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妖しな家族  作者: 奏白いずも
妖編

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30/34

一、遠い未来の姿

時代は流れ現代へ、未来の二人のを少々――


当初はこれにて最終話となっておりましたが続きます。

こんな場所ではありますが、閲覧・ブクマ・評価本当にありがとうございます。とても励みになりました!

 月日が流れれば、時代も変化する。それでも変わらない約束が、そこにはあった。


 高層ビルが立ち並び、都会のスクランブル交差点は人で溢れている。

 待ち合わせに適した銅像前、一人立ち尽くす人間たちは皆手持ちぶさたに電子機器をいじっている。

 ヒールの高い靴や露出の多い洋服が目立つ中で、彼女は注目を浴びていた。というより周囲から浮いていた。

 まっすぐに伸びた髪と連なるようにピンとした佇まいから目が逸らせない。淡い水色の着物の袖には白い花が涼しげに咲き、花弁の刺繍が施された袴の足元には黒い革靴。手には控えめな朱色の巾着を下げている。その視線は待ち人を探すでもなく、周囲からの視線に委縮するでもなく、堂々と目を閉じていた。

 彼女も同じく人と会う約束をしているのだが、待ち人は一向に現れず。巾着の中の器械が震える気配もない。ようするに暇を持て余しているうちの一人だった。

「君、一人? 俺たちと遊ばない?」

 間違いなく自分へ向けられた言葉であるが、主は待ち人ではなかった。目を閉じ外界の喧騒を断ち切っていたが、声をかけられては無視を続けるわけにもいかず、煩わしそうに瞼を上げる。

「……こんな、周囲から浮いた女に声を掛ける神経には関心するけれど、生憎待ち合わせをしているの。他をあたってもらえる?」

「またまたー! こんな可愛い子を待たせるなんて、ろくな男じゃないでしょ?」

 鬱陶しさを全開にしていたつもりだが、相手にめげた様子はない。しかも『ろくな男じゃない』とは……図星を刺されたので思わずため息が出てしまう。

「……そうね、ろくな男ではないわ。自分勝手だし、わたくしの気持ちまで勝手に決めてしまうし、気が合わないことこの上ないもの」

「えー、それ、別れた方が正解だって!」

 つい不満を口にすると、馴れ馴れしく距離を詰め寄られた。つくづく彼の手とは違うと感じる。

「そう思った時期もあるけれど、もう離れるなんて不可能だわ」

 さて、まずは手を跳ねのけよう。

 いい加減厄介なのでお引き取り願おうと裁断を立て始めていた。たとえば手をひねり上げて撃退することは簡単だが、この場で約束をしている以上、揉め事は避けるべきか……。穏便と言う行動は実に難しいようだ。

「えー、なになに、そんなに深い仲なわけ?」

「桜子」

 浮ついた青年の声に重ねられる澄んだ呼び名に桜子の瞳が輝いた。ようやく待ち人の登場らしい。

「遅いわ。お――」

 お――、何? 「お」から始まる名前か、もしかしてお兄ちゃん? そんな名称を想像した周囲の予想は即座に裏切られた。

「お父様、待ちくたびれました」

 驚きに固まったのは桜子に触れていた男だけではない。なにせ偶然耳にしたであろう周囲の人間たちも思わず二度見していた。若すぎる! 誰もがそう感じていたことだろう。

 驚愕の視線をものともせず、桜子は厄介な手を払いのける。動揺しているせいか思った以上に簡単だった。

 左手を掲げ小指の先に唇を当てる。

 こんな視線にはとっくに慣れてしまった。そしていつものように悪戯っぽく微笑んで口にするのだ。

「失礼。もう一生の誓いを立ててしまっているの」

 見知らぬ男を放置して、桜子は一人歩きだしていた。それこそ無月すらも放置して……。


「おい、桜子!」

 時代に合わせて軍服を脱いだ無月は、きっちりとしたスーツを着こなしていた。そんな『見た目いい大人』が和服の少女を追いかけては機嫌を窺っている。

「……何度も申し上げましたが、遅れるのであれば連絡をください」

「ああ」

 模範的な返答にも桜子の機嫌は収まっていない。

「その返事は聞き飽きました。いい加減、現代機器にも慣れるべきです!」

 無月はたじろいだ。砕けた調子で接するようになった桜子が、こうして堅苦しい口調を使うのはご機嫌斜めの証拠である。

「お前がしっかりしているから、安心していられる」

 さらに機嫌を損ねる前に無月が本心から告げたところ、これには多少なりとも効果があったのか、桜子の頬には朱が差す。臆面もなく告げられる言葉には、いつになっても照れてしまう。

