第44夜 それぞれの戦い
――その頃。
とある監獄。
「デビルだな……」
「ああ……」
RAVEN隊長、黒羽零司は、デビルの牢屋の前に立っていた。
「ノワールナイトが復活したが……お前はどうする?」
黒羽は、牢屋の中を見つめる。
「ここから出してやろうか……?」
「ヒャハハ……断る」
デビルは、興味なさそうに答えた。
「気分が乗らねぇな……。お前がこの街を乗っ取るか、ノワールナイトに止められるか……面白おかしく見させてもらうぜ」
そして、不気味に笑った。
「俺様はノワールナイトに賭けるとしよう。ヒャハハハハハ……!」
「そうか……」
黒羽は興味を失ったように背を向けた。
「待てよ」
デビルの声に、黒羽が足を止める。
「俺様から、お前にアドバイスだ」
「……何だ?」
「お前たちのやっていることには、全く面白味のかけらも感じない……。もちろん、お前にもな……ヒャハハ……」
デビルは、鉄格子の向こうから黒羽を見つめた。
「悪事ってもんは、楽しんでやるもんだぜ?」
「ふん……。そうさせてもらうよ」
黒羽は、それだけ答えると、牢屋の前から立ち去っていった。
「狂った悪魔め……」
デビルは小さく呟いた。
そして――。
「ヒャハハハハハハハハハハハ……!」
その大きな笑い声が、監獄内に響き渡った。
――影都ドーム。
観客席の一部が爆破され、会場は混乱に包まれていた。
泣き叫ぶ者。
逃げ惑う者。
負傷した人々を助けようとする者。
警察官たちは必死に避難誘導を続けていた。
「皆さん、どうか落ち着いてください! 押さないで!」
しかし、人々の不安は収まらない。
その時、一台の黒いバイクがドームへと駆け込んできた。
ノワール。
運転していたのは、神崎隼人だった。
「神崎さん!」
警察官の一人が駆け寄る。
「状況は?」
「観客席の爆発で、負傷者が出ています! 避難させようにも、皆さんが混乱していて……!」
「分かった。スピーカーを貸してくれ」
神崎はスピーカーを受け取ると、群衆に向かって声を張り上げた。
「皆、聞いてくれ!」
ざわめきの中、神崎の声が響き渡る。
「ノワールナイトが復活した!」
その言葉に、人々の動きが止まった。
「今、ノワールナイトは我々のために戦ってくれている!」
「ノワールナイト……!」
「本当に復活したのか……?」
人々の間に、わずかな希望が広がった。
神崎は続けた。
「部下にバスを何台か、ここへ向かわせている。これから皆さんを安全な場所へ案内する!」
観客たちの表情に、少しずつ落ち着きが戻り始めた。
しかし――。
「安全な場所なんてあるのかよ!」
一人の男が叫んだ。
再び、不安が広がり始める。
「街中であいつらが暴れてるんだぞ! どこに逃げればいいんだ!」
その言葉に、再びざわめきが広がる。
神崎は、一瞬だけ言葉に詰まった。
確かに、街のどこが安全なのか、今の自分にも分からない。
それでも――。
「……必ず、皆さんを守る」
神崎は、はっきりと言い切った。
「だから、今は警察を信じてほしい!」
警察官たちが人々の誘導を再開する。
神崎もまた、負傷者の救護と避難の指揮に加わった。
しばらくして神崎は周囲を見渡した。
その時――。
数台のバスが、ドームの入口に到着した。
「神崎さん! 避難用のバスが来ました!」
神崎は頷いた。
「よし。みなさん、順番にバスへ乗ってください!」
観客たちが動き始める。
一台目のバスの運転手が、窓を開けて尋ねた。
「警部! どこへ向かえばいいんですか?」
神崎は一瞬、考え込んだ。
――ロック。
かつて、自分が囚われていた地下監獄。
今は囚人たちが解放され、施設内に残っている者はほとんどいないはずだ。
だが、本当に安全なのかは確認しなければならない。
神崎は近くにいた警察官たちに振り返った。
