第43夜 託された想い
――影都。
街中では、解放された悪人たちが暴れ回っていた。
その中には、神谷大地の姿もあった。
「邪魔だ、どけ!」
警察官たちが制止に入るが、RAVENの隊員たちに次々と倒されていく。
街は、混乱に包まれていた。
その頃――。
地下監獄ロックから解放された警察官たちが、街の人々を守るため、応援に向かっていた。
――相馬モータース・第二倉庫。
相馬、神崎、小郷の三人が集まっていた。
神崎の携帯電話に、ノワールナイトから連絡が入っていた。
『三人とも、ここに来てくれ』
しばらくして、倉庫の奥からノワールナイトが姿を現した。
「あなたたちに、頼みたいことがある……」
ノワールナイトは神崎に向き直った。
「まず、神崎警部。あなたには、もしものことがあった場合に備えて、この街の人々をできる限り安全な場所へ避難させてほしい」
「分かった……」
神崎は頷いた。
「だが、この街に安全な場所なんてあるのか……?」
「分からない……。だが、最後まで希望は捨ててはならない」
「……そうだな」
ノワールナイトは、一台のバイク――ノワールを神崎に託した。
「移動には、このバイクを使ってくれ。もしもの時は、このバイクの機能を頼ってほしい」
「分かった」
神崎はバイクを受け取った。
続いて、ノワールナイトは小郷に向き直る。
「そして、小郷警部。あなたには、これを託したい」
「ん……? これは……?」
ノワールナイトが差し出したのは、小型の装置だった。
「この街の通信電波を妨害する装置だ。これを起動すれば、起爆スイッチによる爆破を阻止できるはずだ」
「本当か……?」
「ああ。ただし、装置を影都タワーの屋上にある展望台まで運ぶ必要がある。そこで起動すれば、電波を妨害する電磁波が街全体に広がる」
「なるほど……」
小郷は装置を受け取った。
「分かった。なんとかやってみよう」
「移動には、奥に止めてあるナイトタンクを使ってくれ」
「了解した」
二人はそれぞれの装備を手に、シャッターを開けて出発した。
街を救うため、それぞれの任務を背負って。
倉庫には、ノワールナイトと相馬が残された。
二人は静かに目を合わせた。
「恐らく起爆スイッチは、BLANCのボスか黒羽が持ってるはずだ……」
「俺たちは、一旦店の地下ラボに戻るとしよう。そこで計画を立てないとな」
「ああ……」
その時、ノワールナイトの携帯電話が鳴った。
エマからだった。
『助けてほしい』
メッセージには、現在地も記されていた。
「すまない。エマさんから連絡が……」
「そうか。なら行ってやれ」
相馬は短く答えた。
「さっさと助けてこい!」
「ああ。このバイクを借りるよ」
蓮が選んだのは、相馬がよく乗っていた白と赤のスポーツタイプのバイクだった。
エンジンが唸りを上げる。
ノワールナイトは、エマのもとへと走り出した。
――街の一角。
数人の男たちに、エマが囲まれていた。
「やめて……。何の用なの……?」
男の一人が、下卑た笑みを浮かべる。
「ふふふ……。可愛がってやるよ……」
その時だった。
「やめろ」
低い声が響いた。
男たちが振り返る。
そこには、黒い装甲に身を包んだ騎士が立っていた。
「お前は……ノワールナイト……!」
「嘘だろ……。なんでここに……?」
ノワールナイトは、男たちにゆっくりと近づいていく。
その姿に気圧された男たちは、次々と逃げ出していった。
エマは、安堵したように息を吐いた。
「助けてくれてありがとう……」
「ああ」
「でも私、黒崎さんに連絡したんだけど……」
「その男から、俺に連絡が来た」
「まさか……知り合いなんですか?」
「そうだ」
ノワールナイトは、それ以上説明しなかった。
「それより、安全な場所に避難するんだ」
「安全な場所なんて……」
「相馬モータースがある。そこへ行こう。案内する」
「……分かりました」
ノワールナイトはエマをバイクに乗せ、相馬モータースへと向かった。
――その頃。
相馬モータース。
相馬は店に到着すると、中へ入った。
照明のスイッチに手を伸ばす。
その時、ふと足が止まった。
何かがおかしい。
誰かの気配がする。
(……蓮? いや、違う……)
相馬は気配の正体を探るように、暗闇の奥を見つめた。
そして、あえて声をかけた。
