184 また逢いたいので、最終決戦6 ──単純な物理攻撃に対応出来ない
──六日目。
僕が脳みそをフル回転させて、打開策を見つけ出すべく苦悶していると、昼過ぎだろうか? 遠くから地響きが聞こえてくる……
【遠見】スキルを発動させて、鉄格子の向こうに目を凝らす。
すると、応援部隊らしき神聖騎士団の中隊が、土煙を上げながら真っ直ぐこちらに向かって来る最中だった。
自主的に来たのか──あるいは白鳥がなんらかの手立てで、連絡を付けたのか…………
白鳥が数名の部下を引き連れて、中隊を出迎えに駱駝を走らせる。
僕の馬車の遥か遠くで、白鳥たちと中隊が接近すると、両者の駱駝は歩速を緩めて脚を止めた。
──残念ながらこの距離では、僕のスキル──【プレコックス感】等の属性付与の射程外だ……。
白鳥は駱駝を降りて、爽やかな笑みを浮かべつつ、歓迎するような動作で軽く片手を持ち上て、応援部隊の部隊長らしき人物を出迎えようと、彼の方へ一歩、足を踏み出した──その瞬間。
部隊長は白鳥の方を見向きもせず、突然、大声を張り上げた。
「魔導士隊! ってぇぃぃぃっぃぃぃ!!」
十数名からなる魔導士隊と呼ばれた各隊員は、色鮮やかな魔法弾を次々と撃ち放った。
こちらに向かって飛んで来た! と思った瞬間、魔法弾は着弾し、僕の乗っている馬車を吹き飛ばす。
強い衝撃と共に、鉄製のドアが痛ましい音を立てて軋み、その空隙から僕は外へと放り出された。
視界が上下左右に何度も反転。
赤土の上──ようやく、僕の身体が仰向けになって停止した。と同時に、息が止まるような鋭い痛みを全身に覚える。
僕は手枷、足枷をされた状態のまま、半ば無意識に【白魔法】を発動させた。
痛みがすこし和らぎ、身体にわずかばかりの力が戻る。
仰向けに寝転がった真上には烈日。焼けるような空気。少し湿ったサバンナの大地から立ち上る、微かな土の匂いが意識に触れた。
僕は大地に手を突いて、慌てて上半身を起こし、白鳥たちの位置を確認すべく、首を振ろうとした瞬間──部隊長が再び、怒声を発した。
「弓隊! ってぇぃぃぃっぃぃぃ!!」
その声に弾かれるようにして、僕は膝を突いて身体を起こした。
応援部隊の弓隊が、僕に向けて大量の矢を放つ。
無数の矢が一瞬で空を覆い、先ほどまであれほど澄んでいた青空が、嘘のように昏く翳った。
僕はどうすることも出来ず、呆然とするほかない……。
白鳥の方に視線を薙ぐと、彼もまた、急に何をするんだ! と言わんばかりの表情で固まっている……。
そんな中、部隊長が再び叫んだ。
「陛下の勅命だ! この世界の清浄と正常を保つため、異物を速やかに排除するのだぁ!! 奴を絶対に王都へ入れるなぁ!! 国王の神聖な住処を穢すことだけは、断固死守だーー!!」
大量の矢が放物線の頂点に達するのを見ながら、僕は出来ることを考えた。
だが、何もない……。
元々、僕の保有スキルは、こうした単純な物理攻撃に対応出来ないものばかりなのだ。
為す術なしだと、諦めた僕の視界の端に、硬直したままの白鳥の姿がチラリと映った。
そして、彼のその引き攣った表情からは、“ちょっと待て! こんな筈ではなかった!”、というような心の叫びが見て取れた。
まさか、この場で僕を処刑するとは、夢にも思わなかったのだろう。
同じ世界、同じ職場から来た人間の死を、彼が望む筈も無い……。
あるいは彼には、王都に着いたら、僕の減刑を願い出るような──そんな算段があったのかもしれない。
今となっては、確かめる術もない訳だが…………。
だがその代わり、僕は今すべきことを見いだせた。
白鳥のその表情を見て、思い出せたのだ──そのことに感謝だ。




