第四十四話 落ちてきたもの
お待たせしました。第四十四話です。
第四十四話 落ちてきたもの
天を衝く、閃光の柱を、その存在は見上げていた。
そこには、驚愕が。そして可能性を見出し得たことへの悦びとが隠しようもなく溢れ出る、その眼差しがある。
「あれが、聖騎士」
それは、人ならざるもの。
しかし人としての存在に、ひどく類似をした姿を持つもの。
世界そのものが、生み出した存在。
「この世界ならざる場所より、転生を果たしてきた、希望。──戦士」
歓喜の熱を帯びた声を吐き出すその顔だちは、高揚している。
希望と呼んだそれらを、じっと見据えて。
四人の、戦士たちの姿を──。
「彼女たちなら、あるいは」
そう、思わせる。四人はその想いを抱かせるだけのものを、持ち合わせていた。
世界と、世界の戦い。そこに彼女たちは少なからぬ影響を与えるだろう。
「だからこそ、護りぬかねばならない」
その存在は、騎士たちを高く評価する。それゆえ、譲れぬことがある。
それは、決意。世界護る騎士たちへと抱くには、ある意味矛盾を孕んだ──けれどたしかな、そうすべきとはっきりと理解し認識をした、結論。
そう。護らなくてはならない。
この世界を、救い。護るため。
彼女たちが、必要だからこそ。
彼女たちそのものを、護らなくてはならない。
「この光がきっと、この世界を救う」
四人の騎士。彼女たちがその潜在能力を発揮できるように、なるまで。
その四つの力は、失われてはならない。
けっして欠けては、ならないのだ──……。
* * *
「結局のところ、直接的な戦闘力っていうか、実力っての? そこに関してはまだまだ、いつきちゃんにも久遠、あんたにもてんで、届いてないんだよね。ほんと全然、ってくらいのお話にならないレベルで」
立ち回りも、技量もあくまで、運動神経のいい、格闘技経験のある素人の域を出ていない。
生死をかけた戦いを幾度も繰り返してきた聖騎士にも、その教えを幼い頃より受けてきた愛弟子にも程遠い。その差はすぐさま、埋まるようなものでもない。
その状況は、本来の自身の魔力を見出した律花であっても、なにも変わっていないのである。
「私がこないだの戦いで役に立てたのは、私自身の力ってより、この世界が持ってる力がすごかった。私はそれを貸してもらっただけ。要するに、事実としてはそういうことなんでしょ?」
自販機にコインを入れ、ボタンを押す。
がこん、と音を立てて取り出し口に落ちてきたコーラを、律花は久遠へと差し出す。
ふたり、体力強化のためのランニングの帰り道である。話の種は、先日の戦い。大幅なパワーアップを果たした、律花自身のこと。
そんな、そこまで自分を謙遜して、卑下することもないと思うけど。
親友の発言や態度に自虐的な色を感じないからこそ、久遠もまた彼女の言葉にあっけらかんと、そのように前置きをして、意見を返す。
「先生──いつきちゃんが言ってたよ。この世界は『ディ=クス』……正確にはあいつに喰われた私たちの世界よりずっと古くって、成熟してる世界だから。しかも魔力の運用や利用が根幹技術として浸透していないから──ずっと高密度に魔力が蓄積されていて、しかも目減りをしてない。質のいい魔力に満ちてるって」
たとえるなら、そんな世界だからこそ律花のスキルは生まれ得たし、最大限生かせるものだって。
「でも結局、借りものの力だしねー。久遠たちみたいに自分でぶわー、ってぶっぱなしてるわけでもないし」
「いやいや、究極的には人ひとりの魔力より、周囲の、世界の持ってる魔力をどれだけうまく利用できるかってのは大きいよ?」
人間ひとりと、世界とである。どちらの魔力の総量が桁外れかなんて、火を見るより明らかだ。
実際、律花本人の持つ本来の魔力の量自体に変化はない。
ただ、彼女自身の魔力に対する許容量は久遠どころか、いつきにも匹敵する──あるいは、それ以上かもしれないと、聖騎士であるところの転校生は言っていた。
この世界で完全に純正に生まれ、それほどの容量を持つということは誰より十全に、大地に満ちる魔力を扱い行使するのが可能であるということ。
それは彼女にとって、そして久遠たち四人にとってなにより得難い武器だ。
そう、評していた。
「──うん」
いつきちゃんに、そう言ってもらえること。
力になれること──その才が自分の中に眠っていたということ。それは素直に、嬉しいよ。律花は控えめに、久遠へと頷く。
「律花のことも、そうだけど。ちょっと安心した」
「安心?」
「うん」