「もう着いていたのか、蓮。早かったじゃないか」
沈黙。
やがて、奥から一人の男が姿を現した。
相馬は目を細める。
「お前は……」
男は薄く笑った。
「久しぶりだな……相馬修司」
「黒羽……。何の用だ」
黒羽零司は、不気味な笑みを浮かべた。
「ふん……。今さらだが、あの時の決着をつけに来たんだよ」
「何だと……?」
「それに……黒崎蓮」
黒羽は、まるで目の前に蓮がいるかのように、その名を口にした。
「お前を殺すことで、あいつは怒りや憎しみ、そして復讐心を糧に、さらに強くなるだろう。そんな奴を完膚なきまでに叩き潰す。それでこそ、完璧な勝利だ」
相馬は、静かに黒羽を見据えた。
「確かに……俺が殺されれば、少しは動揺するだろうな」
そして、口元に笑みを浮かべる。
「だがな、黒羽……。黒崎蓮という男を見くびらない方がいい」
「……何?」
「今のあいつは、お前より強いぜ?」
黒羽の表情がわずかに変わった。
「あいつは、これまでたくさんの苦しみや悲しみに耐え、乗り越えてきた」
相馬は、一歩も引かずに言い放った。
「俺の死だって、きっと乗り越えられる……」
そして、確信を込めて告げた。
「断言しよう。黒崎蓮は、お前を必ず倒す」
しばしの沈黙。
やがて、黒羽が笑った。
「ふん……面白い。望むところだ」
黒羽は相馬を見据える。
「今は……お前との戦いを楽しもうじゃないか」
不気味な笑みが、暗闇に浮かんだ。
――相馬モータース。
ノワールナイトはエマを連れて到着した。
しかし、店内は真っ暗だった。
(……相馬さんは、まだ着いていないのか?)
不審に思いながら、ノワールナイトは慎重に中へ入っていく。
その時――。
床に倒れている人影が目に入った。
「……!」
ノワールナイトは駆け寄った。
「相馬さん!!」
そこに倒れていたのは、相馬修司だった。
蓮は相馬の身体を抱き起こす。
「相馬さん! しっかりしてくれ!」
「はぁ……はぁ……蓮……か……」
相馬は、かすかに目を開いた。
そして、蓮の手を強く握りしめる。
「すまない……。だが……恒一の時のように、お前の足手まといにだけはならなくて……良かった……」
「何を言ってるんだ……!」
蓮の声が震えた。
相馬の腹部からは、大量の血が流れ出していた。
「蓮……俺はもう助からない……。分かるんだ……」
「そんなこと……言わないでくれ……!」
相馬は、残された力を振り絞るように口を開いた。
「俺からの……最後の教えだ……。よく聞け……」
蓮は、相馬の手を握り返した。
「怒りや感情に……身を任せるな……」
「……!」
「俺の死を受け入れ……乗り越えろ……。そうすれば、お前は……さらに強くなれる……」
相馬は、苦しそうに息をついた。
「常に……冷静でいろ……。いいな……蓮……」
「相馬さん……」
「はぁ……。すまないな……」
相馬の声が、少しずつ弱くなっていく。
「結局、俺は……お前を最後まで守れなかった……。お前には……苦労ばかりかけてしまったな……」
蓮は首を横に振った。
「そんなことない……」
声を詰まらせながら、続ける。
「いつも俺を支えてくれただろ……。おかげで、今の俺がいる……」
相馬は、安堵したように微笑んだ。
「そうか……」
そして、蓮をまっすぐに見つめた。
「お前を……本当の息子のように思い……愛していた……」
「相馬さん……」
蓮の目から、涙がこぼれ落ちた。
相馬は、ポケットから一本の鍵を取り出した。
「これを……」
蓮の手に、鍵を握らせる。
「恒一の机の……引き出しの鍵だ……。これで……中を確認してくれ……」
「……分かった。分かったから……!」
相馬は、蓮の手をもう一度、力強く握った。
しかし、その力は次第に弱まっていく。
やがて――。
握られていた手が、蓮の手から静かに落ちた。
「……ありがとな、蓮……」
相馬は、静かに目を閉じた。
「……相馬さん?」
返事はなかった。
「相馬さん……?」
蓮は、相馬の身体を揺さぶった。
「相馬さん!! 相馬さん!!」
その声が、静まり返った店内に響き渡る。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
蓮の慟哭が、夜の影都に響いた。
そして――。
そこに、エマの姿はなかった。
――最終回まであと4話