 だが、そう簡単に懐柔されてやったりはしないのだ。何度も何度も……同じことの繰り返しに不満が募っても仕方がないことだ。

「遅れた詫びだ、昼はお前の希望を尊重しよう」

「ではファーストフードを。チキンナゲットにポテトが食べたいです」

「……お前、見た目以上に怒っているんだな。わざわざ俺の嫌いな物を選ぶとは」

「わたくし、そんなに性格悪くはありません。お父様の嫌いな物ではなく、わたくしの好きな物を選んだだけです」

 無月は昔が懐かしくなった。このところ桜子はすっかり和食離れしている。油で揚げた鶏肉や、カリカリに揚げたジャガイモを好むようになっていた。

「まず食べてみろ、誰が言ったのかしらね? お父様は一周回って和食好きに戻りましたけど、今のわたくしなら分かりますよ。食べ飽きたの意味も気持ちも」

「そうか、俺にもお前と同じ時期があったよ」

「こうして昔の話が出来るなんて、まだ夢みたい……」

 本来、桜子は現代社会まで生きているはずもなかった人間だ。車が行き交う大通りはよく知る場所のはずなのに、あの頃とは大きく姿を変えている。

「俺は、お前に大切なものを捨てさせてしまったな」

「辛気臭いことを。別に捨ててなどいません」

「だが、友との別れも辛かったろう?」

 先ほど同年代の男と話す桜子を見ては、無月にも思うところがあった。本来彼女の過ごすはずだった時間を奪ってしまったことは無月にとって重罪である。

「あのですね。聡子はわたくしが妖でも永遠に友達だと言ってくれました。亡くなってしまったけれど、今でも紺田聡子はわたくしの親友です」

 桜子は無月の心情を察して、なんでもいことのように言ってみせる。そもそも愛した人と共に生きる幸せを不幸のように言うのは止めてもらいたい。いつまで経っても彼の癖は治らず困ってしまう。

「俺にとって亡き紺田が今も人生の道標であるように、か」

「そうでした。わたくしたち、親子揃ってお世話になりすぎましたね」

 あれはいつだったか――

 懐かしく思い起こす。聡子の父は無月の人生の道しるべだったらしい。それから悩むたび桜子は聡子に、無月はその父に相談を持ちかけていた。

 それすらも遠い昔のことで、時の流れはこんなに早かっただろうか。一人離れで生活していた頃は長く億劫で、ひたすら退屈していたというのに。嘘のように世界を変えたのは傍らの愛しい存在。

 無月は何やら改まった様子で桜子へと向き直った。

「たとえ誰と別れようと、俺だけはお前と共にいる。なにせ、お前の一生を引き受けなければいけないのだから」

 彼女を大切にしていた日ノ宮家の者たちへ、そして紺田親子へ誓うように。そして彼女を助けてくれた名もなき妖にまで届くように宣言する。 

「そうです、忘れてもらっては困ります。わたくしの一生、長いですよ?」

「忘れないさ。だから、そろそろ機嫌を直してくれ。そうやって敬語で話され続けると肝が冷える」

「反省は、してくれていますよね?」

 窺うような桜子だが、答えなど分かりきっていた。

「ああ、心からな」

 予想通りの返答に桜子の心が躍る。

「いいわ、もうお終い! さ、早く食事に行きましょう。無月さん!」

 どちらからともなく、当然のように手を繋いでは人波に消えていく。この先も繋がれた手が離れることはないだろう。

 あの日交わした約束は、月日が流れても色褪せなかった。


 呆れるほどに長い時間、そこに戸惑いがないと言ったら嘘になる。

 多くの別れを体験するたび、もう人と同じ時間は歩めないのだと見せつけられてきた。

 同情されるような境遇かもしれない。けれど桜子は花が咲くような笑みを浮かべ幸福だと答える。彼が隣にいてくれた、そして現在も隣にいてくれるのだから。

 そっと、懐かしむように傍らの存在を盗み見る。横顔は出会った頃から変わらない。変わったことと言えば服装と髪型くらいのものだろう。長く共に同じ時を共有してきたからこそわかるのだと優越感を抱いてしまった。この場所は誰にも譲りたくないと、そんな独占欲を認められるようになったのも今でこそ。

 いろんなことがあった――

 それは桜の声のよう、まるで赴く場所が語りかけてくるように懐かしさに溢れていた。

 だから、とても一言で語りつくせるものではないけれど、少しだけ思い返して見ようと思う。

以下の文章にて完結のお知らせと感謝を述べておりましたが、続きます!

お時間ありましたら、また読んでやってくださると嬉しいです。


妖しな家族、これにて完結です!

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。溢れんばかりの感謝でいっぱいです。

そんな皆様に感謝をお返ししたい……ひとまず完結扱いにしておりますが構想がまとまり次第、番外編を書ければと思っています。いつになるかは未定なので、しばらく完結を設定させていただきます。

こんな私の作品をここまで読んでくださった皆様に何かお礼が出来れば!

番外編はわかりやすく三十話の続きに載せていく予定なので、その時は連載扱いに戻させていただきますね。

それでは、皆様にたくさんの感謝を!

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