事か』って? うん……ちょっと、世間のしがらみが私を放っておいてくれないというか」
あ、そうだ。
この悩み、あれで解決できるんじゃないありませんこと?
ポケットをまさぐり、取り出したるは、神より賜りし秘宝。
てれれれってれー! 神様がくれた木の実~!
この木の実を食べたら、賢くなって悩みから解放されるんじゃないかしら?
……これ、生で食べたら怖いな。寄生虫とか。
怖気づいていたら、ひょいと一木さんにスリ取られた。
「一木さん、それはお土産じゃないのよ。お土産ならこっち――」
止める前に一木さんの触腕からじゅっ、と吸収されていた。
「い、一木さん……マジか」
するとペッカー!!と一木さんが1万ルーメンぐらいで光り出した。
眼がー!!
「い、一木さん、大丈夫?」
人類は知恵をつけたことで、あらゆる苦悩を背負った。
大丈夫?
花ちゃんも心配そうだ。
一木さんはケロッとして、「お土産は買ってきてくれた?」と催促している。
大丈夫そうだね。
良かった……
やっぱり、魔物には効果は無かったのかしら?
実際何だったんだろう?
ま、またもらえばいっか。
「はいはい、じゃあ本日私が都会の喧騒と人間社会のストレスを対価に手に入れて来た収穫を披露しましょう」
場所を移し、野外テーブルへ。
そこで一木さんにスマホ、花ちゃんにお絵かきおもちゃをプレゼントした。
「いつもありがとう、二人共」
花ちゃんは蔓で器用に遊び始めた。
対して一木さんは箱を開けて、起動させ、スマホに夢中だ。
「一木さん、スマホはまたあとでね。ほら、ケーキ買って来たんだ。みんなで食べよう」
ショコラケーキに、合わせてハーブティを淹れる。
三人で仲良く食べた。
やっぱりこの方がおいしいね。
2人とも未知の味に、身体を震わせている。
そっか、そっか、そんなにおいしいですか。
良かった、喜んでもらえて。
花ちゃんがさっそくお絵かきおもちゃに、何か書いてる。
この黒い三角はケーキだね。
それをたくさん書いてる。
「え? 『これ作れるか』って?」
お菓子作りか……やったこと無いけどできないことも無いはず。
「一木さん、ちょっといい?」
確か一木さんに買ってあげたほうに、料理系の動画とかもダウンロードしておいたんだ。
「ああ、あった。えっと……」
色々足りない物があるなぁ。
小麦粉は買ったけど、チョコと牛乳と卵がねぇ。
買い出しにいくのは危ないし。
「しばらくは無理だねぇ」
落ち込む花ちゃん。
それに対し、一木さんは動画に夢中だ。
固まって動かない。
「一木さん、見過ぎはダメだよ」
お料理番組がそんなに面白いのかな?
「一木さん、荷物移動するの手伝って~」
前はすぐに手伝ってくれた一木さんが、スマホを止めない。
は、反抗期だ……
もしや、これがあの実の効果か?
代わりに花ちゃんが手伝ってくれた。
2人でマジックバックからあれやこれや使うものを引っ張り出していった。
その間も一木さんはずっとスマホの動画を見ていた。




