11.第八話 『製造! チープポーション』 前
安心安全副作用無しの中級(上級寄り)ポーションを作り出せた。
大自然よ、感謝します。
万年下級ポーション作りだけで進歩の無い私が、ダンジョンで暮らし、自然と戯れることで知らず知らずのうちに心も体も鍛えられていったのでしょう。
そう、人里離れた山奥で瞑想にふける密教僧のように。
ちなみに今まで通りの下級ポーションも作れるのか試してみた。
なぜか。
中級の相場は大体一本10万~25万ほど。卸値でこれなので、実際の販売価格はこの2、3倍だ。検査とか手続きの手数料でかなり上乗せされる。効能次第では一本100万もあり得る。身体の怪我をおおむね治せてしまうのだから当然だ。
でも探索中の人がそんな大金もってます?
今時現金をそんなに持ち歩く人も珍しいよ。
移動交通費は必要だし、ターミナルの外でアイテムや素材の売り買いもあるから無一文ってことはない。だから、狙えるのは4、5万円ぐらい?
いや、中級ポーションを5万はさすがに……うさんくさい。
詐欺だよね、そんなものあったら。
だから無人販売するならやっぱりお求めやすい、気兼ねなく使える下級が望ましいのですよ。
前はできた。なら、後は加減の問題でしょ、と私は失われし我がチープポーションを再び手に入れんがため、試行錯誤を繰り返した。
いや、暇だし。
乾燥させた薬草や、薬草の煮汁に魔力を注ぐ。
すると『調合』スキルの効果で液体のポーションが完成する。
要はスキルのコントロールだ。
上手い人は魔力に応じて自在に結果をコントロールできるという。
私の場合、10年以上同じことを繰り返したから、コントロールもなにも無くもう身体に染み付いてしまっている。
そもそも下級職の薬師が『調合』するのに、繊細なコントロールも何もないんだよ。
だって、魔力は無限じゃないし。
ノルマをこなすに、大事なのは配分だ。
毎回同じ配分で魔力を使い切ってきた。
その配分を再現できればいいんだけど……なぜかできなくなっちゃった。
「あら、一木さん。どったの? ご飯はまだよ?」
悩んでいると一木さんが触腕をせかせか動かしている。
最近、魔草の言葉がかなりわかるようになってきた。
というか、一木さんたちがなんだか賢くなっている気が……
料理の下ごしらえを手伝ってくれるようになったし、地面に絵を描いて遊んだり、私がスマホをいじってたらじっと見て、いじったりする。
お世話になっておいて失礼だけど、小さい子育ててるみたいで一々感動する。
「え? 『私の魔力の量が変わってる』から?」
一木さんが触腕をせかせか動かす。
「そっか。どうして気づかなかったんだ……」
私は無意識に自分の中の魔力を分割していた。
大体一回で作れる限界が28本だ。
だから28分割した魔力を使ってポーションを調合していたけど、魔力総量は増えている。そして一回の消費魔力は減っていることでしょう。
前は土壁一枚分でへろへろ分だったのに、今じゃ、無限に出てくるし。
最大魔力量の増加と、魔力運用の効率化。
それらを考慮して、感覚を切り替えないと。
「はいはい、『すごい変わってる』と? 『全然違う』? 『私は……』」
なんだろう? よくわからない。
一木さんとの意思疎通は前よりかなりクリアになったと思う。
それはもう、熟年夫婦の「あれ」、「それ」だけで会話が成立するレベル。
もう以心伝心だ。
でも、複雑な内容は私の想像力が試される。
私が日本語で理解していることを、一木さんは未知の言語で翻訳しているみたいなものだから、誤訳みたいなことがたまに起きる。
一木さんが私のスマホをポケットから抜き取り、ちょいちょいといじった。
文字は入力できないけど、画像をスワイプするのを覚えたみたい。
すごい! 上手だねー!
私が拍手するのを無視して、一心不乱に小さい画面に夢中だ。
一木さんはスマホに入っていたとある写真を触腕の先で指さした。
天を突くほど高いアメリカのジャイアントセコイア。
野太く、枝木が普通の常緑樹の幹のように生えているドイツのオーク。
太古から続く生命力に満ちたオーストラリラのナンキョクブナ。
ちなみに全部植物系の参考資料だ。
私は写真を撮るならカメラで撮りたいタイプなので。
ふふ、みんな立派だね。
会いたいのかな? 一木さんにはイケメンのナイスミドルに見えてるのかもね。
あ、違うの?
人間はちっぽけな……あ、違う?
うーん。大木は根っこからものすごい量の栄養を吸い上げている。
はっ! 食べ過ぎか……!?
一木さんにぺしぺし頬を叩かれた。
いや、真面目に考えてるんだけど……
もっと漠然としたことか?
「なるほど……これは……私が大きいってことだね」
一木さんが不満げにうなずいた。
ほらね? 以心伝心。
一木さんは私の魔力総量を伝えたいみたいだ。
他にも指している草。
それが以前の私で、現在はとにかくどでかいと。
うむ、ビッグでもラージでもなくヒュージ。
私はヒュージトミカですか。
大自然教の力は私に破格のエネルギーを与えてくださったと。
3倍ぐらいかと思ってたけど……
一木さんが必死になるから、10倍ぐらいになってるのかもしれない。
……え? 10倍ってなんで?
さすがの大自然教といえども、ダンジョンでスローライフしている人間にそこまで恩恵与えてよろしいのでしょうか?
私、今のところ畑で作物育ててみんなと毎食宴会してるだけですけど?
半信半疑で魔力の分割の意識を28分の一から280分の一にしてみた。
「お、近づいた!!」
色といい、においといい、長年作り続けて来た下級に大分近い。
完全ではないけど、これは魔力運用の効率化が影響しているせいだろう。
いやオッケー、十分!
「ありがとう一木さん、これなら安心して売り物になるね!!」
復活☆
我がチープポーション、再び!!
「ああ、一木さんったら」
一木さんは私がつくったポーションをひったくり、一本ずつじっと観察した。
なんだかまだ不満そう。返してぇ……
一体なにがお気に召さないの、一木さん?
「一木さん、それ売らないと肥料が買えないんだからね」
一木さんがビクッとなった。
わかったみたい。
なんとかお許しがでた。




