10.第七話 『トミカが抜けたギルドのその後』
所変わって、『魔城のダンジョン』ではトミカの所属していたギルド『赤雲』が踏破記録を延ばそうとしていた。
上へ上へと駆け上がるタワー型ダンジョンの『魔城』は、死んでも生き返れる唯一のダンジョンだ。
最終到達フロアを更新するとスコアが上がっていく。
配信で稼ぐ者もそれなりにいる。
ダンジョンにおける立ち回りを解説したり、タイムアタックを競ったり、アイテムや武器の練習の様子を撮影するなど、自由に使われている。
普通に上へ登れるだけの実力を示せば、ギルドとしての名が上がり、ダンジョン協会からの評価もプラスされる。
中堅ギルド『赤雲』にとっては上へ上がるための広報活動の一環だった。
しかし、結果は散々だった。
「ば、馬鹿な……」
ゲームオーバーでダンジョンのターミナルに戻ったギルド長、坪根は、大幅に落ち込んだスコアに絶望していた。
「最終スコアが、前回の半分以下ですって!!?」
その戦術は多人数で持ち場をローテーションさせる人海戦術。
大量のアイテムを消費するが、安定して結果が出せる手法だ。
ただし、金がかかる。
しかもこの方法で失敗すると大赤字だ。
今回も大量のポーションを仕入れ、配信機材も充実させて魔城を上った。
「……ちょっと、これは何の冗談!?」
その怒りの矛先は仲間に向かった。
「いや、前衛がもたつくから」
「だって、後衛の援護が外れすぎなのよ」
「サボったやつがいたせいでローテが上手く回らなかったんだ」
坪根は激高した。
「あなたたち、わかってるの!? 私たちが上へ行くにはこんなところで躓いている暇はないのよ!!」
醜態をさらしてしまったことで、ネットでは酷評の嵐だった。
〈『赤雲』ダメダメだな〉
〈わざわざ配信で注目集めといて、これは笑える〉
〈ヒステリックババア、見てらんねぇ〉
〈いや真面目に、何がしたかったの?〉
〈新体制で最終到達ラインの半分も行かないって、ヤバくね?〉
後に引けない彼女らは、すぐに再挑戦した。
しかし、結果はよくなるどころか悪くなる一方だ。
「何か、最近調子悪くて」
「集中できない……」
「身体がだるい」
体調不良者が多発した。
それは日を追うごとに、増えていった。
(どうして? こんなこと、一度も……そうか!!)
戦闘で傷ついた者は後ろで回復する。
このとき、トミカのポーションを飲んで回復する者は小さな傷で退避に回っていた。
ポーションが「下級」だったからだ。
それを、今度から「中級」にしたことで戦闘時間を長くできると踏んでいた。
しかし、結果は逆だった。
ポーションの副作用により、すぐには戦線に復帰できない者がいた。
それがローテを滞らせ、これまでの戦法を使い物にできなくしていた。
それを繰り返した結果慢性的な副作用がギルド全体に及んだのだ。
「粗悪品だったわけね……」
坪根はポーションの仕入れ業者に抗議した。
「え? 副作用? そんなもの当たり前でしょ?」
「はぁ? 開き直る気? 粗悪品でしょう!?」
「あ? ポーションに一定確率で当たり外れがあるなんて普通だろ。それに、副作用ったって個人差があるんだ。それをどう使うかが問題だろう!!」
「なんですって?」
「お宅のギルド、バカスカ飲み過ぎなんだよ!! そりゃ、体調不良にもなるよ! こっちはきちんと検査をクリアしたものを格安で売ってるんだ!」
「粗悪品を売っておいて開き直るなんて。こっちは契約を切ってもいいんだけど!?」
「望むところだ! おたくらが大量に必要だって無理言うのをサービスで揃えたってのに、難癖つけるなら他所で買ってくれよ!」
「ああそう!? なら全額返金して!!」
「何言ってやがる!?」
「こっちは損害を被ってるのよ。それぐらい当然でしょう? それともどっちが正しいか、世間に判断してもらう?」
「そんな、横暴だ……」
「プロが言い訳をするなんて。男のくせに見苦しいわよ」
一般人が知らないアイテム業者の主張など、配信で有名な探索者の訴えで吹き飛ぶ。
こうして、『赤雲』は都合のいい理想の業者に乗り換えることを繰り返した。
スコアを下げたらポーションの『効きが悪い』と言って返金を迫った。
はたまた『味がおかしい』と業者のせいにし、『においが消えない』と詰め寄った。
そして望み通り『世間の判断』を受けることになった。
〈悲報 中堅ギルド『赤雲』 下請けアイテム業者いじめがバレて降格!〉
〈ポーションの質で難癖付けて全額返金を繰り返していた模様〉
〈一切擁護できない〉
〈がっかり……応援してたのに〉
〈なんか、副作用ないポーションを卸せって迫ってたらしいよ〉
〈そんな秘薬クラスのアイテム生産されてるわけねぇだろ?〉
〈まぁ、それぐらいじゃなかったら、あんなポーション漬けの活動無理だろう〉
〈どういうことだ? 前はそういう業者がいたってこと?〉
〈いや、あそこは専属の薬師が発足のときから居たけど〉
〈登録情報だと、最近生産職が除名になってる。この人がすごい人だったけど、抜けられちゃったから代わり探してるんじゃない?〉
〈マジか? なんて人?〉
〈いや、個人情報は削除されている〉
〈たまたまだろ? 生産職でそんなすごい人がいたらもっと有名になってるよ。今もどこかで〉
〈そうだな〉
ポーションの副作用と世間の目に耐えられず、辞めていくメンバーが続出。
「たかがポーションで、こんな……こんなことがあってたまるか!!」
ギルドは存続の危機に晒されていた。
トミカがクビにされてからわずか1か月のことだった。
一方そのころ、古巣のギルドが存続の危機など露知らず、トミカはマイペースにポーション販売の準備を進めていた。




