第42夜 反撃
――監獄。
「くそっ……」
蓮は、鉄格子を握り締めた。
「早く……ここから出ないと……」
「無駄だ」
隣にいた警官が口を開いた。
「ここには、囚人たちが看守として配置されている。脱獄なんてできるわけがない」
蓮は唇を噛んだ。
「……それでも、ここから出なければならない」
その時、別の警官が口を開いた。
「だが……ここから出る方法が、一つだけある」
「……何ですか?」
「ゲームに参加して、それに勝つことだ」
「ゲーム……?」
警官は、牢屋の外を指さした。
そこには、一人の大男が立っていた。
「奴を倒すんだ」
蓮は大男を見つめた。
「そんなことですか……」
「待て。話は最後まで聞け」
警官は真剣な表情で続けた。
「ただ戦うんじゃない。挑戦者は目隠しをされ、耳栓もされる。視界と聴覚を奪われた状態で、あの大男に立ち向かわなくちゃならない」
「……!」
「それが、ここから出るための唯一の方法だ。これまで何人もの男が挑戦したが、全員こっぴどくやられたよ」
その時、一人の警察官が前に出た。
「……俺がやる」
「おい、やめておけ!」
「黙って見ていられるか!」
警察官は目隠しと耳栓を装着し、闘技場へ向かった。
「始め!」
合図と同時に、大男が動き出す。
警察官は相手の気配を感じ取ろうとした。
しかし――
ドゴッ!!
「ぐあっ!」
強烈な一撃を受け、警察官の体が吹き飛ばされた。
立ち上がろうとするが、大男の追撃を受け、そのまま地面に倒れ込んだ。
「そこまで!」
警察官は、仲間たちに運ばれていった。
蓮は、その様子を静かに見つめていた。
そして蓮は、ゆっくりと立ち上がった。
「……やります」
「おい、正気か!?」
警官が声を上げる。
「その怪我で勝てるわけがない!」
「早く、ここから出ないと……」
蓮は大男を見据えた。
「俺が止めなければ、影都が破壊される……」
そして、決闘を申し込んだ。
――監獄内の闘技場。
蓮は目隠しをされ、耳栓を装着された。
目の前には、大男が立っている。
「始め!」
合図と同時に、大男が動いた。
蓮は気配を感じ取ろうとする。
しかし――
ドゴッ!!
「ぐあっ!」
腹部に強烈な一撃を受け、蓮の体が吹き飛ばされた。
「がはっ……!」
立ち上がろうとする。
だが、再び大男の拳が襲いかかった。
ドゴッ!!
蓮は地面に倒れた。
「そこまで!」
決闘は、あっけなく終わった。
それでも蓮は諦めなかった。
腕立て伏せを繰り返し、腹筋を鍛える。
そして、再び挑戦した。
だが――
「ぐあっ!!」
二度目も、敗北。
蓮は地面に倒れ込み、動けなくなった。
「おい、もう無茶はよせ!」
神崎たちが駆け寄る。
しかし、蓮は意識を失ってしまった。
――暗闇。
蓮は、静かな空間に立っていた。
その先に、一人の男がいる。
「……父さん!」
黒崎恒一だった。
恒一は、蓮を見つめた。
「蓮……お前は何を焦っている?」
「早くここから出ないと、黒羽に街を破壊される……! 多くの命が奪われるんだ!」
蓮は声を荒らげた。
「だから、早く出なければ……!」
「まずは落ち着くことだ」
「落ち着いてなんかいられない!」
「蓮!」
恒一の声が響いた。
蓮は、思わず口を閉じた。
「……」
恒一は、静かに告げた。
「お前に、そんな荒い戦い方を教えた覚えはない」
蓮は俯いた。
「これまでの戦いを思い出せ」
恒一は、まっすぐに蓮を見つめた。
「お前はノワールナイトだ」
そして、穏やかな声で続けた。
「自分を信じて戦え。目が見えなくとも、音が聴こえなくとも、お前なら必ずやれるはずだ」
蓮は顔を上げた。
「まずは自分を取り戻し、落ち着いて戦え」
恒一は、少しだけ笑った。
「お前は俺の自慢の息子だ……」
「……父さん」
「必ず……やれる」
そして――
「正義を忘れるな……」
恒一の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
「父さん……?」
蓮は手を伸ばした。
「父さん! 待って!」
しかし、恒一は止まらない。
「まだ、父さんと話したいことがたくさんあるんだ! 待ってくれ! 父さん!」
