3.第二話 『謎の女』
『緑のダンジョン』への挑戦者が増えた。
黒田の報告を受けて協会は調査員を増やした。
自然と調査員以外の探索者も、調査の対象を探るために『緑』に入り、たまたまポーションで命が助かるという事態が何度か発生した。
彼らの配信で、森の中に誰か高度なスキルを持つ生産職がいると話題になった。
それが更なる呼び水となって、探索者の無謀なチャレンジが増加した。
だが配信目当てのにわかたちは、すぐさまその危険性を身をもって知り、逃げ帰っていた。
帰れなくなる者も続出。
そこで協会は安易な挑戦を規制した。
ネット上ではこれらに対して活発に考察が行われていた。
探索者用情報サイト、『探索者になろう』
そこには【深緑の魔女】というスレッドが立ち上がっていた。
(ダンジョンに潜み、ポーションを売る、何者かがいる!〉
〈協会が探すほどの人物で魔草を操っているらしい〉
〈なんかうさんくさいな〉
アップロードされている映像には『悪魔草』が立て看板で営業している姿が映っている。
〈どうせフェイク映像だ。見に行こうなんて思わないことだ〉
〈でも、ダンジョン協会は否定していないぞ〉
〈魔草ってそもそもテイムできるのか? 無理だろ〉
〈鮫島教授はできないって言ってたな〉
〈できてるじゃん〉
〈今ところ、魔草をテイムできて、秘薬を作れるなんて職は存在しないし、この映像も確かとは言えない〉
〈↑ダンジョン協会の人? 必死過ぎワロタ〉
〈いたとしたら、すごいけどな。テイマーで生産職ってこと?〉
〈いや、なんでそこ一人だと確定してんの?〉
情報が少なく、また懐疑的な人の方が多い。
それをチャンスと見て、スクープをものにしようとする配信者もいた。
「収穫なしか……」
その一人は、あえて誰も使わなさそうなマイナーなターミナルでダンジョンの出入りを見張っていた。
もしダンジョン内で商売をしているなら、必要な物を調達するために定期的に出入りする。
そして、バレないよう人目を避けて行動する。
そう考え本人が出てくる可能性を追っていた。
「あれは、一時間前入った若造どもか……酷いありさまだな……」
出て来た探索者に職員が駆け寄る。
泣きじゃくる青年たち。全身ズタボロだ。
「生きているだけでも運がいいぜ」
入って出てくる方が少ない。
見ているのも精神的に辛い。
配信者は仮説を元に忍耐強く待っていたが、そろそろ自信を失っていた。
『緑』は生半可な者がいられる場所ではないのだ。
「もう朝か……今日もダメだな」
出てくるとしたらこんな日中ではないだろう。
あきらめたとき、職員が動いた。
「ん?」
配信者はとっさにカメラを向けた。
ズームアップした映像に、映った人物。
その姿に何かがざわめいた。
「……おかしく、ないか?」
市販のカラフルなトレッキング用ウェアを着た女だった。
「あんな人、通ったか?」
ターミナルの出入り口を別々に使った可能性もある。
だが、各出入口の間は一定の距離がある。
その間、何も起こらず一人で帰還できたという可能性もある。
「いいや、あんな身ぎれいでいられるはずがない」
そもそも出て来た女は、疲れた様子も無く、悲壮感も全くない。
これまでずっと探索者の出入りを張っていた配信者はその落差に大きな違和感を抱いた。
それに何より、女は眼を引く容姿をしていた。
声をかけた職員がドギマギしている。
「格好からして、戦闘職じゃなさそうだが。あんな探索者がいたら、見覚えがありそうなものだけどな」
配信が当たり前の時代だ。
探索者の見た目も、注目される。
艶やかな黒髪。一切日焼けの無い白く透き通るような肌。鶴のように細く美しい首。化粧っ気がなく、清純そうで年齢不詳な小顔。
真偽はわからない。
だが、配信者にとってそれがここ最近で一番の収穫であることは間違いなかった。
この映像だけでも金になる。
「うっ……」
突然、背筋を氷でなでられたように震えが襲った。
ズームレンズ越しに視線を感じた。
その嫌悪はファインダーを通じて、はっきりと伝わってくる。
「み、見えてるのか」
配信者は一歩も動けなかった。
そこで以前、S級を追っかけたときも同じようなことがあったと思い至る。
高位の探索者は見るだけで、相手を竦ませてしまう。
その経験が、男に確信を抱かせた。
「……魔女」
そして断片的で不確かな映像をネットにあげた。
自分に踏み込めるのはここまでだと判断して。