「ロックへ向かおう。ただし、先行する数名で施設内の安全を確認してから、避難者を受け入れるんだ」
「了解!」
神崎は、かつてロックに収容されていた警察官の一人に声をかけた。
「君、ロックの内部は分かるな?」
「はい!」
「ならば、到着後は俺と一緒に先行して安全確認だ」
「分かりました!」
警察官たちは避難者の誘導を始めた。
その様子を見届けながら、神崎は近くにいた警察官に声をかけた。
「俺がバイクで先導する。君たちはバスで付いてきてくれ」
「分かりました!」
神崎は再び観客たちへと向き直った。
「急いでくれ! だが、押し合うな! 子供や高齢者を優先して乗せるんだ!」
警察官たちは声を掛け合いながら、避難誘導を続けた。
神崎もまた、自分にできる戦いを始めていた。
――その頃。
影都の大通り。
小郷勇気は、ナイトタンクを操縦していた。
車窓の向こうには、目を疑うような光景が広がっていた。
RAVENの隊員たちが店を襲い、犯罪者たちが住宅に押し入っている。
逃げ惑う人々の姿もあった。
「くそっ……!」
小郷はハンドルを握りしめた。
一人でも多くの市民を助けたい。
だが、今は時間がない。
影都タワーの屋上に装置を運び、起爆スイッチを無力化しなければならないのだ。
「すまない……。今は、先を急がせてもらう!」
その瞬間――。
ドンッ!!
激しい衝撃が、ナイトタンクを襲った。
「うわっ!?」
車体が大きく揺れる。
直後、警告音が鳴り響いた。
『警告。一部損傷。一部損傷』
「何だと……!?」
小郷が前方を見る。
道路脇に、ロケットランチャーを構えたRAVENの隊員が立っていた。
「この野郎……!」
隊員は、再び照準を合わせようとしている。
「もう一発もらうわけにはいかないな……!」
小郷は操縦桿を握り直した。
「確か、相馬さんが言っていたな……。この車両には武器があるって……!」
計器盤に並ぶボタンを見つめる。
「確か、このボタン……!」
小郷がボタンを押した。
『標的を確認してください』
ナイトタンクの車体上部が動き始める。
大砲のような砲身が、ゆっくりとせり上がった。
「おおっ……!」
画面に、前方の映像が映し出される。
照準を合わせれば、攻撃できるらしい。
小郷は、画面の中の隊員を見つめた。
「……あの男か」
照準を合わせる。
だが――。
小郷は、わずかに狙いをずらした。
「悪いが、ここで終わりだ!」
発射ボタンを押す。
轟音とともに砲弾が放たれた。
砲弾は隊員のすぐそばに着弾し、爆風が周囲を包み込んだ。
「うわああっ!」
隊員は吹き飛ばされ、地面に倒れた。
動く気配はない。
小郷は息を吐いた。
「……危なかった」
「……頼む、生きていてくれよ」
人を殺さずに済んだことに安堵しながらも、気を緩めることはできなかった。
「急がないと……!」
ナイトタンクは再び走り出した。
――しばらくして。
前方に、巨大な建造物が姿を現した。
影都タワー。
街の中心にそびえ立つ、その塔の周囲にも、RAVENの隊員たちが集まっていた。
「まだいたのか……!」
小郷は歯を食いしばった。
ここを突破しなければ、装置を運ぶことはできない。
しかし、引き返すわけにはいかなかった。
「絶対に……間に合わせてみせる!」
ナイトタンクは、影都タワーへと突き進んでいった。
――そして。
影都タワーの前。
小郷はようやく車両を止めた。
「はぁ……はぁ……」
息を整え、窓の外を見上げる。
「やっと……着いたぞ……」
手元には、街を救うための小型装置。
だが、ここから先も、まだ危険が待ち受けている。
小郷は装置を手に取った。
「……必ず、起爆スイッチを止めてみせる」
そう呟くと、ナイトタンクを降りた。
見上げた先には、街を見下ろす巨大なタワーがそびえ立っていた。
――残された時間は、わずかだった。