コーラを呷って、炭酸の刺激を喉の奥に感じ、それが去っていくのを待ってから。久遠は友へと言葉を重ねていく。
「先生の。いつきちゃんの力なら、少なくとも『ディ=クス』の生み出した連中には問題なく通用する。倒せるんだ。私でも、そこそこやりあえる──これって、大きな収穫だと思う」
少なくとも、相手と真正面からやりあうぶんには戦える。
先生はきっとまだ、底を残していた。
絶対にあそこで決めなければこちらにもあとがなかった、最後の一撃以外は。まだ余力があったはずだ。
「勝てる。……勝てるんだ」
久遠は拳を握る。
もちろんこの間のように、不意打ちや奸計もあるだろう。それにまたひっかかってしまっては、二の轍を踏んでしまうだけ。そうならないように十二分な注意は必要だと思う。だけど。
自分たちの力が通用する。
それは間違いなく希望だ。そして差し当たっての目標がより一層鮮明になったということでもある。
「先生くらいの力をつけなきゃと、漠然と思ってはいた。だけど今回の戦いで明確に、先生を目標に鍛えれば勝てるってわかった。わかりやすくて、いい」
その力を四人でつける。
先生ひとりでも戦えるのなら、四人で力を合わせればきっと。
「椿さんだってきっと、今のままじゃない」
そんな人じゃないのは、付き合いの長い久遠と律花にはわかっている。
世界を、取り戻す。時間を失ったこの星を、またあらゆる生命のいきいきと過ごす場所にしてみせる。
拳と拳を、幼馴染の少女たちは打ち合わせる。
互いは、互いにとって心強い戦友とも、既になりつつあった。
* * *
まったく、情けないったらないな。
いつきちゃんや、くーお嬢だけじゃない。
気付いたら、同じ立場だったはずのりっちゃんにまで置いて行かれて。
自分ひとり、足を引っ張っている。そりゃあ成長の伸びしろの大きさは、若いやつの特権だけど──さ。
「やっぱ、このままじゃまずいよなぁ」
久遠たちの通う高校の校舎裏に造営された、弓道場。
本来であれば弓道部員たちの使うその場で、本来ならば弓を射るべきその場所で、遠く離れた円形の的へとめがけ、椿は自身の銃の引き金を引く。
「敵がこんな的当てレベルの相手だったなら、どんなに気楽で、お手軽なことか」
魔力による射撃。
魔力によって強化された感覚。その下に定められる照準。
こんなもの、普通にやったって外すほうがおかしい。すべての弾着は標的の中心にぴたり命中して。
それらを割り砕いていく。鍛錬にすら、そんなものなりはしない。
時間つぶしの、憂さ晴らしでしかない。
「どうしたもんか──ね?」
柄にもなく落ち込んでいる自分を自覚する。
このままでは自分がまともな戦力になるなど、できはしない。
じゃあ、どうする。
いっそ、身を引くか。──たとえそうであったとしても、皆はそれを咎めはしないだろう。
それに、戦いの場に赴かなくとも、年長者として自分がいることでいくぶんかは、少女たちの精神衛生上にプラスを与えることはできるはずだった。
必然的にまとめ役を担っているいつきちゃんの気持ちの負担も、多少は緩和できる、と思う。
だけど──、だけど。それで、いいのか。
「どうすりゃ、強くなれるのかね」
りっちゃんが見せたように。
生憎と彼女が達した境地に自分も都合よくたどり着ける道筋を、椿は己の中へとまだ見つけてはいなかった。
自分だって同じように、なんてのは虫の良すぎる話だ。
彼女は、彼女。自分は自分で、強くなる方法を探さなければ。
しっかりしろ、最年長。
そう心の中で言って、発破をかけてみてはいる。
てんでなにも、思いつきはしなかったけれど。
「あるいは、うちのルーツを辿って──そのくらいしないと、ダメなのかも」
銃を。騎士装束を戻し、普段着の姿に変わった椿はため息交じりに呟く。
「──ん?」
と。
板張りの、道場の床が微か、揺れている。
地震だろうか? いや、違う。ありえない。すべてが時を止めている以上、プレートだって地面の下で動くはずがない。
じゃあ、なぜ。いったい、なんだ。
揺れはやがて地響きを伴い、そして近づいてくる。
爆音と。なにかとなにかがぶつかりあう音を伴いながら。
──そして。
「!?」
椿の背後。吹き抜けの、弓道場の屋根の先。
見え隠れをしていた、高校の校舎が不意、その時計塔を粉砕され、爆発した。
──なにかが、激突をした。
その、爆心の地点から。
なにかとなにかがぶつかりあい、せめぎあい。
躍り出ては切り結ぶ光景を、椿は見る──……。
(つづく)




