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6.第四話 『深緑の魔女』

 


 九死に一生を得た4人の探索者がいた。

『緑』において、最初に無人販売所にたどり着き生還した『東京賢人会』所属のパーティだ。

 彼らは自分たちを助けてくれた人物が何者なのか、自然とその情報を追っていた。


 情報はアンプルに書かれた文字のみ。

 その字体から受ける印象が女性っぽいことぐらいで

確たる情報は無かった。

 しかし、あるときネットに気になる情報が上がった。



「この人……怪しくない?」



 耐水性のトレッキングウェアを着ている女性。

 彼女は『緑』から出て来た。

 配信用のカメラはしておらず、戦闘用の装備もない。


「この人、綺麗すぎますよ」

「確かに、美人だな」

「そうじゃねぇだろ」

「『緑』から出て来てこれは身綺麗過ぎるって!」


 現地に行き、直撃することにした。

 もし本人なら、命を救われた礼として30万はあまりに少ない。

 金だけではなく、直接礼をしたい。

 何か力になれることはないだろうか、という思いだった。

 そして、そんな命の恩人が今、捜索の対象となっている。


 副作用が無い上級ポーションと、欠損部位を完治させる秘薬。

 それらを製作できるとすれば、その需要は国内に留まらない。


『深緑の魔女』

 いつのまにか、あの秘薬を作った存在をそう呼称するようになっていた。

 森に住み、魔草を使役するイメージから付けられた。


 その『深緑の魔女』の存在は徐々に明らかになっている。

 助けられた探索者たち、協会の職員、人の口に戸は立てられない。


 しかし、それは隠れている『深緑の魔女』にとっては迷惑なことだろう。

 それどころか、強硬手段で秘薬を作らせようとする者や、国外からの干渉もあり得る話だ。


 停滞している日本のダンジョン探索事業を大きく邁進させるカンフル剤として、日本は独占を死守し、諸外国は干渉を繰り返す。

 厄介なことになるのは確実だ。


 彼らは、それでもポーション販売を続ける彼女に、危機を伝えるべきだと、独自に行動した。



 そうは言ってもネットの映像。半信半疑だった。

『緑』の出入りは多く、映像の女性が『深緑の魔女』を探している他の探索者の可能性も大いにある。

 しかし、あれだけのポーションを下級、中級と称して低価格で販売してしまう様や、魔草に営業をやらせてしまう、やや常識に欠ける行動と、全く十分ではない装備で『緑』を出入りするその女性のイメージはピタリとはまっていた。


 ただの直感だ。

 探索者の直感は侮れないもので、それは正しかった。


 そうして『神々』に入ろうとするトミカに声をかけた。


「どこにいくんだ?」

「『神々』ですが?」


 短いやりとりだけだった。それだけで十分だった。


「なるほど、ヤバいな」

「そうですね」

「ただもんじゃねぇな」

「鳥肌たったわよ」


 異質な存在感。

 それなりの探索者はステータス上昇に伴い相応の魔力を纏う。

 トミカには確かにそれがあった。

 それも、短い接点で確信できるほど強く、濃密で、圧倒的な魔力だ。

 しかしそれに反して、死線を潜り抜けて来た強者のみが放つ空気、独特な気配、漏れ出た殺気――トミカにはそれが無かった。

 あまりにもチグハグな存在感。

 街ですれ違っても気づけない可能性が高い。


 果たして、だからと言ってトミカ=『深緑の魔女』という証拠はどこにもない。

 彼女もまた『深緑の魔女』を探している一人である可能性はまだ否定できない。



 彼女が『神々』から出てくると、同じ考えの者たちは一斉に身構えた。



 出口に向かうと見せかけて急に反転し、『緑』に入ったトミカ。


「は、早い!!」

「『加速』と『残像』を!?」

「違う! ただ素早く動いたんだ!」

「ステータスだけで!?」


 4人は後を追った。

『緑』の中に入ってから、直感は確信に変わった。



 上位職の中には、生産職と戦闘職の両方をこなせる高位魔法職が存在する。


 明らかに戦闘系ではない装備と動きに反し、強引なステータス差で突き放された。

 彼らA級パーティが、いともたやすく。


 しかも、その後現れた大魔蟲『断頭大蟷螂』の強襲を、草で止めた。


 ――『深緑の魔女』を探している他の探索者ではないか――


 その疑念は吹き飛んだ。


 自分たちには気配を辿ることもできない。

 もう後を追うことはできないだろう。


「ヘヘ、どうも〜」


 そう考えていただけに隠れていたトミカが現れたことは意外だった。


 あのままやり過ごすこともできたはず。

 しかし、自分たちを安全に返すために、身を晒したのだと理解した。



「出口まで送ります」



 迷いなく森を進むトミカ。

 まるで森林公園のトレイルコースみたいに。

 その後を4人は付いていった。

 聞きたいことは山ほどあったが、それを口にする恥知らずはいなかった。

 自分たちを助けてくれた人を見つけて、協会に報告するつもりなどない。

 忠告などと、おこがましいことだったと恥じた。

 

「ここです」


 出口にたどり着いた。


「あの、私不老不死とかじゃないですからね」

「あ、ああ。そうですか。はい」

「魔草を使役とか、そういうんじゃ無いですから」

「そうですか」


 パーティメンバーはただ頷くしかなかった。


「では、私はこれで」

「待ってくれ。おれたちはあなたに命を救われた。手紙を書いた者だ」


 最後に礼をしたい、何かさせて欲しい―――リーダーは意を決して切り出した。


「あ、やっぱり、お客様でございやしたか。毎度どうも〜。あ」


 なぜか急に揉み手で下手に出始めたトミカ。

 何かを思い出したようにその顔が曇った。 


「いつか、来るとは思っておりやした」

 

 そうしてトミカはカバンから封筒を手渡した。


「手紙読みました。お役に立ってよかったでさぁ。どうぞまたご利用なさってくだせぇ」

「あ、ああ、ありがとう」


 手紙の返事だろうとその封筒を受け取った。

 トミカがパンパンと手を叩く。


「じゃ、みなさんお見送り終わったので帰りましょうね〜」


 周囲の景色が動いた。

 いつの間にか魔草に囲まれてた。


「いや、使役してないって……?」


 呆気に取られたパーティ。

 

 彼らははたと思い直し、緊張しながら中身を開けた。

 12万円が入っていた。


「いや違う違う違う!」


 不足分を支払うはずだったが、返金されてしまった。

 気づいた時には、トミカは森の闇に消えていた。





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― 新着の感想 ―
最後に礼をしたい、何かさせて欲しいまで一気に言い切ることができていればあるいは どんまい
この一部始終を見た感想 「コントかな?」
違う! 違う! そうじゃ そうじゃな~い
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