190 Epilogue3 ──他愛もない会話
──今日は久しぶりに白鳥が、我が家に遊びに来てくれた。
スッカさんの手料理に舌鼓を打った後、僕らは小さなマイホームの細やかな庭に開けた縁側に、腰を掛ける。コーヒーカップを片手に持って。
スッカさんと二人で作ったポタジェには、この世界のトマトのような植物が青く小さな実をつけている。
その実がそよ風に小さく揺れているのを眺めながら、白鳥になんとはなしに話を振った。
「いい天気だね」
「えぇ。ここしばらく曇りがちでしたから。なんだか木漏れ日に癒されるようですね」
「うん」
「……そういえば、明日部さんのお子さんは、お幾つになるんでしたっけ?」
リビングの奥からスッカさんと──今しがた、遊びに来たらしいドーサさんが、楽し気にお喋りを繰り広げる声が聞こえる。
その談笑を掻き消すように、僕らの息子とドーサさんの娘が元気な声を張り上げた。
「今年5歳になるね。白鳥は結婚とかしないの?」
「いやぁ……僕はまだまだやりたい仕事がたくさんあるので、当面は……」
僕は夢にまで見た──他愛もない会話をしていた。
それもこれも、この世界で出会った人々のおかげだ。
僕は白鳥やスッカさんらと話をしていて、初めて知ったことがある。
──それは、会話は楽しいということだ。
そんなの当たり前だろ、と多くの人は思うだろう。
でも、僕は違った。
これまで、僕にとっての会話とは、“相手を怒らせたり、相手にバカにされる──そんな行為”でしかなかったからだ。
かつて自分は……会話とは、Qに対するAだと思っていた。
相手が投げた言葉に対し、“正しい返答”を返す。
あるいは、今の状況に合致した“正しい言葉”を投げかける。
僕はいつも正しいAやQを、見つけられないでいた。
でも会話とはそういうものではなかった。算数の問題のようなものではない。
信頼を築けた人とのそれは──もっと自由で自然で。心地の良いものだった。
そんな誰もが知っている当然のことを、僕は30年以上の間、知ることが出来なかったのだ。