蓮の声が、暗闇に響き渡った。
だが、恒一の姿は、やがて見えなくなった。
――監獄。
「……っ!」
蓮は、勢いよく目を覚ました。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を繰り返す。
「……夢……?」
蓮は、しばらく天井を見つめていた。
やがて、ゆっくりと拳を握り締める。
「……俺ならやれる」
蓮は立ち上がった。
「俺は……父さんの息子だ」
そして、再びゲームへの参加を申し込んだ。
「またやるのか……?」
神崎が驚いたように尋ねる。
「ああ」
蓮は、静かに答えた。
「今度は大丈夫です」
そして、警官たちに頭を下げた。
「いろいろとありがとうございました。ここを出たら、助けを呼んできます」
その表情には、先ほどまでの焦りはなかった。
――闘技場。
再び、蓮は目隠しをされ、耳栓を装着した。
目の前には、あの大男が立っている。
「さあ……来い」
合図と同時に、大男が動いた。
蓮は、じっと構えた。
焦らない。
相手の動きを感じ取る。
床を踏みしめる振動。
迫りくる気配。
大男の足音が、一瞬だけ止まった。
次の瞬間、床を強く踏み込む振動が伝わってきた。
蓮は、その瞬間を待った。
そして――
大男が拳を振り下ろした瞬間、蓮は身をかわした。
拳が空を切る。
蓮は、その腕を掴んで体勢を崩した。
大男の体が傾く。
「……今だ!」
蓮は、その腕を離さず、相手の懐へ踏み込んだ。
そして、相手の腕を引きながら体をひねる。
大男の巨体が、バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。
蓮はその勢いを利用し、素早く背後に回り込む。
そして――
大男の首に足をかけ、地面に押さえ込んだ。
大男が必死にもがく。
しかし、蓮は離さなかった。
その時、歓声が上がった。
「いけー! いけー! いけー!」
「やれー!」
「勝てー!!」
警官たちも、思わず声を上げていた。
やがて――
大男の動きが止まった。
「勝者……ノワールナイト!」
その瞬間、再び歓声が上がった。
「うおぉぉぉぉ!!」
「やったぁぁぁぁー!!」
「勝ったぞー!!」
蓮は目隠しと耳栓を外し、ゆっくりと立ち上がった。
「……よし」
息を整え、鉄格子の向こうを見据える。
「これで、ここから出してもらう」
しかし――
「そう簡単に出させるかよ」
囚人たちが、蓮の前に立ちはだかった。
蓮は拳を握り締める。
「……やるしかないか」
その時――
「待たせた……」
背後から、聞き覚えのある声が響いた。
蓮が振り返る。
そこには、相馬と小郷勇気が立っていた。
「相馬さん……! 小郷さん……!」
相馬は、蓮を見て笑った。
「小型ドローンで追跡したんだ」
「そうだったのか……」
蓮は、二人を見つめた。
「相馬さん、無理しない方がいい」
「バカ言うな」
相馬は鼻で笑った。
「こんなチンピラどもぐらい、一人でも余裕だ」
蓮は、思わず小さく笑った。
小郷も、警棒を構える。
「蓮くん、行くぞ!」
相馬が拳を握る。
蓮も、静かに構えた。
三人が並び立つ。
そして――
囚人たちが、一斉に襲いかかった。
相馬が敵を蹴り飛ばす。
小郷が警棒で相手の攻撃を防ぐ。
蓮も、残された力を振り絞って戦った。
三人は互いに背中を預け、囚人たちを次々と倒していく。
やがて、囚人たちは地面に倒れ、動かなくなった。
「……よし」
相馬が周囲を見渡す。
「急ぐぞ!」
三人は、捕らえられていた警官たちを解放した。
――監獄の外。
大きなトラックが停車していた。
「全員、乗れ!」
相馬の声に、警官たちが次々と荷台へ乗り込む。
神崎と小郷も続いた。
「俺は自分のバイクで行く」
蓮は、相馬たちを見つめた。
「その方が早い」
相馬は短く頷いた。
「分かった。無茶はするなよ」
全員が乗り込んだことを確認すると、相馬は運転席に乗り込んだ。
エンジンが唸りを上げる。
トラックは走り出した。
目指すは、影都。
残された時間は、あと二十四時間。
ノワールナイトの反撃が、今、始まろうとしていた。




